各ペアざっくりの印象はこっちに書いたし掘り下げるかーと思ったのですがちぃともまとまらず、私がやりたいのは「細かすぎて伝わらないスリルミーの好きなところ」なんだよな、 と気が付いたので欲望に正直になることにしました。
ミュージックナンバーで括るけど周りのあれそれ込み、 成福ペアについては12月に観た回と1月に観た回が所々ごっちゃ になってると思う。
観劇日は成福ペア12/15夜、1/20夕(大阪楽)、 松柿ペア1/4夜です。
やたら長くなる予感がしたので随時更新していこうと思うよ……既に上げたとこもちょこちょこ書き換わると思うけど許してほしい。
M1「プレリュード」、M2「隠された真実」
◯成河私
やばい。
にやあっと笑う。 初めからにやにやしてて馬鹿にしてるのを隠さない感じ。(「 5回も〜」あたりから特に)
12月は歌ってるときも始終にやにやしていたと思う。 残る傷跡って顔じゃないぞそれは。
1月は多少穏やか… というか人間味があったんですが彼の話になるともうダメだった。 にやあって笑うこわい。
この回は歌い出しで泣いているような顔で歌うなあ、 目が濡れてるみたいに光るなあと思ってたら本当に涙を流していて びっくりした。*1 全然音も詰まらないし声も裏返らないもんだから、 表情だけだと思っていた。 55歳の成河私は全体的に頬骨から下を下ろし気味にするので、「 そう」いう表情に見えるだけかと思ったんだよ…。
ところで。 涙を流している時は光が当たりにくいから表情と暗く塗り潰された 目がわかるだけで、 タガの外れた笑みで頰が上がって初めて涙の跡がわかるの、 ちょっと冷静になった今すごくこわいんですがそれは。*2 角度の関係もあったと思うんですけど、いやうん、 冷静になるとこわいぞ……。 そしてここで成河私が涙を流す理由が本当にわからない。
◯松下私
打ちのめされている。 声が降ってくれば首を擡げてはいるものの抵抗する気力もなさそう に、たんたんと、聞かれたから反応した以上の意味がない言葉。「 5回も〜」で声に笑みが入る(ような気がする)んだけど、 そこに滲むのは無力感と自虐の色だった記憶。
松下私、根本の形は人間をしている*4 ので、"彼" がいても刑務所の環境は苦痛だったと思うんですよね……。 怒号と暴力の世界、 柿澤彼のそれ以外に平然としていられるほど荒んでなさそう。 ピンだと小突き回されていじめられそうだし。 それでも、"私" の心を打ちのめした最大の要因はそんなことじゃないんだろうけど 。
松下私の53歳、声がごろごろしていて、 あの持ってき方けっこう好きです。 声優さんが作る老人の声とは方向が違う気がするんだけど、 肉体の衰えじゃなくて精神の摩耗って感じ。 ぼろぼろと穴が開いた布みたいな( それでももとは上等な生地なのが一目で窺えるようなのが気持ちわ るい(賛美です))
"私"が「償い続けてきた」「消せはしない重い罪」、 松下私は子供を殺したことまで含まれてると思うけど成河私は絶対 違う。成河私にとっての罪、”彼”を裏切った(或いは泣かせた( "私"の前で泣いたことがあるのかは知らない)) ことだけだって間違いないって。
M3(僕はわかってる)
〇松柿ペア
コミュニケーションを!取っている!(先に観たのが成福ペア)
関係性はわりと固まって見えるんだけど、ちゃんと感情?意思? のやり取りがなされていました。あと、 2人ともちゃんと子供っぽい。子供っぽいのに柿澤彼は“私” に構うときでさえ感情が渇いている。そして松下私は“彼” の逆鱗をあまりに無造作に触る。逆鱗に触れられた龍が怒るの、 あれめちゃくちゃ痛いかららしいですよ……。
松下私の「待ってたよ!」にもその後の台詞にも、ちゃんと"彼" を詰る色があることに驚く。柿澤彼と対等であろうとするところ、 好きだよ冷静に考えるとこわいけど。「突然いなくなっ」た"彼" と久しぶりの会話なのに、 責めるような言い方したらまたいなくなるかもって欠片も考えてな いってことだろそれ。 バードウォッチングもそれなりに楽しんでるんだけど、 松下私は彼と会った途端に感情の色が濃くなるからあくまで手慰み だったんだろうなあ。
そして柿澤彼の笑い方に衝撃を受ける。全然楽しそうじゃない。 福士彼よりよっぽどよく笑うのに、 松下私の言動に笑って見せているような感じで、 相槌程度の重さしかない。 箱の大きさに演技を合わせてるだけかもしれないけど( 前に観たのはデスミュ)、いやあびっくりした……。このシーン以降では松下私が話しかければいちいち笑って返してあ げるのに、この時は全く耳を貸す気がない。 松下私に丁寧に背中を向けて、 柱に寄りかかったままタバコの煙で輪っかを作って遊んでいる。 そのくせ「お前は天才だからな」の『天才』 を真っ暗な目で言うんですよ……情緒不安定……。
しかもこの2人、このあたりの台詞が互いに食い気味で相互不理解……って感じだった。*5相手の言いたいことを理解したら最後まで聞かないで言葉被せちゃうの。頭の回転が速くて付き合いも長いから全部聞かなくてもわかるんだろうけど、それよりも傷つけ合っている印象が強かった。
キスシーンはがっつり。“私”が触れただけでは止めなくて、 力を込めて腕を掴んだところで押し返すように離れる。 マッチ箱も届きそうなところに投げる。( 福士彼は絶対届かない高さで放る)
ところで、鳥を見ている"私" に柿澤彼が忍び足で近寄るとき、側面から靴を着地させるの8年の熟練って感じですね。福士彼も1月はそうやってたし、 ああすると音が響かないんだろうか。 思えば、 あのときの目が一番わくわくしてたな……。
〇成福ペア
「まってたよ!」が全力でこわい。(12月)
がばっと振り向いての第一声から喜色にあふれた声と全開の笑みで あれはやばかった。
正直12月の成河私の印象、ここで完璧に固まってしまった( ので、基本やばい怖いしか出てこないんだと思う。) 同じタイミングで福士彼に対して「逃げて早く逃げて」と「 ご愁傷様」の感情を抱いたので、正直なところ福士彼を咎める( というか、成河私への気のなさを責める)気には全くなれない。 いや、この"私" にこんなに執着されてたらもう破滅しかないじゃん。
1月はもう少し抑えめの、 びっくりしたように目を見開いた表情でした。この回の成河私、 バードウォッチング本気だったよね……双眼鏡を片手にぐわっと見開いた眼ね……" 彼"と待ち合わせしてること覚えてた……? このときの、遠くに鳥影を見つけて目を眇める表情をもう一度見ることになるとは、このときは思ってなかったんですよ……。
「約束は3時だったよね(喜)」すごい。喜びしかない。 ついでにコミュニケーション取る気がない。ここたぶん、"私" が言いたかったのは「楽しみで楽しみでしょうがなかったんだ」 みたいなニュアンスなんじゃないかな……。その好意の意思表示、 福士彼ぐらい能力高くなきゃ受け止めるどころか伝わりすりゃしな いぞ。
対する福士彼すごい、目が全然笑ってない。"私" に笑いかけるどころかそちらを見ることすらしないし笑みも浮かべ ない。冷たく凪いだ目が別のところを見ている。(12月は特に)まさに「あしらう」の字そのものの対応で、福士彼、 本当になんで私と一緒にいるんだ。 弟経由で片っ端から伝わるよりマシだからなのか。
福士彼がシガレットケースから取り出した煙草を、 手のひらにとん、 とんと打ち付けるのより成河私がマッチを取り出すためにスーツの ポケットに手を突っ込むほうが速かったの若干こわい。 真顔でポケットからマッチを取り出し真顔でまっすぐ差し出したま まの姿勢で歌い続けるのちょっとした狂気。 顔も視線もビタイチ逸らさずずっと福士彼の顔見てるの。 でもあの勢いで詰め寄ったのはマッチを渡すためだけなんですよね 、たぶん。 目的と手段の大きさが一致してないの人間ぽくなくてこわいよ。
キスシーン、成河私は初めは棒立ちで固まったまま反応を返さないで、 福士彼が一度口を離して二度目に口づけてからようやく応えはじめ る。「これで満足か」に目を見開いたまま、 ゆっくりと小さく頷くのが可愛らしかった。可愛……うーん。(※好きですよ成河私。)
ところで1月の「聞いたよ君の弟からね」のところ、すごく含みを持たせた言い方だった気がするんだけど具体的に思い出せない。
二人の関係性、松柿ペアのほうが人間味がありそうに見えるんだけどそれは"彼"じゃなくて"私"の違いなんだろうなあ。ちゃんとコミュニケーションを取ろうとすれば彼はそれなりの応答はするんだと思う。器用だから。いやしかし柿澤彼、行くつもりだった『ニーチェの研究会』は本当に存在したのか……? と疑ってしまう。そんなの初めからなくって、松下私への見栄と意地悪だったりしないか。
M4(やさしい炎)
〇松柿ペア
柿澤彼、興奮が消えるのが速い。だから早く病院に行けと。松下私がガソリンを撒いて大きくしている炎を見てるときは楽しそうだったんだけど、いつの間にか楽しげな高揚をどっかに置いてきていた……。声が揃うところでは、松下私のほうが声量が大きかったのが印象に残っています。炎により心を動かされてたのは松下私なんだな、って思った。「火の粉弾けて〜」まで喜びが残ってたの福士彼だけなんだよな。柿澤彼はもっともっと早く醒めていた。
松下私の「触って、ください」、相応に羞恥というか悔しさというかそういうものと期待がごたまぜになっていてえろい(おぼろげな記憶。)二人の身長差があまりないから物理的に顔が近いのも、秘め事の気配を濃くしていたと思う。
いやあしかし柿澤彼、"私"を見ない。わかってたけど、「触る」ときすらほっとんど見ないで炎にばかり目をやっている。松下私が息を詰めても何にも反応しない。*7
松下私の「触って、ください」、相応に羞恥というか悔しさというかそういうものと期待がごたまぜになっていてえろい(おぼろげな記憶。)二人の身長差があまりないから物理的に顔が近いのも、秘め事の気配を濃くしていたと思う。
いやあしかし柿澤彼、"私"を見ない。わかってたけど、「触る」ときすらほっとんど見ないで炎にばかり目をやっている。松下私が息を詰めても何にも反応しない。*7
〇成福ペア
成河私の「消防車が来るよぉ!」が情けなく響き可愛かった。この”私"、何かを訴えるときはちょっと高めの掠れた声で言うところが好きです。成河私が19歳であることを唯一思い出す(普通19歳の男の子はこういう声は出さないとも思う。)
そして福士彼が成河私を後ろから掬い上げる場面。ここでの成河私の変貌がものすごかった。一瞬の驚き、暴力的な熱量の喜び。目を爛々と輝かせ、体の奥から湧き出る自信と興奮が全身に満ち、溢れている。己の価値観を一個人に全振りした者が、望んでいた託宣を受け取った姿。あれは宗教だった。*8だからさ……まともな精神をした人間は一個人にその熱量の信仰は抱かないんだって……。
この後の福士彼は(柿澤彼と違って)楽しそうなままではあったんですが、興奮を滲ませていたのがすうっと鎮まってくように静かな表情になって、炎に魅入られる私を置いて離れていくんですね。まるで込み上げる昂揚を成河私に移したみたいに、あっさりと踵を返す。高揚した表情のまま振り返り、福士彼がいないことに気が付いた成河私の心情にはまあまあ同情できる。あそこで福士彼と目が合っていれば、「スリル」を共有していれば、結末は違ったのかもしれない。でも福士彼のほうに、それをするだけの気力がもうないんですよね。成河私に分け与えたら自分のぶんがなくなってしまうくらいの熱量しか、もう手に入れることができなくなっている。
ところでこの場面でしたっけもっと後だっけ、福士彼の胸元に顔をうずめる成河私の頭と左肩に触れるようにするところ。あれは宗教画だったし、よく見ると肩には触れてるのに頭には手を沿わせるだけで触れていない。手を伸ばしたのは頭のほうが先なのに、頭は撫でてやらない……。
そして福士彼が成河私を後ろから掬い上げる場面。ここでの成河私の変貌がものすごかった。一瞬の驚き、暴力的な熱量の喜び。目を爛々と輝かせ、体の奥から湧き出る自信と興奮が全身に満ち、溢れている。己の価値観を一個人に全振りした者が、望んでいた託宣を受け取った姿。あれは宗教だった。*8だからさ……まともな精神をした人間は一個人にその熱量の信仰は抱かないんだって……。
この後の福士彼は(柿澤彼と違って)楽しそうなままではあったんですが、興奮を滲ませていたのがすうっと鎮まってくように静かな表情になって、炎に魅入られる私を置いて離れていくんですね。まるで込み上げる昂揚を成河私に移したみたいに、あっさりと踵を返す。高揚した表情のまま振り返り、福士彼がいないことに気が付いた成河私の心情にはまあまあ同情できる。あそこで福士彼と目が合っていれば、「スリル」を共有していれば、結末は違ったのかもしれない。でも福士彼のほうに、それをするだけの気力がもうないんですよね。成河私に分け与えたら自分のぶんがなくなってしまうくらいの熱量しか、もう手に入れることができなくなっている。
ところでこの場面でしたっけもっと後だっけ、福士彼の胸元に顔をうずめる成河私の頭と左肩に触れるようにするところ。あれは宗教画だったし、よく見ると肩には触れてるのに頭には手を沿わせるだけで触れていない。手を伸ばしたのは頭のほうが先なのに、頭は撫でてやらない……。
〇火を付けられたのは誰だったか
どちらのペアも、「一本のマッチが火を付け」たのは"私"側だと思うんですよね。あのとき炎に魅入られて変質したのは"私"。思えばここ、「見張り役」だと宣言した"私"を実行役に引き込んでるんですよね。おそらく最初に火をつけたのは"彼"だろうし、これで2人は対等な共犯者になった。のかもしれない。
"私"が"彼"のいう「スリル」をかなり正しく理解した形で向き合うことができたとしたら、おそらくこのときだったんだよなあ。でも実際は"彼"の側にそんな意思はなかったし、"私"は"彼"が求める「スリル」を理解できたがゆえに、振り回されるだけじゃなくて自分からもゲームを仕掛けにいくようになる。"私"はもう、くるくる流される小舟で"彼"を待つばかりじゃない。
ちなみにこの曲、英語のタイトルは「Nothing Like A Fire」なんですよ。「炎に代わるものはない」くらいのニュアンスだと思うんですが、もう破滅のにおいしかしない。
"私"が"彼"のいう「スリル」をかなり正しく理解した形で向き合うことができたとしたら、おそらくこのときだったんだよなあ。でも実際は"彼"の側にそんな意思はなかったし、"私"は"彼"が求める「スリル」を理解できたがゆえに、振り回されるだけじゃなくて自分からもゲームを仕掛けにいくようになる。"私"はもう、くるくる流される小舟で"彼"を待つばかりじゃない。
ちなみにこの曲、英語のタイトルは「Nothing Like A Fire」なんですよ。「炎に代わるものはない」くらいのニュアンスだと思うんですが、もう破滅のにおいしかしない。
続き。
*1:
*2:
*3:ストレス下で特定の動作を繰り返すこと。
*4:このペアの場合、「世間」
*5:開始が押していたからかもしれない。
*6:前にも言いましたねこんなこと。
*7:ところでこのシーン、絶対手淫の隠喩だと思ってるんですが皆さんどう解釈していらっしゃるのか。
*8:「この問題、メタマクd2で見た!」をリアル体験してしまった。