つまるところ。

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「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の感想

TLでよく見かけてて気になっており、機会があったので観てきました。通うつもりのやつまだ始まってなかったし……。感想っていうか殴り書きっていうかですね。ふせったーの代わり運用試み、つまり自分用のメモなのでちょみちょみ増えます。

※現代では適切とされない単語を使いますが敬遠と差別のニュアンスまでわかって使っており、そこまで言いたいやつなのでご承知で。嫌ならバックせよだよ。

左目に傷がある水木、一つ目だから異界が見えるのやつじゃん

『Missing』『虚構論理』を履修したオタクなので、ゲゲ郎の「わしが見えるのか」を聞いて真っ先に思い浮かんだのがこれでしたよね。

現実を映さない目にはこの世ではないものが映る。一つ目一本足は神への供物。両足が不自由なヘパイストスが神性をみたいなのはFGOで(オタクには)割と知られた感があると思っていますが、かたわ者(承前)を神おろしや巫女に使ったり、神への供物とする儀式として不具(承前)にする文化、たしか日本にもあったような記憶があります。
呪骨に殺された者らは死因か死後かに左目を潰されるので、水木が呪骨にやられて記憶を失っても命までは失わなかった(孝三のときと違って封印も解けてて破門陰陽道らの守りもないのに)のは呪骨の入り込むところが既に塞がれていたから、ぐらいで考えるのも楽しいんでないかなとも思います。

創作ではそれぞれの目が見ているものはそれぞれ過去と未来とされてたりしますが、どっちの目がどっちかは文献によって、というか文化によって違うっぽいですね。参考にしたのはここらへん。一次ソース(論文など)まであさってなくてごめんね。

『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の謎解き 〜なぜスノークは左目を見せて死んでいくのか?〜【ネタバレ・考察】 - StarWalker’s diary

昭和日本のあやかしの話なので日本の伝承ベースで話すのがいいのかな。そう考えると水木の目に映らなくなったのは「太陽」なわけですね。
あえてどっちかに絞らなくても、南洋(だっけ?)の島にあったヒトの腐敗と裏切りの記憶が閉じ込められているんだなと考えるのも楽しいんじゃないかなと思います。
創作における「お約束」はそれが事実として正しいかどうかではなく「どのように流布しているか」だしね。アニメで嘘を吐いてるのの仄めかしで決まった方向に目を動かす演出入れるのとか。

水木が歩いてるときの足音が左右で違うのと、決まった方向に体がかくんと行くのとで片足も損なってるのかなと思って見てたんですが*1、ゲゲ郎の下駄音も左右で違うし水木は山道もゲゲ郎妻を抱えてもぴょんぴょこ動いてるので、足が悪いんでなく足音をそれっぽく聞かせる演出表現でしょう。
戦場から戻ってきたときの水木の負傷は左目の切り傷(たぶん)と左腕の骨折で、両脚は健在だったし。

脱線するんですが、水木は右目と右手と両足が生きているので銃のスコープを覗いて引き金をひく、ナイフだけ持たせて直進させる、兵隊としてはまだ“使える”んだなとおもいました。金カムを履修しているので。彼を心と生活のある個人として扱うなら影響が出るだろうけど、使うための駒として扱うなら支障はないんじゃないかな。
水木の特攻の記憶見たでしょ、あの特攻の目的達成には距離が測れずとも片腕使えずとも支障ないんだよ。生き残らせるための特攻ではなく、国を勝たせるためのものでさえないから。自分らが得するために戦争をして己は優れた使命がある選ばれた者だと勘違いしてるくそやろうの面子保持と、それに都合の悪いこと知ってる口を塞ぐために死ねと言われ、“従うことが正しい利口”と強要されてるだけなわけだ。

現代日本の社会風刺かな?と思って眺めてたら戻ってきた現代時空でソウダヨ!されたので*2アッ ヤッパリとなりました。それはまた別の話ですが。別の話しよっか。

別の話っていっても私の引き出しはキリスト教とふんわり世界の神話くらいなもんなので、あとは徒然した感想だけです。生物学が読み解きに使える物語ではなさそうだし。


演出がきめ細やかで楽しかったですつれづれ

斧を振り上げた水木のシルエット、命乞いカットが入る前から目標が髑髏だけを向いている

黄色背景に黒のシルエットで水木が斧を振り上げて→狙いを定める(斧と頭の角度が僅かに変わる)
⇒カットが切り替わりトキサダの命乞い台詞が入る
⇒再びカットが切り替わり、斧が振り下ろされる
⇒死の恐怖に目を瞑るトキサダを正面から映し、振り下ろされたものが髑髏だけを破壊する

これら一連の流れで、水木は最初のカットのときから髑髏だけを狙っているのが映ってるのすーごい細かいなと思いました。斧を振り上げた直後にトキサダに当たらないよう調整している。サヨちゃんの首につきつけたメスが震えていたのもだけど、水木は行動選択のなかに「他人を殺す」が入ってないんだよね。

主導権を握るための暴力を持ったとしても手段を破壊する以上のことをするのは勘違いの果てに性根から腐ったくずやろうか選択肢と希望を奪われ続けた弱者だけ、まっとうな大人は同種の命や尊厳を奪う選択肢は端から持たず、選べる範囲に入っても即座に外す。
地位権力社会的立場、生まれで得たそれらを暴力として使い良識を失ったくずやろうを交渉の座につかせるためには、そして交渉で決めたものを反故にさせないためには暴力が必要で。でも、まっとうな大人はその暴力を"それ"以上には使わない、使おうとも考えない。「ヴァグラント」*3でも思ったけど、社会風刺をやるときにきちんとここまで描写するの、誠実だなと思う。

よそ者は犠牲にして当然な村の人間どもや、その空気を嫌いつつ地位と権力の恩恵を自分と賛同者らでだけ愉しむことに染まりきった社長(名前わすれた)との違いがしっかり描かれてるのはっぴーだなと思いました。
サヨちゃんは……抗うことも逃げることも奪われた弱者は自分を潰して相手を潰す以外の選択を失う(いわゆる無敵の人)の典型じゃん……? トキサダの死と水木の訪問によって一旦は見せられた希望と夢が時麿によってまやかしだったと突きつけられたことで、あらゆる害意に殺して返す以外の道が見えなくなってしまったいきもの。害し返すほど削れていく(他の村の面々とは異なり、)けど彼女には他の選択肢はないんだよな。一度でも抵抗を止めれば己のすべてを無残に食い散らかされると心の底から理解ってしまっているので。

ときちゃんと庚子がいるのに夫が出てこないのなんでだろと思ってたらさいあく人間ブリーディングがなされてたからだったっぽいの流石にぅゎきもとなってしまった(ほめてる)よね。そんなところまで現代再現しなくてもと思いました。
これはたぶん知らないほうが幸せなやつですがまじでこれ現代日本の資産家間でやられる風習ですよ。どこで聞いたかは言わないんですが(そこに迷惑がかかるので)、私はこないだ50-60代のばーさんが自分の娘で人間ブリーディングした話をオトモダチとの肴にしてるところに出くわしてしまい、せっかくいいメシ食ってたのに気分が悪くなりました。

いま家系図*4みたらときちゃんは長田の息子らしくて沙代ちゃんとときちゃんはいとこ、(父と祖父が同じという)近交係数激ヤバさいあくブリーディングではなかった!よかった!と思いました。でもトキサダinときちゃんボディ、ときちゃんのことを「だから作った」言ってたよね?時貞→克典の関係も「信頼」になってるし、孝三は"三"なのに次男だし水木とゲゲ郎の関係も「哭倉村で出会う」になってるし、ねえこの相関図どこまで本当なの? 表向きであって事実は異なりますのやつなんですか?
ときちゃんボディで使ってた闇陰陽術は長田とおなじではあったけどさ、龍賀家が代々「呪骨の封印」をやってきたことと魂換えの外法を為し遂げた「稀代の呪術師(時貞の自称)」ことを鑑みると同じ術を使うことが長田幻治と血のつながりがある保証にはならないしさ。というか成り立ちを聞く感じ長田家と龍賀家は定期的に血の交わりあった感じがするよね。

ゲゲ郎が水木に着せてくれた黄色いちゃんちゃんこが、駆ける水木のカットではゲゲ郎妻に着せられている

「呪骨にやられても記憶を失うことはない」と着せられたゲゲ郎のちゃんちゃんこを水木はゲゲ郎妻に着せてやった。待ちわびた夫のことを、救われた自分の隣に彼がいない理由を彼女が忘れてしまわないように。もうすぐに死んでしまうだろう*5ことは察していただろうに。
幽霊族が同朋を(あるいは子を)想う守をこれから生まれる子とその母に譲って、だから目覚めた水木は村であったこともゲゲ郎のことも記憶の霧の向こう側にやってしまっている。
水木の人柄が出ていてめちゃくちゃいいハナシだなって……。それでいて目覚めた水木は失ってしまった記憶が大切な(はずの)ものだったことはちゃんと覚えているんですよ。
ラストの墓場鬼太郎シーン、一抹の救いって感じでよかったですね。いや何を失ったのかも失って大きな喪失感のみ抱えて日常に回帰した水木の時点でもこの世と隔絶された異界からの生還というある種の救いではあったんだけどさ……。
鬼太郎を見つけたこととゲゲ郎の面影が蘇ったこととで(最善を選んだ結果である)トゥルーエンドから(それが主体にもわかる報いの形をとる)ベストエンドになったっていうか……。

咆哮を聞いてるときの乙米を庇う長田が完全両想いのそれじゃん

庇う長田はまだ自分の身で当主を庇う忠義とも取れるが庇われている乙米が長田の胸元に頭を預け軽く両手を触れて身をゆだねる先にしているのアウトでしょと思いませんでした?
不倫か?と思っていたら長田から最期の最期に口にしてはならなかった恋心が出てきたのでテンションが上がってしまいました。平成によく見たCV.石田彰キャラ*6みたいな男から出てくる隠し続けていた本心からしか摂取できない味があるので……。
長田幻治、彼単独なら沙代ちゃん呪骨とも打ち合えてた(攻め込めはしなくとも守りはできていた)のに乙米を守ろうとして隙ができ、そこで致命傷を負ったのもエモだよ。

*1:柳田國男「一眼一足の怪」「一目小僧その他」などあるらしいので、興味ある人はそれ読んでみるといいと思います。

*2:ゲゲ郎、時ちゃん呪骨に『おれら一人一人がきちんとしていけば蔓延るくそやろうを追い出して日本を善く変えられると言ったけど、ごめんな今もあれと同じことになっているよ』(意訳)みたいなこと言ってませんでした?

*3:ポルノグラフィティの方が作曲作詞したミュージカル

*4:「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」公式HPより https://www.kitaro-tanjo.com/news/info/168/

*5:鬼太郎が墓から生まれたのはつまり、ゲゲ郎母は死んでしまったってことなんでは。ヒトより先に地球にいたなら墓から生まれる習性ではあるまい

*6:笑顔という名の鎧で本音を隠した得体の知れない男@呪力・魔力系バトルが強いが肉弾戦殴り合いはあんまりしない