グレブのことがわからなすぎてグレブの話ばかりしてるので先にぽいっと出しすることにしました。
堂珍グレブを観てから脚本と仲良くなっていく(オタクスラング。自分の中で納得できる筋道を勝手に見つけていくこと。)様をお愉しみください。なおこれは9月20日時点でのログです。
警視副総監だそうです。フルネームは聞き取れませんでした。グレブ・バガノスだと思う。
結論から言うと、堂珍グレブのキャラクター造形が一番肌に合うからお話の筋は彼を基準にして読むことにしました。
田代グレブも海宝グレブも好きだよポイントはいくつもあるんだけど、(これは役者ご本人やその演技プランへの悪口ではないことを本当に信じてほしいんですけど、)この2グレブに対しておれはそこで腰を抜かして/精神的支柱を残らず自分で否定してなぜおめおめと……生きて……?の疑問を永遠に抜くことができないので……。おめおめとってワードチョイスあんまりだろとは思います。でもおめおめとなんだよな。
田代グレブ
→最終的に4回書き直しました。
私は田代グレブへの今んとこの印象が(役者への貶しのニュアンスでなく)”腐れ役人せくはらおやじ”なのでなんかもうお察しください。初見が舞台半分見えない場所(S席なのにA席より視界が悪いの、シンプルにだめだと思う)かつ明るく闊達木下アーニャと同志への愛がない田代グレブで観たのでこうなってる可能性も半分くらいはありますが、アーニャの”弱さ”の表現で圧倒的に輝いてる葵アーニャとの回で観たところでこの印象が弱まる気はあんま……しないですね……。
なんていうか……これは本当に悪口ではないんですけど、海宝グレブと堂珍グレブの参考文献が当時を題材にしたロマンス映画/小説だとしたら田代グレブの参考文献は社会主義国家や共産圏の解説書ですみたいな……。
田代グレブ、腐敗した独裁国家を鏡に映したような人格してない? 一人間として見たときの脅威性はほとんどないけどあの背景のロシア内で地位や権力も考慮して見ると非常に有害性の高そうというか……。上官と電話してるときの腐れ役人感もすごかったけど、フランスに出張させられてバーで門前払い食らってるときの口だけ感もすごかったじゃん?
いやそのキャラメイクは面白いですねだし噛ませ犬としてはアリ寄りのアリだとは思うんだけど、思うんだけどそれはどっちかというとレオポルド伯爵(シリアスに耐えきれない人に息をつかせ、ヘイトを吸収するためのお邪魔虫)ポジションの人物に求められるキャラクター性では……? となってしまい、'90年のサブカル作品と世界の文学(家にある小説がこれとシートンだけでな)で育ったおれは演者さんと「悪役」の定義違いを起こしているなと思いました。
悪役っていうか悪人っていうか……。主人公の壁となる悪役、やっぱり人間的に魅力となりうる一面があってほしいな私は……。田代グレブ、恋してるときの無垢さは圧倒的かわいいだけど同志への愛のなさと国家への信のなさをそこだけで乗り切るのはおれには厳しかったです。
Q.人間的な魅力となる一面、無惨様は?
A.無惨様は知れば知るほど無様で尊敬できるとこがなくてなんぼのところあるでしょ。
アーニャとグレブのたぶん最大の見せ場シーンの話していい?わたしあそこの脚本と仲良くなる(前述)のに結局全グレブ見る必要があったんだけど、つまりここではかなり悪し様に言ってるんだけど。
背景の半分以上が見えない席で観たせいもあるのかもですが(全景見える場所で観たら8割方この通りではあった)、おれはあの対峙の場面の意図がさっぱり理解できずこのシーンの存在意義ある?というかグレブをネームドにする意味ある?まで行きました。
このおりこうなつくりのミュージカルでソロ曲いくつももらってるんだからそんなはずないんだけど、ないけど2人の対峙パートが全くの蛇足じゃん!?!? あの日の思い出も家族との再会も成った、記憶も取り戻した、その後にナーシャのここまでの成長を1ミリも見ることができない、グレブ側も成長や変質したわけでもないあのシーンいる!?!?皇太后との和解の前ならわかるよ大ボスの前に中ボスの憂いは掃うべきだよねわかる、でもこのシーン、アナスタシアという少女にとって祖母とのあの問答とオルゴールの記憶の共有より大事!?!?
存在しない「アナスタシア」を追い続けるか彼女を殺した(成るはずだった円満を潰した)後にはじめて命の奪う重さに気が付き、(まあ少なくともちゃんと”清廉で””忠実な”同志だったっぽい)父と同じ道をたどるかぐらいのもんかなと思ってたらどっちも何も成長しないでグレブが勝手に折れただけのめちゃくちゃご都合ハッピーエンド出されて面食らってしまいました。悪し様に言うって言ったからね。
国家の正しさを根っから信じた妄信者だったならその決断がある種の成長だとわかるけど初めっから国家の正当性を信じてもない利用し利用されるビジネスライクの人が、惚れた女が可愛いってだけで使命を放棄する決着に至ることに何のカタルシスが……?
と言ってた翌日に”あの”海宝グレブを観ることになるわけです。フラグか?
海宝グレブ
待って待って待ってアンジョルラスみたいなグレブが出てきたんだけど待って
前回あのオチない決着を観て、国家の盲信者なら惚れた女への愛で父の汚名を雪ぐって憑き物が落ちるの綺麗なパターンに持ってけるかもだけどさ、とぼやいてたら国が示した理想の他を知らない盲信者が出てきてしまったんですけど私はどうすればいい?
海宝グレブ、革命前夜のアンジョルラスみたいな青年が出てきたんだけどどうしたらいいですか私は。同志のことを信頼している(信用は時にしていないが)、時に護り時に導き共に生きる対象として見てそうな人格者な副総監殿が出てきてしまったんですけど……。見てこのリアタイの動揺。
いやあの大変とても好きなキャラクター造形なんですが、昨日が腐敗した役人(失礼)だったのでグレブのベースプランこっちなの!?って動揺してしまい……。
失礼って言ったけどでも田代グレブはどう前向きに言ってもお役所だったでしょ、刺激すると公私混同職権濫用によって害して来そうなのが恐いだけで本人は三下の……。
悪しき王朝を打ち倒し今はこういう時代なんだ同志、みたいなことを言う海宝グレブ、お為ごかしなんかではなく心からそれを信じて励ますニュアンスでびっくりしてしまいましたよね。民のこと、心から同志だと思ってるじゃん。
海宝グレブを観たことにより、グレブがアナスタシアに一目惚れするタイミングがあそこなのは見窄らしい道路掃除人の目に「あの日見た強さ」の面影を見出したからなんだなとやっと理解をしました 奥にしまい込んだ幼き日の宝ものに触れるようにして独白された。あんなさあ……壊れやすいきらきらしたものに手を伸ばすみたいな独白されたらそうなんだなと言うしかないじゃん……。
素敵な家とちゃんと繋がる電話をくださいましたの目がまっすぐに澄んでいる、そんなことあります……!?あったんですよそれが。おべんきょうとおてつだいを頑張っていい子にしていたらお父さまがご褒美をくださった、のニュアンスなんだよなそれは……。
上官の「大したことではない」に静かに目を閉ざして、再び目を開けたときには反抗も疑問もない純粋なまっすぐさで気負いのなく承る海宝グレブの、見えている世界の狭くて白く儚い清潔さがさあ……。外から見れば瞭然なその幻想の儚さにグレブだけが気づかずにいるのが、少年兵のそれなんだよな……。
白鳥の湖を観る海宝グレブ、すこし質の良い住処や食事やお茶以外の「非日常の楽しみ」という概念存在に生まれてはじめて遭遇したいきものでおれは情緒が限界を迎えてしまいました。楽しいやわくわくするを持ってない少しいぶかしげな顔つきで、でも目を離して仕事に戻ることはせずに踊る演者を追っている。
おもしろかったとか楽しかったとかの能動的なよろこびの感想はなさそうな顔で、でも自然な情動で舞台へ拍手を送っている海宝グレブ、なんかこう……こんど遊園地にいこうね……ターゲットの監視のためにいろんな遊具に乗る羽目になりな……というなまあたたかい眼差しを向けたくなりましたね……。たのしいこととおいしいものをいっぱい知りな……。
目の周りを赤くして悲鳴のような声音で「そして彼らは何一つ返さなかった!」を叫ぶ海宝グレブ、そう教えられてきてそれを疑わないことで“父の誇り”を疑わない(他の可能性が見えない、見ない)でいられてきたんだろうなと思いました。革命は成って然るべきだったと(個人的には)思いますけど、そしてグレブもそこはここまでもここからも疑わずに生きていけそう*1だけど、それはそれとして。
一塊の警備兵に与えられた皇家射殺の遂行は“栄誉ある任務”であって、お綺麗な革命家どもがやりたがらない“汚れ仕事”を押し付けられたわけではないと、信じることが彼には必要だったよ。自分の父が革命の声なき被害者であるという可能性、国の“正しさ”を疑えることを知らない彼には耐えられないだろうからさ。
海宝グレブは国を疑うことを知らないっていうより疑えることを知らなさそうだった。そうですねそれをせんのうとよびます、わたしはそのにゅあんすでしゃべっています。
まあでももっかい言うけど実際革命は成って然るべきだったと思いますよ、この話のロマノフ貴族どもはなるほど何一つ返さなかったろうなって造形だったから。ラッキーに生まれたというだけで豊かなメシを食い遊びを楽しめる生活と裏表になっているはずの義務を。私このあたり見るたび社会風刺的だなと思ってしまう。戯曲が海外産なのでそんなことはないんだろうけどね。ホンにメッセージが入れてあるとしたら「自分で自分のことを認めなければ何ものにもなれませんよ」のとこだと思います。
海宝グレブ、まっすぐで視野の狭い危うさがあるのもあって、国への盲信と父の矜持を見失ってどうして生きていけるのか私にはあんまりわかってないんですが。
「私にはできない」もそこからの「貴方を傷つけたいわけじゃないの」も「長い人生を」から普通に帰還して憑き物の落ちた顔で任務終了を宣言して口元にほわりと小さな笑み(安定と、自我の気配に近いもの)があるのも全然納得できない……決定打、なくない……?
打ちのめされて失われた支柱の代わりにアーニャが何か置いていってくれるわけでなし、彼女を縛らないと結論付けたのはまた彼でもあるわけで。疑ってよいことすら知らなかった純粋で、心が折れたそのまま自決しそうないきものだったよ。
堂珍グレブ
せんせい……!厳しいが生徒にめちゃくちゃ懐かれる生徒指導の先生みたいなグレブだなと思いました。普段はぎゃんぎゃん反抗する生徒でも、ほんとにやばいことに巻き込まれたときには助けを求める“誰か”に選ぶような。
堂珍グレブを観たら初めの在りようから大きくは変わらない彼の「私にはできない」にそうだね君には無理だよを引き出されてしまい。
初めから人民にもアーニャにも一貫して教え導く者でアーニャへの対応も庇護の色が強いから、この人に子どもを殺すのは無理だよを引き出されてしまいおれはまけました。いえ端っから勝負なんかしてなくストレートに初日から納得できる道筋を与えられたかったですが。
厳格ではあるが温かく、教え諭し導く教師のような人だったからそら子どもを殺すのは無理だよになりましたよね……。彼は精神が成熟している一大人であり、また信じている正しきものは人民の未来であり国家への盲信ではないので、あそこで折れた上に折ったやつがどっか行っても他の柱が必要になるわけではないし。
ただこの理解だとあそこのアナのくず貴族っぷりは変わらず海宝グレブにも田代グレブにも適用できないのでそこは引き続き悩むんですが。
堂珍グレブ、同志に語りかける登場シーンでばしばし目ぇ合わせてくる……。同志を導かんとしてくる……。
アナスタシアへのそれが庇護心に見えるのがまた。そしてこの人相手やシチュエーションで変わるのは当たりの強さであって厳格さと先達者の気配はいつでも備えているな……。この人なんか、全てを告白して真摯に助けてくれと願ったら「同志」である限り助けてくれそう、転職の手伝いまではしてくれそうだよ。
福士彼の無言の「ん?」の顔おぼえていらっしゃいます皆さま(どっちも観てること前提にするな)、堂珍グレブ目を合わせて火を分けるような演説を終えるとあの顔をするんだよ、君ならわかるだろの顔。
厳格だが愛情深い教師みたいな人だなあと思って眺めてたら次のシーンであの冷たく厳しい顔をするので、甘いだけじゃないんだなとなりました。
堂珍グレブ、白鳥の湖カーテンコールでぱふぱふと拍手をしながらつと“舞台”から目を上げて、“舞台の向こう側のボックス席”を鋭い目で見ているのこっわ……となりました ナーシャが立ち上がり歌うパートの後くらい、皇太后が唇を震わせ動揺するのと同じくらいのタイミングでしばらく同じ方を見てるし…
海宝グレブは未知との遭遇みがあったけど堂珍グレブはそういうものがあるのは知ってるけど興味は薄い(勤めに励む人民のことは隔てなく愛しているので演者たちにはマイナスの感情はなく彼らの仕事にも目は向ける)(亡命貴族どもは嫌い)みたいな印象だった。
2幕頭のバーで憤慨する堂珍グレブ、立ち姿も振る舞いも去るときの歩き姿もぴしっと綺麗な姿勢を保ったまま、続いて出てくる彼らよりよほど誇りの高い紳士で感動しちゃった。憤慨してるけどひとりの大人としての(それこそ“恥ずかしくない”)節度は保ったままなんだよ。
この場面、田代グレブも海宝グレブも胸が閉じてるのか腰が落ちてるのかのめり気味の威嚇姿勢なんだけど、堂珍グレブは胸を開いてまっすぐ立った綺麗な立ち姿(ここまでで一番憤慨はしてる)なんよね。彼が感情で姿勢を崩すのは皇女と対峙する場面だけ。
田代グレブ(リトライ)
このひとのこと一番よくわからないので一番こねくり回してしまう。
感想を正直に全部ぶちこむとグレブをひでー男だよするだけでなく*2なってしまう気がするので先にひとことでまとめるんですけど。
……いやなんか、もう一回言っておかなきゃいけない気がして。
声も態度もアーニャにだけ全く違うんですよねこのグレブ。人民に対してでも上官に対してでもない、個人に個人として向き合うときの彼はこんなにやわらかいもの出てくるんだ……みたいな。
海宝グレブと堂珍グレブは(アーニャにだけ特別手厚いのはあれど)態度の二分が「忠実な善き同志」と「そうでないもの」にあるように見えるんだけど、田代グレブはその線が「アーニャとそれ以外」に見えるですよね……。この男は人民に対して共感も愛情(善く育ててやるのが彼らのためになるという思い遣り)も持ってなさそうだから一貫性はある。
*1:というか海宝グレブは革命が貴族の腐敗と国民主権の時代とによって成るべくして成ったことさえも疑うなら本当になぜ自決をしないんだよなんだよな……。
*2:Q.それはするんですか?
A.彼のグレブはそういう設計(ヘイトを一手に引き受ける)だと思うんだけど……。
*3:冷血、等。わたしの観測範囲でしかないが、ミュージカル界隈の客が「怖い」を使うのは同情による感情移入が難しいキャラクターに対してに見える。
*4:それはそれで面白いと思う、物語の消費者たちに愛されなくてはならない人物(レオポルトあたりは根性悪全振りもまた味と思うんだけど)に向いたつくりかどうかを置いとくならですが。
*5:ただその人物造形は、例えばやレオポルト伯爵やそれこそJtRのモンローのような、名前がついているだけの大衆のひとつだからこそ輝くやつでは……とも思う。いえこれは私の嗜好なのですが。悪役は壁であり、主人公らが意識や時間を注ぎ打ち破るに値する力と尺を取るに値する魅力を持っていてほしいのよな。私は読切長編ファンタジーで育ってきた村の民だから。