つまるところ。

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メタルマクベスDisc2感想まとめ

メタルマクベスDisc2、終わっちゃいましたね。
TLで初日感想を見てチケットをキめ、櫻子夫人とローラに呑まれてライビュを突っ込み、ランディの大変化とレスポールの目に叩きのめされてチケットが増えていた。前楽逃したので変わりゆく彼らの終着駅を拝めなかったのが心残りです。

 

さて。以後Disc1,2本編およびdisc2パンフレットのネタバレを含みます。もうすぐ公式ショップでも扱うと思うので未購入組はぜひ。


そんなメタマクDisc2、個人的に「支配と役割の物語」だと思っています。愛と正義と言い換えてもいいんですけどね、そう大して変わらないから。誰も彼も自己愛の塊で他人は自己を投影する鏡で、そのくせ理想を叶えるのは自分じゃなくて形代なんだからえっぐいものだと思います。
序盤と中盤で個人の性質や立ち位置は変わった気がするけど、確固たる個の強さは揺らがなかった印象です。掲げるお題目は「家族のために」「国のために」「君のために」なんだけどさ、彼等にとっての繋がりって理想の自分であるための舞台装置なんですよね。disc1が皆で同じ味になるフォンデュ系とすればdisc2は下味は個性を引き立てるための鍋物というか。そこが魅力だと思う。彼等の地獄は誰とも分け合えないひとりだけの地獄だから。

 

愛するとは支配すること

レスポール王、エクスプローラー、ランダムスター夫人の3人が1幕における三強なのはdisc1と変わらず、彼らが愛する者の幸せを願っていることもたぶん同じで。でも愛の形が違う。disc1が「いちばんいいものをあげたい」なら、disc2は「自分の理想とする姿になってほしい」なんですよね。相手を自分の望む在り方へと導く行為の本質は自己愛で、相手を想うこととは真逆のことなんじゃないかな。
レスポールがJrに求めたのは「理想的な王」、エクスプローラーがマーシャルに求めたのは「(自分の代わりに)王位を得ること」。櫻子夫人がランディに求めたのは「王位」のように見えて、その実「ランディの心の奥底に隠れた欲望を引きずり出して叶えること」なのでしょう。
1幕の櫻子夫人が強いのは当たり前だ、彼女の望みはランディの本心を映しているんだから。レスポールエクスプローラーが一人分の理想を抱えているところ、夫婦二人の理想をぶつけている。松也ランディと櫻子夫人を「二人分」とみなすべきかはさておくとして、理想を持つ者と叶える者が同じ方を向いてるのは強いと思うよ。そりゃ勇気もりんりんだよね。ふざけさせてくれしんどいんだよこの夫婦。 

 

王への野心は誰のものか、あるいは夫婦の関係について

disc2のランダムスター夫婦を一言で表すなら「支配と従順」だと思う。表向き、松也ランダムスターが夫人の思うまま動いて彼女の言葉を叶えている。でも櫻子夫人はランディの望んだように振舞ってるだけなんだよね。
二人の関係はdisc2パンフレットの見開き、あのまんまなんだと思います。
ランディの首輪についた鎖は夫人の手に腕に絡まっていて、夫人は指の動きひとつでランディに意思を伝えることができる。でも鎖をきちんと握っているのはランディなんですよ。あの構図、見た目は夫人が支配的でも彼女の側に"あそび"が殆どないんです。夫人がどんなに引っ張ってもランディはびくともしないし、それでも引けば鎖は夫人の肌を裂くか手から解けてしまう。逆にランディはちょっと手を動かすだけで夫人を動かすことができるんですよね。彼女はランディに手を伸ばしているから、鎖を引かれたら踏ん張ることができない。倒れて惨めをさらしたくなければ、あるいはランディと繋がっていたければ、夫人はランディの意思に逆らえない。夫人が支配しているようで、ランディの目や仕草から心を読んで「して欲しいこと」をしているだけ。彼女が自由にできるのはそれしかない。よく完成されたSMだよ全く。
ランディはその事実に気付いてなさそうなところが罪深いですね。
で、肝心なランディの意思ですが。これがまた野心というか、自分の意思のなさそうな男なんだ。何でも卒なくこなしてそうな序盤の回も情緒不安定が目立つ中盤の回も、そこは変わらないんだよなあ。自分の意思で戦ってるわけじゃなさそうなところ。
王のために戦場に行き、戦場ではエクスプローラーの指示に従い。指示に従ってるときはああも凛としてるのに、空白の時間は途方にくれたような(おびえたような)表情をする。誰かの望みをかなえる手駒になってるときが一番生き生きするお人形みたいな男。そんなだから櫻子夫人が女王様にならざるを得ないんだぞ。
そんなランディに「自らが王になる可能性」を最初に見せたのは誰か。「魔女の予言」、そして魔女に渡されたコンパクトディスクなんですよ。
夫人は「(たぶん王の暗殺について)何度も話し合った」とは言うもののあの夫婦はそういう会話を根詰めてはできなさそうだし、魔女に提示されたマーシャルの可能性に拘ってる様子を見るにエクスプローラーがランディにそういう話は振ることはなさそうだし。エクスプローラーはランディの意思のなさをよくよく見抜いていたと思う。
松也ランディは櫻子夫人の思うまま動き、櫻子夫人はランディの心の奥底にある願望を映し出し。その望みは魔女に植え付けられたものだった。そういうことなんじゃないかな。


信仰の行方

disc2ランディにとって、夫人の存在は絶対だったんだと思うんですよ。可愛くて気が強くて、かっこよくない部分も思い切り甘やかしてくれて。ランディを思うまま振り回して、一人では何もできないランディにビジョンを見せて導いてくれる存在。
夫人の言うことを聞いていればすべてうまく行く上に褒めてももらえる。自分のないランディにとっては救いそのものだったんじゃないかなあ。彼女の望みはランディ自身の欲望を反映したものなのだから尚更。
ランディの心に寄り添った言葉をくれるのは夫人だけなんですよね。(敵がたくさん出てきて)「こわかった~」っていうランディに、「かわいそう」って言葉をかけてあげられるんですよ夫人は。「がんばったね」でもなく、まして「情けない」でもなく。勝敗を聞くより先に、「ランディも戦うのが怖い」っていうことをただ肯定してあげる。それは人としての弱さを認めてあげることだと思う。愛ですね。あるいは望まれた言葉を返すお人形だね。
ランディにとって夫人は、「何物でもない自分」を肯定してくれる唯一の存在だったんだろうねえ。機械みたいに人を殺す鋼の将軍ではなくても、情けなくても弱虫でも見限らないでいてくれると信じられた。ランディの主観では、夫人に褒めてもらえれば、認めてもらえればそれだけでよかったんだろう。他の誰に否定されても、夫人さえ認めてくれるなら何でもできたんだろう。
それを確信したのが「すべてうまく行く」の後半。夫人の「家族は『私よ』」からランディの表情が一気に変わるんですよ。あれはやばい。直前まで囚われていた恐れや迷いは微塵も残らず、自信ではちきれそうな身体、歓びでいっぱいの目。あれを盲信といいます。
ひとりの人間に感情も存在も全て注ぎ込む、そのこと自体が歓びになる。あの様子をツイッターでは「かみさま」と表現しましたが、真っ当に信仰するんじゃああはならないんですよ。あれは自我をぐちゃぐちゃに掻き回されて、壊れた精神に絶対的な価値観を刷り込まれた人間の目だ、そしてそういうのは「洗脳」って言うんだよ……。ランディをそんなにしたのは間違いなく夫人ではない「誰か」なのだと思う。夫人は投げ捨てられてた鎖を取ってあげただけなんだよ、ランダムスター夫人になることで。ランディの「家族」になることで。
あの晩、夫婦は王を殺して王冠を手に入れた。夫人の望み通りに。そうなるはずだったんだ。そうなるはずだったのに、流れる魔女の歌が因果を崩した。王を殺した、魔女の予言通りに。だから王になった。そう擦り替わってしまった。
あの瞬間、ランディの信仰は夫人から魔女どもに移ったのだろう。夫人が持っていた鎖は切れた。彼女の身体に巻き付いたまま。
メタマクでは、というより中世ヨーロッパでは魔女は超自然的な存在で、まあ神の奇跡なんかと同類項なので信仰の対象にはなり得るんですが、そういうものへの信仰って基本的に「自分を振り返るための鏡」なんですよ。努力に対する結果が出なくても自分を肯定するための道具で、したいことや望む姿があることが前提条件なんですよね。現象の解釈は自分で、自分の望みに近づくようにする必要があって、直接的に何かをしてくれる存在ではない。自分のないランディがそんなもの覗いても返ってくるのは虚無だけで、まあ何というか、彼が信仰するには向いていないんですよ。メタマクの魔女らは意思を持っててもランディを導いてくれやしないし、そもそも彼の味方ではない。櫻子夫人と違って。そんなものに鎖を預けるのは風に遊ばせとくのと同じで、どんなに尽くしても振り回されるだけで見返りはもらえない。ランダムスターという個人を見てくれなんかしないんだもの。乞われればエクスプローラーにも予言を与えるのが証拠だ。だから2幕の彼はちっとも満たされない。
かわいそうなランディ、櫻子夫人だけを見ていればよかったのに。

  

松也ランディと父親について

ローラの話です。
disc1のランディとローラは親友でした。歳もそんなに変わらない、新兵の頃から一緒にやってきたような阿吽の呼吸の大親友。互いのことは自分よりもわかり合っているかのような。
松也ランディのエクスプローラーへの態度は、親友というより保護者に対するそれなんですよね。例えば「きれいは汚い、ただしオレ以外」の殺陣。加勢に来たローラと剣を合わせたとき、ランディは人混みで親を見つけたみたいにぱっと表情を明るくする。目配せと軽い笑みで応じるローラとはテンションの差が随分大きいんですよね。刷込みされた雛が親じゃない生き物の後を付いてまわってるみたいな違和感。
マホガニー領主への就任を聞いて動揺するランディをぽんっと叩いてバイクを発進させる様子もさ、あれもう完全な保護者じゃないですか……。え?頭?頭撫でた?と思ったら首の付け根のところだったんですが、どっちにしろあの距離感はなかなかない。対等ならままあるけどエクスプローラーからだけじゃないですか。バイクの故障のときとかもさ、ランディからの接触は遠慮がちで、どんなに興奮しててもエクスプローラーの一声でしゅんとなってしまう。ランディが許してるんですよ、一方的な接近を。櫻子夫人と結婚するまではエクスプローラーが引っ張ってやってたんだろうなあって思う。ランディはエクスプローラーの意思を汲んで、彼の願うままに動いていればよかった。
例えば「報告の歌」でエクスプローラーが語られる場面。disc1のランディは戦いながら一緒に歌ってたところ、disc2のランディは歌わないんですね。それどころか、戦うのを早々にやめて小屋の陰に引っ込んじゃう。まるで主役をエクスプローラーに譲るみたいに。「きれいは汚い~」の場面でメインを張ってたのはランディで、エクスプローラーは途中からギターを弾いてただけだったのにね。
明確な力関係があったのは元からなんだけど、回を重ねるごとになんというか、ランディとローラの間にマーシャルとローラに感じる奇妙な一体感が見えるようになってきたと思う。特に魔女の予言の場面。現れたメタルばばぁにエクスプローラーとランディが交互に問いかけるところ、抑揚までそのまま2人で1つの台詞をつなげる様にぞっとした。親友のツーカーというには意思の区別がなさすぎる。あの自我のなさ、もうマーシャルと一緒にフェルナンデスの孤児院に行けよ……。
二人の関係でもうひとつ印象的だったのが2幕の冒頭。エクスプローラーははじめ、ランダムスターに対して笑いかけてるんだよね。応じるランディの険しい表情を見てから一気に突き放した冷たさを見せる。ランディが回り込んで、肩をつかんで顔を見ようとするのに、目も合わせてやらないの。マーシャルは倅だから可愛がるけどランディは懐いてくるから子供みたいに扱ってやってたんだなあ。エクスプローラーにとって息子はマーシャルだけ、ランディの面倒を見るのは利用するついででしかないんだけど、おそらくランディにとってはそういうものをくれたたった一人だったんだろう。ランディが一度応えないだけで見限るような軽くて薄いものだったとしても。

 

王の役割

「メタルマクベス」にとって、王は太陽のようなものだと思う。
「報告の歌」のシーンで見せた、他人の小さな幸せを祝福して太陽のように笑う姿。ゼマティスの処刑で見せた暴かれた罪を許さない厳しさはあの笑顔とは相容れないようで、でもあの姿は一神教の神によく似ていると思う。一切の容赦なく照り付ける日射しのような絶対的存在。信頼する仲間にとっては寛容で憎めない幸せを運ぶ王。敵にとっては情け容赦のない断罪者。メタマクの王はそういう二面性を持った存在なんだろう。
disc1のレスポール王は、王としての役割よりも父親としての心を優先した。それが悲劇の引き金だと頭のどこかで知りながら。disc2のレスポール王は、レスポールという個人である前に「ESP国の王」であるように見える。敵を打ち倒すのは国の栄えにつながるからランダムスターを褒め称え、不義を抱えたままにするのは国のためにならないからランダムスターを断罪した。伝令に来たグレコからランディの顔を隠したのはエクスプローラーの、なんというか親心みたいなものだったのかもしれない。あのレスポール王は、一度国を裏切った者を絶対に許さないと思う。櫻子夫人の「王を殺そうと思ったことと実際に殺すことに最早大きな違いはない」というのも、そういう意味では正解なのだ。あのやり取りをしたランディがレスポールに認められる日は二度と来ない。
Jr.に王位継承を宣言したのも、親心というよりは単純に条件を満たしたからなんじゃないかな。報告の歌で「部下の忠義に報いる」ことを、ゼマティスの処刑で「罪を許さない」ことを見せたから王位を継がせると宣言した。それだけ。disc1みたいに、小細工してまで息子を王位につける気もなさそうなんだよね。Jrが器じゃなかったら他の人に継がせたと思う。「王の役割」を自我にできる人間に。
そういう意味ではレスポールもからっぽなのかもしれないなあ。王というシステムに個人の意志を譲り渡した男。国を守るために命を支払うことに何の躊躇も覚えないんじゃないかとさえ思えてくる。
ここから先は完全な妄想なんだけど、2幕のJrを見てると王殺しそのものがレスポール王の描いた絵通りなんじゃないかって気がしてくるんですよ私は。あの王の厳しさと、ゼマティスの首を掴んだ原くんレスポールJr.の笑顔があまりにも強烈だった。Jrは首を掴んで誇らしげな笑顔を浮かべて、そこから更に笑みを深めるんですよ。あの笑みは正義のヒーローがする顔じゃなかった。狂気の芽生えとでも表現するしかない、どろりとした表情の変化。直後に首から顔を背けておえっとするんだけど、そんなものでかき消えないほどの衝撃だった。そのときレスポール王は丁度げーっとしてるんだけどさ、皆考えてみてくれ、あの王が死体の首ひとつでそんなになると思うか? 私は思えない。
そして2幕のあのJrです。彼は正義の味方そのものじゃないか。仲間の期待を一身に背負い、気負いながらも「巨悪」ランダムスターにまっすぐ立ち向かう。1幕で覗いた狂気はもうどこにも無い。Jr自身の復讐心を歌う「ランダムスター!」よりなお「明けない夜は長い」があんなに輝いてたの、反乱軍を鼓舞する、皆のための歌だからだと思っています。彼が戦うのは父王の復讐じゃなくて国という家族のためなんじゃないかな、あのJrならESP国を治められる。レスポールが期待したように、王というシステムになれる。それがJrにとって幸福かどうかは全くの別としてさ。

  

衣装から妄想する親子関係

この項目は完全な妄想でできています。よし書いたぞ。これで自由だ。
メタルマクベスの衣装には、度々「薔薇」が出てきます。レスポール王が着るコートの袂、パール王のお召し物。disc1では夫人の2幕ドレスの裏地にも薔薇があしらわれていました(ららぽーとで見てきた。)disc2の2218年時空にも、2人の王以外に薔薇の意匠が入った服が出てくる。松也ランダムスターの寝間着、たぶん薔薇柄なんですよ。櫻子ローズのストッキングにも薔薇のラインが入っているんですが、櫻子夫人の衣装は足を一切出さないんですよね。あんなに若さと可愛さを押し出すのに。
ここから純度100%の妄想です。
2218年時空において、薔薇が王家の隠喩だとしたら。1幕のランディがなぜ薔薇を纏うのか。誰の血なのか。
レスポールじゃない?
ランディがレスポールの血を引いてるなら、ランディと二人きりのときに見せる嫌悪すら浮かぶ冷たい拒絶にも合点がいく。王を継ぐ権利があるのに王となる条件を満たしていない存在なんて、あの王が一番嫌いそうなものじゃん。というかそうでもないとやりきれない。
以上妄想でした。

 

キャストごとに。

前回めちゃくちゃ語ったので、2回目、3回目で印象が変わった人だけ。レスポール王とローラはそれぞれ1項目もってったので実質夫婦の感想ですね。あとパール王。

(前回→メタルマクベスDisc2、観てきました。

 

尾上松也さんランダムスター。ライビュまでに大変貌を遂げた男。
最初に見たときの、ソツなくこなす人間味のなさどこいった。何でもできちゃうから何にも期待してなくて何も欲しくなさそうな、櫻子夫人以外のすべてが灰色に見えてそうなあの男はどこに行った。

あのランディは子供そのものだ。庇護されることも知らず愛されることも知らず、対価なしで存在を認められることも知らない子供。可哀想にあの男は、欲しいものを持つことさえ教えてはもらえなかった。このランディは誰かの望みや言葉をかなえることしかしない。ESP国のために戦うことを望まれたから戦い、活躍したいエクスプローラーには場所を譲る。夫人に王位を取ることを望まれたから王を殺した。彼にとってはそれが自然なことなんだろう。
だからレスポール王との問答が憐れでたまらない。からっぽなランディをさんざ使ってきた男に、人間が人間を殺すには理由が必要だと突き放されて。自分で探し出した「王のため」も「家族のため」も否定されて、「殺しが好きだから」と叫ぶしかなかった。レスポールに与えられた理由を。「何もなくても、言われたから」殺せることを否定されてしまったら、ランディにはもう嘘を吐くしかない。願いも欲望も持たないで殺せる人間は確かに真っ当じゃないかもしれないけど、ランディにそう在り続けることを望んだのは誰だよ。快速特急のように、操られる道具のように殺す彼を称えたのは誰だよ。と、思ってしまうんですよねえ。

それにしても、レスポール王に対してもエクスプローラーに対してもランディが被支配なのやめてやってくれよかわいそうだよ。誰かあの子供に対等って概念を教えてやってくれよ。

2幕はランディの個人としての弱さ、核のなさが際立つ。早々に酒に溺れるのがもうだめ。まあランディ、王位を取って何がしたいっていうのはなかったからな……その王位だって、魔女の言葉を叶えただけ。やりたいこともなくてしなきゃいけないこともなくて、このままじゃ危ないことはわかるのに何をすればいいかわからないっていうのは一番精神を消耗させるんだよね。
「悪いことは口に出す前にやらなきゃだめだな!」の台詞、disc1のランディは変わってしまった…って感じだったけど、disc2のランディは根性が捻ねてなさそうなんだよな……。そういうものだからそうしてるだけって雰囲気。disc1のランディは家族の一員だったから、繋がりが切れるごとに変質してどんどん戻れなくなっていった。disc2のランディはたぶん、何も変わってない。レスポールやローラ、夫人の声に従ってたのが、頭の中で響く魔女の声になっただけ。外にあった操り糸が、頭の中に移っただけ。王もローラもいなくなっちゃったランディに指示を出してくれるのは、魔女の声しかないんだよね。夫人はランディの鏡だから、ランディの中に何もなければ何も映してはくれない。
松也ランディ個人的に刺さったところは、「私の殺意」で夫人と同じフリをしてるときの意思の見えない表情と、Jrの王位継承が宣言された時のおびえた顔、狼狽しきった「こ、ここ殺しが好きな者など!」、「殺しが好きだからに決まってるだろ!」の泣きそうな声です。自分の意思が「ご主人様」の意思と一致してないことが、世界が信じられなくなるほどおそろしいんだね。かわいそうだね。

 
櫻子ランダムスター夫人。ランダムスターだけの鏡。
小さくて可愛くて我が儘なお人形。傲慢不そ……天真爛漫に振舞う彼女はたぶん、相手が自分をどう思っているかは割とどうでもいい。櫻子夫人は相手そのものじゃなくて、その相手にこう振る舞う自分に価値を見出しているように見える。Jrへの乳首マッサージとかね。あの刺激の意味がまだわからず笑っちゃうだけの子供にも、「若い男に対する振舞い」を続けるんだよね彼女は。
 鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ? \櫻子夫人、あなたです!/
誰かに自分を映して見るということは、自分を映してくれる人間がいないと自分がわからないってことでもある。だからランディは自分を見ない、友達も呼べない孤独の中で彼女は自分を見失うしかなかった。櫻子夫人が「自分」だと認識してるのは鏡像で、肉をもつ体ではないから。そういう意味では彼女も空っぽなんだよね。ところで櫻子夫人の「友達」、間違いなく男性だと思う。
そんな櫻子夫人だけど、ランディの存在は確かに特別だった。誰かの言葉を叶えるだけの松也ランダムスターが唯一何かを求めるのが櫻子夫人で、誰に対しても夫人が見せたい姿を見せる櫻子夫人が唯一望まれた役割を引き受けてあげるのが松也ランダムスターなんですよ。それは二人なりの「愛」だと思う。ただ哀しいかな、人間は自分がされたようにしか与えることはできない。意思のある人間として扱われたことがなければ相手の意思を尊重することはできない。二人が噛み合ってしまった時点で、破滅は避けられなかった。
ここからは妄想なんですけど、櫻子夫人は松也ランディの望みを映してただけなんじゃないだろうか。ランディが他の人間に扱われてきたように。
1幕の櫻子夫人は松也ランディが自分でも気付いていない望みを叶えさせるように振舞うんだよね。2幕でもランディが傍にいるときはそれを続けていたんじゃないか。メタルマクベスの歌を叶え続けるランディ、本当は「もう血を見るのは嫌」だったんじゃないか。「ありがとう」って言ってほしかっただけなんじゃないか。誰かに。
あの晩、鏡は叩きつけられて割れ、映る像はいびつになった。手を繋いでいるときは「ランディの望んだ言葉」をうたえるけど、手が離れれば「ランディの心をそのまま」映すしかできなかったのかなあ、って思うんです。夫人に「私のせいでしょ?」って言ってほしかったランディは、「看病は嫌」で、「未亡人」に、ひとりに「なるのはもっと嫌」だったのかな、って。
ここまで妄想でした。
「ごめんねぇ……」の櫻子夫人が、見るごとに人間味を帯びていくのが興味深かったです。楽日までに、彼女は人間になれたのだろうか。


ランダムスター夫妻のきつね。もはや人間ですらない。

人間ですらないんだけど、まあでも間違いなく夫婦のメタファーじゃん?
disc1のベッドにぬいぐるみはゴリラとウサギの2体いたんですよ。disc2のベッドにはきつねちゃん1体しかない。disc1の夫妻は2人ぶんの意思がひとつになってたけど、disc2の夫婦は2人合わせてやっと1人ぶんの意思しかないんじゃないってことなのかな、って思ったりするわけです。目に光のない化けきつねのさ。
あともう一つ言いたい、変更で登場したぼろぼろきつねちゃん(最高でしたね)をベッドの夫人の横に寝かせるシーンがあるじゃないですか。聞いたときも見たときも、背筋がさっと冷えた。村の娘っこを山神さまに嫁入りさせるとか日照り続きの村が池に人柱沈めるとか、ああいうのの類型にしか思えなくて。
あのシーンの感想探すとランディの優しさって仰ってる方が結構多くて、そういう見方もあるのか!とびっくりした。(一応念を押しますが否定してるわけじゃないです。解釈は自由って我が国の陛下は仰っている)
どっちにしても、ランディと繋がってた鎖に絡まったまま夫人の手を取るかわり、あのきつねを繋いであげたってことなんだと思うですけどね。それは、まあ、優しいことなんだけど、残酷だなあと思っちゃうんだよね。あるいはランディは、あそこに自分の魂を置いていったのかな。そうしてランディは人間をやめ、「悪魔」になった。

 

河野まさとさんパール王。彼だから許されるキャラ造形。

いやこのdisc2、パール王について話す方話す方皆さま必ず顔が良いと仰るのですがまあとにっかく顔が良い。顔の良さに担保されたキャラ造形すごいと思う。絶対の正義、それにそぐわないものを人と見なさず排除する視野の狭さ。このパール王、一歩間違えばただのサイコパスなんですよね。サイコパスというかあれ、いつもニコニコしながらいざ対立してみると語る思想がぶちヤバい人。私の信ずるものが正義だ(この正義は正解と同義である)、そうでないものが存在していてはいけない。あのパール王が良い王様に見えるのはあのお顔と、所々に覗くコメディの空気なんだろう。Jrの背中の押し方だったり、バイクから両手を放してまで押さえる脇の下だったり、少しぎこちない行進だったり。そういうものが彼を「愛すべき王様」に見せている。そんな気がする。

いやしかし、パール王の声でぱっと出てくるのが河野さんのパール王になっている今、この少し高くて深い声をもう聞けないのが切ない。円盤待ってます新感線さん。ジュニアの人もいるし選択カメラでぜひ。

 

他の人たちについてはまあこのあたりで語ったので…。ライビュのまとめが一番見やすい。

序盤に観たメタマクdisc2感想

メタルマクベスDisc2ライビュ(夜の部)感想 - Togetter

メタルマクベス感想と妄想 - Togetter

そのうちまとめ直す気がするdisc1感想もある。

ちなみに作業BGMは福山雅治の化身不終夜でした。