つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

ダーウィン・ヤング感想(6/13S)

ダーウィン・ヤング、1幕半ばでオチが見えたからニース・ヤングが可哀想なのをゆったり眺めるイベントになってる(いま幕間) Twitter

だいたいこんな感じで観ていたし演出とキャスティングの大勝利だと思いました。訳と曲の不味さを演技と演出で殴り飛ばしているような作品だった。

以降、全体的にネタバレを含みます。
新鮮な悲鳴はこちらをご覧ください。
これら全て私の主観であってあなたの観て感じたものがあなたの真実ですよ。


全体の感想

血と罪の歴史は繰り返すよ、だってレオは「あの日」駅に現れたダーウィンを構えたカメラで出迎えた。拝借してきた父のカメラで。
ダーウィン・ヤングの息子もきっと彼の親友を殺すよ。敬愛していた父親が30年前に犯した罪、昏い真実が暴かれることから肉親を守るために。

末満氏演出がうますぎる*1と思ったのこれです。ふせったでも言ったけど。
少年ヤングの現在で物語を止めず、数分もないほんの一コマで30年後の未来を示唆するの流石だよと思いました。終わらない思春期、呪われた血と祈りの歴史をつくり続けてる人はさすが違うね。

深読みオタクの幻覚である可能性も勿論べりべりあるんですが。あるんですが、ラナーの罪の証拠が写真、ニースの罪の証拠が音声に残ってるならダーウィン・ヤングの罪の証拠は映像に残ってるものではなくて?(構図と対比に囚われたオタク)


冒頭にも言ったけども。「ダーウィン・ヤング」はこのシナリオに末満演出をあてたキャスティングの大勝利だよ。
シナリオって言っちゃった。TRPGじゃないんだぞ。でもこれ戯曲って呼ぶよりシナリオの味だよ……ライトでジャンクなシナリオあじ(貶してはない)(貶してはないんだけどミュージカルを期待してもミステリを期待してもがっかりしてしまうだろうからこういう言い方になってしまう。急遽チケット足すくらいにはうまみを感じてはいます、個人的には。)
ライトでジャンクな良くも悪くも思春期オタクのラノベ味に、何を思ったかベース素材に実力派俳優を持ってきた結果、生身の人間の迫真演技でラノベ並みの情緒ぶっ壊れ味を摂取できるようになりました。お子様ランチのプレートになぜか特大焼き立てステーキが乗っている、それが「ダーウィン・ヤング」という演劇です(過言)

これは誇大表現を好むオタクの過言ですが、実際この演目が口に合うかどうかは親世代が口に合うかとほぼイコールなところはありますよ……。メインストーリーは愛で受け継がれる呪いの連鎖だけどメインコンテンツは親世代の激オモ情緒だよ……。

 

中身の話

だいたいふせったーで騒いだのでそこに出してないやつです。

60年前に祖父ヤングが(父と慕った)大隊長を殺し、同じローブと同じ歳でパパヤングが親友を殺し、歴史は繰り返し少年ヤングが同じローブと同じ赤い紐で親友を殺す、でしょこれは。赤い紐を血の繋がりとしてるやつでしょ。
社会進化論の話かと思ったら表面取り繕っても賤しき狐の血は変わらないって話だった。
それを進化論とされてたらもやっていたがまあ別にそんなこと言ってなかったからいっか……。

これは出し損ねていた1幕時点の感想なんですが、2幕まで観た今もだいたいこういう構造だったと思っています。こういう構造だったと思ってるし、1幕時点でニースもヤングも赤い紐で親友を殺すんだなまでわかるのが流石の末満演出ですよ。ど〜だろ〜ね〜?とかされるよりサッパリしててずっと食べやすいお味になってると思う。

私はこの作品のメインテーマを原罪*の連鎖、正義より真実より家族(父)を守る愛と認識しており、わかるでしょ楽しみにしててね!と声が聞こえてきそうな16歳のラナーとニースを丁寧に重ねた演出に大変にこにこしました。
*この場合の原罪はキリスト教の用法*2ではなく、「血の繋がる父が犯した罪」の意です。


ジェイ・ハンター、「正義」の元に闇落ちした男。

父の誕生日プレゼントから"真相"に思い至ったとき、葛藤とか衝撃とかあるかと思ったらすとんと表情と眼の光が消えたの戦慄しちゃったでしょ。優先順位は割とわかる、でもそのためらいのなさはやべえよ。これは賛辞です。
ラナーの額の傷についてニースに突きつけた右手が震えていたのはなんだったんだ。黙って当日ぶちまければ「駆除」は滞りなく成ったじゃないか。この男の真意、よくわからない。よくわからないけどわからないなりになんか、持っている自覚のなく、己が欲しくても届かないものを当たり前に持っている友人が嫉ましかったのかな。と思いました。
 
嘘をついたことは一度もない、隠している疚しごとはない、そう言い切る彼の己の見えてなさに(創作上の)愚かな人類が好きな私はにこにこしました。バイオームでこのヘキ*3開けといてよかった。父の言いつけか自分の意思でもなのか知らないけど、ジェイだって第七地区の母親のことを黙っているくせにね。

ここまでを観劇翌日に書いたんですが、現在の印象は『ジェイは許せなかったんだな、自分よりも恥ずべき血筋を持っていながら自由で幸せそうなニースのことが……』です。理由はここに書いたので割愛。

バズ・マーシャル、道化をやれる大人な子ども。

親世代3人の中で、いちばん大人びた視野と気遣いを持っていたなーと思う。甘えて頼れる大人がいないから子どものままでいられなかった子どもなんでしょうね。羨ましいと素直に認められるのは大人だよ、のやつ。

(おそらくどちらも第一地区だが)尊敬できない父親を持つバズが、大人姿のときにおしゃれだけどネクタイをしていない服装なの胸に来ますよね。ラナーのときにも言うんだけど、父が息子に手ずから教える格調高いネクタイの結び方を尺とってやった後にそれがお出しされるとさ、“ネクタイの結び方を教えてもらえなかった”の文脈が乗るじゃん……?
そんな彼が息子のレオには仕事も個人も尊敬されて、でも親しみを持たれた良好な関係を築いているのを見るとよかったね……とほっこりしてしまいますね。まあそのレオくんはあんなことになってしまうわけなのですが。


ダーウィン・ヤング、優しい強さで秘密を抱えた男の子。

ここまで意識してよけてきたんだけど役者の話していい? 渡邉蒼くんすごいね!? 知らないうちにすごい素敵な役者さんになっている。*4失礼ながらクリエ演目の若手主演でこんなに繊細な演技をする人を見られることになるとは思ってなかった。
少年ヤング、レオやルミにぐいぐい手を引いてもらった(比喩)ときの表情の動きがめちゃくちゃ可愛いので見てください。大人しくてはにかみやの少年の、器用に出せなかった喜びの感情がぎゅっと圧縮されたようなあの芝居を。
あともしかして少年、ダンスがすごいうまいですね? ダーウィン少年は踊りがへたっぴとこの子ダンスうめえな……がワンシーンからわかるのおもしろい体験でした。

少年ダーウィン、少年ニースとはまた違う擦れてなさで微笑ましいですね。不当でなくても悪意で嵌める者がいること、誰も間違ってなくても救いもなくなるときがあること。そういう世界の理不尽が、善意と良識でなくなると信じているような。
ちょっと脱線するんだけど、追悼式であのニース・ヤングの息子、ヤング家の優秀な坊ちゃんを求められたらちゃんとそれなりの態度を取ってみせるのにこにこしちゃった。

レオの葬儀の日、尊敬できるままでいさせてくれと一度は突っぱねたニースに自分から腕を伸ばして抱きつくじゃないですか。私はあそこにダーウィンという少年の優しい強さを見ました。父への赦しという強さだし、気づいた真相と己の罪を(おそらく父が壊れないように)墓まで持っていく覚悟の強さだよ。これは私の強火の幻覚です。
レオもテープの中身を黙ってはおけない理由が半分泣いてるような「人を殺したんだぞ」であって、それ以上でもそれ以下でもないのが優しいだよ。私怨でも蔑視でもない、断罪とも違う。この世代、どちらもひどく子どもだけどそのぶんひどく優しい。彼らの父親は息子を慈しんで育てたんだろうと思わせてくれていいなと思います。
ルミもダーウィン少年の手を離してやる優しい強さを持っているのでこの世代の子どもらはみんな優しいだわよ。血の歴史は繰り返すのでダーウィンの息子はきっとルミの息子を殺すけど。30年後、レオが持ってたカメラが示す父の罪を隠すために。


ラナー・ヤング。「ミュージカル」の表題を一身に背負っている(中の人が。)

2曲目の革命先導ソングがまじですごいので各位あれを観てください。明るい歓びの滲んだ声で希望と決意に満ちた目をして、まっすぐより少し高いところを見つめている。洗脳された少年の目だよあれは。
ヤング家三世代の合唱でも、ニースとダーウィンがまっすぐ正面見てるなかでラナーだけがちょっと高く遠くを見てるんですよね。ライトを目に映す関係なのかな。でも「パレード」の演説ではここぞのとき(陪審員に判決を迫るところ)に客席を撃ち抜いてきた役者さんなので、何か意図があるのかなと思っています。

偏見とキュートアグレッションによる発言をするんですけど、「父」と信じた飼い主のもと、吊られた餌の成功に向かってひた走るあの少年の名が“Runner”なの、走狗を想起させてさいあく(賛辞です)だなと思いました。単語の直訳が「使い走り」なのもさいあく(賛辞)です。実業家Runner Youngと看板つければ(競争に勝った成功者として)走り続ける者のニュアンスに聞こえるところが悪趣味だよ(賛辞です)
オタクなので悪趣味ミーニングに大興奮してしまうんですね……。歴史モノではなかなか食べられない(史実なので)味なもので……。

46歳の父ラナーは前髪を右側に寄せているから額の傷痕が見えているのに76歳の祖父ラナーは傷を隠すように左に固めて下ろしているんですね。彼が30年前のジェイの一言をずっと引きずってることがわかり、よきです。ジェイ・ハンターの亡霊に囚われているのはニースばかりではないんだなと。君ら腹割って話し合えよ。息子は幾分報われるぞ。

第一地区でネクタイをしていない人を初めて見た。ジェイにそう指摘されたときの狼狽と、誤魔化し取り繕おうとするうすい焦りが可愛くていいなと思いました。身に慣れた鎧が崩されて隙間から覗く内心や価値観のことを私は愛好しているので……。
あれを観てから思い出す「私は一度もネクタイをしたことがない」、めちゃくちゃ気にしてるじゃん……の味がしてね、いいですよね。
自分の人生すり潰して真相に辿り着く可能性を消すため生きてきたニースは過敏に食ってかかるけど(かわいいよね)、ラナーはラナーで誰かにもう一度“気づかれる”くらいなら自分でそういうキャラクターだと演じるほうが気が楽なのかもしれないね。痕跡を消すことで隠れるのを続けているとどうなるか、劇中で示されているわけだし(思い出に怯え亡霊に脅え自責で傷つくニース・ヤングの生き方ですね。)

この場面の直前に「ウィンザー・ノット」を配置して、“格調高いネクタイの結び方が父から子に受け継がれていく”をやるの本当にひどい(好き)と思いました。
ラナー・ヤングがネクタイをしたことがないのは、ジェイの指摘を数十年引きずってるのに(たまには、あるいはソトでは)ネクタイを結ぶことを選ばなかったのは、彼がネクタイの結び方を教わっていないから、『第一地区にはラナーを愛した父がいない』からでは?
その見方をするとニースは誰に教わったんだろうって話になってきますが、まあ、父ではないのは確かですよね……。第一地区“らしく”見せるために独りで調べて練習したのかな。だとしたらかわいいね。


ニース・ヤング。本日のメインディッシュです。

観てない人に向けて言うならそんなことはないですなんですが、観た人に向けて言うならそういうことですお分かりかなんですよ。
物語の主題である繰り返す罪と秘密のど真ん中にいるというのもあるんですけど、……それを差し引いても多いんですよね出番と見せ場が……ありがとうございます。
物語上の役割の話とおれの嗜好の話とどっちからしよっか。前者かな。後者はさんざ話したしな……。

なお私の情緒は今回彼にとち狂っているので文も一層とっ散らかっています。念押ししますが私は創作物の登場人物とその中の人を完全に切り分けて認識する派のオタクです。


ニース・ヤング、父の原罪*5と息子の立場のどっちも重ね持っているのが一際かわいそうだなと思います。

ラナー・ヤングが抱えた「父の罪*6を誰にも言えない、父当人にも問えない」の重しだけでなく、ダーウィン・ヤングも背負う「自分の罪を父にも言えない(彼を守るための罪でも)」「親友を直接手に掛けた」もWで持たされてるんですよね。脚本家の愛*7を感じるしかわいそうにね……とも思う。
抱いた疑念、知ってしまった真相を父に問うことをできなかったぶんだけ、ニース少年はダーウィン・ヤングよりも弱くて臆病なひとだったのだろう、とも。
劇中のニースくん(16歳)はそういう感じではなく、察しが悪く幼いけど裏表がなく(腹に抱えたままにしておけない、が適当かもしれない)素直な子なので、生来の気質というよりはジェイ・ハンターにぶつけられた害意による変質の結果なのではないかと思うんだよね。
幼さと言っても純粋さと言ってもいいんだけど、16歳のニースが持っていたその邪気のない爛漫さが、おそらく初めて直面したのだろう人間の悪性で致命的に損なわれてしまうの、すごく可愛いと思います。より具体的に言おうとすると胡乱なワードしか出てこないのでこれ以上は控えますが。


2幕の観賞会場面、涙声でニースをゆるく責めた祖父ヤングが立ち去った後、膿んだ傷に指を突っ込むように回顧と独白をはじめたニースについ言えよパパに直接よと思ってしまったんですが、30年前のあの時に言えなかった彼が今更言えるわけはないのでおしまい*8です。
自分が犯した罪だけだったら告白できないことなかったかもだけど、たぶんニースが言えない秘密は罪ではなく、その動機のほうなんじゃないかな。『あなたがヤングの息子ではなく第九区域の反乱軍だったと知っている』を、彼は衝撃が一番強かった当時そのときに言えなかったんでしょ? ダーウィン少年と違って。じゃあ歳重ねて言えるようにはならないよ。
30年前のあの後、父に全て話すことができていれば、記憶で歪めたジェイ・ハンターの亡霊に吐くほど追い詰められることにはならなかったんじゃないかなあ。少なくとも、独りでは。

ニース・ヤングが急速に精神の安定を欠いていくのは仕舞い込んだはずの赤いローブ(彼にとっては罪の象徴なのでしょう)が表に現れてからなのはひとつ事実ですが。その前の場面である追悼式でもバニラケーキのにおいにえずいてるので、彼は30年間ずっと自分を追い詰めていて、現れたローブは決壊のトリガーに過ぎなかったんじゃないかしら。


あの観賞会でラナーが「いつまでお前の八つ当たりを受け止めなければいけない」って言い捨てたじゃないですか。俺らは当時の状況とニースの動機を知ってるからそんな言い方ないよぉって思うけど、一方でニースのあれが八つ当たりであること自体はその通りなんですよね。
30年前の行動を、ニースは誰にも相談せず一人で抱えて一人で決めて一人で決行した。もちろん望んで選んではいなかっただろうけど、ニース以外に行動責任を負わせることはできない。ニースをそこまで追い込んだその人は死んでしまったわけだし。
でもラナーだってジェイを殺したのがニースだと知ってたら、たとえ動機を知らなくたって荒れる息子に八つ当たりをやめろなんて言わなかったと思うんだよね……。息子と孫の間がギクシャクしてるのを察する感受性と、だからって説教したりダーウィンに変な介入したりしない気遣いを持ってる人なんだし。何よりジェイの亡霊に囚われているのはラナーもだし……。
(革命の世代だから忘れて前に進みなさいぐらいは言ってしまうかもしれないが……。諍いも困窮も知らないで育った臆病で優しいニースくんにそれは無理だよ、君がそういう優しい世界で奪い合いを知らない人間に育ててたんだからね……。)


それはそれとして、画面を見ながら不安定な目で赤ワインを舐めているニース・ヤング(46歳)を見るとどうしても”小康”の二文字が浮かんでしまい私の情緒はだめです。ばつが悪そうにバズの作品をこれまで観たことがなかった(怖ろしくて見られなかったんだろう、バズは下級区域のドキュメンタリーを中心に撮っているそうだから。)と答えるとことか、歳の割に表情や声の抑揚があどけないことに消耗してるなあと見てしまうんですよつい。だってあの場面のあどけなさ、16歳のニースくんが持ってたあどけなさとはまるで色が違うじゃん?
理想のエリートという鎧の下は16歳の頃のまま止まっている、ではなくて、断罪に脅えなくてもよい場所ではもう、いつでも快活で機嫌よく見せる(上級階級の)大人をやれないほど弱っているんだなあと思っています。かわいいかかわいくないかでいえばめちゃくちゃ可愛いとも思ってる。かわいそうはかわいいなので(そもそもかわいいと思ってなければ印象を詳細に留めてることもないし……。)


1幕でニースが息子の肩を掴んで目を合わせ、(父さんはどの階層の人間でもそれぞれ役割があるって言ったよね、という息子の問いに対して)「第九区域は例外だ」と答えたの今思うとじわじわくるな……。あのときのニースの発言意図は『だから第九区域のことを知る必要はない』で、その真意はヤング家の血の真相に気がつかないでほしいだと思うんだけど、そのために自分のルーツの存在価値を否定するの自虐的やすぎませんか。いやもう生きることが自虐と自罰みたいな生き方してるんですけどこの人。酒の飲み方も半分くらいそういう感じじゃん。40度の蒸留酒をボトルから直に流し込んだら舌から胃まで粘膜やられますわよ。吐くほどストレスで胃がやられてる人間がする飲み方じゃないのよ。
やり過ごすための飲み方がひどすぎるせいで、鑑賞会での赤ワインが誰かと心地よい時間を過ごすために選んだ酒なんだろうなと思わさせるのつらいもの(好きな場面です)がありますね。話の内容がしんどくなってくるとボトルに手が伸びるのも。心を逃がす鎮痛薬の使い方なんだよそれは。


シーンの話ばっかりしてるけどおビジュの話する?話が合わなかったらごめんね。
ひょっとすると主人公より衣装差分が多いニース・ヤングですが、個人的には基本衣装がいちばん好みなんですよね。観賞会のときのも可愛いと思うし追尾を決めた決定打は1幕で赤いローブをまとった瞬間の表情だったんですけど、あのスーツ姿こそ教育長官ニース・ヤングの在りようを象徴するような衣装だなって思うので……私は物語と文脈でテンションを跳ね上げるオタクです。

かわいいでしょ、ニース・ヤング(46歳)のスーツの着方。喪に服してる以外のときでも黒で揃えた、非の打ち所がないソト向きの格好。タイの柄やラペルピンなどのあそびがひとつもない、立場を示すだけの記号。上等ではあるがそれだけ、個の嗜好が1ミリも入らない。
ニース・ヤングという男そのものじゃん? かーわいいだよ。

あと父・子との対比で見ても映えるので好き。わたくし比較の獣*9なので。
父親であるラナー・ヤングが上までぴっちりボタンを留めつつも襟のないカラーシャツを着ている。第一区域では浮いて見えるラフさだが、一方でネクタイがなくてもおかしくは見えない服装。
息子であるダーウィン・ヤングは父と憧れてそっくり同じ格好をしたがるが、そうなるにはニースが手を貸してやる必要がある。そして喪服以外の彼は、ネクタイのない制服を着ているわけです。
プライム・スクールの制服にもクラバットとそれを留めてるブローチはあるけど、たぶんあの話においての線はネクタイとそれ以外で引かれていると思います。バズの格好があれ(スカーフを水兵のリボンみたいに結んでいる)なので。

……いや認めますけどね、細身の男性が遠くから見て映えるシルエットで選ばれたジャケットとスラックスにネクタイ立襟シャツを一番上のボタンまできちんと着こなした姿を見ることそのものも好きですとも。私にとって燕尾と同様「舞台の上で見る格好」なので。日本人の骨格でスーツ姿が線の繊細さを際立たせて見せてる男性、舞台の外にはあんまりいなくないですか。
脱線しました。戻ります。
戻りますって言ったけどふせったーで喋り散らかしてないことあんまりないな。


ルミ・ハンター、キャスティングの勝利その3。

ダーウィン・ヤング、正直クリエで聞いてさえ役者のお歌が上手くなく聞こえる曲たちなんですけど(ミュージカルとしてはおもんない理由の1つ)、なんかこの子が歌うと曲も声もめちゃくちゃ映えるんですよね……。びっくりするよ、ルミが歌うと光の粉が飛んでるみたいに場がきらきらする。
台詞がつべの声劇みたいな発音なのと歌では声色が違うのもあって*10アイドルポップな歌い方だなーの印象なんですけど、なんか……この演目の曲だとそれが妙に映える(賛辞です)んですよね……。彼女のために誂えたようにさえ感じる。台詞としての歌と聞いても違和感が全然ないの。
禅さんのお歌はこの曲たちでこれができるの、元四季の杵柄すげえな……って感じなんですけど、鈴木梨央さんのお歌は演目とキャストのマッチングが生み出した相互ブーストって感じ。ナマモノだからのおもしろさよね。

ジェイの亡霊に囚われていた女の子が自らジェイを継ぐことを決めたの胸アツでしたね。あそこで伊達メガネを外していたら大はしゃぎしてしまったが、そんなことはなかったので普通程度ににこにこしました。私は構図と対比に囚われたオタクなので……。

→22日ソワレで確認したらまさにそのタイミングでメガネ外してました。私が前回どれだけニースヤングしか見てなかったかわかろうもんだよ。
外見は何も変わらないが内面は大きく変化している、ダーウィン・ヤングとお揃いでそれはそれでエモーショナルだと思います。子どもの社会たる学校から1人外へ出たレオ・マーシャルの喪失で、残された少年少女が思春期に別れを告げる。皮肉で綺麗な構図だなだし末満センセに演出させたら絶対得意なやつじゃん。終わらない繭期に取り残されるTRUTH&FALSEを描く人がこっちがへたなわけないもんな。


レオ・マーシャル

「人を殺したんだぞ」の言い方が““““良””””なのでそこを見てくれ。あの一言だけで、レオが善良で優しい男の子なんだなとわからせてくる(そして、ダーウィン少年は今からこの親友を殺すんだ……と俺たちの胸に突きつけてくる)名演だぞ。

いやそのごめん、言うことあんまりなくて……。違うんですよ嫌いなわけではないんですよ、私にこのタイプへのヘキがない、それだけのやつです。
少年少女世代で見ると芝居の繊細さはダーウィン少年がダントツ、お歌のうまさ(地力がどうかではなく、この演目でうまく聞こえるかどうか)はルミがピカイチ、物語の役割上もあまり言うことがなくて……(彼に『未来はない』ため。文字通り。)
夕暮れの校内、初めて父のカメラを触らせてもらう場面にウィンザーノットの曲だけ(ピアノ?)を流すの使い方百点満点すぎて拍手(無音)しちゃった。これはほんとに音を出さないで拍手したやつです。

やっぱり曲は外部委託してホンに専念しようよぉ脚本家さんさ。譜面にただしくメロディーをなぞれば情景と情感が浮かび上がる、曲のことはそういう音楽の魔法が使える作曲家に任せて貴方は情緒にえぐりこむシナリオにこれからも特化して?

*1:これスラングかなって気はしているんですが、オタクはすぐ語彙力がなくなり、そうなるとある文化圏のオタクは「うますぎる」しか言えなくなります。楽しかったとか感動したとかではないんですよ、うますぎてその出力に打ちのめされるんですよ。

*2:創生主の言いつけより自分の意思を優先すること。最初の人類が犯した罪を子孫たる人類はみな持っている。(神の子の犠牲で罪の対価は支払われ、今のヒューマンは己の罪と弱さを自覚し神の赦しを乞えば赦される。これを新しい約束、新約と呼ぶ。って牧師さんが言ってた。)

*3:制作側は分かっているがキャラクターたちには自覚のない醜悪さを観ていると一周回って愉しくなってくる。

*4:後でぐぐってミュ北斗のバットの子だと知り、ダンスが得意な人なんだなの印象だったあの若めの人が……の感動をした。ご年齢を考えればけっして下手ではなかったと思うんだけど、キャラがそもそも茶化し寄りだったのとリンの山崎ちゃんが超弩級だったので大貫さんと同じ場面でも見劣りしないキレ良い身のこなしだなくらいしか覚えてなくって……。

*5:キリスト教本来の言葉の使い方とは異なるが、この演目においては祖父の殺人と秘密が「原罪」だろうと思われる

*6:ラナーの”父”大隊長は"子"らへの嘘と裏切り、見捨てる決定が罪であり、ニースの父は血で継ぐ身分の偽りと暴動主導者であった過去が罪だろう

*7:可愛がってるキャラクターほどひどい目に遭わせるタイプの創作屋、いる。この衝動をしてキュートアグレッションと呼びます。

*8:おしまい:物語中の時間軸では手を打つには遅すぎる状況であると後から判明すること。

*9:FGOに出てくる人類悪(ビースト)のひとつ。成長すると嫉妬に育つ。たぶん七つの大罪と対応してる。

*10:私は歌声に合わせて台詞の声をチューニングする役者が好きです。声色1枚重ねた上で人物としての演技をする高レベスキルを要求してることは知ってる。