つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

アナスタシア10/7S回感想

東京楽です。キャストは木下・相葉・田代・石川・マルシア(すべて敬称略)

私はリリーのことをリリィと呼びますがこれはオタクの個人的な事情によるものなのであんまり気にしないでください。間違えて覚えてるわけではないです。
あとあの、私はよく人物や所作の印象のたとえを動物にするんですけどこれはあの純度100%の称賛の感情で、っていうか最近気がついたんですよもしや世の中のヒューマンって全アニマルに無条件手放しの好意を持っているわけではないのではって……私はヒトよりアニマルのほうが生き物としてはよっぽど高尚だとまで思ってるだけで……演目違う話だけどある『彼』の『私』をハグする様を蜘蛛のようというのも好きなシーンに本気で送っている賛辞でぇ……。


「オルゴールよりお祈り」が必要な「難しい」時期なのに毎日のように音楽と踊りに明け暮れているロマノフ王朝貴族、「何一つ返さなかった」だろうなの質感が大変強くてやっぱり滅んで然るべきだよ。革命は起こるべくして起きたよ。
ここではナナと対立……ってほどじゃなくても思想の違いとかがありそうなのに、能天気なニッキーの言い分には憮然とした顔ながらも「その通りよニッキー」って言うの、状況が多少見えてはいるんだなと思っていたんですよ。違うな?ナナが無言で少し振り向いて彼女を促してるから同調するようなこと言ってるんだな?
踊りも音楽ももう沢山、と思っているのはナナだけ、今はロシアを出てフランスに行くような事態と(実感を持って)思っているのもナナだけなんだ?
憮然としてるママも可愛い娘の無邪気を見てると蕩けるように慈母の笑みを浮かべるから「私にとってはママよ!」を思い出してしまいました。
ここの少女アナスタシアちゃんがパパのキスを待つ仕草がいっぱい好きなんですよ、彼女が誰なのかも知らないけど……。でも伸びやかに踊りくるくると表情が変わりそのどれもが無邪気な明るさを漂わせているの好きだよ。無垢で可愛い幸せだけの世界に生きている、自分が何を虐げてそれを得ているか知りもしないロマノフ皇女(好きだよ!)
アレクセイ坊やと並んでお写真撮ってるときの、一枚撮るごとに坊やが彼女を見るのをにこにこして話しあやしているの、きょうだい仲がいいなの気持ちとちいさきものが愛しまれている現場はいい現場だよの感傷にあふれる

1幕2場で低い声のパートがあり缶詰とオルゴールを交換する男、レオポルト伯爵の中の人では!?ずっと探してたんだ!やったぜ!ところでお名前はなんですか!おれに生で見た人の顔とパンフ写真の照合を求めないでくれ、無理です
→教えてもらいました!村井成仁さん!グレブの上官デュエット担当でもあるらしいですね。歌と台詞のみ登場の(物語上で)そこそこ目立つ人物の声にアンサンブルさんの歌上手い人をあてる、アナスタシア制作陣仕事ができすぎてて惚れてしまう。そうだよそういうのを求めていたんだよ、実力あるのに(主催にとっての)宣材経歴がないからメインに行きにくい人が着目される機会になる配役が素晴らしすぎる。
あと殺される伯爵の中の人も知りたいです、多分ロシア皇帝ニッキーと同じ人だよね?
→イポリトフ伯爵やニッキーの中の人教えてもらいました!武藤寛さん!哀切を帯びて伸びる声がとても好き、あのやわらかく広がる音の感じで小さい秋とか歌ってほしい(私はミュージカル俳優や二期会の方々にみんなのうたオムニバスを出してほしいと言い続けているマンです)

勝ち気で抜け目のない相葉ディマ、生きようと思えば1人でもちゃんと前見て生きていけそうだから観ていて妙に安心感があります。「ディミトリおまえもかー!」の石川ヴラドの嘆きが悪友がまた悪い賭けをし出したそれに見えて笑っちゃった。この2人が組んだときが一番対等感が強いなと思う。普段からどこかお父さん役なヴラドとその他人よりちょっと個人のところに踏み込んだ干渉をゆるしてるディマの組み合わせも可愛いですけれども。

上級貴族のお辞儀をするときの木下アーニャ、どこか遠くを観た虚ろな、輪郭のうすい不安そうな目をしていて好きなんですよね。夢で見るパリを話すときの情動の強い泣きそうな笑顔との落差がさ。

そんなアーニャを値踏みするようにじっと、下から覗いて観察している相葉ディマが、ヴラドの出したアナスタシアの写真と彼女を見比べて以降は同じような目ででも今後は口元に企みの笑みを浮かべているんだよ。話しかけるときのよぅし仲間だみたいな雰囲気、利用価値で態度が変わるロシアの抜け目ないねずみ。

田代グレブ、民衆がレニングラードを称える文句(好きな色は赤!)言い出すとこれ見よがしに目をきろりとやって見せため息ついて見せで背中向けるの可愛いよね。ぜんぜん信じてないじゃん 口先だけだと思ってるでしょ

「好きな色は赤!」の統制された「新しい」街をアナスタシアの青い布が一瞬ばっと舞うんだ!?街を漂う噂話!?


「私の父は警備兵だった」あたりからもう目が潤み始めてるの、ねえグレブくんそれ思い出したい記憶?
俯き加減で上目がちに彼の様子を窺う木下アーニャ、グレブが振り向くと視線を離すんだけどそれは、まあ、そうよね……があった。
「(それよりも覚えているのは)その後の、静寂だ」の台詞、語気が強い初日も最近観た静かなも田代グレブの言うそれにはずっと脅しのニュアンスを見ていたんですが、なんか……潤んだいやに静かな眼でここでない遠くを見つめている(確かに焦点が合っているように見えるんだよ)それ、もしかしてそれ君のトラウマだったりしませんか……?まだ幼く善悪も満足にわからないだろう、けれど目の奥に強い意志の光をみた子どもまでが撃ち殺された赤い記憶がその後(その日のことを)死ぬまで後悔していたと母が語る父の記憶と強烈に紐づいてしまったやつでは……?

虐殺の記憶と残った静寂を糸を繰るように語りながらさっきまで泣きそうに目を揺らしていた男が、まっすぐ背を伸ばしてそれを仕舞ってでもまだ濡れてる赤い目で自分に向き直ったらアーニャちゃんそら逆らえねえよ。自分の処遇を握ってる相手にそこでノーを言うのはこわすぎるしそうでなくても人情がない行いだわよ。アーニャちゃんはナンパされて逃げた後に「でも、ありがとう」が言えるいい子なんだぞ

グレブに促されて声を出し始めたものの「ロマノフは」まで口を動かすけどそこから先(死に絶えた)は口をつぐんでしまうアーニャちゃん、好き。アナスタシアである自分を覚えていないはずなのにね。

「流れるネヴァ川〜」のメロディ、グレブに割り当てられたフレーズっていうより今のロシア人民たちが話す「あの日」の概念なのかな。「革命に感情はいらない」はグレブのそれっぽいけど。上官に刷り込まれて……はないのかな、指令出すとき上官どのは「楽しめばいい」みたいなこと言ってたし……。

相葉ディマ、3ディマの中で一番喧嘩が強そう。なんかこう、動きのキレと落とした重心の安定具合が。

路地裏ナンバー、聞いてる木下アーニャがディマがしてやったときの話になると嬉しそうに痛快そうに笑みが浮かぶのかわいいでは?
この曲さっきのデュエットとの対比がさ、いいよね。グレブの過去の話には怯えと萎縮を見せるばかりだったアーニャが、ディマの過去の語りには共感して楽しんでいる。
「許せない町だ」で木下アーニャの表情が曇り、次のフレーズでまた笑顔を取り戻すの好き。父が教えてくれた美しいことや楽しみ方があるからこの町が好きなんだと話すディマは、父から受け取ったものを自分の(よい)糧にして生きているんだな。

この言い方をするとグレブが父から受け取ったものがそうでないみたいに聞こえて私に刺さるからこの話やめよう。でもまあ中身に響いたものって意味ならあまり良いものではないよね。父にそれをした功績があったから単なる警備兵の子のグレブが副総監まで上った(そうなれる道があった)のだろうから、悪いものばかりではないのだけれども。

木下さん黒目の中心ラインの下に銀雪色のラメ?マスカラ?乗っけてる? 特定の角度だか目の開き方でそのお化粧がライトを受けて、まるで涙を浮かべているように見えるんだ 天才
オルゴールを開けての記憶を辿る歌、ライトを正面から受けて下のラメの反射も入って、潤んだ眼にあの日の光溢れる宮殿(とオルゴール)が映っているように見えるんだよな。


グレブが見開いたときの目の色がライト直撃してると鼠灰色や木肌色に見える(見定めているのでないから夢のパリを語るアーニャ同様にまなこの輪郭が薄いのもあると思う)の、よっぽど明るいんだなこの劇場。3階まで演者の表情届けなきゃだもんね、アナスタシア照明のそういうとこ好きだよ
それはそれとして指令が下っての後半ずっと目を見開いたまま迷っているのを見ると可哀想だねの気持ちが。上官の「引き金をひく」を聞きながら視線がつーっと下りていって(たぶん顎を引いている)、腑に落とすように「それだけだ」と言い聞かせる
このフレーズどのグレブも自分に言い聞かせるような仕草するイメージがある。海宝グレブは違ったかもしれないが、なにぶん遠いのでわからん。

やると決めたことと今の自分とでの葛藤(あるいは思い迷い)が歌唱フレーズありで設けられてるのを見ると、あっグレブくんもメイン人物なんだなって思う(アーニャ、ディミトリ、ヴラドはきっちり設けられているよね)(ナナはまた別格なので……)

上司とグレブの掛け合いのとこ聴くと「勇壮」の二文字が浮かぶんだけど、それが曲の雰囲気なのか上官の声によるのか音の区切りや発声によるものなのか、どうなんだろう


ところでどこだっけ、場面転換のときにずいぶん明るめな響きで「流れるネヴァ川 また春が来るーー」のフレーズが流れるの、すごく綺麗で好きなんだけど冷静に考えると鬼では!?なんか2幕で割と色の明るいシーンだった記憶があるんだけど別のとこと混同してる?
いやあのね、すごく綺麗なんだけどでも「ロマノフは死に絶えた」まできっちり主旋律でなぞってその後をそれから〜みたいなしゃらららーっとした音で次のシーンに繋げていくの鬼では?そのしゃらららなに!?川の音なの?ググったら川幅やべー広かったからたぶん違うんだけど。しゃらしゃら流れるのは島国日本の小川だけだよ。

 

列車の中のナンバー、怖くて不安で震えているけどディマとヴラドを見ていると俯いて肩を丸めているところから負けん気で前を向ける木下アーニャ、“““良”””だな…………。

加齢による衰えに悩むも新たな魅力もあると前向きになる石川ヴラド、こんなにコロコロ声色変えて動きも(声の)表情もちょけてるのにメロディの音符はいっこも外さず声劇としてもお歌としても人物の演技としても楽しいまま歌って動いてのけてしまうのぶっちぎりすぎる すっげえ……しか出てこない

銃声に悲鳴を上げて頭を抱える木下アーニャの手が小さく震えているの観ました!?おれは見ました。

金がないんだなとお察しができるので公演期間には言わなかったんだけど、ヴラドが広げる手配書の顔写真が誰やおまえみたいな西洋白人3ショットなのはわたくし強めに不服があります THE39STEPSやLNDのキャストの顔で作ってる新聞(客には見える小道具だが、そこを見せるための角度では提示されないのに)を覚えているので真正面から見せるために作ってる小道具なのに顔(ヒトの認知が通常最も高いパーツですよ)で手を抜いてしまうのかーのがっかり感と、アナスタシアの写真を小道具で使うんだから手配書のほうもそういう古写真っぽい加工して出せば別人写真でも“当時のそれ”っぽく見えるじゃんこの技術班なら作れるでしょの期待をしてしまうのと。次の再演では待ってますね。

 

私はナナの幸せと歓びにうっとりしながら訊ねた「あなたの彼はどこ?」からの、目をぱちくりさせて言う「彼があなたを愛していると気付いてないの?」の声と顔がめちゃくちゃめちゃくちゃ好き。
恋と愛のなんたるかをまだわかっていないちっちゃな可愛いおんなのこみたいに、でももうそういう物を知る年頃の少女として扱うあれ。あなたの可愛い宝物、でももう別れのときの何にもわからない童女ではない孫娘。

ナナの「私たちはいつも一緒よ」に迷わず小さく頷く木下アーニャ、良さがすぎる

石川ヴラド-マルシアリリィの再会ソング、この組み合わせ一番ロマンチックじゃない?いやわからないんですけど、私は恋愛ごとの物語への感受性がしんでるので……(濱めぐさんや柚希さんが全力で愛の女をやってるのを観てなにもわかんなきゃもうわかんないんだよそれは)でもなんか私でもわかる味がするんだけどこのロマンス……周りに誰もいないと思ってる2人の恋愛模様を覗き込んでる味がする……。
年経ているのと艶のある誘いなのとヴラドのことまだそういう意味で好きなんじゃんが全部すごくよくわかるマルシアリリィと、歳を重ねて昔の輝きはないのを気にしてる風なリリィにそんな君も愛おしいよ愛してるよと本心ひゃくぱーせんとで全力全開の愛情口説きをする石川ヴラド、そういう関係になってた(そして再びなる気がある)とこまで互いにわかっている私的な交歓を覗いているようで胸がむずむずするようなこれ見ていいやつなの!?(楽しいです)がありました。
わかった、世の中のヒューマンが芸能人の私的な恋愛ゴシップを貪りたがるの、このむずむずするような心拍上昇がクセになるんだな……?なんか宇宙人みたいなこと言ってるなわたし

ヴラドはパリへ向かう列車の中で、歳を取った自分はまだ魅力的なのだろうか、いや失った魅力もあるが新しい素敵なところも持っているし、とその葛藤を解消しているんだよな。だからリリィが同じことで躊躇い迷ってても今の君も素敵だようと衒いなく言い切り愛全開で支えにいける。


ヴラドとリリィから顔そっぽ向けて「(過去の)絶頂期を」を心底軽蔑した声で吐き捨てるグレブくんにテンション最高潮に上がってしまうって話した?したかも。
好きなんですよね、このひと革命前の露国でなーんも考えず富や栄光を自分の財産として貪っていたやつらのこと本当に嫌いなんだなって感じがして……。
(噛み付く相手がいないから)壁に身を預けながらの独り言の静かさでしかし全身から嫌忌の滲み出てるあのフレーズ、見ても聞いてもああうんきみ本当にゆるせないんだね彼らという存在のこと……となるよ。彼生来の潔癖というより呪縛による思想の視野狭窄が大きい気はするけど。彼らロマノフ貴族がそうでなかったら彼の父親が成したことは大義を失い、父のした仕事はまだどうにでもなれたはずの子どもまで無慈悲に射殺したひとごろしになってしまうので。


「愚かな嘘……」と歌い出す声がたわんで泣きそうな揺れ方してるところからはじまるグレブとアナスタシアの対峙、この時点でもう勝負がついてしまっているんだよな。最後の扉の鍵を閉めてアーニャを確保するまでは動揺が隠れて冷静を保ったままなの、グレブくん仕事はできるんだろうな……の感があります。振り向いたときにはもう哀れになるほど動揺と憔悴が顔に出ている。
この場面、グレブは憔悴した哀れっぽい表情でほとんど懇願の勢いなのに、アナスタシアは上級貴族(上級も何もその国のTop of topだ)の冷静さで彼をまっすぐ見たままちらとも揺れてくれないんだよね。警視副総監(登場したときはそのひとつ下っぽい)をしてるときは芯の揺れずぴんと背筋の伸びた人物だから、背筋が丸まり(たぶん腰も落ちてる)肩が前に入ってるこのときの姿勢がよほど脆くて弱っているように見える。一言にすると“泣きそう”です。さっきも言いましたが。

グレブの軍装って1度目(もしかすると2度目も)と3度目以降で勲章の数やバッジの色が変わっていて、時間が経ったんだなというのとグレブくん順調に出世してるんだなと思いました。最初に見たときは黒い地色に象牙色で数字の3が印してあるバッジで、後の衣装は赤い地色に金色で左上を向いた弓と矢?鉾?が描いてあるんだよ。あのほら……どっかの赤い国の国旗にあるあの模様……わたしの社会科力が低すぎてどの国か思い出せないけど……。


田代グレブ、白鳥の湖公演中にプログラムで顔を隠すタイミングってもしかしてディミトリの動きに反応してだったりする?アーニャとディマとのどちらかが腰浮かしたり大きく動いたりするタイミングっぽいんだけど。
しかしヴラドとリリィが頭から終わりまで満喫しまくっていて、君らwと思いました。いや君らはそれでいいんだけどさ、過去の遺産を食いながら死ぬまで享楽的に生きられるだろうし。ヴラド、初日は好色(芸術をあんまりよくわかってないで女の子が出てくるとほほほと喜んでいる)に見えてあの情熱で口説いたリリィの前で!?だったんだけどちょっと離れめで見た今はなんかあれだね、すごいもの観るときゃっきゃできる幸せな人なんだなと。
太后サマにお目見えする機会はこの後のつもりでいるんだもんな、ヴラド。そのナナは上演中に彼女を見て希望を持って失うとこまですませてしまっているんだけどな。

言おう言おうと思っていて言えてないこの場面のナナの好きなところ、何かに気がついてオペラグラスでボックス席の向こうを食い入るように見つめ、グラスを下ろして大きな失望を浮かべた後はもう舞台にも目をやらずに沈んでいるところ。回によってはちらっと視線は向けることもあるけど、肩を落として頭も俯き明らかな消沈をしている。隣のレオポルトはもちろん反対隣のリリィも気づいていない。レオポルトはともかくリリィは気づこうぜ。でもマルシアリリィは無理そうだな。皇太后への忠誠と思いやりと愛情はあるけどなんか鈍そうな……いやこれはリリィが鈍い人間っていうのではなくて(無論のこと演者がでもなくて)、でも皇太后の気持ちを汲むのが上手ってわけじゃなさそうな人だったよ。

太后宛の手紙を読み上げてナナが苛立ったときの陛下がそのように思われるなんて全く思いもよりませんでしたな反応だったり、手紙を破いたときのまさかそんなことをみたいなやや怯え気味のどうしよう感だったり、「ランプをお付けしますね」の丸まった声だったり。マルシアリリィ、何がナナの琴線で何が逆鱗(というほどでもない苛立ちの線)なのかを把握してないんだな、という鈍さがあった。ナナは付き合いの長い彼女にある種友人めいてさえいる気安さや開示をするのに。でもナーシャが問答で「(お気に入りの側近は)いなかった」「あなたはすぐにクビにしてた」って言ってたもんな。

演目1ミリも観てない、序盤で男性が大きく下手に飛び出す登場のときだけちらっと目が追ったかなどうかなぐらいに観てないグレブが終演時の周りの拍手の音にびくりとして音の出どころへちょっときょろっとしてから自分も手を動かすの、ほんとに気もそぞろだったんだねとなりました。
向こうのボックス席でわくわくした驚きを浮かべたディマが腰を軽く浮かせて(すごい技が出たっぽい)それにアーニャが笑ってつきあいをしてる、その動きで慌てた顔してパンフを陰にし隠れるの笑っててなんかごめん、まじでそんだけ心の余裕なかったんだね。
思えばこのときからもう、アーニャを見てるとき(と、歌唱。)以外は背中丸まってたな。そのアーニャを見ているときもたぶんに任務だからが半分、それ以外の情緒的なものが半分くらいのように見えたけどこれは角度的なものかもしれない。切ないような、でもあれもしその感情だとしたら恋心の段階より彼女を殺さなければならないことへの葛藤だよな……。
ここでのアーニャは笑顔でしかしゆったりと余裕を持って演目を眺めながら、たぶんこういうのが初めてなんだろうディマが驚いたり喜んだりすると一緒にこちょこちょと話してやる。こういう場にも演目にも慣れた、上等なしつけを受けてきた娘ごなんだな……のオーラが。

白鳥の湖といえばさ、ロビーにナナが入ってきたとき皆が頭を下げてお辞儀をするじゃん。ほとんど皆が顔を伏せて目は閉じるか伏せるかで下を向き続けているのにレオポルトだけすぐに顔をやや戻して目を上げて、皇太后を観察し続けているんだよ。今や滅んだ王朝の、形ばかりとなった国長への経緯を持ち合わせてない。過去の遺産を食いつぶしている(ような)のは彼も同じはずなのにね。動かそうとしているのかもしれんけどそこはよくわからん、そこまで深く語られる人物ではないですしね。


「ネヴァクラブ」の由来に東京楽でやっと気づきまして(NeverClubだと思ってた)名前も中身も余すとこなくグレブの癇癪どころ触りにいってて笑っちゃった。
・厳しい冬のロシアを捨てて春の長いパリへ逃げ、
・人民の搾取により成っていた「過去の栄光」をなつかしみ過去の国へと杯をかかげる
・のにネヴァ川に肖った名前がついている
役満だよ。だからあんなに気ぃ立ってるの?
フロントマンに噛み付くとき顎上がってるの喧嘩売る犬みたいで微笑ましいが。

執務室からアーニャを解放しての暗転後、電話を掴んで急ぎ何処かへ掛けてるグレブは事態を進めようとしてるのか止めようとしてるのかどっちなんだろうね。受話器を持ち上げる時間も惜しんで(るのか周りに聞かせたくないのか)身を屈めて通話口に口を持ってくようにしてるのでよっぽど急いでるんだなあと思う。

ロマノフ滅亡に消えたと思われたアナスタシアが今を(そして未来を)生きるから、後悔や傷を遺した『あの日』の過去に縛られたナナやグレブの心をほどくのか!?だから2人とも過去と今だけでなく未来に目を向けるようになり(ナナもだけどグレブも「長い人生を」まで『この先』の話をしないよね)それを自由に生きんとするアーニャを晴れやかに見送るの!?何が待ち受けるかわからないけれどより良く幸せであれと?祈りじゃんそれは(オタクすぐ誇大する)
うーん考えすぎかもしれないけど、でもそうならアナスタシアとの対峙がナナよりグレブが後でなきゃいけないのわかるんだよな。ナナと別れた日の思い出を(「別の誰か」でない)自分のものとして取り戻し、「私は誰なの」「あなたは何者なの」に答えを出した皇女アナスタシアでなければ場が成らないもんな。
(本当にアナスタシアだったのか、の躊躇いへ逃げる余地のない)今や人民に害をなさない皇女をその過去だけで殺せるのかって決断を突きつけられなきゃいけないわけで。もともと触るのも痛いらしかった傷を容赦なく抉られて最後は泣いてしまってましたが……。

田代グレブのこと、指導者や司令官(ではないが)としてはやっぱりそこまで好きにはなれないんだけど(己が立ってるものを見てないの滑稽で可愛いなとは思う)、1幕後半から2幕にかけての怒涛のなぐられっぷりですっかり、そ、そこまでしてやらなくても……かわいそうだよ……の同情でまあ憎みきれない人だよに落ち着いてしまう。なんだろうこの感じ*1知ってる気がする。
苛烈残酷のロシア貴族(これは単なる私の歴史イメージなので一般評と違ってたら本当すみません。イヴァン雷帝とソフィア皇女のイメージが強くて。)に傷があるとこ無用心に見せちゃったらまあ抉りにかかられるわよではある。


四重唱でディマとグレブが声を重ねるのがオルゴールの音楽、銀の雪を抱いて、のあのフレーズなの、あの日の記憶を分かち合ったディマだけでなくグレブもこの時点でアーニャ=アナスタシアを信じているのかね。いやそらまあ曲の都合かもだけど(4人が声揃えられそうな既出ナンバー*2他にないし)、提示されたものを好きに摘んで好みの画をつくるのが私のあそび方なので……。


このときのアーニャのドレスがかつての皇女アナスタシアのアイコンを連想させる青色ベースなのお衣装担当が神だなと思うしヴラドとディミトリが良い仕事をしてるんだよな。従姉妹ちゃんだか親族ちゃんだかがピンクリボンなところナーシャだけ青だから、この話における青はナーシャのアイコンだと思って見ています。オルゴールの差し色も深い青だしね。
ナーシャのリボンはふんわりした赤みのある青*3でリボンの形も相俟り子どもの柔らかさな一方で、ナーシャのドレスはシュッとしたシルエットを同色の宝石だか色ガラスだかで彩る着る者の美と高貴さを際立たせるつくりで、そこにサファイア(宝石の持つイメージが「知的」「気品」「慈愛」)を思わせる深い青があるの天才でしょ。「成長した皇女アナスタシア」の色じゃん。ごめんおよふくの知識がなくてあのドレスの形状を示す語彙が出てこないんですが。

ねえところでさ!
この場面のヴェール?ケープ?ふわふわした布を留める肩口のブローチ双頭の鷲いませんでした!?青い宝石(この展開だと設定でも色ガラスかもだけど)を取り囲むシルバー、舞台の枠の中央にいる白っぽい双頭の鷲と同じようなシルエットしてませんでした?石の上部からぴょっとしてる突起が二口に分かれているのは見たんだけど、王冠モチーフだとしてもワンチャンあるなーと思って……。でも翼っぽい突起もあったと思ったんだよなー。

衣装と言えばヴラドが胸につけてる花飾り(たぶん薔薇)がだんだん高級っぽいものになってるの面白いですね。2幕頭では赤くて薄いレースの、レースって気を遣っていったけどなんか目の粗さと織り目がガーゼみたいな生地でできた、あちこち解れだか縫製の甘さだかがある薔薇飾りなんですよ。たしかリリィと再開したとき(オリーブグリーンのジャケットのとき)は厚めの光沢ある布でできたそれなりに形の整った白薔薇、オペラのときだったか(ここはまだ白だったような気もするけど)からは白がまだらに入った赤い薔薇なんですよ。実物はどれも造花なのはもちろんなんだけど、お話のなかでは最後のだけ生花だったりしません?と思っている……3回目くらいから……なんですが真相は演出の人がぽろっとしない限り永久にわからないやつ。フランスの方らしいので日本語小話があることはなさそう、つまり永久にわかりません。 


「オルゴールをあげたでしょう?」とアナスタシアが荷物をあさりに離れたところでふらふらと立ち上がった麻美ナナが、遠い記憶を目に映しながらマイクに乗るか乗らないかぐらいのか細い声で「オル…………ゴール…………」と呟いたの見ましたか、私は見ました。

麻美さんのことフォレで知りバイオームでも観たので彼女がやる「冷たい母親(の中にいる愛するまたは愛される渇望を強く抑制してきた女)」がわたしは人間らしくて(愛というエゴゆえに間違える愚かさが人類の原罪で愛すべきところですからね)大好きなんですけど。この方ミュージカルもやるんだなと初めて知りました。宝塚出身の方らしいですね*4
独り追憶にふける曲が音は綺麗だけど言葉は間延びしてて呆けてるか狂ってるかに聞こえるよぉと初見で思っていたんですが、あの曲はひょっとしてそう見えてていいやつですね? 過去の記憶に閉じ籠って、今現在やこの先に向き合うのを拒む女。「もう聞いていらっしゃらない」だし「閉じよう扉を」だし。ところでこの曲の2番の途中くらいから現れて、扉の向こうで両手当ててナナが振り向くのをにこにこして待ってるリトルナーシャちゃん激かわですね。「かくれんぼして」だよ。もう期待するのをやめよう、扉を閉ざそうって嘆く彼女の後ろで悲しい顔して俯きしょんぼり去っていくの図、ニコニコしてしまう。ランプがつくと消える夢、その追憶にも笑顔の少女はもういなくなるのエモーショナルじゃん?わたしは語彙を失ってるからってほりだしたじごくのことをエモーショナルと呼ぶのやめるべきだなとおもいました。感動させるために盛り上がっている場面を示したいとき使える言葉がなくなるからね。

さっき別のとこでも言ったんだけど、この曲聞いてから振り返るとマルシアリリィの皇太后のこと分かってないんだな感(好きなところです)を改めて噛み締めてしまいますね。自分の追想に閉じこもる皇太后にランプをつけるのは共通だけど、お仕事とはいえナナにそれなりの信頼を寄せられているのになにが皇太后の慰めで何が逆鱗なのかちっともわかってない、何年も一緒にいてそこでそう驚いたり竦んだりするんだって思う。
「機嫌のいいときなんてないのよ!」あたりホン通りというか原作映画通りの設定だとこのぐらいなのかなって感じはあるけど。堀内リリィや朝海リリィのたまたまそのときついてただけで思い入れないながらも何年か付き合って主のことちょっとはわかってきた(そして彼女への愛着や忠誠も育ってきた)側仕えとしては好感度高い造形だなと思います。
良し悪しではないです、再会デュエットのバランス感はマルシアリリィが1番かわいーよ(個人の好み)
ミリも関係ないんだけどマルシアリリィのメイク、目頭の脇と目尻の延長のところに大粒の金のラメ(グリッター?)を置いてるの可愛さが天才
おとこのこのメイクには全く求めないんだけど(私は)、おんなのこのメイクでお話や人物像を邪魔しない程度の飾り遊びを見つけると、その登場人物がこういうあそびするのかなってきゃっきゃしてしまう。ほんとにおとこのこのメイク(ジェイミーとかにはしてほしいが)には求めないんだけど。ディマやグレブにわかりやすい遊び化粧あっても役者の顔が可愛いなとは思うかもしれないが(そんなとこ見てるの役者の顔をグラスで抜くオタクくらいだし)、彼らの人物像(うまくやり抜いてきた矜持のある「ロシアのねずみ」、亡命貴族の享楽に強い反感を隠さない新体制礼賛者)とはそぐわないし……。あったらあったでけらけら笑いながらTwitterにログ流すとは思う。

「革命に感情は要らない」、そんなわけがあるかよ!!!に思い至ってしまったので私の情緒はおしまいです。そんなわけがあるかよ!!!
革命なんて他に実効手段を奪われてる被弾圧者の怒りによってなるものじゃん。起こりも継続も動力源は感情エネルギーなのに、要らないわけがあるかよ感情がよ。
MAで描かれてたように革命の多くは怒りのみでなるわけではない(革命を押し進めることで得する“誰か”がいる)のは間違いなくそうなんですよ。そうなんですがグレブはの得する側に当てはまる人間じゃないだろ!!!
いえ現在時間軸の彼は得する側にあるかもしれませんが、ことこの任務に関して彼の動機は『かつての父がしたように』だから今の立場は関係ないんだよ。父親は『後悔』せず任務をなしたはずだ、“何故なら”「革命に感情はいらない」からって接続じゃんあれ。
 
堂珍グレブがそれを言うのはある種の諦めなのかなと思ってみていられるけど海宝グレブと田代グレブに関してはおまえにそれを刷り込んだのは誰だを喚起され、おれの情緒はぐちゃぐちゃになりました。楽しいです。
いや田代グレブは自発的なのか誘導されてなのか見当つかないけど……。田代グレブのこと結局3回観たけど印象がぜんぶちがうので何もわからない。共通で感じた印象がお仕事してるときの“国家体制の映し鏡”感だけなので……。

今回観た田代グレブはわりと頭のほうからこれに縋っているように見え、折れないための目隠しが刷り込まれたものだったらすっごいかわいそうだなと思いました。自分で考えた逃げ先ならまあまあ大人のやりすごし方だよねとなれるんですが、そのよすがが与えられたものなら心を壊さないための逃げ道ではなくて心を壊しても逃がさないための軛じゃん。

 

◆ここから翻訳や訳詞すごいなって話
歌詞だけじゃなくて台詞までよくこだわって訳された演目だなと思ったの、「オルゴールよりお祈りですわ」のところ。歌詞は……私の聞きなし力では細かいところよくわからないけど3人組の仕込み曲はあれ本当にすごいと思う。あんなに語数多いのに変な飛び方してないのもだけど韻をがつがつ踏んでくじゃん。
あの曲は固有名詞多いから翻訳による音数の調整が少なめで済むのはあるんだろうし、テンポや韻踏みのために英語の歌詞をそのまま和製英語で残してる(ヴラドの「(召使いに)キック!」→「(みんなは)ショック!」とか)のもあるけど、聴いてて変な日本語だなってなることほとんどないもんね。
自分を助けてほしいってときに「私はよく働きます!」と価値を売り込むのは日本の感じで聞くと変な感じがするけど、舞台は社会主義の時代のロシアなのでああ当時の向こうってそんな感じだったんだろうなーとなるだけだし。ミュエリザみたいに世界観を日本ナイズドしてる作品じゃない、どっちかと言うとメリポピやレミゼみたいな「向こうでやってるものを日本語で再現する」寄りの段階だろうし、と思っています。

それだけに「Home,Love,Family」がすっごい惜しいなと思う。いやわかるんですよ、物語の根幹になってるものの一つだから一個も要素を削れないのも、1回目と2回目で分けないでこの1フレーズに収めきらねばならないのも。

我が家、愛(し愛された記憶)、家族。
『あの日』にアーニャが失ったもの、そして物語の中で彼女が再び得ていくものだから一つも削れないのはわかる。ナナとの一度目の対峙後に場面転換で「Home,Love,Family」の音が一度だけ流れるから、同じ音での2フレーズに分けて入れるのもだめなの。わかる。
でもああもいきなり英語出てくるとなんで?ああ元が英語で訳しきれなかったのか、となるし、……そもそも聞き取れなくない……?あの曲の途中に口元の見えない状態で突然出てくる英語フレーズ、一発聞き取り&即英語で変換する難易度けっこうなものでは?
わたしこれ聞き取れたの東京楽(たぶん7回目……?)でやっとで、それまで「(なんとか)マイビー」って何?とずーっと思ってたのよね。聞き取れてよかったです、アナスタシア脚本家&作曲家の天才をまた一つ知ることができた。

1幕でアーニャがそれを口にしたときの音はあんなに明るくキラキラしていたのに、暗転しながらの場面転換では落胆と失望の暗い色の音をしているの、それだけで彼女が夢描いていた(そしてずっと支えになっていた)“いつか”が失われたのをわからせてきてこれぞミュージカルの音楽の感がありました。音楽の概念圧縮パワーだよ、天才。

あのねでもわかるんですよ、私はあそこだけ英語(ロシア語でもフランス語でもなく)なのにややかなり不服があるけど、音数制限きついかつ一個も意味を削れないから日本語にしようがないのもお察しされるんだよ。
せいぜい8文字(英語発音だと母音5つぶんしかないが、どっちだったかのアーニャちゃんはベタベタ日本語発音で伸びる音の間に何かごにょにょって入ってる音はした)にこれを欠けるものなくニュアンスも違わせず入れるのはどんな逆立ち名翻訳でも無理、わかる。
太后の罵倒みたいに露語だか仏語だかで入れたらお話からは浮かなくなるかもだけどこれはこれで意味がお客まで通らなくなっちゃうし、……そもそもどっちの言語でも音数が足んない問題は変わらず発生するっぽいし……。

◇ここまで

*1:『してることは間違いなくきみが悪いけど、即座に報いが向けられた上にそれから先も都度めためたに傷ついてるの見ると因果応報はなったよオーバーキルだよと同情が優ってしまう』、なんかこう、シシィに嫌われたり敵と見做されたりあうるのはだいたい君の自業自得なんだけど、でも何遍も拒まれてそのたび泣くほど傷ついても好きでいるのをやめられないならもうしょうがないよな……のフランツくんのキャラ印象値コントロールに近くない?

*2:4人の全員が同じメロを歌う瞬間がないっぽい負ければ地獄リプライズを組み上げられちゃうALW御大はちょっと天才すぎるので……。歌詞はぜんぜん拾いきれないので公演時歌詞一覧をKindle Unlimited(ラブネバ楽譜、英語版はなんとKindleアンリミにいる)に流しておいてほしい気持ちはあるが……。

*3:この色の染料をペーパークロマトグラフィーすると中からマゼンダが出てきそうな青だなと思うので赤みがあるなと思うんだけどこの感覚インクオタクだけだったらごめんね。でもナーシャのリボンはライト加減もあって(リトルナーシャの結った髪が上のほうほんのり赤いから、ライトに赤い色みがあるのかなと思ってる)私には実際に赤みのある青に見える。この見え方も赤光の気配を見逃さんとするインクオタクの性癖(字義通りのほう。性倒錯の誤用ではなく。)だったらどうしよ。

*4:ミュージカル業界、宝塚OGでもなきゃ女性キャストを若さを搾取する使い捨て商品として扱うのでちょっと考えればそりゃそうかではあった。OGでないのにネームド来るベテランの人、TV知名度が高く歌も芝居も舞台のそれができる大竹しのぶさんと客席数4桁を一声で呑める元四季濱田めぐみさんぐらいじゃない? 私の濱めぐさんへの信頼値がバグってるのは目を瞑ってください。