つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

エリザベートはじまりましたね。

古川さん初日回なのかな?たぶん。
生の悲鳴はこちらに投げ込んでいます。あとこの記事は好きな箇所ピックアップです。信じて。

一個人の感想であり、またあなたの感じたものがあなたの真実ですよ。

古川トート閣下

ご降臨から『黄泉の帝王』してて腰を抜かしました。支配者の風格と大人の余裕があるじゃん閣下……うっそお……(賛美の表現です)
‘19エリザで見た少年ルドルフのことおともだちのカブトムシくんみたいに思ってそうな*1ヒトを知らない人でなきものをイメージしてたのでひっくり返りましたよね。
黒羽ルキーニ回だったんですけど、結婚式だったりカフェだったり、ルキーニがお膳立てした舞台に現れたトート閣下、要所要所でルキーニに視線をくれてやるんですよ。ちっぽけな信奉者の献身を受け取り褒美を与えるように笑みを含んだ視線を投げかける。
ルキーニの忠実な献身に認知で応えてやるの、己のカリスマ性を存分に理解して施していらっしゃって、その、推されるということへの自覚がおありですか閣下そうですか……。人心掌握もお出来になる……。

この絶対的な君臨者を主として戴きたい、わかる。ワタクシまさかこの点でルキーニの気持ちに同調する日が来るとは思ってなかったけど、わかる……。できれば一生わかりたくなかったけどわかるよルキーニ、この主人は尽くしがいがあるよね……。君臨する御姿を夢想して作った舞台で常に想像を超えたカリスマを見せてくださる主君、それはもう、推すよね。忠誠とは命をかけてなす道楽と見たり。

絶対的な君臨者、黄泉の帝王トート閣下ですが、エリザベートのがらんどうの瞳を正面から見た途端に悠然とした振る舞いが崩れてそのまま「その瞳が俺をとらえ*2」とはじまるのでまさに一目惚れなんだなといった感がありました。この人形に生の光を灯して愛を捧げられたくなったんだねトートくんは。死を与える黄泉の帝王が生きた人間の愛を求めてしまった、そらルキーニくんはおもしろくないよな。(黒羽ルキーニ、閣下が口にした「皇后への愛」を聞くときすごいやる気なさそうな顔をする。*3

1幕と2幕の前半くらいまで、シシィの前では泰然自若の帝王を崩さないでいながら、背を向けたり彼女の背後だったりシシィから見えないところで余裕なく歯噛みしたり儘ならなさに苛立ったりした顔してるの可愛げだったよ。魂の闘いだから弱みは見せないというのももちろんあるだろうけど、好きな子の前ではカッコつけたいように見えて。
2幕ではだんだん、帝王の仮面をくずして本心をむき出しにして俺を愛せと迫るのもそれはそれで可愛げだと思う。俺を愛していないなら死を与えるのは嫌だ、黄泉の王としては身勝手で我儘な癇癪で、恋に溺れているなあって感じだった。
ラストシーンでシシィから唇を離したトート閣下が、そこから暗転まで大きな喪失感を浮かべているのが印象的でした。抱きつくシシィの背にゆっくり腕を回してそろそろと抱き返す、そのときはあんなに嬉しそうなのに。閣下は「黄泉の国で安らぐ(=死んだ)エリザベート」じゃなくて「生きているエリザベート」がほしかったんだねと思いました。しらんけど。

 

佐藤フランツ

歌がうめえ…………。
バルジャン観たのでお歌がパワーあるのは知ってたつもりだったし前期のフランツだった田代さんも平方さんもお歌がべらぼうにうまいのは見て知ってるんですけど、実際それ目当てに通ってたところも半ば以上あるんですけど(最後通牒前の哀願と回答が好きで……)、歌声の威力に考えてたこと全部ぶっ飛ばされて「歌がうめ〜〜〜〜」しか考えられなくなってしまったの濱めぐさんと岡さん、あと山崎さん(山崎ルキーニ)以来だった。*4 
歌がうめえよ……。象牙色のベルベットみたいにつやっつやした声であんなはっきり滑舌もよいの、すごいな……? 

人物の印象としては、無力で真面目できっちり話せば判ってもらえるような気が“してしまう”フランツだなと思いました。なんかすごい言い様になってしまいましたが賛美の表現です。
なんだろうこう、真面目でいい子のお坊ちゃんで、かと言って視野が狭いのでも考えが浅いのでもなく。彼に“変われ”を求める人の多くよりよほど広くアンテナを張り、見聞きしたものをよく考えて選び取れる最善手を指しているんだけど、ただただ力のないがために周囲からはどうにも手緩い、歯痒く感じさせる選択をして続けているような。そういう感じの無力さ。常に憂いをまとっているのもその印象を強める理由かもしらん。いやまあ全て私の幻覚ですが。

香寿ゾフィーとの回だったんですが、1幕の皇太后ゾフィーと執務中まあ目が合わないんですよ。相互に視線は向けているんだけど、タイミングが違う……というかフランツくんが外してる?のか?あれは。
執務室なのか謁見の間なのか、入室したゾフィーが隣に立ったときは顔を上げて目を合わせるんだけど、その後から俯きがちになるんですよ。しばしばやや下手側に視線を落として顔を俯けるようになる。ゾフィーが視線をやっても目が合わず、陳情する者に意識を戻した後にちらりと母を窺うのを何回か見た。
たぶん伸ばしかけた手がゾフィーの一瞥で止まるのを見たからの印象なんだけど、母の“正しさ”をよく知ってるがゆえにすぐ諦めるんだなと思った。自分の気持ちやシシィ含む他者の主張が間違ってると思ってはなさそうなんだけど、オーストリア帝国のこの宮殿においてはゾフィーが最も正しい、権力って意味でも齎す結果の望ましさって意味でも、というのを知っているみたいな。
最後通告でシシィの話を真剣に聞いていたフランツが、具体的な行いを聞いた途端に「しきたりだ」っていつもの憂い顔になるの、よく矯められていらっしゃる……と思っちゃった。香寿ゾフィーだったので*5余計に。

こちらフランツくんもシシィに一目惚れしてて可愛らしかったですね。お見合いの場で“あの子”を見つけてから蕩けそうな目でずうっと追ってて、ゾフィーの声かけにお利口にお返事する声が甘い甘い。今まで『甘い声』って抑揚や息の抜き方に興奮を滲ませる演技のことを指しているんだと思っていたんですが、そういうことじゃねえんだな声そのものが甘いんだなという“わかり”をしました。なるほどな声の糖度を上げるって概念的に可能なんだな……。
仰々しい首飾りに「もったいない」って首を振る花總シシィに自分もふるふるっと首を振って留め金を外すの可愛かったです。ふわふわの笑顔で首を振って促すように留め金を外すの、おにーちゃんが妹にプレゼントするみたいな癒しがあったよ。

そんな陛下が「悪夢」で閣下にもルキーニにも食ってかからん勢いで激怒してるの見てすごい嬉しくなっちゃった。刃物持ったルキーニにも激怒して掴みかかるフランツはじめて見た気がする。己の為政を息子に民に否定されてもすぐに凪いで威厳を保ち続ける陛下がシシィの命が危ないとなったら感情を抑えず猛然と怒るの、よくない?
わかってないのか認めたくないのか、オーストリア皇后として生きている限りこの世にシシィの安寧はないのを受け入れる気はなさそうなのが、この彼が通した唯一のわがままがシシィなのを思わせて好きです。


黒羽ルキーニ

やべえなあれ(賛辞の表現です)
なんか……狂信者とはァ!こういうものですヨォ!みたいな……。その活力と熱量どこから湧いてんの……。いやうん好きですよ……でもあの君なんだろう、今まで見たことない類の迫力があるね……。
‘19エリザのルキーニが歌唱isパワー山崎さんと演劇モンスター成河さん*6で後任ルキーニは大変だろうなと思っていたんですが、最推し帝王トート閣下への狂信と悦楽が炸裂しててぅゎゃ……と思いました。賛美です。
これは心からポジティブな感想であり手持ちの語彙が綺麗じゃないためご気分害したらほんとごめんなんですけど、ちょっとしたダムくらいは沸かせそうなそのねっとりした熱量きもちわるいよ。

目がな。いつ見ても瞳孔かっ開いてそうでこわいんだよな。その目がぬるぬる輝いてるのが、そしてトート閣下を見てるときと100年続く狂想劇「エリザベート」を登場人物と接さずにぶん回してるときとでおんなじ、狂信と享楽を綯い交ぜにしたような目をしているのが、ぅゎこわ……ってなる。そこ不可分一体なんだ……。
黒羽ルキーニ見てると、そうでしたね人間が本能的に恐怖をおぼえる対象は未知と不理解なんでしたね思い出したよ。という気持ちになれる。今期の古川トートが"推せる"主君なのにはわかりを得てしまったけど、それでもなお黒羽ルキーニのことわかんないよ……。
いやあの本当にそういうところが魅力だと本心から思っているんだけどきもちわるいよ……。黒羽ルキーニは剥き出しで純度が高く所以のわからん激情は脈打つ内臓のようにきもちわるいものだと俺たちに教えてくれる……。

ルキーニが何考えてるかは全っ然当たる気しないんだけど、狂信そのものに悦楽を得ていそうだなっていうか、忠義とは享楽と見たりっていうかな香りがする。『忠義』の語義に『私欲を挟まない(忠誠)』があるらしいんだけど、きみは忠義を尽くす行為そのものが私欲なんだもんなそら二心はないわな……。
閣下からの見返りや反応がほしいという私欲はなさそうで、なんだったら閣下からの感情や認知も究極的にはどうでもよさそうで、狂信と忠誠行為そのものが私欲で構築されているみたいな、その熾火の燃料どこ……?みたいな不減不滅の熱があるんですよね……(そこがいいんだけど)きもちわるい……。

このルキーニ、冷酷で気高い黄泉の帝王トート閣下の実在を確信することそのものが報酬系作動に直結してません? 繊細な人はご飯食べられなくなりそうだからググらないでほしいんですけど、脳に電極ぶっ刺す系の報酬系スイッチが自前の神経回路でできちゃったみたいな……。生物の生存本能とあまりにかけ離れてて私の脳が不気味の谷起こしてるんだと思う。

そこまで妄信突き進んでるのにご降臨したトート閣下が「(皇后への)愛」って口にするの聞いた瞬間めちゃくちゃやる気なくした顔するから笑っちゃったよ。強く厳しく冷静で冷酷な、完全無欠の黄泉の帝王が推しなんだなって思っちゃった。そこにいるものを通して作り出した理想像を推すタイプかな。わかるよその気持ち。
まあそうでもなきゃあの山崎トート(好きだよあのトートも)をああも熱心に推し続けられなさそうだしな……。でも山崎トートはルキーニの狂信じゃあ満たされない(知らんが)んだもんな……。

*1:なんか、なんかピュアっぴゅあだったんですよ2019年の古川トート……

*2:この回そう聞こえたんだけど空耳かもしれない

*3:上山ルキーニは帝王の隣に並び立つ器として解釈一致だったのかうっとりしてました。

*4:田代さんのこともべらぼうに歌がうめえお兄さんだと思ったし思っているんですが、私が衝撃受けたのはラウルくんの第一声で、男の人で歌唱以外の台詞でも声の角をちゃんと丸めて発声する人はじめて見た、変声期終わった男性でもできる人いるんだって印象が大きいんですよね。

*5:あくまで好みの話なんですが、香寿ゾフィーのことをフランツへ向けている愛情と客観的に見ている面がすごくバランスよいなと思っています。

*6:オタクは好きだよねこういう表現、と思ってたら先日某アフトで同じご職業の方にも「噂の」「演劇モンスター」言われてるの聞いたときは爆笑しましたよね。