つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

メタマクdisc1のWOWOW放送、本当にありがとう

まずはですね。ありがとう劇団☆新感線!待ってました!
メタマクを映像に残す決意をしてくれて本当にありがとう! ハラハラしてた*1ので本当に嬉しい。
編集がゲキシネ方式なのは演劇版は円盤でのお楽しみってことなんでしょうか。お金貯めて待ってますね!待ってますね!
それとは別に昼夜ライビュを配信してくださるのもお待ちしています。色んなDisc1が観たい。RakutenTVとかで。

一番の目的を達成したのでゆるゆる好きなとこ語りいきますね。


「私の殺意」in寝室

Disc1夫妻で一等好きなのが額をくっつける仕草と相手の手の触れ方なんですよ(2つあるのは気にしないでほしい。)
寝台に突き飛ばしたランディに夫人が額をくっつけてる!!!知らなかった!!!!しかも夫人のこの表情!!!!!
全私が勝利の喝采を上げた。らぶらぶじゃん。
この二人の距離感というか、相手のことは誰より自分がわかってると言わんばかりの空気が好き。

一年前にさんざ騒ぎ倒したんだけどこの場面、腰を下ろす動きや乱れる吐息の艶めかしさが最高だと思うんだ……。二人が過ごした歳月と夫への深い愛情が伝わってくるのと同時に、その中でも揺らぎもしない王殺しの意志が"女の残忍さ"を際立たせているのが最高に好き。

あとですね、顔。王殺しを囁かれたランディの表情。
目の前の彼女が愛しくてたまらないって言わんばかりの顔!!!!!
こんな愛情にあふれた表情で王殺しを呑んだんだよこの男。
このときのランディ、内容の吟味なんかしてなかったと思う。世界で一番愛しい妻が世界で一番自分の幸せを願ってくれているって信頼だけで返事したでしょう。
編集班がこの表情をこの色味で抜いてくれたことに感謝しかない。ありがとう編集。ありがとう新感線。言い値を振り込むのでどうか配信してください。


「せめて、家族のためと言ってくれ」

レスポール王のこの言葉。王ではなく家族と呼んでくれって言ってるように聞こえて震えあがった。Disc1レスポール王、ランディのことを家族のように愛している…*2
王の眼差しと声色が、人殺しをさせる重荷から逃れようとしての発言にはどうしても見えなかった。長年仕えたランダムスターに負わせた殺しの咎を、王の務めとしてだけでなく家族の情で引き受けることにしたんじゃないかなって思った。主従の誓いはときに裏切られるけど家族の縁は切れないからさ……。

あのレスポール王とランディを見せられてからの「すべてうまく行く」、威力絶大だった。
レスポール王がランディにかけた魔法が、夫人の言葉に塗り替えられていく。
物語の中で誰かの認識を言葉で書き換えていくことを魔法と呼んでいるんですが*3、あれはどちらも魔法だった。レスポール王が塗り替えたランディとの関係を、夫人の言葉が上から塗り替えた。「王」は「家族のために」戦えと言った、「家族は私」だ、って。"王は家族ではないでしょう?"って。
実際レスポール王は王位を血を分けた息子に譲ると宣言してしまっているので、王冠と家族愛をつなげて語るのは大変に効果的だと思う。
ところでこの曲の歌い出しで濱めぐ夫人がランディの手を一瞬握ってすり抜けていくのが大好きなのでどう映すかなー全景来るかなーと期待していたんですが、まさかの繋いだ手がほどける瞬間の大映しで完全に意表を突かれました。ピックアップ配信されるとは思ってなかった。2幕の寝室といいグレコ一家といい、重なる手をメタファーにするつもり満々ですね編集班。人は手の動きに意思を読み取る動物なので単純なインパクトも見込めるし深読みしたい層をえぐることもできる手口だと思います。演劇っていうかアニメっぽいけど。*4


レスポールJr.

2幕のあの笑み!ねえ!!!
「だったら、斬るしかない!」と言い切った後、かつて「家族」だったESP国の兵士の血をべろりと舐めたあの表情。グレコ暗殺を命じて玉座で笑ったランダムスターと同じ、ぎらぎらとどす黒い目の光。
ゼマティスの生首をちらっと見ては吐き気を堪えていた(何度も生唾を飲み込んでいる)Jr.が、復讐の殺戮でこんなにも残忍に笑えるように"成長して"しまった。それも、かつて仲間だった兵士の血で。

怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。

善悪の彼岸』/ニーチェ 

松下Jr.はこの言葉がぴったりだと思う。ランダムスターを憎み続けたJrが一番似ているのは疑心暗鬼に陥った悪王ランダムスターなの、本当に残酷で本当に正しい。彼等は王の器を持てなかった。
誰かを殺した人間は殺されることを恐れるようになる。復讐を願い続けた人間は他の殺しも恐れなくなる。
ランディもJrも、必要な殺しを躊躇わない冷徹と配下を愛する寛容を両立させることができなかった。レスポールのような"理想の王"にはなれなくて、それでも王冠を求めるなら王殺しの儀式をするしかなかったんだろう。と思った。
だから、ランディ殺しを達成できなければ"Jr."が「父上の亡霊に取りつかれる」んだろう。どう見ても王に溺愛されていたJr.が父の亡霊を恐れる理由、そのくらいしか思いつかない。

*1:特にd2。某J事務所所属が2人も出ている。

*2:公演期間の終盤、レスポール最期の言葉に「息子のように想っていたのに……」という台詞が追加され目撃者は情緒をフルスイングされた。

*3:どろぼうの名人中里十(著)を読んでみてほしい。

*4:時代劇をあまり見ないからそう感じるかもしれませんが、ゲキシネ編集って映画というかアニメっぽいコマ割りじゃないです?