つまるところ。

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検察側の証人感想

8/31観に行ってきました。おぼえがきおぼえがき。

毎度毎度ですがあらゆる個人団体宗教思想に関係ない個人の感想です。
末節からない幻覚を見る類のオタクが語る強火の妄想です。あなたが観て感じたものがあなたの真実だよ。まじで。


最近まで存在が災害の生まれながらの魔性がいる作品*1を摂取していたためにレナードくんに魔性の才能があるよ……と思ってしまい。
レナードくん魔性の才能があるよ、彼を愛したものが彼のために自発的に破滅していくオム・ファタール。俺のためにそうしろなんて言ってもいないのに。魔性いうても彼の根性が悪いとかそういう話ではなく、彼自身はむしろ世間一般的には善良な感性なるものを持ち合わせている存在なんじゃないかな、と思う。わかんないけど。
わかんないんだけど、道で困ってたおばちゃんを助けたのもローマインにひどいやり方した弁護人を責めたのも、レナードくんの半ば本心から出た衝動的な行動じゃないかと思ったんですよね。したいから人を助け計算抜きで人を愛する、それが彼のいいところでだから彼は天性の災害たりうる。レナードがそういう人だから、自分を投げ打って彼のために何かしてあげたくなる人が出てくるんだろうな、と。

まーあそういうだけの存在じゃないのも確かなんですけどね。自身で言ってたし。「おばちゃん」を喜ばせたくて話し相手になってたのは嘘じゃないけど「おばちゃん」と仲良くしとけば困窮したときに助けてくれるんじゃないかって下心もあった。しかも裁判の証言ではそういう"不利になる思惑"の一切を話さないで証言してのけてるんだよねレナードくん。事務所での会話や逮捕後のやり取りもありはしたんだろうけど、マイアーズに煽られてあんなに興奮しているようだったのに、検察側から提示された海外旅行の話でさえそれだけが事実のように説明した。レナードは素朴な善良さを持っているけど、それだけの人間ではないんだよなたぶん……。
「信じてもらうためじゃない!事実を話してるんだ!」だっけ。その通り、陪審員を味方につけるのはウィルフリッドの役割で、あのときレナードが信じてもらう必要があったのは実質メイヒューとウィルフリッドだけなんですよね。んで実際、彼らは自分らの体験を持ち出してごまかしにしか聞こえない「金持ちごっこ」が事実なんだろうと結論付けている。ブロンドガール誰だよとか彼女や旅行会社にも話を聞く必要があるかもとか考えてない。

レナードはそこまでぜんぶ計算で言ってたのかもしれないけど、個人的にはそこまで自覚的ではなかったんじゃないかなあと感じた。言っちゃまずいことではないだろうと思った、から興奮のままに言葉を吐き出した、ぐらいの思考処理が本人の意識しないところでなされたんではないかと。まるで子どものように。
話変わるけど子どもが素朴で善良な存在ってのは大人の幻想なんですよね……。そりゃそういう面がないとは言わないけど、内的規制として働く理性や倫理がまだインストールされてないから残虐なことを罪の意識や悪意なしにできちゃう存在でもあるからな子ども。カブトムシが大好きな気持ちと大事にしている意識と脚をもいでみたり角掴んでもがくのを楽しんで見てたりする行為が矛盾なく成り立つのが子どもだよ。話が戻ってくるけどレナードくんそういう生き物な気がするんだよな、なんか。小瀧さんのずっとフルボリュームみたいな声のでかさ*2も相まって、中学校によくいる君の音量メモリはどこだい?みたいな性根が悪いじゃないんだけど思いついたら即動き喋りしてめっちゃ手がかかる生徒を連想した。

ローマインにひどいやり方した弁護人への憤りとローマインより15も若いからって理由でガールと付き合ってる現状は、彼のなかではおそらく矛盾なく処理されている。うっかりすると自分が殺したってのに「おばちゃん」への厚意も噓偽りない本心として存在しているかもしれない。嫌いだから殺したわけじゃないし。
レナードくん、あそこで刺されなくてもそのうちガールに捨てられそう(自分がエミリーにしたように!)だなって思うんだけど、そうしたってたぶん知り合った別の女が彼のために自発的に破滅しそうなのであそこでああなるのが世界の安寧には一番あれだったかもしれないなと思いました。いえこの世の中に死んだ方がよい命などはないんですが、レナードくんはハリケーンというか渦潮というか生きることが他者を破滅させる災害のような存在のあり方にしかなれないんじゃないかなあと感じました。


裁判所の上手側、検察側の彼ら4人が「チーム」のように見えていたのが裁判中ずっと不思議だった。
マイアーズさん、レナードやローマインが話して状況が揺れるたびにすっとこちらを見るんですよ。他の証言者たちが話してるときのように視線を合わせて頷いて見せるのとは違う、観察するための冷静で心を見せない眼差し。
そもそもマイアーズさん、裁判が始まる前にこっち見てる目がすんごい怖いんだよな……。個人的にはあそこが一番こわいまであった。威圧とか侮蔑とか冷たい目だとかでは全然ないんだけど、それどころか感情や温度が全然見えないんだけど、なんだろう、隔絶? 調理される鯉ですみたいな気分になるというか。どうすれば事がうまく運ぶか持ってき方を試算してるんだろうな、というか。
そういう人が、検察側の証人たちが彼を向くたびちゃんと目を見て大丈夫って言ったり戻って悔しそうにしてるのを励ましたりしてるのが、彼らを利用するのでなく本当に気持ちを分かち合ってるように見えてたのがどこか不思議だったんですよ。無罪判決が出たときに悔しそうなのがプライドが傷ついたからではなさそうなのとか、その後はウィルフリッドではなくレナードにだけ怒りを向けているようなのとか、ずっと不思議だったんだけど、レナードくんがエミリーを殺した事実が暴露されたときになんとなく腑に落ちた。
この人たちは我々……我々と言うのが正しいかはわからないけど、我々陪審員を説得して罪への裁きを求める同志だったんだろうなと。マイアーズが集めたからではなく、彼らのそれぞれが決定的証拠にはならないけれど確かな違和感を持っていたから証言台に立った。自分の意志でそこにいたから、事実の全てを同じ重さで扱うのでなく陪審員が"真実"に誘導しやすいように話した。
事務所の3人が具体的には言えないけど(グレタ風に言うなら)「彼はいい人」だから冤罪を疑わなかったみたいに、彼らは決定的な証拠はないけどレナードが犯人だと確信があった……のかなあ。真実と欺瞞じゃなくて真実と真実だったんじゃないかなーたぶん。ベールの向こう側にある真実を確かにしなくては、って人としての使命感みたいな。可哀想なエミリーのためなのかレナードをこのまま社会に放してはならないなのか、彼らを奮い立たせた共通のなにかがあったんだろうね。


ウィルフリッドも陪審員の意見を傾ける目的は同じだし、ジャネットやローマインへの誘導の仕方、真実のみをと謳う法廷の場で事実を伏せるだけでなく嘘も厭わない尋問や証人をわざと挑発して被告人への悪感情を増幅させるやり口なんかマイアーズよりよっぽど悪辣だと思うんだけどね。これからも仕事の付き合いがあるだろう(そしてもしかしたら男性である)他の証人には事実の指摘と確認のみで留めてて、感情でなんか言うことはしてないっぽいところも含めて悪辣なんよ。そんでもレナードやメイヒューに向ける表情と陪審員に向けるデフォルトにマイアーズほど温度差がないからか、陪審員への対峙の仕方がなーんか人情というかベテランの懐の広さというかに見えてそういうやべえ行為を流しちゃうんだよな。

マイアーズの年齢で同じようにしても人情じゃなくて感情制御の未熟に見えるだろうから彼には使えない武器なんだけども、判事のカンに障るっぽいのはなんつーかあの極端な切り分けも一因なんじゃないかな……チームの仲間に見せてる感情を判事にもほんのちょっと共有するくらいの……私はあなたを(自分たちが正しいことをしていれば正当に汲んでくれる)頼りになる身内と思っているんですよ感というか……甘える関係つくるの下手そうだなこの人……いや法廷の場でそんな関係が覗き見えたらそれこそ腕がないんだけど……。
言いたいことまとまってないから話がめっちゃうろうろしてますね。マイアーズさん、陪審員に向ける情に左右されない厳格な法の番人みたいな姿と証言台に立ってくれる同志に見せる繊細な気遣いをする情に満ちたひとのような横顔と、まるで別のひとのようでこう。陪審員は彼らと同じ意見と持つことはできても共感や連帯意識をもつことはきっとできない。そういう気にならないというよりはそこに添うことはさせてもらえないというか。どの選択をしたところでラインを越えて味方になることはできない。彼の味方になる、彼のために何かをしてあげられる、それができるように錯覚できちゃうレナードやウィルフリッド側の質感がやべえのかなという気はした。いま。

1幕の最後でレナードが「信じてください!(だっけ?)」って言ったとき彼を見もせずすっと陪審員に目を向けたマイアーズさんが、裁判の終わりごろにローマインにふっと顔を向けたのを見て、もう勝ちの目はないんだなって感じた。闘っているときは、諦めていないときは陪審員を見ていた人だったので。

法廷の去り際に、何も言わずレナードと真正面から顔付き合わせてしばらくじっと睨むように見ているマイアーズが思い返すと好きなんですよね。顔を歪めることもなく静かに、けれど怒りに満ちているのが伝わってくるような数瞬。オチわかって思い返すと本当に彼だけに向いた怒りをもっていたんだろうなと思った。いっぱいに湛えられたその怒りはウィルフリッドにはちいとも向いてなさそうで、彼は純粋に罪に等価の罰を求めて動いてたんだろうなと。

*1:『烏に単は似合わない』可愛くて楽しいですよ。視覚イメージを共有できるのでまずは漫画からをお勧め。

*2:ローマインを脅すときは音圧も下がった低い声だったのでそういう芝居なんだと思う。