つまるところ。

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メタマクが終わりましたね。(メタルマクベスdisc3感想と考察)

おれらの悪魔がいなくなってからもうずいぶん経ちました*1。皆様いかがお過ごしでしょうか。私はどうも現実ではないような気がしたまま過ごしています。ひと月くらいしたら新しいランディが現れるんじゃないかって思ってしまう。

夫婦について書きたいとか見直しての感想書きたいとか言っていたら大晦日は何故か人形劇*2に心を殴られ(本当に何故だ)、気が付いたら年が明けていたのですが、忘れないうちに書いておきたい*3なあと思います。終盤のメタマク、映像として残る気があんましないし。
disc2でひっくり返ったのでdisc3もかなり精神を殴られる覚悟でいたのですが、思ったよりも心の安寧は保たれました。浦井ランディへの同情が強くなったぶん、2幕の王への恐ろしさは和らいだ*4

 

誰がランディを悪魔にしたのか

陽気で人懐こく勇敢な耳の垂れた大型犬みたいな浦井ランディが、5年の歳月の間に人の心をすり潰すような悪逆非道な王と化す。その落差がdisc3の絶望感だと思っているのですが如何でしょう。
ランダムスターが1幕では情の深い愛すべき人間、2幕では血も涙もない悪魔のごとき人間として見えることは共通していたと思うのですが、今回は浦井ランディの悪辣さというか、暴君の素地は1幕から存在していたことが押し出されていたような印象を受けました。2幕で部下に命令したりローラを暗殺するときに見せるぎらぎらした眼を、最初の殺陣からしていたんですよね。浦井ランディは変わってしまったからああも人情がないことをできるようになったんじゃなくて、今まで敵にしか見せてこなかった面をESP軍や反乱軍にも見せるようになっただけなんだと思う。人懐こくてどこか憎めないランディも彼の中には残っていて、でももう、その面を見せられる相手はいなくなってしまった。どこにも。誰も見ることのできないものは、存在しないことと区別がつかない。*5
2幕の彼は、自分と夫人(と、もしかしたら門番)以外の人間すべてが、自分を脅かす敵に見えているんじゃないかと思うんですよ。エクスプローラーに「お前も!」と言ったように、「レスポールを殺し」て王座についた、王に相応しくない人物と見られているように感じていて、Jr.が見つかれば椅子から追いやられると恐れている。ESP国は新興国だし、統治が上手ければ(Jr.が見つかっても)民はランディを選んだと思うんですけどね。それでも疑念の王としかなれなかったところが「器」じゃないんだよなあ。
人を殺した者は自分も殺されることを恐れるようになるという話があるように、信頼されていた王を裏切って王になった彼は、近しい人にほど裏切りを考えてしまうようになったんじゃないか。信頼していた部下に裏切られるかもしれないのはレスポールも同じだったんだけど、その可能性ごと呑み込んで信頼する度量*6を、裏切っていない限りは味方だと笑い合える強さをランディは持っていなかった。いずれ敵になるかもしれない相手を敵としか見られなくて、だから彼は良い王にはなれなかった。裏切られる前にエクスプローラーを殺しても、仮にグレコやマーシャルやJrを殺せたとしても、安心して眠れる夜は来なかったのでしょう。
ローラやグレコ母子を殺させた彼を悪魔というならランディは初めから悪魔だったし、グレコたちと勝利の杯を交わした彼を人間だというならランディを最後まで人間だったんじゃないかな。


夫婦が「ひとつ」でなくなった時

他のdiscではエクスプローラーを殺したときからに見えていたんですが、disc3はもう少し前なんじゃないかって思うんですよ。レスポールを殺した翌朝、お付きの兵士2人を斬り殺したときなんじゃないかなって。ランディがお付きの兵士を斬り殺したと聞いた夫人が大仰に驚いたのは、完全に演技でもなかったんじゃないか。
だってお付きの兵士が生きてようが死んでようが、それだけじゃ夫人の計画の綻びにはならないんです。夫人の計画では実行犯はJr.じゃないですか。殺した記憶がないのに血が付いてたって、Jr.が血を擦りつけたのだろう、実行犯は彼だけだったんだ、とでも言えばいいだけなんですよ。忠実な兵士に罪をなすり付けるなんて卑劣な行い、国を治める資格など、と持ってけばJr.への心証も悪くできるし。(全部自分たちに跳ね返るんだけど!)だからあそこが、ランディが夫人にとって「もうわからない」ことをした最初なんじゃないかと思うんです。

じゃあなんでそんなことをしたかって、その因はエクスプローラーだったんじゃないかなって思うんですよね……。

メタルマクベスの物語は2218年と1980年代を行き来しながら、それぞれで起きたことが少しずつ連動するように進んでいきますよね。1980年代でローズがマクベスにスカウト掛ける場面、disc2ではバンクォー岡本が名刺を手に入れる*7ところ、disc3ではバンクォー橋本がマクベス浦井をけしかけるんですよ。名刺を一緒に覗き込んで、目の色を変えて。
バンクォーが見たものが金か名声かはわからないけれど、元社長を裏切ってローズの側に付くことをバンクォーも選んだんだと思っている。本当はバンクォー橋本が「バンドのリーダーだったのに」、マクベス浦井がリーダーとして見栄を張るままにさせた。あれ、マクベス浦井恋心を応援する親心*8もあったのだろうけど、ローズを味方につけるにはその方が都合が良かったからでもあったと思うんですよ。
バンクォーが裏切りに積極的だとしたら、後半の回でバンクォー橋本が度々見せたという*9、「ビール瓶でマグダフ柳下に殴り掛かる」姿にも納得がいく。生活のために元社長についていくつもりのマグダフは、ローズのスカウトを受けたいマクベス浦井と、そしてバンクォーにとって邪魔者になる。ローズを口説くのはきらきらしいマクベスにしかできないから、自分はマクベスにはできない役回りを引き受ける。メタルマクベスのリーダーが所属替えでメンバーと揉めただなんて、歓迎できるゴシップじゃないもの。

 

あともう一個書きたいのがあったんだけど、うん、追記できたらする。

 

*1:これを書いてたときはまだ三が日だったんですが、某100分ミュージカルにフルスイングを食らってしまって。

*2:「ノラくん」でTwitter検索すると地獄の概要がわかる。

*3:書ききれなかった。

*4:前の感想ではとにかく浦井ランディが怖いしか言ってなかった。

*5:当人だけは違うとわかっているんだけど、誰にも見えないものをあると主張する人間は気狂いと呼ばれる。

*6:ゼマティスが裏切った直後に部下やランディの前で前後不覚になるほど酒を飲めるような。

*7:disc1は覚えてない。ローズから目を離す余裕ができた頃には笑わずにセリフ言えるかなチャレンジが始まっていたのでそれどころじゃなかった

*8:純喫茶マクベスのマスターとは釣り仲間だそうですし、その息子が小さい頃から知ってたんだろうし

*9:私が見た回ではセルフビール掛けしてたので……