つまるところ。

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BLUE/ORANGEを観に行ってほしい。(ネタバレはある)

誰も彼も間違ったことを言ってない、正しくもないだけで!
何を話せばいいんだ。何を話していいんだ。わかんないよ。観てくれ。激情で頭を殴られにいこう。
これはそういう話だと思う。ネタバレなしだとごめんそれしか言えない。


以下、作品のネタバレと引用と個人の妄想を含みます。たぶん。

 

 


とは言ったものの、どんな話なのか未だにさっぱりわからない。何を言っても足りなくて、何を言っても大げさになる気がする。あと何を言ってもネタバレになる気がする。

裏切り、エゴ、欲望、保身,etc.etc.人間の醜さを剥き出しにして突きつけて、オチの痛快さですくい上げる。そんな物語なんじゃないかな。
息を詰めて慎重に積み上げたブロックをがしゃーん!と壊して、あーあって言いながら開けた視界で息を吸う。初めから何もなかったみたいに、床に散らかったブロックを無視して。
最後のどんでん返しにうわあー!ってなるけど、滑稽さや緊張、伏線と一緒に笑い所も泣き所も給水所みたいに散りばめられているから退屈で辛いってことはそんなにないんじゃないかと思う。序盤は笑いが多いぶん比較的ゆっくりだけど安心してほしい、後半に行くにつれどんどん加速していくのでそれどころじゃなくなる。2幕、落ち着いて息を吸える瞬間がないから。すごいよあれ、時計見えないからあと何分かわからないじゃん? ここが最大の見せ場か、これで物語に決着がつくのかって思った途端に物語が再開し、しかも次の山場は前より衝撃が大きい、それがどんどん来る。激情と展開で腹を延々殴られる感覚(賛美です。)衝撃が頭だけじゃなく腹にもクる。

退屈する暇がない、その界隈の"お約束"*1を持ち合わせずとも困らない。キャストの方がブログで仰っていたように*2、初めて演劇を観る人も楽しめる作品だと思う。そういう意味では万人にオススメ。まあ話の内容が、というか人間の醜さがあまりに生々しいので薦める友人は選ぶ話だと思う。例えが悪かったらごめんだけど、最高に怖いホラー映画、最高だからこそおばけが怖い友人には薦められないじゃん?*3


たとえ話。冗談。この物語ではそういうものが場面をひっくり返すカードになる。
何の気なしに出した言葉が、全く異なる重さをもって襲い掛かってくる。
この物語において、言葉は正しく伝わらない。"正確に"使っていても。
誰も嘘は言ってはいないのに*4、彼等の語る"出来事"を繋ぎ合わせてできた絵は事実とかけ離れている。

クリストファーは妄想や思考の飛躍がたびたび見られる、まあ言ってみれば嘘を吐いている。(少なくともブルースにとっては)明らかな虚構だから誤解が生じていないだけで。
でも彼、ブルースやロバートと交わした会話については嘘を言ってはいないんですよね。「ドラッグ」も「ブードゥー」もブルースは確かに口にした。ブルースやロバ―トを破滅させうる数々のカードは、確かに彼等がクリストファーにかけた言葉の一部なんです。文脈から切り離された言葉は、そのときの状況や本人の意図とは全く異なる"事実"を臭わせるというだけで。
ロバートやブルースはそのことに薄々気が付きながら*5、自分に都合が良いように言葉を拾って組み立てる。嘘を吐かないまま事実を歪める。
(おそらくクリストファーも含めた)彼等は情報を取捨選択して自分の見たい世界を描く。どうしてこんなことになっているのか、誰もわかっていないまま。

 

「責任を持ちたいんだ。(中略)ケツを持ちたいっていうか」「え、ケツ? え、それまじで言ってんの?」「笑わせようとしてるんじゃないんだ、あのほんとに」

(作品より。覚え違えてるかもしれない。) 

 この会話。ブルースとクリストファーの間にあったものは、つまりこういうことだったんだろうと思う。ずっと。
ブルースの言葉はクリストファーには正しく伝わっていない。そしてブルースはそのことに気が付いていない。一見成立した会話はだから、誤解を孕んだまま積み重なる。

たぶんあれ、クリストファーは『ケツを持ちたい』を言葉通りに受け取って、いきなり下品なスラングを飛ばしたブルースに確認してるんじゃないかと思う。おまえ喧嘩売った?それともマジでそういう話がしたいの?*6って。
でもブルースはクリストファーの返事を、関わった患者の人生に責任を取りたいという(言ってしまえば手に余る)信念を笑われたと理解したように見えた。1幕の"正しい言葉"について語るブルースを見るに、もし言葉が正しく(意図した通りの意味で)伝わっておらず、その理由がクリストファーに知識がないからだと察していたら、『ケツを持つ』という言葉を説明するんじゃないだろうかと思うんだ。説明まではしなくても、「責任を持つってことだよ」くらいは付け足すんじゃないかなと。
精神分裂病のような専門用語でもない、ブルースにとっては日常会話でごく普通に使う単語だからでしょう。ブルースは、クリストファーがその言葉の意味を知らない可能性を考え付きもしていない。見落としだけど、でもまあブルースが気付かないのも仕方のない。だってクリストファーは同じ国に住んでいて、同じ言語(に見えるもの)で喋っている。自分の言葉が彼の心に届かない可能性は考えられたとしても、そもそもの言語が共有できていないと考えつくのは難しいでしょう。自分にとって当たり前であればあるほど、相手にとって当たり前でないと疑うのは難しい。
そしてまあ、ロバートとクリストファーも程度の差こそあれ似たようなものなのでしょう。「私はお前のケツを持つ」、1幕でロバートがブルースの説得に使った言い回しだ。


人間のおろかさと醜さと姑息さを煮詰めて、真実と信念も注ぎ込んで、そうしたら何かうつくしいものが一瞬、顔を出した。*7けれどうつくしさだけでは腹を満たせないから、すぐにいつもの日常に戻る。生々しい醜さに薄っぺらな綺麗ごとを着せて、お綺麗な振りした隣人を愛す。これはそういう物語だ。と思う。

感動どころには触れないで書いたつもりでいるので、よかったら観て確かめてほしい。

*1:こういう衣装ならこういう役回り、とか

*2:読み違えてたらごめんなさい。読解力には自信がない。

*3:私にこういう生々しさに衝撃食らう知人が多いだけかもしれない。だったらすまない。

*4:ロバートはいくつか明確な嘘を吐くんだけど。聴聞会のこととか。

*5:「ブードゥー!」に対するロバートの「なるほど」、そういう意味だと思う。

*6:文脈もブルースの人柄も無視して言葉のまんまに受け取ったらセクハラか夜の誘いになると思う

*7:あの情動につける名前を知らない。辞典引いても見つからなかった。