つまるところ。

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ラビット・ホール感想

 観るたびに印象が変わるって目撃したので今のうちに書いとこうかなって思って。2周目以降で1幕の印象は変わりそうだなーと思う。2/26S回です。
 タコピー*1なる単語が頻出しますが気にしないで大丈夫です。あと(私に)ハッピーエンド読解適性がなくてハウイーに拗らせてるんですがイジーが最も好きです。イジーかわいくていい子だよイジー
 今回終始こういうテンションなので育った沼のスラングが漏れてたらごめんね。

個人の感想でありこれ以上でもそれ以下でもありません。私の感じたものは私にとっての解であって、あなたの感じたものがあなただけの真実です。なおいろいろうろ覚えだし文章力と脈略はしんだ。いつもか。


 1幕終了時点と2幕でする味がぐるっと変わる。どっちも引き込まれるしテーマとかはたぶん同じなんだけど、印象が大きく変わるのも1人(ナット)だけだったんだけど(私はね)、テンポ?勾配差?なんかこう……エアポケットは消滅しましたというか……。2幕、そこここに独特の静謐さがあったと思う。同調でも共感でもなく、ただそこにあるものに手を添えるような。それを受容というのかな。
すごくアレな言い方をすると1幕で「ヒュー!!空気最悪険悪人間関係ーーー!!!誰も彼も(イジーを除く)悪意もなしに逆鱗毟りにいくじゃん……」*2ぐらいに思ってたんですが、2幕でそのバキバキに割れた人間と関係がじわーっとなだらかになっている(なってるしなってく)ような。板チョコ割って湯煎ナベ入れると縁が溶けて滑らかになってくじゃないですか。あんな。……いやイジーとハウリー間は荒れるんだけどあの二人は基本的に感情表現の自律きっちりしてるから……。*3
 前半と後半でぐるっと変わったの、私が観た中だと他にほねじゅう*4くらいしか知らないんだけど、そういえばな感じで雰囲気近しいのがあったなーと思うなど。幕が閉じた先が明るいか暗いかわからないけど、それでも、信じて進み続けるしかないのだみたいな。当時はテイヤールが見ている先に震え上がったんですが*5あれはたぶん本来そういう話だと思う。己が信じるものを離さず歩き続けるしかないのだという話。


 ラストの話を先にすべきでは? と過去の経験が囁いたのでラストの話をします。たぶん。
と言ってもベッカについてはあんまり言うことないんですけども。ふせったでも喋り散らしたようにベッカの物語なので。私はこれをベッカから見た世界のベッカの物語だと認識しています。ダニーが死んだときから止まっていたベッカの時が進み始めた話。閉じていた彼女の心に小さな空気穴をあけて、そこから風が吹き込んだ。
 ハウイーにも「変えなきゃ」言われてましたが1幕のベッカは自分と違う考え方とのすり合わせがすごく下手になってて(引いたり角を丸めたりができるほど心にあそびの部分がなくなってるんだと思う)、硬直した感じがあるじゃないですか。イジーだってナットだってハウイーだってベッカによくしようと気遣ってくれているけど、硬直していたベッカの時間を動かすものにはならなくて、ジェイソン少年の子どもっぽい、ある種無神経な寄り添い方*6が、そのときのベッカには必要なものだったんだよな、と思う。必要なっていうか良いように響くというか……。
ジェイソンの手紙が来てから以降、イジーのぐーぱんやらジェイソンの睡眠薬を飲ませるやら、ベッカの言葉や行動に他の人が見せてたものが彼女にちょっとずつ取り込まれてるのが見えてきて、彼女の時間が動き出したんだなと思って眺めてた。だから彼女は大丈夫、ながい時間がかかるしアップダウンもあるだろうけれど、石が水で丸くなるように大丈夫になっていくだろうなと思っている。
 ところでですが、ベッカの物語だからジェイソンは(劇中ハウリーに思い切り当たられてるけど)おおむね無害で素朴なひとりの男の子としてそこにいるんだよなと思った。ただの内気なハイスクールの男の子。ハウイー視点の話だったらたぶん、ジェイソンはもう少し他人を苛立させる無神経な存在に見えたと思う。

 ラストの話をするのでハウイーの話もしたいんですけど。観劇直後はねえこれこのオチでハウイーは大丈夫なの? 逆転するだけにならない? 鎖は一番弱いところから切れるんだよ? と思っていたんですが、数日たって彼も大丈夫なんだろうなと思いました。ベッカに「きついよ」が言えていたので。いや台詞はうろ覚えですがなんかそんなこと言ってたはず。誰も見てない(と彼は思っている)ところでしかダニーを喪った悲しみを直視できなかった人がそれを分かち合うことができるようになったのなら、紆余曲折や揺り戻しもあるんだろうけど大丈夫になってくんだろうなと。
 ハウイーの立ち位置というか、彼がダニーの死とどういう距離でいるとベッカやイジーが見做しているのかよくわかってないんですが。夜中にひとりでダニーの動画を見てああいう泣き方する人が、ダニーの死と向き合って立ち直ってきている状態とは私にはあんまり思えないんだよな……。箱に仕舞って蓋して大丈夫なフリをするのは上手だけど、彼は彼で前に進んでいないように見える。仕事や付き合いの上で見せないようにしなくちゃいけないからしてるだけで誰にも触られないところに押し込めてるだけ、(ベッカに気を遣っているのもあるんだろうけど)一人きりのところでしか蓋を取れない。
ラビットホールがベッカの物語だからそう見えるだけでハウイーは彼の兄や家族には話せているのかもしれないけど、家の公開1回目でダニーの部屋にイジーがああいう触れ方したあたり、イジーやナットの前では話してないんじゃないかって思うんだよなーどうかなー。(わたしはイジーへの信頼値が高いので怒ってる相手に対してでも最もデリケートなところを予備動作なしで踏み荒らしはしないのではと思っている 色眼鏡と言われればとてもそう。)

 ベッカ第一印象、思ってたより生命力があってびっくりした。なんかこう……頭はよくて察しも良いのにどこか足のついてないというか、世間に投げ込むと神経衰弱してしにそうというか、そういう江國香織作品の女*7のイメージが勝手にあって……。いやどっちかというと真逆の女だった。映画版の「私の中のあなた」*8のサラもこういう感じのバイタリティ高そうな女性だったし、アメリカご家庭の標準的な女性像ってあのくらいの感じなのかな。タコピー履修中のせいで自然派*9……って頭をよぎったんだけどたぶんそういう演出ではない。舞台アメリカだし。

 ハウイーについてはだいたいツイッタで喋り倒してるから一旦いいか。感情コントロールがかなりしっかりしてる彼がベッカの前では時折ちょっと子どもっぽくなるんだなって思ってたらその感情だだ漏れの声で「タズを返してほしい」って訴えるのを聞いたときにあっ……と軽率に(私の)情緒がやられました。「あのときもそうだった」はタコピー履修時の頻用定理なので(違う。)ジェイソンに対しては崩れかけた後がっちがちに固めて威圧するから感情をそのまま出すのはベッカに対しての信頼というか覚悟というかもあるんじゃないかなって思ってる。
 同じく感情コントロールがしっかりしてるイジーは夫婦の家に来てるとき自分の感情より夫婦への気遣いを優先する大人なので崩れきることなかったなーと思ってる。イジー、パブで会った酔っ払い女には一発KOぐーぱんしてるからある程度大事にしたい人にしかその対応しないのかもしれない。またそういうところが「子ども」と思われるとこなんだろうけども。社会にどう見られているかへの頓着が薄い。
 ジェイソンくん1幕も2幕もめっちゃ高校生の男の子って感じで好き。手紙書かせるとちょっと棒読みぎみ(語彙群も)になるとことか「ははっ」のうっすら自分を雑に扱ってるようなやっぱり棒な読み方とか、大人に本気でNOを向けられるとかわいそうなくらい萎縮するところとかベッカと話してるときの彼なりに一生懸命な、でも未熟で不器用な寄り添い方とか。
ジェイソンくん高校生なの1幕で知ってフレンズや先生となんか摩擦おきてたりしないかちょっと心配したけど、2幕でそんなことなさそうだったので優しい世界だなって思いました。

ナット、ナットなあ……後でもいい? いや別に嫌いというわけではな……ええとなくはなくはないくらいのアレというかあのその、親が子どもを愛していることと親の行為が子どもを傷つけていることは全く独立した事実たりうるというのをですね、タコピーでならったのもあって、嫌いとか受け付けないとかまではいかないんだけど弊ママが割と1幕ナットみたいな言動の人間なのでまだちょっと言語化する準備ができてないっていうか。ふせったと鍵アカに投げたので今は留めたいですというか。でもタコピー履修してなかったら拒絶反応なくなるまでにあと5周くらい必要だったと思う。*10
作中の立ち位置とか諸々ぜんぶ置いておいてベッカとナットめちゃくちゃそっくりですねと思ってる。性質がね。あと2幕の(1幕が)嘘みたいな受容と傾聴の高さ、な、何事……⁉︎とした。動機と目的が同じなのはわかるんだけど(ベッカのことを案じている、彼女のためにできることをしてやりたい)、1幕の全力空回り逆効果から2ヶ月でいったい何が。

*1:作品名「タコピーの原罪」、大好きな女の子を笑顔にしたいタコピーが頑張るハートフルボッコストーリー。不穏な情報提示が最悪の伏線として回収されるジェットコースター。出てくる親が悉くアレだがめちゃくちゃ漫画がうまいためするする飲めてしまう地獄のドリンクサプリ。全人類に読んでほしいが1話2話で無理だったらすっぱり読むのをやめよう。

*2:状況最悪になるほど喜んででもないとタコピーの履修やってけないので……

*3:ハウイー→ジェイソンが荒れてるのはそうだけどこの二人のファーストアタックが2幕なだけで通して見るとなだらかになってってる。と思う。

*4:作品名「骨と十字架」、カトリックと進化論と祈りの話。2つの手で何を掴むか、それとも、みたいな。ちなみにハコのスタッフやてきとーライターがBLだクソデカ感情だ流言飛語して公式タグが2回ほど燃えた。

*5:カトリックの神父が信じる神への十字架を必要としない祈り、こわい。

*6:亡くなったダニーと小さかった頃の自分の共通点を見つけて、今の自分が好きなものを「きっと好きになったと思う」と差し出すの、ベッカにはなんかすごくこう”よい”ように響いたけど人によっては怒髪天を衝く勢いでキレると思う。

*7:冷静と情熱のあいだ』とか、『スイートリトルライズ』とか。

*8:小説版はもう3段階くらい強固な女(ほめてる)だった、映画や舞台は多くて道1.5本のところ、小説は複数人の物語が同時に進むので

*9:意味が分からない人は「まりなちゃんママ 自然派」でTL検索して。いやしないで。

*10:ブルオレでロバートにも色々あるんだよなって印象「憎めない人」になるまでそのくらいかかったので