つまるところ。

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キングアーサー感想

加藤メレアガン、太田ランスロット、小南グィレヴィアで見ています。1/22回です。
個人の感想で記憶頼みです。ご承知おきください。毎度言うんですがあなたの観て感じたものがあなたの真実ですよ。
何日かに分けて書いてるのと好きなとこの話を何周もしてしまうのとで、脈略と可読性は普段以上に家出しました。ちなみに鉤括弧は強調ではなく引用です。
リアルタイムの悲鳴(楽しい) はこっちに置いてあります。


◆メレアガンがクリーンヒットしました。

 薄々そんな気はしていた。何せ『世界に愛されなかった者』概念が大好きなので……。
世界に愛されなかった者が世界に愛されなかったことだけを理由に持ってたものまで投げ棄てながら破滅していく、私はこれが大好きなんだなというのを改めて思いましたし、加藤和樹氏の演る、地位も実力もある男が手に入らないたった1つへの渇きで破滅していく様は本当に健康に良いな*1とも思いました。
 あとこれは別件なんですけど、私が今まで加藤和樹氏キャストに感じていた『戦場帰りの気配』のこと、一般的には色気と呼ぶんだなっていう気付きがありました。命の軽さと戻らなさを思い知ったことがあるみたいな、心の端っこがちょっとだけ砕けているような諦め*2を指してそう呼んでいたんですが、そうだな、ひとりで生きていけそうなのにどこか気になる寂しさがある大人の男は魅力的だもんな……。
別件と言ったのは、そういう男かどうかがわかる前に信じる世界と正しさを折られ、持っていたもの全てと一緒に人性(誤字ではない)を失っていくのが今回の加藤和樹氏キャストだからです。

 人理の及ばぬ超自然は彼に目を留めなかった。世界の気まぐれに愛してもらえなかったというだけの、メレアガンには何の責のない事象。
その事象の結果のせいで信じていた全てが崩れ去って自棄になり、代わりの信じられるものも見つけられないまま死んだメレアガンくん、本当にかわいいと思います。かわいそうはかわいいなので。
 マーリンの事情もドラゴンの気まぐれも、メレアガンには何の責任もない。責任どころか、関係を持つために出来ることさえなかった。それなのに、メレアガンが人生かけて積み重ねてきた国一番の騎士の誉れ(と、それに与えられたはずの報い)は、人の事情など知らぬ妖精の思惑でひっくり返されてしまった。これを運命の被害者と呼ばず何とする。
 まあメレアガンがかわいそうに運命の被害者だからって、彼の行いは暴虐そのものであり、そこに弁解の余地はないんですが。アーサーを騎士にしてやったのを最後に彼の行いはだいたいぜんぶ駄目、それはそうです。そうなんだけど。
メレアガンの行為の罪は彼にあるけど、世界に愛されなかった責はメレアガンにはないじゃん!? というのが世界に愛されなかったもの概念のハイライトなので……。

 メレアガン、あとモルガンもだけど、アーサーが剣を引き抜いてからも「資格」に拘ってるのが可愛いなと思います。ずっと言ってる印象。
「決闘で勝った者だけが挑戦する資格を与えられる」、次の王を決める剣はそんなルールを人につけられていたけれど。そんなルールは運命には何の関係もないんだよね。剣を抜いた者を王とせよなんて訳わからん理不尽に納得するための、神の恩寵は誰もが認められるような人間に授けられるべき(それなら諦められる、)ってヒトの都合に過ぎない。
 私はあのルールをあれこそ愚かなヒトの行いだー!とにこにこしながら見ていました。人を認めさせた者こそが、(できることって意味で)ヒトより上位の概念である神が決める運命に対峙する資格がある。その考え方、ヒトしかしない発想なんですよね。
世界の理にヒトの理屈が通る、あるいは、ヒトの決めたルールを妖精やドラゴンたち超自然の存在*3が尊重してくれると思っている。
 高潔とか騎士道とか、そういうヒトが決めた高みに向けて頑張り続ければどんな相手にも認められる。ヒトのルールで一番になれば神様だってこっちを向いてくれる、ほめてくれる。愚かな思い上がりで、無力なヒト族のいじらしさだと思います。

 これまでもこれからも妄想なんですけど、メレアガンくんの「お前に資格はない!」が努力や忍耐は報われるって純粋な信念の発露で、だから自分は毎日毎日研鑽を積んできたのに!の裏返しに見えて仕方ないんですよね。かわいいなって思う。誰かに褒めてもらえてやっと、自分のやってきたことに価値があったと思える人なんだなって。
彼の努力や忍耐は、国一番の騎士の実力という形で報われてるわけじゃん? それじゃ報いに足りないというのならじゃあ、価値があると思えるのは他者の賛辞なんだろう。それもたぶん、自分がすごいと認められる相手からの。
だからメレアガンは、アーサーに騎士の儀式をしてやったのかな。

 運命とやら勝手に認めた王に膝を突くことをせず、歌い讃えることもせず。天と人が認めても自分だけは認めないとばかりに立ち去ろうとしたメレアガンが、その坊主に騎士の儀式を施してやる気になった理由がアーサーがちょっと怒り気味に言った「命令してるんじゃない、頼んでるんだ!」のひと言なのめっっっちゃ可愛くないですか?
たゆまぬ鍛錬と厳しい自律には報いがあるはずだ、という無邪気に信じていた世界を打ち崩されたメレアガンは、その誇り高さが故にアーサー王に膝をつくことはできない。けれど同時にその誇りの高さゆえに、国一番の騎士にと請う若王の頼みを突っ返すこともできなかった。
自分のことを認めなかった運命とやらに愛された特別な存在から、貴方が国で一番だ、貴方がいいと願われて、彼が抗えるわけないじゃんね。*4彼の努力に意味があった、だから彼は特別だ、そう証してくれる他者の声はこれを蹴ったら他にないんだもの。

 メレアガンのグィネヴィアへの想いは「手に入れたいだけ」で私への愛ではないとバッサリされていたわけですがまあそうよねという感じ。彼はグィネヴィアという個人を愛したから求めたわけではない。
王の資格にせよグィネヴィアの愛にせよ、彼は自分が頑張った報いがほしかっただけなんじゃないかな。それを手にした先にやりたいことがあるわけではなさそう。王でなければできないこと、グィネヴィアだけにしてやりたいこと。
自分でない人にも頑張っている自分を認めてほしい、なんて。寄る辺を持たない子どものような欲望だなと思う。
誰より優れるために頑張った自分をみんなに認めてほしい、みんなが認めてくれるはずだったのに、その権利を(騎士として)頑張ったこともない田舎坊主に横から掻っ攫われてしまった。だから許せない、なのかね。

 私はメレアガンが積み重ねてきたものが彼の努力はどうにもできないたった一つの気まぐれでひっくり返されてしまったのが大好きなんですが、(という話を今までひたすらしてたんですが、)そのたった一つが手に入らなかったことで彼が持ってたもの全てを投げ捨ててしまったのも大好きなんですよね……。
弛まぬ鍛錬で得た剣の腕も、騎士の高潔で手に入れた仲間からの信頼も*5、彼自身が勝ち取ったものだったのに。運命だなんてよくわからないものに選ばれなくっても、彼自身が身につけたそれらはなくなるわけではなかったのに。

 1幕の決闘では積み重ねた鍛錬の時間と技術の高さを示すような鋭い太刀筋だったメレアガンが、2幕の戦いでは「ガキ」と嘲ったランスロット相手に力任せに長剣を振り回している姿が悲しすぎてないてしまった。騎士の誇りを捨て、モルガンと契約して、どこまでもと落ちたメレアガンは、彼の身体に染み込ませたはずの剣技さえもう側にはないんだなって思って。運命に見留められず、女に愛を向けられず、己の身体にさえ裏切られ。
 鎧装備の相手の一撃に飛ばされてもすぐに立て直して真正面から闘ったメレアガンがだよ、ガキ相手に腰の入ってもいない大振りで剣を叩き下ろすのあまりにあまりに悲しすぎるでしょ……。血の滲む努力で体が覚えた剣技まで失ったメレアガンの太刀筋と、大剣を取り落とした彼が隠し持ってた短刀でランスロットを背後から刺しての勝利とで、剣の腕も騎士道も心身両方が落ちきったのを描写するのとても見事だと思うし演出にひとひらの慈悲もないよ。騎士の剣技も騎士道の高潔も手放してしまったメレアガンは、本当に何も持たずに死んでいくんだよな……。

 今回メレアガンくんを追っているわりに表情をあまり追えていないんですが、モルガンから(嘘の)予言を聞く前後だったかで明滅するような激情を覗かせていたのがとても印象に残っています。理性が剥がれ落ちていく、人性を損なわれていくようだと思ったんだよね。
なんていうかな……メレアガンは「堕ちる」をある意味自分で望んでするけど、あれはアーサーのしている変質とは異なるもののように思う。アーサーの「王になる」はそれまで自分になかったものを植え付けられて育てていくような変質だけど、メレアガンの「堕ちる」は培った美徳が剥がれ落ちていくのであって、残ったものだって彼が元から持っていた性質じゃないかなと思うんですよ。
王の器として、民のために自分の願いを諦めることを選ぶようになった(そして願いを誰かに見せることすらしなくなっていく)アーサーとはそこが違う。アーサーにも元々献身的な面はあったけれど*6、それはあくまで彼がやりたいからやってたことじゃないですか。自分の願いと反する行動を民や友のために選んでいるのではなかった。

 メレアガンは元々王になることを「国の全て」を自分のものにすることだと考えたり、顔も見たことのないグィネヴィアをほしがったり(トロフィーワイフとしての欲しいだと思う)、そういう面のある人だったんだよね。
その一方で騎士としての誇りも高い人だから、他人に厳格だけど自分にも厳しくて、みっともなくしないために模範的なあり方をしていたんではないかな。知らんけど。彼の高潔が偽物って意味ではなく、そういう自分に見られたいからそういう自分をする、みたいな。善く在らんとして善いことをする、騎士の道を努力して進む生き方だと思う。
 剣を抜けなかった次の出番が暴虐という即堕ち2コマな急展開は、運命に裏切られて模範的でいる意味を見出せなくなったからなのかなーと思っています。生まれもった利己性を社会で生きるためにちょうどよく抑えるのが理性であり、そのありようが人性なので……。その抑制をなくすというのはつまり、人から獣になることなんだよな。
理不尽への怒りとか約束を裏切った友(だろう、たぶん)への怒りとか、アーサーへの怒りとか殺意とか*7、これまでなら身を任せるのはみっともないと抑えていただろうところ、そのタガをなくしてしまったから噴き出た激情に呑みこまれる。怒りに酔って理性が削がれ、肥大した憎悪に身を委ねて。悪感情で自家中毒を起こしているようだったなあ、と思う。
高潔を失い獣と化す彼を、人に引き止めてくれる人はいないのも*8またかなしいところですが。

まあそれはそれとして私がメレアガンの変質を突きつけられたのは「愛の別の名は裏切りだろう?」にとろりとした笑みで応える彼を見たときなんですけど。誇り高き騎士メレアガンは死んだのだ、を思い知らせてくれる。ライトの加減で目がほの暗く赤みを帯びているのまで最高でした。
愛の概念を揶揄するのを聞いてあんな顔するような人じゃなかったじゃん!!!いや私はメレアガンの何をも知らないが。知る前に運命の裏切りで心を折られてしまったので……。

◆グレヴィアはアーサーの運命ではない。

ミュージカルだからって歌でわからせてくるの反則だと思いました。ありがとうございます。

 浦井さんも小南さんも太田さんも魅力たっぷり骨太お歌のキャストじゃないですか。御三方それぞれ単独でもデュエットや合唱でも歌唱が魅力的で、なのにアーサーとグレヴィアが声を重ねたときだけ「…………ん?なんだ?」って感じになる*9んですよ。
 音が合ってないわけではもちろんないしタイミングだってぴったりに聞こえるしどちらも歌唱パワーは満ち溢れてるし、何がかはわからないんですけど、でも2人が声を重ねたときだけ何かが違ってて、その場面でマーリンが言う「彼女は運命ではない」の説得力がバリ高になるんですよ。あのデュエット聞かされたらそうね……ってなるしかない。

 それがあっての太田ランスロットと小南グレヴィアのデュエット、確か聖杯探しへの出立前、重なった声が厚みを増してわあっと膨らむのでもうこれはだめでしょ……運命じゃん……となりました。グレヴィアの運命はランスロットだったしグレヴィアの魂が選んだのはランスロットじゃん。もうこれはさ。
 その後の「生きて戻ってきて」「約束して」が駄目押しも駄目押しでしょ、1幕でアーサーと相思相愛の恋に落ちた彼女が口にしたのと同じ言葉、同じ約束。指輪も決定的だけど個人的にはこっちにより強いあーもうだめだー!を突きつけられました。

 だってキングアーサー、家族と資格の物語じゃないですか。血の繋がりという呪いと血の繋がっていない家族。ヒトのルールによる資格と妖精が決めて押し付けた資格。人のルールに使われる「約束」という言葉。焦れたメレアガンがモルガンに詰め寄るときも約束が違うと責める。

 アーサーが剣を引き抜くのは運命だったけどどう使うかは彼の意志による決断だったように。モルガンが贈った魔法の指輪が運命で、誰と引き離されないことを選ぶかはグレヴィアの意志による決断だったのかね。わからんが。私はケルト神話の概念を未履修なので、彼らのいう「運命」とドラゴンの気まぐれの区別がよくわかっていない。
 グレヴィアがランスロットを選び繋がったあの赤い石の指輪を、裁かれるシーンでは着けてないのがあらまあと思ったけど、魔法のお守りだからあれでいいのかもしれない。ランスロットの心と死ぬまで引き離されない魔法、だからランスロットが死んだ今つけていることに意味はない、なのか。
 日本だと相手が死んだ後も繋がりの証を着け続けることに想いの強さを付与するところあるよねと思っていたけど、ケルトにはそういう文化がないのかもしれない。どう見てもランスロットに心があるじゃん? ランスロットに心があるというかランスロットの死と一緒に心を持っていかれたというか。

 裁きを待つグィネヴィアのあの固い表情に私は情動の死を見てしまうんですけど、あの指輪やっぱりガチモンの呪物ではありませんか? 2人の心が離れないおまじないっていうか、そうなるように視野を狭めて考えを吹き込み(ランスロットが妖精の国で使命より愛を取ったのとか、)一方が死んだらもう一方の心をも殺す呪いじゃありませんか?
 太田ランスロットもさ、指輪を受け取った前後でグィネヴィアへの想いの躊躇いが見えなくなって不穏なんだよな……。私は指輪の贈与デュエットの1番、彼が目を落としたままちいさく首を横に振る仕草がとても好きなんですが、あの清らかな葛藤や使命を選ぶ高潔が曲の終わりにはすっかり飛んでいるのを(展開上は妥当だとわかっているんですが)モルガン謹製の指輪を填めた直後に見るの背筋が冷える思いがしました。好きですが無論のこと。

 

シングルキャスト組の話は後でします。

*1:古川雄大氏がやる役の、自分には何も責任のない出来事に巻き込まれて心の一番やわらかいところを蹂躙されている様に似たようなものを覚えます。親友が刺されてぼろぼろ泣くしかできないロミオ、あんなにかわいそうであんなにきらきらしている。怜子ちゃんのキス一発で理性を日常ごと引き剥がされ震えて堪えるしかできなくなる野口くんも。

*2:日常を当たり前に享受する人々のなかで少しだけ息がし辛いのを、生きるとはそういうものだと諦めているようなちいさな自暴自棄。

*3:メレアガンやアーサーのような、魔術の才能がない人々が、超自然の存在をどの程度の理解度で認知しているのかは知らないけども。

*4:お前が選ばなかった俺をお前が選んだあいつは選んだぞ、というそれは、掴み取れると信じていた未来を粉々に打ち砕かれたメレアガンには抗しがたいと思う。

*5:少なくとも決闘相手が娘のグィネヴィアを嫁がせるつもりだったのはメレアガンを信頼していたからだろう。

*6:ケイのために剣をちょろまかそうとしたりグィネヴィアたちを助けなきゃと出陣したり

*7:怒りばっかだけどまあ怒りって二次感情なので……。努力の意味をなくした虚無感、友だと思っていた相手への失望、労なく運命に選ばれたアーサーへの嫉妬。感情の根っこを見つめ受け入れることから逃げると怒りに呑み込まれて、利用されたり破滅したりしてしまうんだなあ。

*8:より人性を損なわせようとするモルガンならいる。

*9:TLの感想見てたらグレヴィアと声を重ねるときだけ浦井さんがファルセットを使っているそうで、そのせいなんですかね?