つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

'21スリルミー感想

演出が変わってるのか座席位置か、見るごとに印象ががらっと変わるの、楽しいし心臓がいくつあっても足りない。

そしてホリプロちゃんは円盤か配信かせめて音源販売をください。切に。
我々凡人は”私”じゃないので34年前どころか数日前の記憶ですらどんどん褪せていくんです記憶を辿るフックを……ください……。

個人の感想であり特定の団体個人思想宗教いろんなものとは無関係だし強火の幻覚がちょいちょい混じり込みます。

 

〇成福ペア

あのね、前回の公演をご覧になった方にお知らせがあるんですが成河私の魂が人間の形をしています(賛美) 自分でもあれな言い草とは思いますが '18-19年の成河私は天才性や種々のギフテッドと引換えに凡人と相互理解をし得なかったじゃないですか……? 本の読み方ひとつとっても凡人を超越した天才性を否応なしに思い知らせるような。
なんと、今回人間。それもすごく生々しい。そのぶんだけ? "私"が記憶している福士彼も人間味がある印象。

高校生~学生くらいの子って周りが聞くとぎょっとするジョークを飛ばすじゃないですか。本気度は低いけど強い言葉を投げつけ合うことで認識を共有した仲間だと確かめるコミュニケーション。作りました!って笑顔でぶっ飛ばすぞ、やってみろ?とか言い合うやつ。あんな感じ。
軽口で切りつけ合いながら福士彼の考えたミッションを一緒にクリアして、成河私が余裕綽々でついていくことで"負けてない"ことを見せつける。二人の「ゲーム」はそういうものだったんじゃないかな、と思った。純度100%の幻覚なんですけど!! 一個もそんな提示はないです!!!!

あのね、「契約書」の場面で成河私を突き放す福士彼がまあイイ笑顔をしているんですよ。顔を近づけて 「帰れ」「残りの夏を楽しく過ごすといい」って。もぉー!ってどさっと座り込む成河私を「裏切りだ」「見損なった!」ってなじるのもすげえ笑顔なの。肝試しやチキンレースにびびった仲間を煽ってるみたいだなあって。
福士彼の煽り方が"そんなこともできないのか"なら成河私は"そんなこともわからないの?"だった。これは幻覚なんですけど。

 

ときに54歳私のあの深みのある人間味どこから来るんですか。いえ好きだし人物も音色も心地よいんですけど。耳に心地よく響く深みのある声、朗読ラジオのナレーションみたいな抑揚豊かな語り口、良い年齢の重ね方をした大人の味わいをなんで大人になる前から34年間刑務所にいた"私"が持ってるんだよ……いやなんでだよ……。
成河私、「人間だった」と「にちゃぁ…っと笑う」の前情報を聞いていて、その2つは両立しないだろと思っていたんですがしっかり両立してたしあの笑みの擬音はにちゃぁっ……だった。なんなら3ペアの"私"のなかで一番話の通じそうな、社会に馴染んで生きてきてそうな人間味があるからこそ、ゆっくり喜色に溢れた笑みの形に変わっていくのがなんともいえない気味の悪さを覚えるんだよな……。

 

福士彼、美しいお人形じゃなくて美しい人間でしたね……。成河私が"彼"を(美しい偶像ではなく)一個人として記憶していることはわかったんだけどどんな人間かはまだ言語化しきれてない。*1
ひとつ言えるのは成河私「それが欲しいんだろ? ん?」の"彼"の顔ぜったい好きだろということです。「超人たち」で振り向いた福士彼、あの試すような「ん?」の顔をして"私"の目をのぞき込んで、手を引いて立ち上がらせて、同じところまで引き上げるまでずっとあの顔をしていてオタクは歓喜した。
福士彼、成河私が自分の顔が好きだし自分に試されるのが好きだとちゃあんとわかってるよね。「やさしい炎」で「それ("彼"がする意地悪)が好きなんだろ」って返されて成河私がんぐって黙って目を逸らしちゃったの図星なんだ!ってなった。

今から幻覚の話をするんですが、弟が話に出てくるたびに彼が浮かべる眉根や目元をぎりっと引き絞るような憎々し気な表情、「スリル・ミー」の導入で憎悪は二次感情で根っこにあるのは”愛されたい”だとわかるのがすごい あの えもーしょなる……と思いました。あの切実な表情、ね……

このペア、「99年」で「いや!」「離れられない…!」から成河私が組んだ手を胸元に上げて階を上がる彼に捧げていったの個人的に原始の宗教という感じがしてとても好きです

 

〇にいまりペア(4/3、4/10)

1回目は下手側、2回目は中央で観たんですが印象がまるで違ってて。どっちも可愛くて好きです、好きなんだけど過去の自分とテンションを合わせられない。演出が変わってったのかわたしの人間認識能力があれだからかはわからない、誰か教えてくれ(主に目の色で感情認識をしている)

なんて言ってるうちに別の回を見てやっぱりそのたびに関係性の印象が変わっているので4/3の感想はっとくね。

なんかこう……ぜんぶを注ぎ込む愛と注いでも干上がる器とでかみ合ってしまっているみたいな2人だった。
田代私の愛し方、 あんなにも躊躇いなく存在すべてを注ぎ込まれると大抵の人間はドン引きするか壊れるかするんだけど、新納彼は"私"のぜんぶが自分に傾けられてることに満更でもなさそうなんですよね……関心を向けられることに飢えているから……。

「契約書」*2の彼が鉄骨ど被りだったのもあって“彼”の印象が後半に片寄ってるんですが。

〇新納彼
超人然を引きはがされて只人へと引き落とされたもの。あるいは"私"の手の上でだけの超人。
「契約書」での「そう、」があまりにも超然としていて好きです。ひと言の音で場の空気が染め上がるあの感じ。
新納彼は自分の一語一挙動に全力で反応して怖がったり肩を落としたりする"私"にそこそこ愛おしそうに目をやるので“私”可愛がられてるなあと思う。スリルミーの“彼”は“私”の記憶なので、田代私が新納彼のこういう顔が好きだったのかもしれない。
新納彼、田代私がおじけづいたりためらったりしても基本的に優しいんですよね。辛抱づよく、“私”が自発的に手を伸ばすのを待っている。「契約書」で怯えて手を引っ込める“私”に催促する「痛くはしない」のなだめるような響きや表情が新鮮だった。優しい。自分で切るときにわざわざ“私”と目を合わせてから見せつけるようにナイフをぴっと動かすのが可愛いと思う。“私”より「大人っぽ」いのを見せつけてるようで。
個人の印象なんですが、新納彼は“私”が自分と同じところまでくるよう導こうとしてるのかなあと思う。導こうというか、教え導いているつもりというか。


〇田代私
超人に“なってしまった”かつて人だったもの。
頭が良くて家柄も良くて全身全霊で新納彼を愛している、確かに凡人ではないけどでも、人に向き合って心を通わせ合おうとする人間の男の子だったのに、“彼”が超人になれと言ったから超人になってしまった。なれてしまった。彼を置いて。「誠実さ」……「壊れる」……なるほど……みたいなうめきを上げましたよね……。

19歳田代私、中盤まで幼い印象が際立ってると思う。「やさしい炎」で彼が言う「幼い」にそうだね!って全力で首肯しちゃう。
そう見えるのはたぶん、田代私が“彼”のことでいっぱいいっぱいで余裕がないのと、“彼”に何かしらを訴える声に甘えるような響きが入っているからなんですよね。新納彼の存在があるときだけ、田代私は幼く見える。
"彼"に可愛がられている意識があるっぽいの可愛い。むりだよこわいよって言いながら最後には言うとおりにして


「スポーツカー」で見せる姿が“彼”の、電話で“彼”の弟と話す姿が“私”の「他のやつら」に見せている顔だと思っているんですけど。
田代私は年下の子に言い含めるような抑揚や発音がわかりやすい言い方で、見たときは一人っ子がおにいちゃんしてるみたいで可愛いなと思ったんだけど。あれ前半で見てた“私”の印象に引っ張られてそう感じるのであって、ピンで取り出すと歳下の相手に配慮しながらも尊重して接する、人格のできた誠実な人物像なんよね。

正面をじぃと睨めつけていた54歳私が彼のことに触れられると見開いた目にみるみる涙の膜が張り、ぼろぼろ溢れるままに語り始めるのが傷跡……って感じでとても好きです。終盤、「99年」の後の顛末に話が至ったときに目を潤ませて話を拒むのも。惰性の祈りに似た形で手を固められた(捕まっているので)“私”の情感を唯一動かすものが"彼"の記憶なの最高じゃん……。
固く組んだ指がほどけた後、神隠しから戻ってきたような顔でしばらく客席に向いていた目が「一枚の写真」に吸い込まれるように離れていくのほんとそういうところ(好き) "彼"が世界みたいなところ、それとも変質してそうなったのかな……

追記.4/10で見て思ったのは「望み合って庇護する"彼"と庇護される"私"」「"彼"のスリルを分け与えられる」「己が教え込んだスリルに食われる"彼"」「自分の心を引き換えに"彼"を人間に引き戻した"私”」あたりですね。

*1:いやこれはわたしの問題なんですけど……社会をやっている人間の解像度があんまり高くない……

*2:すりるみ前半パートは彼のターンが契約書、私のターンがスリルミーだと思っている