つまるところ。

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スリルミーの萌えポイント語りがしたいんですよ。(2)

前回の続きです。

intheend.hatenablog.com

「契約書」と「スリル・ミー」は一続きにしたいけど契約書の柿澤彼で心臓を殴られた*1のでどうしようと考えた結果。

 

  

M5(契約書)

〇松柿ペア
このシーンの冒頭でひとりニーチェを読んでいる彼、やっぱり楽しそうでも面白そうでもない。いやまあ一人だから表情が薄いのや喋らないのは当たり前なんですけど、熱中している風にも見えなくて、松下私がやってきてやっと、作り物っぽいながらも感情が見えるようになるんですよ。本の扱いも愛着がなさそうだし(松下私が来たから本を閉じた後はそちらに視線をやらない)、傾倒しているというより単なる手慰みに読んでいただけに見えてしまった。*2
そしてこのあたりから、私→彼の距離感だけじゃなくて彼→私の距離感もおかしいのでは? というところがじわじわ出てくる。たとえば松下私に許可を出してから「超人の俺はこれでおやすみ」と本を閉じてベンチに寝転がる"彼"、頭の後ろで腕を組んで天井を見上げているんですね。たまに瞬きをするくらいで動きがなく、"私"を気にすら留めていない素振りなんですが、目を閉じる時間が少しずつ長くなるんですよ。本当に眠ろうとしてるみたいに。真横で見られてても気にせず眠れるほど松下私との距離感がおかしいのか、ひとりじゃろくに寝付けないか浅い眠りしか取れていない状態なのか、どっちなんだろう……と思いながら衝撃を受けていた。柿澤彼がニーチェを読み始めたきっかけ、寝付けない夜の手慰みだったのでは。
そして曲中。松下私を責める柿澤彼があまりにも静か
おかきペアの荒々しく吐き捨てるような語気の強さをイメージしていたので、この回の感情表現の起伏のなさに心がバッキバキにされました。「見損なった」と言いながら、ふいっと視線を下に落とすんですよ。語気を少し強めはするんだけど荒々しさは微塵もなくて、松下私へのいらだちというよりは諦めの感情だったと思う。お前もか、って感じ。松下私への期待なんて普段は欠片も見えないのにそういうときだけそんな諦念めいた失望を見せるから!松下私は離れられない!そういう…そういうとこだぞ……。振り向いた(らしいですね)松下私からふいっと顔を背けて、砕けた期待の欠片が零れ落ちるような声でなじられたら、彼には僕しかいない、必要とされているって思いこみたくなるよなそりゃな……。
そして、"私"に向けてというよりただ零すみたいな表情で口にする「レイ」がまた、高くて甘くて空っぽなんですよ……。俯き気味に顔を背けたままなのに、"私"の名前だけをそういう声で口にする。これから柿澤彼は松下私の名前をこのトーンで呼ぶようになる*3んですが、いやあ…心臓握りつぶされるかと思った……。
そのまま独り言のように言葉を続け、「(文書にするんだ、)そう、」でようやく、思考を探るみたいに表情が、視線がちょっとだけ動く。そこからの柿澤彼は精気が戻ってきて、タイプライターを準備する頃には(起伏が乏しいなりに)わくわくしている感じ。柿澤彼は、というかどちらの"彼"も、"私"がスリルをくれる行為の対象に含まれてるときはちゃんと私の目を見るよね。この後、松下私はキーを打ちながらも彼のことを見てるんだけど、彼はそちらを見ないから目が合わない。柿澤彼にとって、言うことを聞いている松下私はもう「スリル」じゃないのかな……。
ところで柿澤彼がタイプライターが乗っている机を動かしてる姿がなんか、ちっちゃこい動物みたいで可愛かった。机を押して、客席に背中を向けてるところ。柿澤彼、 松下私と比べて小柄ではないはずなのに、ピンで動いてると所々かなり小柄に見えるよね……。セットと柿澤彼の占める空間の比率の問題なんだろうか。準備して、ほらって感じで松下私を見るのも大層可愛かった。
「ここからがいいところ」な血でサインするところ、思ってたより声のトーンがやさしいぞ……? しびれを切らしたように手を掴んで引っ張る動作はけっこう乱暴だったけど。"私"がサインしてるのにはそっちのけでナイフを見ている。「血で汚すなよ」と言いながら、ナイフに付いた"私"の血は立てた膝のところで拭うんですよね。契約書が汚れなければいいんだろうけど、そのスリーピース結構いいスーツなんじゃないの…? 擦り付けるナイフを見る目に興奮が滲んでてそれは喜ばしいんだけど、この妙な頓着のしなさは何なんだろう……。そこそこの頻度で汚してるのか、血の汚れくらいじゃ家族は何も言わない(言ってもらえない)と思ってるからなのか。
松下私が自分の血をぬぐったハンカチを"彼"が指を切る前に差し出してるの、とても「ぽい」と思った。差し出しかけて、あ、という感じで引っ込める。松下私はそのままポケットに入れてしまったので柿澤彼は血をどうするんだろうと見ていたら、サインした手の形のままズボンのポケットにぱっと手を突っ込みましたね。
自分の指を切るとき、自分でできるってそっぽ向くのにナイフを引っかけた指を松下私のほうに動かして切る柿澤彼。目が指を追って一緒に向きを変えるから、結果松下私に向き直る姿勢になってるのが本当もうそういうところだぞって思う。*4
ぱしん、と紙の端を弾く雑さが無関心半分自虐半分に見えたのでわりと末期の自覚はあります。 
 
〇成福ペア
ねちっこい、成河私ねちっこい。「泊めてくれると思ったんだ」の高めで情けない声と「ありがとう」のわざとらしさの対比がこわい。「と」「う」にまでアクセント入れるのやめ……
本のページを繰る成河私の動きが文字を追うというよりページを視界に収める感じで、この"私"は努力どうこう以前に「天才」なんだなあと思った。視線を僅かに横に動かすだけで、眼球や頭の上下運動がないんですよ。横書きの本*5なのにだぜ。あれ、たぶん画像をそのまま記憶に入れられるタイプの動きだと思う。
福士彼の文面では顔ごと彼に視線を移して(「できる限りで」はまっすぐ見ていた記憶)、自分の文面のところでは紙を見て打つんですよね成河私。「契約法の勉強になるね」が嬉しそうなのに*6、福士彼の返事には無関心寄りの鬱陶しさがある。この後"私"はタイプライターに向き直り無言で打ち始めるんですが、福士彼がタイプ音を聞きながら浅く眠るみたいに静かに目を閉じていたのが印象的でした。聞き入っていたり気配を確かめていたりというよりは、うたた寝しているような希薄な気配。打つ音が消えて目を開くと、ちょうどのタイミングで成河私の「できた」が響く。このときのやたらと清浄な、宗教画みたいな雰囲気がとても美しかった。
それにしても福士彼、「静」の姿に艶が漂うビジュアルすげえと思う。軽く身体を傾けて目を閉じてる姿がただただ完成された美しさってどういうことだよ。
「痛くはしない」と優しく言われて一度引っ込めた手をおずおず差し出した*7けど「うわあっ!」と派手に腕を引き、何なら若干飛びのく勢いの成河私の手を掴んで引き倒す福士彼、露骨にむっとした顔してて面白かった。成河私は指を切られるタイミングで「いたっ!」って叫んでまたムードがない。
「サインしろ」と言って向きを変えるくせに、成河私が書き終わったタイミングでちらりと視線を飛ばしてから「よし、それでいい」と続ける福士彼。そういうところが育ちが良いし、言葉を発するときはもうナイフに向き直ってるところが「意地悪」。
目を軽く見張って何か言いたげなまま、サインが終わって顔を上げるタイミングぴったりにハンカチを差し出す成河私と当たり前にさっと指を拭く福士彼。蛇足ですがこのあたり二人とも異常に温度が低く、こういうところが「松柿ペアには(比較的)コミュニケーションが存在している」ように見える所以なんだと思う。"彼"から"私"への関心が何一つ見えない。端々にさりげなく滲む気遣いも単に社会やってるだけだろそれ……という感じ。"私"が見ているのも"彼"そのものじゃない感じだし。信仰ってそういうものだから仕方ないね。思い違いかもしれないんですが、12月は契約書を挟んで向かい合うところで私が彼にしなだれかかりに来ていたような記憶がある。顔がマジだったし紙が見えていなかった。
「契約書」のあたりから、福士彼が"私"に何かを言った後「ん?」とでも言いそうな顔をちょいちょいするようになります。距離が近いときもあれば舞台の端と端のときもあるんですが、いずれも成河私をまっすぐ見る向きで繰り出され、また大変に魅力がある。ちょっとの期待と試すような色が乗った、目だけで意思を問うような顔。成河私はあの顔絶対好きだと思う。あれは胸の高鳴りに逆らえない。
 
〇"彼"がばっくれるべきだった2つの理由。
この「契約書」、言い出したのは彼なんだけど*8彼はサインすべきじゃなかったんだよなあ、と思っている。ここで「対等」の意味が変わっちゃったんですよ。私の望みは彼といること、彼に「見て」もらうことだったんだから「私は彼に従い、彼は私が傍にいることを許す」でもともとイーブンだったはずなのに、契約を交わしたせいで「彼の望んだ行動の対価を私の望む行動で支払う」に意味がすり替わった。これだと"彼"が払いすぎているんですよ。"私"には前者でも「彼と一緒の時間を過ごせる」報酬があるのに、”彼”には後者の行動で得るメリットはない。表面上は「対等」でも、実際は"彼"が搾取される側になってしまっている。
もうひとつまずいところがあって、契約を交わすことでキスや「触って」もらう行為の位置づけが変わるんですよね。(気紛れとはいえ)彼の自由意思からだったものが契約の支払いという義務になる。そうなると、"私"は行為を与えられるだけでは"彼"の意思が向いているかどうかを確かめられない。気持ちが伴わない可能性を疑う理由ができてしまうんですよ。今までなら「じゃあ止めだ」って言われてただろう言い分でも、"彼"は義務だから拒めない。そしたらまあ、「本当に嫌だけど"私"のために行うこと」まで対価の要求は引き上げられますよね……。
 

M6(スリル・ミー)

◯松柿ペア
松下私の倫理観に衝撃を受ける。"私"の告解で「彼も大人しくしていました」「(私と犯すスリルも)誰も傷つけない」って言葉があるんです。いやいるよね。盗みも放火も被害者いるよね。"私"の価値観が世間のそれからずれてきているんですよ。"彼"に合わせてと言っていいのか、もっと別の変質なのかはわからないけれど。成福ペアにも同じ台詞はあるんですが、松下私はそれなりに社会の価値観に合わせて生きてけそうな人間に見えてたぶんだけ、この言葉を聞いたときの衝撃は大きかった。
「最近何も感じないんだ」のところ、思った以上に何も楽しくなさそうでしんどかった。「スリル」があるはずの行為にももうそれほど心が動かないことに、焦るだけの余力もなくなっているようで。「今日の収獲」を確かめようと鞄に手を伸ばす前後で、わくわくした雰囲気が薄れてきててなあ。
"私"の訴えに背を向けて言い訳のような独り言のような言葉を溢しながら、悲痛に眉をひそめて反らせた首元に手を伸ばすので痛ましさにで胸が苦しかった。しかるべき機関で治療を受けてほしい。心療内科に行け。柿澤彼はこのあたりから頭に手をやる仕草が増えて、不安な子供がよくやるやつ……と思って見ていました。くしゃりと髪を乱すかと思いきや指先が触れるところで止まるので一層痛々しい。痛々しいしか言ってないけどだってもう、ヒビが入った水晶みたいなんだよ柿澤彼……。喋るたび動くたび、透き通った細かな破片が散るように削れてるんだよ……。
それでも迫ってくる松下私に対する柿澤彼、「やめろ!」と声を上げる直前までされるがままなんですよね。いつかのようにうつむき気味に顔を背けて、伸ばされる手を受け止めるようにじっとしている。攻受が反対だったら拒絶はなかった(気力がないから)んじゃないかと思うくらいに大人しい。
松柿ペアはネクタイを落とすタイミングがぴったり同時で、駆け引きしてるみたいに見える。柿澤彼、ジャケットは早々に脱いで落とすのに、外したネクタイは伸ばした腕に持ったまま松下私を見てるの。相手より先に落とすのも遅く落とすのも嫌なのが19歳の男の子って感じがして、ひりつく空気なのに可愛らしかった。
サスペンダーを外しながら詰め寄ってくるところ、松下私は姿勢を低くして下から迫る感じ。最後の「スリル・ミー」できゅっと目を瞑って身体を硬くする姿が本当に痛々しくてもうやめてくれって感じでした。いいぞもっとやれ。
物語の終盤に「最初に裏切ったのは君じゃないか!」って松下私の台詞があるんですが、いや、最初に裏切られたのは柿澤彼なんだよ……と思いながら聞いていた。"彼"の心に寄り添うより身体で繋がることを選んだのは君じゃないか。
 
◯成福ペア

成河私の合図を褒めたり鞄を開けたりしてる福士彼、楽し気で何よりだよ……(柿澤彼は感情が早々に失せてたので)。しゃらしゃらした服?鎖?だったりマラカスだったり、殆ど感情の色を見せずに一個いっこ確かめる福士彼が可愛らしい。でもあれたぶん成河私から目を逸らしてるだけ。「ガラクタばかりだ」にちょっとだけ皮肉というか、お前も物好きだなって感じの、"私"を笑うような色があった。それに応える(はずの)成河私の「…だきしめてほしい」、低くて早口で意味の乗った言葉に聞こえないし福士彼に顔を向けてるのに目は焦点が合ってないしで大変に怖かった。それを見もしないで完全スルーして次の計画を語る福士彼、初めは楽しそうにして見せてたのに「金庫の番号は」から順調に憤りに感情がシフトして、荒い口調で「どうせ弟の誕生日だ!」と憎々しげに吐き棄てる目にちゃんと暗い怒りが乗ってた良かった(良くはない。)
成河私の歌い方が相変わらずのすっげえ怖い。出だしの「もう」が怒鳴るようでかなり強いのに「我慢できない」の「ない」をスラーじゃなくて一音ずつ発声するのが怖いんだって。その後の「もう焦らさないで!」なんかは拍を追い越す詰め方なのに。感情を爆発させながらも判断能力を失ってない感じ何なん。
その訴えに対して物を鞄に詰め直しながら丁寧に後ろを向いて「聞く気がない」のを言葉なしで表現するあたりに福士彼のすげなさとお育ちの良さが出てると思う。そういう遠回しな拒絶が伝わるのはハイコンテクストな上流階級だけだよ……みたいな。成河私も上流階級の子だけどそういうの解さないと思うし解ってもずかずか踏み入るタイプだって。
この曲の歌い方はいれまりペアの地を這うような「スリル・ミー」が恐ろしさでは一番だと思ってたんですが、成河私の高い声を振るわせる「スリル・ミー」、いやあれ怖かった*9。二度目の「スリル・ミー」を言い終わる前に鞄を投げつける*10福士彼、ひっでえとおもうけれど成河私への対処としては適切だったと思う。物理で押さえなければあの段階で剥かれてた、確信できる。
「窓を割ってドアを壊して何か盗む」、つるりとした質感の張り詰めた切実さで吐き出しながら、喉仏のあたりを引っ掻くようにしたり、首の脇、頸動脈の上に何かがあるように指でなぞったりしていてですね。首吊りするときはあのあたりに紐が来るよなって思い、そのことを後に*11思い出して地獄を見ました。
そしてその後の揉み合いがですね…特に1月がね……しつこく伸ばされる成河私の手を払おうとする福士彼が完全に弱者でひりひりした。拒む以上の意味を持てない振り払う手の弱弱しさだったり、目を閉じて心を閉ざして、知覚を減らすことでしか怖いものに抵抗できないような表情だったり。あの「やめろ!」だって、声を荒げてるのに脅す色の欠片もなく悲鳴だったじゃん……。
ジャケットを脱いでネクタイを落として、あっさり脱いでいく福士彼。遅れてジャケットを脱いだ成河私は、12月はそのジャケットを翳して福士彼の視線を遮り、「いい加減な気持ちなら嫌だ」を言うんですよね。そこから一転、サスペンダーから腕を抜きながらずかずか直進してくるの圧が強すぎて本当にこわかった。
12月はね、成河私が後ろから脱がそうとするとき、福士彼が自分の身を守るようにするんですよ。肩を竦めて両腕を前に回して。顔を背けて行為への拒絶をいっぱいに浮かべて。ほんの一瞬で、すぐ次の瞬間には触れた私の手が彼を転がすように勢いよく押し倒す。
1月は「スリル、」のところでふつっと目を瞑ってその後、死体みたいに力の抜けたぐんにゃりとした動きで崩れていってぞっとした。まったくの無抵抗で、なんだけど絶対に合意じゃない*12。「何もかもを奪われた」「身体を売った」空虚さがすごい強かった。

 

 

M7(計画)

「それから5分後」が強烈だったって話をしよう。わたしが福士彼に転んだのはここです。

〇成福ペア

押し倒されて死んだように息を潜めた福士彼を見下ろして淡々と話し続ける成河私55歳、なかなか恐怖なんだけど、この場面で最も精神を殴られるのはそこではなかった。
"私"が彼から離れてからゆっくりと身を起こした福士彼。あれはやばい。12月は双眼鏡で抜いて見たんですが完全に絵画だった*13。しかもなんかやばいやつ(語彙力の敗北)。すごく綺麗なんですよ。綺麗なのに、なにか決定的に損なわれてしまったようなあの空気感。乱れたシャツをそのままに顔をこちらに向けて、目だけを細めて、心をどこかに落としてしまったような遠くを見る目をしていたのがさ……。中途半端なシャツとベスト、それらを構わずどこかをただ見ている微動だにしない姿が痛々しいんだけど、性の残り香が漂うような感じに整ってる。彼が茫然としている横で喜色満面で服を身につけている成河私がいるから、静と動の対比が脆い美しさを一層引き立てているようだった。*14
その姿勢のまま、ぽつん、と落とすように福士彼の呟いた「思いついた」に服を着ながら言葉を返す成河私、12月は本当に満面の笑みでですね、おっま、そういうところだぞ……人間の情ってものがないのか(ない。絶対にない。)1月は発言を笑って流そうとするくらいの表情に見えて、「あっ人間だ」って思いました。
そのまま零れた何かを埋めるように計画を立てていく福士彼。笑い交じりで反応していた成河私、本気だと気が付いた時の止め方が「やっちゃいけないことってあるだろ!」で、どの口で言うのだそれをという気持ち。大阪以降の変更らしいんですが、福士彼「お前、以外で」のところを「僕。……以外で」と言うようになりました。すっごい意地悪な顔してたらしいです。たっぷり溜めて、声もなぶるようだったしね。
彼を止めるために歌う(ような)成河私、「君は罪人」っていうんですよね。これたぶん成福ペアだけの変更で、こういうところ、成河私は福士彼を理解しない(する気がない)けど本当によく見てるんだなって思う。英語版の歌詞は母親にどんな顔して会うんだよ、みたいなニュアンスなんですが、この福士彼、父親だけでなく母親にも優先してもらってなさそうだもんな。妄想ですが福士彼の「弟」、優秀なんじゃなくてものすごく手がかかるタイプだと思うんですよね。成河私から天才性を抜いたみたいな。
1月でびっくりしたのが「金に困ってるわけじゃないだろ!」「お前はな!」のやり取り。ここ、福士彼が成河私の胸倉掴んで階段に押し付けるんですが、このとき成河私は衝撃を受けたみたいに目を見開いてるんです。乱暴にされたことより彼の言葉にダメージを受けてるような。思えば成河私は目が悪いんだから、親父の話をしている福士彼がどんな顔をしてるかなんて、あの距離から見えるわけがなかったんだよなあ……。成河私は、福士彼の"親父"に対する憎悪にこのときまで気が付いていなかったんだ。噛みつくような距離で激情をぶつけられてはじめて、どんな表情をしてるか見てしまったんだろうなあ。
ここから以降の成河私は、「親父」の話をするとき文脈に不釣り合いな怒りを表すようになるんです。まるで福士彼の「親父」への感情を、「スリル・ミー」の直前や「計画」で見せた"彼"の憎悪をなぞるみたいに。いやあ、えぐい。
ところでこの場面でしたっけ僕の眼鏡の後でしたっけ、成河私55歳12月が審議官の「猟奇的な」に反応するの。12月なんかはそれまで薄笑いすら浮かべて話してたのに、がっと目を見開いて「そういう言い方は……」って反論するんですよ。ほぼ唯一の動揺だった。

 

〇松柿ペア

柿澤彼、起き上がった後床に座ったまま少し顔を伏せて、左手を伸ばした脚の間に差し入れてじっとしてるんですよ。表情は口元に持って行かれた右手でほとんど隠れて目元しか窺えないんだけど、静かに瞬きをしながら、時折ふらふら動いている。双眼鏡越しで抜くとじっと考え込んでるようにも見えるんだけど、でも直接見ると傷つけられた少年そのものなんですよ。傷ついていること、怯えていることを悟らせないようにわざと何でもない振りをしているみたいな、でも何が起こったかを知っていると痛む傷口を庇っているようにしか見えないあの仕草。柿澤彼の滲みだす少年性、あれはいったい何なんでしょうね……。やさしい炎の時から泣き出しそうな、あるいは壊れ物のような空気だったけど、この時に何かが変わったんだと思う。決定的に。ここから後の柿澤彼、名を呼ぶ声や視線に縋るような、もっと直截に言えば媚びるような色が出てくるんですよ。狡猾さだったらまだよかったのに、感じる印象は「大人になってしまった」だからやってられない。もともと自分を薄く傷つけながら人付き合いやってそうだったのに、いよいよ自分の心を見てなさそうになってきた。人を喜ばせるっていうのは本来、自分の心を削った欠片を差し出すことじゃないはずだろ……。
その横で松下私は淡々と服を身につけているんだけど、柿澤彼の言葉には笑みを含んで対応してたから機嫌は良かったんだと思う。この回ではネクタイをうまく結べなくてポケットに押し込んでました。*15
殺人を一度拒まれたときに「イーブンだ」って言ったときの柿澤彼の笑いが全然楽しそうでも嬉しそうでもなくて、かといって無理して笑ってるようでもなくて。清々したのでも挑発でもなく、じゃあいいやってかさついた軽さの諦めがあって、このまま見送ったらどこかで儚くなりそうな空っぽの雰囲気。

「あいつが死ねば」「親は悲しむ」のここがね、ここが松下私、柿澤彼を見ているようで肝心なところは全く見えてないんだなあってつくづく思う。柿澤彼はマザコンだと思うけど、それでも親を出されてうんっていう子じゃないだろう。「彼も、家族だ!」に折れたのは心を動かされたからというよりは争う気力がなかったんだと思う。計画を積みながらだんだん興奮していったようで、それは何よりだったよ……。

 

"私"の転換点が"彼"の導きで炎に惹き込まれたあの夜だったように、"彼"の転換点はここだと思っています。取り返しのつかない何かを失った(あるいは損なわれた)日。この後"私"はネクタイまで身に着けるんですが*16、"彼"はずっと外したままなんです。私の首に当てて脅した後は丸めてポケットに突っ込む。あのネクタイ、一線を越えている(タガが外れた)ことの暗示だと思って見ていると大変楽しいですね……。いつからだったか*17、"私"もネクタイを外しているんですよ……。

 

続き。

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*1:ここだけで前の記事の半量ある。

*2:松下私に本を渡すとき、放るように少し遠くに落とすのは試し行動だと思う。

*3:その上どんどん切なげになる。雛鳥みたいに。でも空っぽ。

*4:このときの福士彼は"私"から遠ざかる方向にナイフを動かす。

*5:左開きだった。

*6:松下私には皮肉な響きがあった(ような。まつこにペアとまざってるかも

*7:一度目は指を伸ばしてるのに、ナイフを見て引っ込めてからの二回目は人差し指を丸めてて分かり易くびびっていた。

*8:誘導したのは"私"だと思う。特に松柿ペア。

*9:音程は同じだと思うのにどうなってるんでしょうねあの声の高さ。俳優さんってすごい

*10:12月は成河私が合わせて飛んでた。どんだけ渾身の力で投げてみせてたのか。

*11:「死にたくない」で同じ場所を、今度は空を掴むように触る。"彼"はこのやり取りの時点でもう、首にロープが巻き付く夢を見ているんですよ。

*12:合意と言えば成河私の「いつかのように」、合意の気配がしないし何なら実在も疑いたい。

*13:記憶をたどると金色の光が上から注がれている画が出てくるんですが、そんな照明はたぶんないと思うので空気に記憶が塗り替えられている。

*14:この後シャツが乱れたままベストを身に着けている福士彼が最高に艶っぽい。2回観て2回とも右の襟がベストに引っかかってはだけてたからあれわざとだぞ。

*15:他の方のレポ曰く、裏返しになっちゃったんだとか

*16:松下私が結べなかったのはご愛敬というか。それを解釈とするのも楽しいけどさ

*17:たしか「超人たち」から