つまるところ。

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スリル・ミーCDを聴いてみてほしい。

メタマクdisc2のランディが刺さった勢にぜひ尾上さんが出てるスリルミーのCDを聴いてみてほしいという語りです。ネタバレなしにしたつもり。頑張った。

 

 今年12月に『スリル・ミー』というミュージカルがありまして、まあ乱暴にいうと実話を題材にした殺伐BL恋物語でしょうか。小劇場、8500円ということもあり転売ヤーの餌苛烈なチケット戦が繰り広げられています。そしてこの作品、2014年版はCDが出ているんです。舞台全部が入っているわけではなく楽曲だけの収録ではありますが、その収録時間は65分。全100分の舞台なので、その6割以上が入ってることになります。あらすじはもちろんペアごとの違いまで窺える濃密な仕立て。

この作品の尾上さん"私"と柿澤さん"彼"のペア(通称おかきペア)がDisc2ランダムスター夫妻ロスに大変よく刺さる。

 

"私"の圧倒的大型犬っぽさ

尾上さんと柿澤さんのペア、3組の中で唯一”私”のほうが大きいんです。だから”彼”の同意がなくてもどうにかできるはずなのに、許可が出るまで指ひとつ出さずに我慢している。力尽くで押し倒せるはずの"彼"の一挙一動に振り回されている"私"がなんとも愚かで憐れで可愛らしい。

作品の中に"私"が彼へ想いを訴える「スリル・ミー」という曲があるのですが、尾上さん"私"はこの曲の歌い方もまっすぐで擦れてないんです。この"私"は童て女の子とのあそびを覚える前に彼に惚れこんじゃったのかなあって感じがする。初恋は彼だしメロドラマを夢見てると思う。そんなに惚れこんでるくせ要所要所で"彼"の地雷を真正面から踏み抜いていくところが、"彼"への本質的な無理解を感じさせて大変よいです。

(ちなみに尾上さんの”私”はどうやらイレギュラーのようで、他のペアはかなり違う表現をしています。田代さん”私”は特に、ねっとりした執着心に怖気が走るほど。なお大好きです。)

 

よく喘ぎよく泣く(妄想)

これは音源しかないが故のお勧めポイントだと思う。尾上さんは感情が昂ると鼻水が出てくるそうで(アフタートークのレポより)CDにも所々鼻を啜る音が入ってるんですが、これがべそかいてる子供みたいに聞こえるんですよ。そしてこれがまた、庇護欲より加虐心をそそる感じなんですよ。曲によってはしゃっくり上げるように息を吸う声が混じり、「これは泣いてる……」とわくわく妄想できます。

よく喘ぐ、「喘ぐ」というとちょっと怒られそうというか、"私"の驚きを表す声なんですが、育ちの良さそうな尾上さん"私"はあんまり大きな声を出さないんですね。じっと息を潜めていて思わず零れてしまったような高い声が、何というか、うん。あれはぜひ聴いてみてほしい。

 

柿澤さん"彼"についても語っていいですか。

元々このCDを買ったきっかけは柿澤さんなんですよね。デスミュで歌唱力と演技に肝を抜かれて他作品を探した結果これに行き着いたという。結論としては大正解でした。自分の魅力と能力に自信があって、それ以外に自信がなくて、大きな劣等感にも本当に欲しいものにも自覚のない柿澤さん"彼"、めちゃくちゃに輝いてる。遊び慣れた風の"彼"の小悪魔っぷりがまっすぐで初心っぽい"私"と噛み合ってて大変「推せる」。disc2の夫妻が好きなみんなも、こういうのお好きでしょう…?

柿澤さんの演じる役は正気と狂気の境界線をタップダンスしてるときが一等輝いてると思ってます。平凡な人間を見下げて生きて、最後は狂ったように取り乱して人間らしいものに執着する姿が最っ高にいいんですよ。元々そういう趣味はなかった*1はずなんだけどすっかり新しい扉を開きました。デスミュといいスリルミーといい、プライドを投げ捨てて生に執着する姿があんまりに輝いてるから……。

 

そんなわけでスリル・ミーおかきペア、イチオシです。

*1:そういう生き汚さ、寧ろヒトとして生々しすぎて苦手だった。