つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

タージマハルの衛兵感想

noteから持ってきました。日時は当時に合わせています。
------------------------

観てきました。帰りの電車でじわじわ元気に充ち溢れてきたんだけど正しい反応なのかちょっと自信がない。
以下ネタバレを含みます。余すところなく個人の主観と幻覚です、ご承知おきください。
※断片わーっと出さないと落ち着かないなってなったのでまあそんな感じです。

・どういう話なのかはよくわかってない。あるいはわかっていて、見たくないだけなのかもしれない。
見たくないことを見えないものにするか、刻みこんで忘れないものにするか、そういう違いなのかもしれない。
・フマーユーンの見えるようになっての一言が「ひでえな!」「俺たちがやったのか」なんだよね。
あの場面の最初、顔中どす赤いなかにしらじら光る青白い目がぎょろぎょろ動くの地獄みたいな色合いでしたね(賛美)
・「女の仕事だ!」「(これを片付けるには)女が二十人は要る」って言ったすぐに「でも俺は、こんなものを女に見せたくない」っていうフマーユーン好きだよ。

・名を付けて呼ぶことは最もシンプルな魔法のひとつ、という言葉を思い出した。いやそういう話ではないとは思うけども。そういう要素が好きでですね。
・木の上の筏、エアロプラット、シートベルト、持ち運び式抜け穴。2人は思い出や空想を共有して「発明」に名前をつける。2人にだけ大切な概念を伝える、2人にだけわかる言葉。
ただの空想、「昔から妄想ばっかり」言ってたバーブルの「発明」は、ハーレムの護衛なんてとびきりのニュースより優先しちゃうくらいにフマーユーンにも特別なんだろうと思う。(「エアロプラットの夢」「話したいよねぇ」この"あっじゃあしょうがないね"って譲る速さに二人の積み重ねてきたこれまでが見えるみたいで好き)

バーブルがフマーユーンを呼ぶときの「フマ」って気安い声が私的で体温があって好きなんですよね…。皇帝の嫡子たる(そしてたぶん皇帝との関係はそこまで良くない)フマーユーンを「フマ」なんて呼ぶの、たぶんバーブルだけでしょう。フマが皇帝のいとし子だったら不敬だしそうじゃなかったら親しそうにすればとばっちり来るかもしれないんだし。
・あのさもしかしてバーブル、皇帝の嫡男をバーイーって呼ぶほどの付き合いができるくらいにはいいとこの子だったんじゃ

・「あったかいぞー」って言いながら水(湯?)をかけて、バーブルを洗って身体を拭いて着替えさせてやりながら、その間ずっと小さく節をつけて彼の名前を呼んでやってるのが好きです。いたわるような、悪夢を見た子をあやすような。
フマーユーンのなかにある"優しくしてもらった思い出"の一番があれなのかなって強めの幻覚を見てしまう。でもきっと乳母にされたやつだよね。
・ただただ手を動かしながら名前を呼び続けるの、バーブルみたいに退屈を紛らわしたり勇気づけてくれたりする「発明」は思いつかなかったからなのかな……「持ち運び式抜け穴」は成り立たないし気持ちを明るくしてもくれない「失敗作」だったから(幻覚が強い)
・そう思ってるのはフマーユーンだけで、バーブルはそんなこと思ってもなさそうなんだけどね。バーブルは、まあ憤慨してるときは別だけど、フマーユーンの感性にも一定の敬意を払っているように見える(「月みたいに輝く」とか)

・さっきパンフ見たんですがバーブルのスペリング"BABUR"なんですね。このときもバーブルって歌ってるしフマーユーンは彼にあだ名をつけてないのかな。父と初代皇帝と同じ名前をそのまま呼んでるのか。
・大事なとき、バーブルはフマーユーンを「フマ」って呼んで、フマーユーンは「バーイー!」って呼ぶんだなーと思って。印象に残ってるとこでそう呼んでただけかもだけど(戯曲が手元にないので……)
バーブル、「そんなことしたらお前 だめになる」ってこの期に及んでフマの心配もしてるのがさ

・フマーユーンが見る白昼夢(夜だけど)、バーブルがあの晩に話した「計画」の後半そのままなんだよね。
強めの幻覚なんですけど、あそこでフマーユーンが見た夢は"バーブルの足枷を外して一緒に逃げていれば"じゃなくて、"バーブルの計画通り皇帝を殺してしまえばよかった"なんじゃないだろうか。うまく言えないんだけど、あそこで(逃げようと思えばバーブルと逃げられたのに)そうしなかった理由は出世欲でも命惜しさでもなくて、ただ"皇帝に逆らえない"からなんじゃないかなって。

・フマーユーンが父親をどう思っているのかはよくわからない。おそれがあるのはそうなんだろうけど、尊敬しきっているわけでもなさそうだし、かといって軽蔑しているには建前以上に妄信的なきらいがあるし。(私がわからないのはたぶん家族というものに一切の信頼を持ったことがないからだと思う。)
神様みたいなものなのかな。いつも見ていて、次々と試されてひどいことをさせられて、逆らえばきっともっと酷いことになる、そんな存在。きっと一度も逆らってみたことはない、のに。一度、髪を引っ張って首を斬ってしまえば簡単に死ぬだけの人間なのに。

・「一番下っ端」の誰もやりたがらない仕事が回ってくる立場で、それでも「中心に近い」側、皇帝がいることの恩恵を受ける側の人間だとわかっている(あるいはそう信じるしか立つ術がない)フマーユーン、さかしくて愚かしくてかわいそう。
フマーユーンのいう恩恵は例えば物乞いをせずに生きられることや例えば二万人の職人たちみたいに皇帝の気持ちひとつで手を斬り落とされないことだと思うんだけど、皇帝と直接言葉を交わせるあの建築家(名前を忘れた)や兵の中で最もえらいやつがする任務を与えられた人間だって言葉ひとつ、気まぐれひとつで手を落とされるんだよね。

バーブルの空想(「考えてみて」)はもう退屈を紛らわせたり2人を安心させたりはしなくなってしまったからフマーユーンが頑張るしかなくて、でもフマーユーンの「発明」は失敗作なんですよね、彼曰く。
共有した悪夢を振り払うように話したハーレムの警備をする空想、重度反逆罪のバーブルを助けようとした冒涜罪のでっち上げ(フマーユーンはあれを「発明した」と言った)、この話で展開するフマーユーンの「発明」は全て裏目に出るんだよね……
・フマーユーンの「発明」は今ここから逃げるためのもので、いやバーブルの「発明」もそうなんだけど。何が違うのかな。バーブルの「考えてみて」は逃げた先のことだから2人はわくわくして空想に浸れるのかな。
・逃げ出したバーブルと作った木の上の筏はフマーユーンにとって2番目の傑作、彼の一番はずっと昔に作った木彫りの鳥で、親父がいい顔しないから作るのを止めてしまった。
フマーユーンが持っていた美しいものを生み出す手はずっとずっと前に皇帝の視線で落とされていたのかもしれないね。