つまるところ。

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スリルミー大千秋楽おつかれさまでした。(にいまりペア大楽回の感想です)

スリルミー大千秋楽おつかれさまでした。 ありがとうございます好きです。

好きです、なんだけどあの、にいまりペア、こんな緊張の強い関係だったの???????引きで見たから???????

観たものをまだ消化できてないんですけど、なんか、愛って片方だけじゃ成り立たない、双方向の感情なんだな……って思いました。

言うて他の方の感想見るかんじそこまで大きな変化があったわけではないっぽく、いつもより重度の幻想を見ているなと思ってください。*1あと毎回言ってるんだけど役者さんと登場人物を完全に切り離してみる派です。表現者とその作品に抱く印象は別物なんだよ。

 

新納彼、厳しいね?????

新納彼、愛がないわけではなさそうなんですよ。なんだけど、なんか、すごく厳しい。厳格な教師みたいな、“私”の失態やミスを許さない厳しさというか。見てなかったのかしてなかったのか“私”を見る目元にいつも浮かんでいる笑みの気配がなくて、だからあんなにあそびがなさそうに見えたんだと思う。
そして新納彼から鷹揚さが見えないだけで、2人の関係はこんなに空恐ろしく映るんだな、って……。 

このペアの2人は主従関係というか師弟関係というか、はっきりした役割分担があるなあと思っていて。キスの仕方とかスリルの楽しみ方とかを“彼”が“私”に教え込んだんだろうなって感じ、しません? 全公演終わったので言っちゃうと、庇護を伴う精神的な支配と従属の関係みたいなのがさ、見えませんでしたか。幻覚ですけど。
こわいものから守ってくれる関係だから、新納彼が大きな音立てると俯いたりびっくりしたりする田代私は普段の“彼”なら見せない面に驚いてるのかなって、思っていたんですけど。

もしかしてあの、君たちかつて関係性の躾に身体的な苦痛もお使いだったりしました……?
柱を蹴りつける音に“私”が慌てふためき俯くのとか届いていないタバコの煙にひどく怯えるのとか、あれは滅多に見ないからじゃなくて、
“彼”の指示にうまく応えられなくて蹴られたり息ができない状態にされたり、したことあります……?
躾って言っちゃったけど(初めて感じたし初めて言った)、慈愛や赦しのないあの行為は躾と呼ぶしかないじゃん……。 

煙草に火をつけて一服してるときは「弟」をぶつけられても比較的穏やかに流すから、"私"への当たりが強くなるのは余裕がないときなんだと思う。基本的には“私”に大人ぶるし、そう言ってほしがってる(と少なくとも“私”は思ってそう。)*2無視するって形の罰は与えてるけど強く睨んだり振り返ったりはしないのも、大人っぽい"彼"と言わずにおれない*3子どもの"私"の力関係が表れているのかなって思った。

 

"私"の心のひび割れ、いつから?

"私"の心はいつから壊れ始めたのだろう。にいまりペアを見るたびに考えるんだけど、今回は速攻で(自分のなかの)こたえが出た。

長くて辛い半年間。"彼"と離れていた時間に"私"の心は耐えきれなかったんだなって。

「僕はわかってる」の最後、「わかってるだろ……」で狂喜から一転、ぞろりと表情が落ちて。あれいったい何……!?まだ1時間以上あるのにこれから何を見せられるの!?って思った。
あの眼の奥にじつは寂しさとか迷子の切実さとかがあったの?わたしが見落としただけ?それならその方がずっといいと思う。マッチを拾い上げてからの爆発するような歓びも"片鱗"だなって毎度(後から)思うけどさ、狂喜からゼロに落ちるのそれこそ人間の情動じゃないじゃん……。
でもこのときもう……だったら「契約書」での思案も「超人たち」よりあと加速していく欠落もラインが綺麗で構図が楽しい(じごく)と思うよ……再会したときから決めていた、壊れた心の最後の願い。

  

全ては“私”の計画通り

田代私が「契約書」で考えてる顔するって噂には聞いていたんですよ。ほんとだ考えてる……。“彼”の言葉に抗いも見せず泣きそうに顔をゆがめて震えていた“私”が、「文書?」*4っておうむ返ししてから「認めるんだ」まで、“彼”の言葉を意識の外にして、遠くを探すように目をこらしている。*5立ち上がりざま勢いよく振り返ったときには、泣き出しそうな切迫した表情にぱっと切り替わって。
あの姿が“私”の思案なら、タイプライターの前で目を上向けて考えてるのはフェイクなんだろうな……。このとき新納彼は背を向けて“私”を見ていないのに見られているように仕草を作る。印象付けたいのは“彼”ではなく審理官に、なのかしら。

話変わるんだけど、新納彼はニーチェの思想(を曲解した理想)を語るとき本当に力強く嬉しそうにするね……。*6「やさしい炎」でも満ち足りた顔はしているけど、有能感に基づく自信をもっているのはあのときだけな気がする。気のせいですきっと。

 

スリル・ミー!!

なに?????なにごと???????

テンポだかメロディだか歌詞だか何が違ったのかわからないけど*7、なにかがかけ違ってトロッコがひっくり返ったみたいで。がちゃがちゃに乱れた音の渦の中、新納彼は怒鳴っていて田代私はわめいていて、爆発をぶつけ合うようなやり取りと目まぐるしく動く表情と叫ぶような歌声と、加熱していった激情がエネルギーはそのまま揺らがない脅しに転じて。

なにごと??????????

わたしこの曲はいつも頭の端っこでピアノの拍を浮き輪かわりにしてるんだけど、途中から見失ってぐるんぐるん振り回された。なんでかはよくわからない……遠かったから……?
こんなスリルミー(曲のほう)体験はじめて…みたいな感覚だったんですけど2人はこんな感じだったかといえばだいたいこんな感じだった気がする。にいまりペアは互いに見せたい姿を見せているから、どっちもが余裕をなくしたらこんなにも分かり合えない人間2人になるしかない。普段は幼くてびくびくしてて訴えるときも見上げるようにしてるけど、田代私は新納彼とほとんど身長変わらないおとこのこ*8なんだよね。いくら主従関係ができてるようでも、従の側が放棄すれば力づくで言うこと聞かせはできない。
激情が怒りじゃなくて泣きや懇願に傾きがちなの“私”のお育ちの良さだと思ってるんだけどさ。「もっと!」「お願い!」って切なげに懇願をぶつけてた“私”が「今は駄目だ!」を聞いた瞬間一転して(一見)冷静な脅しの姿勢に切り替わるのが、あんなに怒ってるのに言動の感情制御が完璧で、ぞっとするほど頭が良くて能力が高くて、ふだんの“私”は丁寧に丁寧に加減してあの関係をつくってたんだな……と思う。あのくるりとした黒い目の真顔で“彼”からびたイチ視線を逸らさず落ち着いた足取りで詰め寄っていく全身からぜんぜん鎮まってない激情と“本気”の気配がするの、あれはもう両手を上げて降伏するしかないじゃん……。

ところで今回のスリルミー、「もう逃がさない」からぬるりと這うような質感がなく発破のような直情さで、だから「いつかのように」で目を閉じ“彼”に頬ずりする異様さが際立つみたいなとこありませんでしたか。あれは“彼”も突き飛ばすよ。そのまましてたら粘度の高い執着に頭から呑まれちゃうよ。

 

世界に宣戦布告する“彼”、砕けていく二人

「計画」でどす黒い殺意をひらめかせてから笑みに残忍さが滲むようだった新納彼がさ、「この町破壊してやる」を荒々しい興奮と熱量はそのままに笑顔を引っ込めて叫ぶように歌うの、あの、あれは幸せそうなの……? 2年前に見た柿澤彼(泣き出しそうに吐き出して歌う)と比べたらそりゃ幸せそうだけど、世界を打ち倒さなければならないと思ってそうなあの“彼”は幸せなのか……? でも“私”に向き合ってるときは高揚して楽しんでいるような残忍な輝きもあるからかな、「超人たち」の“私”はこっそり“彼”の様子を見るどころじゃないもんね……。目をまん丸くして衝撃に感情を塗りつぶされたような顔で、堪えてた動揺が飛び出すように歌い出す声の強さで、動きはどこか芯の抜けたようで、どれもばらばらなのが衝撃の強さという感じでかわいそう。
というかあのですね、「超人たち」の最後の2人の表情、あれは一体何の感情なの……?*9 2人の目の先にあるもの、おそらく犯した罪が強い衝撃と情動を引き起こしているのはなんとなくわかるんだけど、2人のあれをこういう心理って引き合いに出すもののストックがわたしの中にない。
にいまりペアと成福ペアは(特に“私”のほうが)強く音を出して呼吸をしていて戯画的だなあと思う。このペアがそれをするとかえって、殺人の罪は甘やかでも物語的でもない、質量を伴ったみにくい事実って感じがするなって思った。個人の感傷なんですが。新納彼のぎらぎら興奮した目は口元に笑みがあっても残忍さが隠れていないで、いつもの「大人っぽ」いカリスマみたいな空気は微塵もないただの犯罪者のようで。田代私の強い恐怖の表情は他のとき、荒れた“彼”や炎へ“こわがる”をするとき浮かべる表情と全然違っていて、見られている意識が頭からすっぽ抜けているようで。 

ところでわたしは“彼”のスリルを受け取る「やさしい炎」と“彼”の気持ちを共有できない「超人たち」を対比と思って見ているんですが。犯した罪を見つめながら“彼”から渡されたものを“私”がどうするかなって。
田代私、このときからだと思うんだけど、“彼からふれられる”ことに反応示さなくなっていきません……? 反応は示すんだけど、「やさしい炎」で抱きしめられたり「計画」で首を掴まれたりしたときのうっとりした陶酔をしなくなっていくじゃん……。
抱きしめてくれた“彼”にしがみつくように抱きついてもまなこが動揺と恐慌に見開かれたままで、興奮した新納彼が抱きしめて首筋に顔を埋めて口付けすらするのに、気づきもしていないみたいに恐怖で固まったままで。*10はじめから壊れてはいた心だけど、形のなくなってしまうほど砕けていった致命傷はここなんじゃないかな、と後から思い出して感じました。 

田代私は心がぼろぼろ砕けていくわけですが(わけですがじゃない、)新納彼が砕かれていくのは本心と身体以外の全てって感じしません? 理想像も未来もプライドも手から離れていくように砕けて、その全部が“私”の誘いに乗ったからで。誘いっていうのかな、誘導? “私”が不安を訴える言葉の、感情でないものに手を伸ばすことでどんどん理想の自分が保てなくなっていく。一見ただしいような選択から少し遅れて。
例えばさ、田代私は新納彼の本心(「俺が本当になりたいのは、彼みたいな弁護士だ」)を絶対知ってたと思うんですよ。子どもでいるのをやめたから、気まずそうな“彼”を気遣って知らなかったって答えてあげてるだけで。*11
だって田代私、「『弁護士』と相談する時間をくれたんだ」をあそこだけかなり強くはっきり言うじゃん。「スリル・ミー」や公園での決別でぶつけた破裂するような叫び声じゃなくて、強いけど輪郭のはっきりした硬い音。“彼”がずっと隠してた本当に欲しいものを(人を救う弁護士という、眩しくてまっすぐで子どもっぽい夢を)知っていて、手を伸ばさずにいられないものを差し出したんじゃないかと思ってる。
“彼”が離れていくのを止めたかったからっていうのもあると思うんだけど、あそこで弁護士のように「話すこと」を教えたことで、“彼”は殺人の実行犯だとバレなくても“私”の偽証の共犯者になっちゃうんですよね。警察が真実を見抜くほど有能ではなく、けれど“私”の疑いが晴れるほど馬鹿ではなかったときの保険になる。“私”が“彼”への裏切りを、自首をしなくても一緒にいられる保険。

ここからも幻覚なんだけど、田代私は自首するつもりなかったんじゃないかなーとも思うんですよね。公園での決別で「待てよ!!」って叫んだ後、田代私は俯いたままひどく動揺してたんですよ。少しの間だけど、足は止めても振り向かない“彼”を見ることもしないで。
ここで“彼”が「先に裏切」るだろうこともきっとわかってて、黙って自首しても(ひょっとしたら自首しなくてさえ)同じ結果になるのに思わず引き止めてしまった、より傷つく選択をしたのが駆け引きでもなんでもない“私”の衝動だったらすてきだなって。傷つくだけなのに求めずにはいられないの、2人の関係だしスリルを必要とする“彼”とおんなじだし、すてきじゃん? 

途中から“私”の話になってくの自分でも笑っちゃうんだけど、まだ遠目で新納彼の感情を追えるほど新納さんを見慣れてなくて……つい……*12

 

感情、残ってる???

砕けていく二人って言いながら砕けてく“彼”の持つものしか話してないな?と思って(砕けてない“私”の話はちょうした)項目が増えました、「超人たち」から後ぼろぼろ見えなくなっていく“私”の情動が心の砕けていくようだという話をですね。
「脅迫状」で「きっと払うよ」「金持ちなんだし、当然だろ!」って明るい声でお返事する田代私の顔に何の表情も浮かんでないの、見ました……? 新納彼はタイプする手元を見てたり“私”の言葉に現実の痛みを刺激されて苦しそうにしてたりで“私”を見てなくて、だから気づかないんだと思うんだけどさ。田代私、立ち上がって振り向いたくらいまでずっとそういう顔してるんだよね……。歩きながら「うちもきっと〜」って話し掛けるときにはもう笑ってるんだけどさ。*13“彼”が背を向けてるときでも上向いて考える仕草をするような子だったじゃん君……。
余裕がないというよりも、そういうのを感じるところがなくなっていってるような不穏な何もなさの印象を受けた。*14

取調べ室でやっぱり感情の乗ってない顔のまま低く話していた田代私が、ぱんっと明朗なあの*15声で「君は嘘を吐いて自分だけ逃れようとした」「僕は真実だけを話した」って言い出すのすごい、すごいあの、こちらの情緒が一気に掻き回されましたね……。前は…まえ聞いたときは柔らかくて少し高くて慈愛のような、穏やかに凪いだ大人みたいな声して言ってたじゃん……そんな、「まるで弁護士」みたいな淀みなく力強い声……。
嘘をついたり言い訳したり、ここでの新納彼が卑怯でちっぽけで憐れな人間らしいように揺らがない田代私を超然としているっていうこともできるのかもしれないけどさ、いやあの、わたしは嫌だよ情動を出さないんじゃなくて見せるような情動がないような感じを超然としてるって呼ぶの……。

「僕を組んで」で見上げた新納彼の少年を攫ったときみたいな笑顔からふいっと顔を背けて、声を殺して必死に涙を堪えているような悲しみでいっぱいだった田代私が、新納彼が抱きしめた瞬間に壊れた人形みたいにごとんと表情をなくしたの忘れないからな……。何も映していないまなこの表面がまだ濡れたまま黒いガラス玉みたいに輝いていたのを、さっきまでそこにあった少年の感情の残滓みたいな涙の跡を忘れないからな……。
新納彼が力をかけたときのぐにゃりとした力の抜け方が意思に添うてるんじゃなくて意思がない物が動かされてるようなそれで、口付けられてびく、と胸から跳ねた身体に意識の宿ってた安堵を覚えた(拒否反応のようで胸は痛くなった)
世界に引き戻されたのに切実な表情で振り向いても冷静な目をした“彼”とはすれ違うように一瞬視線が当たるだけですぐ後ろを向かれてしまうの本当に可哀想でしたね……。糸を引っ張られるように一歩踏み出した足はそこで止まってしまって。

  

孤独で幸福な世界

“彼”といられる幸福と“彼”が離れることへの恐怖しか残っていない田代私が新納彼の告げた「孤独だ」を強く打ち消したあの瞬間、“私”は本当に孤独になってしまった。と思った。"彼"の言葉さえ届かない、誰とも心を通わすことのない一人きりの完全な幸福に。
だってあの顔見た……? 涙を流す“彼”が掛けた「孤独だ ひとり」に目を見開きかけたのを「いや!」って否定して、続く「離れられない」ではどろりと融けるように笑んでいて、“彼”の言葉も涙も意識に入り込めやしないの。
幼くてこわがりの田代私が"彼"に揺り起こされた最後の恐怖を自分で打ち消してしまったから、もう新納彼は"私"にスリルを与えられないし、“私”が"彼"に恐怖を取り去ってもらう必要もなくなってしまったんですよ。キスも言葉も心もいらない。
そんなの孤独じゃん……。物理的に一緒にいたって一人でいるのと変わらない。「いい加減な気持ちならいやだ」って、心を与えられない不安に目を揺らしてた“私”がそうやって幸福になってしまうの哀しすぎるでしょう。
わたしはにいまりペアに夢を見ているので、あの“彼”の言葉を心の壊れた親友への哀れみやあの頃の“私”がしんでしまった悲しさだと思って聞いています。もう届かないけどさ、何もかもを壊してまで手に入れたかった“彼”の気持ちを最後にもらえていたらいいなあって。

  

まとめきれてないけど好きなんですよ

ところでさ、「見殺しにはしないよ」の主語は絶対『僕が』だと思うんだけど(特にこのペアは絶対そうだと思うんだけど)新納彼なんで気づかないの!?って毎回思う、“私”の顔を見てないからですねわかります。田代私ここでだけ、永遠をうたうときのあの顔をしたんですよ……。*16
でもさ、にいまりペアはさ、このセリフだけめっちゃくちゃ声がとろりとするじゃん……蜂蜜みたいな音になるじゃん……。

取調べ室の新納彼が「二人でいよう」って、誘拐する少年に向けてた笑顔と声とそっくり同じもので田代私に向き合うから、“彼”は何もわかってない、いまこの人は“私”をなんにも見てないんだな……って気持ちになりオタクは情緒がぐちゃぐちゃになった。好きです。 
新納彼は取調べ室で“私”が見上げていることに気づいても、人間らしい荒れた感じをあんまり隠さないよね……。*17“私”の前ではありたい姿と自然の振る舞いの乖離が小さくいられたのかな……だといいな……。 

前も言った気がするんだけど「スリル・ミー」でジャケットを脱ぎ落としサスペンダーから腕を抜きってしていく田代私の色香がという話をですね。新納彼も艶っぽいんですよもちろん、ゆるくまとわりつかすように手にしたネクタイがしなやかに抜けて落ちてくのとか、ベストのボタンを片手でするする外していくのとか。手慣れた迷いのない動きのひとつひとつに見惚れる艶がある。 
幼いそぶりを好んでしてる田代私がそういう、相手のために服を脱ぐ仕草で色香が漂うの、“彼”仕込みって感じですごくこう…テンション上がりますね……。*18ジャケットの厚い布地が滑り落ちる瞬間に目を閉じてちょっと頭を上向けるの、内から現れるシャツの白と一瞬だけ見える白い喉元と静やかな表情と、あの幼子みたいな仕草の子からふわっと花の香るようにそういうのが覗くの、“私”の天性*19でも身に染むまで教えられたのでも一度言われたことをずっと覚えているのでもすごくこう、いいよね……。すけべ親父みたいなこと言ってるなわたし。
あとこの2人たちさ、ネクタイの落とし方お揃いじゃないです? タイミングは色々な気がするけど(大楽は間を取っていた)手のひらをする、と抜けて行くのとかさ。

 一度言われたといえばね、この“私”「僕と組んで」で口付けられるときに自分から口を開くから。見て。がらんどうの瞳で引き倒されてされるがままに目を閉じた“私”がうすく唇をひらく様、30日のみんなぜひ見てね……。

契約書にサインするとき、出せったら、って苛立った表情で言われて一瞬固まってからゆっくり手を差し出す“私”が指をぜんぶ伸ばしてるの、田代私のほうだったと思うんだけどあれ可愛くなかったですか。人差し指だけを伸ばしてたのにそろっと手を出すときに伸ばしてるんだよ可愛くない? で、“彼”も一瞬手を繋ぐみたいに指先をまとめて握ってあげるの可愛くない?
普通に言ってもナイフへの恐怖が勝って動かない“私”を一瞥して声と表情にさっと苛立ちを乗せて命令する新納彼、やっぱり躾って感じがする。普段はしないからちらっと見せるだけで覿面に効果があるの手慣れてるし、怯えながらでも従ったらご褒美をくれるのもこう……。手を引っ張られて座り込む“私”がちっちゃく悲鳴をあげるのすきだよ 

「死にたくない」でただの少年みたいに弱々しく震える新納彼が「誰にも見られたくない」って言ったのを聞き届けるかのように、何も浮かんでない顔をごろりと向けていた“私”がゆっくり向こうへ頭を動かして重い腕をゆっくり動かして目を覆うの、あの晩“私”がしてあげられた唯一のことって感じで好きだよ そんなになってもまだ“彼”の言葉を叶えるような
暗い檻が怖い、死刑が怖い、先の見えないこれからが怖い、って震えている新納彼が、おそらく“私”を付き合わせてスリルを楽しんでいた頃からつきまとっていた首に巻きつくロープや暗闇で笑う悪魔から目を逸らす術もなく腰が抜けたまま首を振って後退るしかできないのすごく可哀想 鉄格子の冷たさに怯えているほうがまだ怖くなかったね
ありもしない、って言ったら可哀相なんだけど(というのは現実の痛みに悲鳴を上げている“彼”の心が出していたサインだったんだろうから)想像の死の気配から逃れようとして結果、本当に死の手が届きそうなところまで進んでしまったのが哀れ

 

そんなスリル・ミーにいまりペア、なんと5月30日17時から配信があります! いろんな権利で大変だったらしいのでたぶん一回こっきりの機会です、みんな見て!! "彼"が鷹揚で”私”がひよこしてて双方向の愛があるから安心して見て!!
でも"彼"は人間に引きずり下ろされるし"私"の心は壊れる。それは間違いない

*1:今回でわたしが人の声そのものじゃなくハコに反響してる音含めて声の高さと認識してるのが判明したりしたので。TVや円盤は音の上側の厚みが切れると思ってはいた……

*2:だから「大人っぽくなった」って答えるんじゃないかな、あのとき

*3:田代私、躊躇ってから口にするよね

*4:ピアノの音とぴったり重なる拍でとんとんって落ちる「ぶんしょ?」が好きです

*5:田代私は目で考えるんだなあ、と思った。欲しいものを、手に入れる道のりを目の前に描き出すみたいに。

*6:ニーチェ?いつから哲学なんか」って嬉しそうにするからこの“私”は哲学が趣味だよ(幻覚)本を捲るときも、背表紙確認して目次を見て中ほどまでページを繰ってじいと読んで、「ニーチェのどこに書いてある、火をつけろって!」って反論する前に彼から見えない向きでうん、って納得するような顔する

*7:田代私が「僕は騙されない」と言ったのに何故かびっくりしたことだけ、覚えている

*8:「計画」の最後で田代私の頭が新納彼の胸元ちょっと上あたりにまで来ててあっ大きいってびっくりした。なるほど「頭をくっつける」(配信で言ってた)ような……。なんか、再び対等になったようなしずやかさがあったね……

*9:福士彼はまさに強い喜び、成河彼は目を逸らすことも許されない恐怖といった印象を受けた。広山ペアは2人とも、一線を超えてしまったことへの強い強い衝撃があって、山崎彼はひび割れた心での喜び、松岡私は罪への恐怖、みたいな。

*10:やがてぐったり力を抜いた田代私の泣き疲れたときみたいにしょぼつかせた目の、ひび入った水晶みたいに光が入っているのが憐れましくて好きだよ。無力でちっぽけな人間みたいな。

*11:あと護送車まで至った“私”が本当に知らなかったら、それこそ小さく震えて泣き出しそうじゃない? 妄想強度が高い幻覚なんですけど。

*12:Q.田代さんは? A.LNDだけで今期スリルミの倍くらい拝見しており。チケ取りしやすかったんよ……

*13:「車で出かける?」って聞いたときみたいな笑顔で。さっぱりして一見何の含みもなさそうな。

*14:ところでこの後、「金さえ出せば〜」からも音の終わりが綺麗に揃うのお二方の関係の長さと表現力を感じましたね……。距離もあるし姿勢も違うし歩いてもいるのに、少しのぶれもなくぴたりと切れる。

*15:田代さんがカテコトークやコンサートで名乗るときのあの声で

*16:今回の田代私、新納彼を見て「うちも、きっと出すと思うよ」を言うまで感情おっことしてきたような顔であの明るい声出しててそれもそれで不穏だったよ。

*17:1番大きく変わるのは福士彼。傷つき動揺した少年がすぅっとうつくしい男の顔になって冷たく見下ろす。侮蔑の色で。

*18:公園で『口を開けろ』ってジェスチャーされてたじゃん、あんな感じでいっこいっこ教え込まれたのかなって

*19:元々にいまりペアの“私”に彼仕込みの印象があって盲点だったんですがすごくえっちい発想だなと思いました。集合知ってすごい。

2021スリル・ミー各ペア感想

毎回言ってますが個人の感想であり強火の幻覚(オタクの願望が乗った妄想)ましましです、ご了解ください。
あなたの観て感じたものがあなたにとっての真実ですよ!!! 見るというのは自分のなかにある概念で世界を切り分けることなので。
基本的に敬称略です、そしてネタバレしかありません。細かいとこはこっちできゃいきゃい言っております。
あと先に申しておきますとわたしこれ自分で読み返すために書いてるので好きな箇所を好きなように見ております。言葉足らずとオタクの強調表現で好きなとこ語ってるように見えてなかったらすみませんなのですけど。

 

〇にいまりペア(田代私×新納彼)

互いへの愛が双方向で種類も似通っていて、見ていて胸が温まりますね……。今までそういう関係にさほど食指が動かなかったんですが*1新たな扉を開きました。互いを慈しむような大きくて穏やかな愛情、いいですね……。

あとこれ個人的な妄想なんですが、このぺア双方が同じくらい"相手に望まれているように"振舞いまた"そのときの自分も嫌いじゃない(だいぶ好んでいそう)"感じが好きなんですよ。新納彼の人を惹きつけ信頼させるカリスマ性は誰に対してもだけどあそこまで甘やかして守るように接する相手は"私"だけだし、田代私も意識して庇護を求める甘えたな子どもをやってそうだなって思う。幻覚ですが。
わたしは「スポーツカー」を"私"以外の人間に見せている"彼"の姿だと思って見ている(幻覚)んですが、あの場面の新納彼、優しげで相手の心の機微を察して安心を差し出して、手は繋いでくれそうだけど声はあんまり甘くなくないですか? 清潔でさらりとしたタオルのような声というか、親切だけど博愛というか。音の光沢や質感だけで物を言ってるので一般的な甘い声があのときのような声音をさすならごめんなんですけど。
新納彼の深くて艶のある慈愛に満ちた声は"私"の前でだけ見せる姿なんじゃないかなって思うとすごく楽しいし、「僕と組んで」の説得がいつもの声に近い低くて深い音なのに「二人でいよう」が「スポーツカー」の歌声と同じ軽くて高いやわらかな音色なの本当に残酷だな(あそこめちゃくちゃ好き)って……。あの声を聞いて、目尻の染まったまなこをゆっくりと上げて“彼”と目を合わせ、やがてふい、と顔をそむけた田代私、どんな気持ちだったの……。

そして田代私ね、ときおり低くてざらざらした音の声を出すんですよ。「また火ぃつける気か」とか「抱きしめてほしい」とか、あまり"彼"の賛意がもらえなさそうなところで。(役者さんご本人の地声がどうこうでなく)この"私"の素の声はこっちで、"彼"の前でだけあの少し高くてとろりとした質感の声を出してるんじゃないかなって空想できてすごく楽しいです。
まあそんな目で見ているので「待てよ!!」が高いけれど鋭くとがった音してるのに毎回すごくテンション上がる。甘やかされる期待をしていない、意志をぶつけるだけの悲鳴。

あとあれですねこのペア、歌がすごい。共演者にも観た人にも言及されているんですが歌で殴られるような衝撃がある。
わたし「やさしい炎」が中でも飛びぬけて好きで。どんな場面なのかを歌声だけでわからされたの生まれて初めての体験だったんですがミュージカルの醍醐味だなって思いました。
いつもはこういう場面だからこの人はこう歌ってるんだろうなすごいなみたいな思考を回して解釈してるんですが、それ抜きで「こうなんだ」って叩き込まれたの初めてだった。

歌もだけど声もすごいなーと思ってて、音としてのうつくしさというか聞きやすさを残したまま、リアルな人間の荒々しさや感情の醜さを乗せられるのが本当にすごいと思う。特に新納彼。音として聞き苦しければ多少は冷静になって観察できるところ、作品世界に没入したまま荒れた感情や醜さをダイレクトに叩きつけられるので衝撃がすごく大きいんですよ……。
あれはたぶん録音した音では飛んでしまう、生の舞台だからこそ肌で感じる揺らぎなんだろうなと思っているんだけどまあ実際どうなのかはしらない。そういう見方というか聴き方というかをしているので新納彼の三度目の「そんなことで騒ぐな」や田代私の「うん、うまくいったよ」の声を聞くたびにひぇ……って思っているしとても楽しいというだけです。声の高さも光沢も輪郭もおんなじようなのに、重さだけが不自然に抜けたからっぽな音。

 

ところでこれは(これも)純度100%の幻覚なんですけど、新納彼にとって"私"と過ごす時間は"現実の痛みを忘れられるとき"だったんじゃないかと思っています。なんていうかさ、新納彼の見せる苦痛、生身の人間の質感としてすごくリアルじゃないですか……?
"私"への劣等感とか家族に愛されていない苦痛とか何も感じなくなっていく辛さとか家にはお金がないんだろうなとか(「金持ちなんだし、当然だろ」にも少し反応しません?幻覚かもしれない)、自分ではどうにもならない現実を忘れられるひと時だったんじゃないかなって思うんですよ。"私"が全身で愛をくれることや腕のなかで信頼しきった甘えを見せること、分け与えたスリルの愉しみに素直に染まること、そういうものがさ、儘ならない現実と無力な自分を痛感させられる苦しさへのある種の鎮痛剤になってたんじゃないかなって……。
"私"を甘やかしたりいじわるしたりしているときの新納彼が愛おしささえ感じさせる目をしているから、腕のなかに抱き込んだ"私"を撫でる手が優しいから、こうね、現実の苦痛に顔をゆがませる姿が余計に痛々しいというか絶望の質感が生々しいというか。足掻いてもどうにもならない、手を打つこともできないその絶望は現実のおれとリンクするやめてくれ(賛美の表現)てきな。

田代私にとっての"彼"、たぶん観た角度の関係で受ける印象がちょっとずつ違うんだけどなんというか"彼"が世界のすべてだから……みたいなことは毎回思う。10日のマチネだったかな、心がこわれていく"彼"を全力で人間に引きずり戻した(そのかわりに壊れてしまった)って印象がいちばん自分の性癖に刺さりました。全部強火の幻覚なんですが。護送車での"もう戻らない変質"の質感すごくないですか。
んだもんであの後の53歳私をどうしても"彼"を喪ってからの日々が"私"の心を回復させたんだな、可哀相だけどそこは救いだな*2って気持ちで見てしまうんですが、「もし彼が生きていたら」からの姿で全然そんなことはなかったのを見せられるので……"私"の心は19歳のあのとき壊れたままなんだなって……。熱っぽい声で彼の死に様を淡々と語りながら、見開かれ狂喜に染まった目にみるみる涙が溜まっていく意識と感情の乖離を見て正気を回復したなんて言えないじゃん……?

 このペアの99年を見るといつも、"私はいつから計画のため動きはじめたんだろう"と同時に"私はいつから壊れ始めたんだろう"と思うんですよねわたし。軋んでいた彼の心に一度は崩壊への決定打を叩き込んでしまったのは「スリル・ミー」だと思っているので私の決定打もその後のどこかからだろうと思っているんですが。いえすべて幻覚なんですけど。「僕はわかってる」の最後に見せる狂喜が振り返ると徴候に見えたりもするので、はじめからだったのかもしれない。

 

〇成福ペア(成河私×福士彼)

成河私は(お話知ってるはずなのに)観るたび99年で印象がひっくり返るし福士彼への印象は5/4の「最、低、だ」ですべてひっくり返ったのでそういう目で話をします。

ふたりが互いに向けている感情、愛と呼べるかと言やぁ愛だと思うけどが種類がまるで違うよね……。"私"のそれが愛なのか今ではさっぱりわからないんだけど、じゃああの感情を愛以外の何かで呼べるかと言えば否だと思うんですよね……。福士彼のそれは愛情だと思う。どんな気持ちで注いでいるのかまるでわからない、大きさだけはわかる愛の感情。
二人が持つ気持ちの大きさを比べるのは意味がないというか共通する単位がないというか、キリンとゴリラどっちが赤い? みたいなことを聞かれてもわからんとしか言えないというか。能力の高さなら迷いなく"私"なんだけども。執着の強さは……どうなんでしょうね……。

成河私の心、わからない……。毎回「("彼"への手加減はしてるかもだけど)今回の"私"が見せている感情や動揺は本物だ」って思うのに、毎回「99年」でそんなことはなかったを食らうのでもう何が本心かわからない……。ただひとつわかるのは"私"が本気になれば徹底的に本心を隠せるってことで、だから53歳私の心もわからなくなってくるんですよね。だって、委員会と対峙する"私"には手に入れたいものがあるじゃないですか……。34年前の事件と同じ条件じゃないですか……。
"私"の語る真実を見ていると蠱惑的に試すように目を合わせる、うつくしい悪魔のような"彼"の姿が好きだったんじゃないかなって思うんだけどさ、それさえ本当なのかどうかわからなくなってくるの、恩赦を勝ち取るために「自分を制御することができなかった」と主張するための欺きなんじゃないかって思えてくるの、それさえ信じきれないんじゃもうどうしたらいいかわからないじゃん……。
19歳私の本心が別にあることを疑える唯一の箇所が「僕の眼鏡/おとなしくしろ」で電話がつながってないとき*3なので、"彼"に見えも聞こえもしていないときの姿は本心だと信じたい気持ちがあるんですが、でももはや祈りでしょこれ……。「僕はわかってる」の最後に見せたあの寂しそうな顔と、「死にたくない」で"彼"の悲鳴を苦しそうに聞いていたあの晩の姿だけは本心だと信じたいという祈りですよもう。
……いやまああの計画を着々と遂行する一方で見せていた感情も誇張や混じり気なしの本心って可能性も大穴でなかぁないかもしれませんがいくらなんでもそんなばけものじみた心とただの人間を対峙させないであげてほしい。そんなものとの対等な親友、家族に愛されていないと泣くただの男の子には荷が勝ちすぎるじゃん……。
53歳私の愛おしむような「待ってたよ」、暗転する直前の穏やかな微笑、懐かしい一枚の写真を取り戻すためだけに語られた真実だったらいいなあ*4と思うのでした。まあたぶんそんなことはないんだけどさ。

福士彼、"私"に注ぐ愛としか呼べないものの大きさばかりがあって、なぜそんなにも"私"を必要としていたのか窺い知ることもできない。そのための材料がない。
公園で"彼"が突き付ける「最低だ」、少し高めで軽い音で、普段の声より「スポーツカー」と似たような明るさをしているじゃないですか。わたし音感さっぱりなくて声から連想する質量を重さ、明度を高さ、彩度をやわらかさって言ってるだけなんで、普段と同じ高さだったらごめんなんですけど*5。"彼"が"私"を突き放すときに出すのがあの声ってことはさ、今まで全部"私が好きそうな自分"を演じてたってことなんじゃ……? って思ってしまい印象度がめきめき上がりました。
福士彼、"私が好きな自分の姿"をよくわかってるような仕草をするじゃないですか。マッチ箱をしゃこっと振るのとか、「それが欲しいんだろ」「ん?」とか。目を愉しげに丸くしてうっすらと笑みを刷いた、試すような表情。"私"が自ら選ぶのを待っているみたいな、うつくしい悪魔のような誘い。内心を吐露した幾度か以外では崩れないあの表情や振る舞いが、"私を動かすため"じゃなくて"私がそうあってほしいと望んでるから"やってるんじゃないかなって思ってしまってオタクは"彼"の印象をうつくしい無関心から無私にも似た献身に転換させました。"私"に望まれているから本当の自分とは離れた"望まれた姿"であり続ける、それを献身と言わず何というんだよ……愛かな……。
そして同時に"彼"がそこまでする理由がさっぱりわからなくなりました。だってさ、成河私が欲しがってるから虚像を見せてやってるとして、その行為で福士彼が得るものがないじゃないですか。作り物に向けられる愛で満足できるなら、言い換えれば望む姿を見せれば愛されると心から信じているなら、「スリル・ミー」導入であんな泣きそうな顔しないでしょう。どうせ弟の誕生日だ、ってあんな泣きそうな顔して、もしかしたら泣きながら吐き捨てたりはしないでしょう……。家族が自分を愛してくれないことがつらくてあんな顔するんだよ福士彼……。そして望まれた"美しい彼"の奥に隠れていた愛されたがりの少年に成河私は「僕の目を見て!」って言うんだよ……。
"私"を気にするほどの余裕も失っていた"彼"が、「お前に従う」と答えてからさっきまでのぼろぼろの姿が嘘みたいにいじわるで蠱惑的なうつくしい男を完璧にやってみせるの背筋が冷えるようだったし、その仮面に「いい加減な気持ちならいやだ」と駄々をこねるの流石にあんまりだと思いましたね……いやこのペアはそこがいいんですけど……。彼の弱った姿を見もしないで"それ"を欲しがったのはおまえだろう!?って、その虚構を喜びこそすれ責めるのはあんまりだろう、って……(そこが好きです)
でも"彼"は"彼"でそういう"私"がたぶん嫌いじゃなかったんだろうなって気がするんですよね……。「超人たち」の歌の後にさ、ぐったりしている"私"を見下ろしていた"彼"が、握り留められた手を引いてやるじゃないですか。腰を屈めて高さを合わせて、"私"の一番好きだろう顔で目を覗き込んで立ち上がらせてやるあれは、愛じゃん……? "私"が"彼"の顔を見る前の、きらきらしても笑ってもいないで"私"を見下ろしていたあの時の顔が、彼の愛おしいものを見るときの素顔なんじゃないかなって思う(妄想)とこうたまらない気持ちになりますね。幻覚なんですけど。

このペアあれですね、成河私から"彼"への本心も福士彼から"私"への本心も隠されてわからないままなのに、"彼"が本当になりたかったものを隠していた理由や"私"の愛だけじゃ満たされない理由は心当たりが浮かぶ("私"はありのままの自分を愛してはくれないから)のなかなかに残酷(好き)だなって思う。

あとところでだいぶぽやっとした言い方になるんだけどさ、このペアの言葉でないところで状況をわかりやすく伝えるのすごいなって思った。食べやすいというか。いえ食わされるものはとんでもないんですけど。「99年」「永遠に」もそうだし(あそこはペアごとに意味が違う気もするんですが)、なんで"私"が死刑を望んでた検事の手紙を嫌そうにするのか、その手紙で結論を出したって言われた後に「毎日たくさんの殺人が~」って言いだすのかとか。ずっと不思議に思ってたんだけど、このペア見てあっそっかって腑に落ちた。

ところで同じ役者さんだけど18-19年に見たペアとはなんかまったく別ものだったよ。成河私は人間だったし福士彼には愛があった。前回が全くそうでなかったわけではないんだと思うんだけど前回の成河私の第一声があまりにこいつぁやべえだったからそのやべえの印象と、そっから派生で福士彼への同情心がメイン感情だったもので……。

 

〇広山ペア(松岡私×山崎彼)

新ペア、短縮規則に則ると松山ペアな気もするんだけど松柿ペアがいるので*6勝手にこう呼んでいます。にいまりペアも"私"のほうは下の名前だし。
なんだろうねこのペア、愛……愛はあるけどわたしはそれを愛とは呼びたくないみたいな種類のそれだったな……。見たのは4/10、4/17、5/5で、4/10と5/5の印象が似通ってて4/17だけ大きく印象が違う。近くで見たかつずっと表情を抜いてたのがこの回だからだと思うけど。*7
松岡私の"彼"への感情は一方通行で自己中心的で、山崎彼が"私"に向ける感情は沈みかけた者が最後に掴んだ藁へのような依存で、あれを愛とは呼びたくねえなあ……。

これは主観なんですけど松岡私のやべえところ(通常版)、共感による感情理解がゼロ以下にしか見えないところだと思う。巧拙じゃなくてそういうパラメータそのものがなさそうというか。どごんと穴があいてるみたいに、共感の社交が存在しない。ヒトが社会性動物である以上、他者理解は体験と共感がベースになるというのがわたしの持論なんですが、松岡私、そういうメカニズムで動いてなさそうなんですよね……。なんだろうなあの異質な感じ……うまく言えないけど、どの回でもこの印象は変わらないんですよね……。能力の高さや思考の速さ、広さがあまりにも違いすぎて、同じ出来事に遭遇しても誰とも同じものを見ていないんだろうなって感じの異質。意味違うけど52ヘルツのクジラみたいな。アルジャーノンのが近いかしら。
要所要所で見せる真顔と爬虫類のような眼(比喩的な意味で)があのやべえ感じを醸し出してるんだと思う。比喩的なっていうのはリアル爬虫類の目はもっと瑞々しさがあるし感情も見えるので……。あえて単語をはめるなら"無機質な"だと思うんだけど、ガラス玉のようなと呼ぶには透明感、ないよね。ラスト以外。バードウォッチングのときとか普通に目に光があるんだけど、いやなんか生身の人間っぽい感情がなにがしかでも乗ってた記憶があるのそのあたりしかねえなわたし……。たぶんそんなことはないんだろうけど、「僕はわかってる」で最初に見たあの目の記憶が強すぎるんだよな……

ところでわたしは「スポーツカー」が"彼"の対外的な姿だと思ってるのと同じ理屈で彼の弟への電話対応が"私"の対外的な姿だと思っているんですが、初日は魅力のある完璧な人間、17日は弱者に見えた。5日は"彼"を見ていたのであんまり覚えていない。どっちにしてもあの時の目は光と感情が乗ってて人間っぽさの皮があった。でもその印象の違いはたぶん根本的には同じで、共感ベースの他者理解ができないなりに人間と関わらなきゃいけないときはあり、"彼"以外へのなおざりな対応が世間様的には完璧かあまり上手じゃないかってだけなんだろうな。*8

共感ってツールが使えないなりに人間をやってきた松岡私が、山崎彼にだけは共感ベースで接して行動するからあのやべえ、人の世で生きてきました?みたいな感じになるんじゃないかなーと個人的には思っています。どうなんだろ。"私"には及ばないにしても飛びぬけて優秀な"彼"だけがちょっとだけ自分に近い、だから特別、だからこそ執着する。唯一おなじ"人"に思える相手だから大事にしたくて、自分の気持ちを見てほしい、人としてつながりたいって欲求を持つ。それは愛というには未発達な情緒だけど、原初のつながりではあるよね。やべえところ通常版の語りおわり。

松岡私のやべえところ通常じゃない版ですが「99年」怖えよ。「離れられない」からの爽やか優しげなんでも言ってよ一方通行愛情フェイス、あの場面であの"私"から出る表情としてこれほど生理的に怖いものもそうないよ。愛と歓びに満ち溢れていて絶対話が通じないもん。"彼"の絶望とか恐怖とか、見えてる?(反語)
狂ってるほうがまだ怖くなかったじゃん……あの松岡私は正気だよ……正気のまま彼を手に入れた歓びに目を潤ませているし「変だよ青ざめて」って言ってるよ。
共感ベースで他者理解をしてないって印象(個人の幻覚です)がここでこういう納得感をお出しされるとは思ってなかったですよね……。人として、共感でつながろうとするのを投げすてて「僕のものにする」だけが残るとこうなっちゃうんだなって……。
狂人だから怖いというよりは話の通じない人間のこわさで、なんというか、感覚的にあれなんですよ、愛情を一方的に募らせちゃったストークをする人々に抱く生理的恐怖というか……。この話の流れで情緒が人間らしいほうがおぞましいってなかなかないよね(賛美の表現です)

山崎彼。あのね。きっとね、役者さんにその意図はないんだろうと思うんですよ。それはわかっているんですよ。
この"彼"の仕草のあちこちがわたしが持っている"尊厳を奪われ続けてきた子供"の概念ど真ん中にぶっ刺さってしまって完全にそういう色眼鏡で見ている……。もうぴったんこカンカンですよ。即刻じそうに電話する。でも19歳だから保護もしてもらえない……。
そういう色眼鏡で話をするのでそういうのはちょっと……の方は回れ右をするのがいいです。しましょう。単語選びに多少なりともオブラートがあるうちに(まだあります。)

お歌がじょうずだなあと思って見てた山崎彼の中身が気になったのは「スリル・ミー」の半ばで、松岡私が触れた瞬間に身体の力をぐたりと抜く姿に悲鳴を上げました(無言)。暴力が通り過ぎるまで身体の痛みも心の辛さも感じない"物"になってやり過ごす、尊厳を奪われることに慣れている無力な子供の自衛のようで本当に見ていて心が痛い。そんなものの対処法なんか知らないでいてくれ……。
「超人たち」の後で自分から松岡私の腕をたどって手を握るのとか、「僕と組んで」で縋るような顔で"私"の首筋に顔を埋めるのとか、口づけながら"私"を押さえつける右手がシャツをきゅっと握っているのとか、愛され方を知らないちいさな子供みたいに……見えて……。この"彼"が"私”を必要としている理由、松岡私がくれるもの以外に何も持っていないからなんじゃないか……? 他のやつらと同様に"彼”への欲望を持っている松岡私だけど、それでも"彼"の気持ちを尊重してくれる唯一の人間だから傍にいるんじゃないか……?*9
山崎彼は奪われ傷ついている姿が本当に綺麗なので、"彼"を欲しがって奪う人間たちの気持ちがわからないでもないのが結構ぞわぞわする。大きなクラックが入った水晶みたいな輝きがあるよね。

"彼"が触れるまで"私"からはさわらないのはどのペアもそうなんですが、松岡私はそれこそ触れれば壊れるんじゃないかってくらい慎重に接しません……? 5/5とか、あれはたぶん目測がずれたんだろうなと思うんですが、公園でのキスで振り向いた"私"の身体が"彼"とぴったりくっつく距離になってしまって。直立したままがちっと硬直する"私"にそういう気遣いのようなものを見た(妄想)
山崎彼のほうも、触れられたときの身体反応が大きいなあと思う。「僕はわかってる」で腕を掴まれかけるとき、身を開くようにして離れるの君だけだよ……。自分は両手でとらえるように抱きしめて、腰のあたりをまさぐるように動かしてるじゃん……。無頓着にきわどい触り方する一方で触れられることへ敏感に反応するさまに、"そうやって奪われてきた"んだなって思う(幻覚)
基本的に人間って、与えられてきたものしか与えられないじゃないですか。中には他の人が与えてるのを見て効果的な振舞いを自分のものにする人間もいるけど、自尊と自己有用感の土壌がないいきものが自発的にそれをすることはそうない。山崎彼の虚勢の強さや非対称な笑みのつくり方(右頬だけを強く上げる*10)、どっちかといえば自尊が低くてプライドが高い人のそれに見えるんですよね。心を削られきっているからこれ以上すこしも譲れなくて、その頑なさが高慢に見えるような。
根っこは素直な子なんだと思うんですよ山崎彼……。「契約書」で"私"をなじりながら一瞬ほんとに傷ついたような顔をするし、「血のサインを見ろ!」って怒鳴りつけられてほんとうに血のサインを見るの。いやあれを"怒鳴られると思考が止まってしまう"って見ることもできるんだけど(そしてそのほうが解釈として一貫性があるんだけど)それはなんていうかあんまりだから……。
電話の場面で振り向いて→険しい表情をして→「あぁ!?」と怒鳴るって一連の動作にラグがあるのなんかも、他人を大声で脅すのに慣れてないようで微笑ましい。毛布の端と端を合わせてきちんと折り畳むのとかさ、かわいいよね。
「スリル・ミー」や「僕と組んで」に自尊の欠如を強く見てしまうので、"そうやって愛された"よりは"本当はそういう子なんだ"ってほうが個人的にはしっくりくる。わかんないけどね。まあぜんぶ受け手のみる幻覚だから。


蛇足なんですけど、東京初日と群馬初日と、松岡私になんとなく成河私を思い出しました。別に似てるわけじゃないんだけど(この"私"やべえなとは思うけど18成河私とはやべえの種類が違うよね)、なんとなくこう、松岡さんは18成河さんの私が好き…好きというか関心が強かったというか、原点みたいなもんじゃないかなみたいなぼんやりとした感じ。*11似ているわけではないんだけど思い起こさせるっていう点では山崎彼に柿澤彼を思い出すのもそうで、このペアを見た熟練のお姉様が口々にこのペアを見て松柿ペアは前回の公演で完結したんだと思った、みたいなことを呟いていたのはそういう雰囲気なんだろうなと思うなどした。お二人ともほんとに似てないんだけど似せてるとも感じないんだけど、その感覚、なんとなくわかる。

*1:何ももたない者が見てしまった「ぼくだけのかみさま」、つまるところ灰色の世界を生きている者の偶像視が大好物なので……

*2:彼を喪った世界を、彼が離れることだけをこわがる壊れた心で生きるのつらすぎませんかだって

*3:ニュースの流れている間、成河私は静かに目を閉じている

*4:目を見張った成河私の待ってたよ……!を聞いて「"彼"は生きていた、"私"があそこから逃がしたんだ」と一瞬確信をもってしまったの思い返すとなかなかにぞっとする体験でした。"彼"はいたもん!いきてたもん!

*5:劇場で聞く田代さんの声を動画の声より高く感じるので明度はハコに反響してる音と対応してる気もする

*6:松柿ペアと成福ペアは2年前の公式がハッシュタグつけてたのでまあ公式の呼び名なんだろうと思っています。

*7:よっぽどわかりやすくやってくれる役者さんでようやく、目だけ追うんでなくても感情を推察するに至るので……人間に不慣れなんですよね……

*8:個人的には弱者がより弱い者(彼)を守り、その弱者がより持っていない者から奪う構図が性癖に刺さるんですがそういう話じゃない気も割とかなりする。わからんけど。

*9:ところでこういう幻覚を見ているので、「スリル・ミー」と「99年」に"他の大勢と同じになった"を幻視(これは間違いなく公式と解釈が違うだろう完全な幻覚)してすごく楽しくなります。

*10:右が意識、左が無意識って俗説があるよね。あれの真偽はまあ……だけど創作において知名度の高い俗説は事実になりうる

*11:だからトークライブで台本の話を聞いたときにはなるほどなーって思った。

'21スリルミー感想

演出が変わってるのか座席位置か、見るごとに印象ががらっと変わるの、楽しいし心臓がいくつあっても足りない。

そしてホリプロちゃんは円盤か配信かせめて音源販売をください。切に。
我々凡人は”私”じゃないので34年前どころか数日前の記憶ですらどんどん褪せていくんです記憶を辿るフックを……ください……。

個人の感想であり特定の団体個人思想宗教いろんなものとは無関係だし強火の幻覚がちょいちょい混じり込みます。

 

〇成福ペア

あのね、前回の公演をご覧になった方にお知らせがあるんですが成河私の魂が人間の形をしています(賛美) 自分でもあれな言い草とは思いますが '18-19年の成河私は天才性や種々のギフテッドと引換えに凡人と相互理解をし得なかったじゃないですか……? 本の読み方ひとつとっても凡人を超越した天才性を否応なしに思い知らせるような。
なんと、今回人間。それもすごく生々しい。そのぶんだけ? "私"が記憶している福士彼も人間味がある印象。

高校生~学生くらいの子って周りが聞くとぎょっとするジョークを飛ばすじゃないですか。本気度は低いけど強い言葉を投げつけ合うことで認識を共有した仲間だと確かめるコミュニケーション。作りました!って笑顔でぶっ飛ばすぞ、やってみろ?とか言い合うやつ。あんな感じ。
軽口で切りつけ合いながら福士彼の考えたミッションを一緒にクリアして、成河私が余裕綽々でついていくことで"負けてない"ことを見せつける。二人の「ゲーム」はそういうものだったんじゃないかな、と思った。純度100%の幻覚なんですけど!! 一個もそんな提示はないです!!!!

あのね、「契約書」の場面で成河私を突き放す福士彼がまあイイ笑顔をしているんですよ。顔を近づけて 「帰れ」「残りの夏を楽しく過ごすといい」って。もぉー!ってどさっと座り込む成河私を「裏切りだ」「見損なった!」ってなじるのもすげえ笑顔なの。肝試しやチキンレースにびびった仲間を煽ってるみたいだなあって。
福士彼の煽り方が"そんなこともできないのか"なら成河私は"そんなこともわからないの?"だった。これは幻覚なんですけど。

 

ときに54歳私のあの深みのある人間味どこから来るんですか。いえ好きだし人物も音色も心地よいんですけど。耳に心地よく響く深みのある声、朗読ラジオのナレーションみたいな抑揚豊かな語り口、良い年齢の重ね方をした大人の味わいをなんで大人になる前から34年間刑務所にいた"私"が持ってるんだよ……いやなんでだよ……。
成河私、「人間だった」と「にちゃぁ…っと笑う」の前情報を聞いていて、その2つは両立しないだろと思っていたんですがしっかり両立してたしあの笑みの擬音はにちゃぁっ……だった。なんなら3ペアの"私"のなかで一番話の通じそうな、社会に馴染んで生きてきてそうな人間味があるからこそ、ゆっくり喜色に溢れた笑みの形に変わっていくのがなんともいえない気味の悪さを覚えるんだよな……。

 

福士彼、美しいお人形じゃなくて美しい人間でしたね……。成河私が"彼"を(美しい偶像ではなく)一個人として記憶していることはわかったんだけどどんな人間かはまだ言語化しきれてない。*1
ひとつ言えるのは成河私「それが欲しいんだろ? ん?」の"彼"の顔ぜったい好きだろということです。「超人たち」で振り向いた福士彼、あの試すような「ん?」の顔をして"私"の目をのぞき込んで、手を引いて立ち上がらせて、同じところまで引き上げるまでずっとあの顔をしていてオタクは歓喜した。
福士彼、成河私が自分の顔が好きだし自分に試されるのが好きだとちゃあんとわかってるよね。「やさしい炎」で「それ("彼"がする意地悪)が好きなんだろ」って返されて成河私がんぐって黙って目を逸らしちゃったの図星なんだ!ってなった。

今から幻覚の話をするんですが、弟が話に出てくるたびに彼が浮かべる眉根や目元をぎりっと引き絞るような憎々し気な表情、「スリル・ミー」の導入で憎悪は二次感情で根っこにあるのは”愛されたい”だとわかるのがすごい あの えもーしょなる……と思いました。あの切実な表情、ね……

このペア、「99年」で「いや!」「離れられない…!」から成河私が組んだ手を胸元に上げて階を上がる彼に捧げていったの個人的に原始の宗教という感じがしてとても好きです

 

〇にいまりペア(4/3、4/10)

1回目は下手側、2回目は中央で観たんですが印象がまるで違ってて。どっちも可愛くて好きです、好きなんだけど過去の自分とテンションを合わせられない。演出が変わってったのかわたしの人間認識能力があれだからかはわからない、誰か教えてくれ(主に目の色で感情認識をしている)

なんて言ってるうちに別の回を見てやっぱりそのたびに関係性の印象が変わっているので4/3の感想はっとくね。

なんかこう……ぜんぶを注ぎ込む愛と注いでも干上がる器とでかみ合ってしまっているみたいな2人だった。
田代私の愛し方、 あんなにも躊躇いなく存在すべてを注ぎ込まれると大抵の人間はドン引きするか壊れるかするんだけど、新納彼は"私"のぜんぶが自分に傾けられてることに満更でもなさそうなんですよね……関心を向けられることに飢えているから……。

「契約書」*2の彼が鉄骨ど被りだったのもあって“彼”の印象が後半に片寄ってるんですが。

〇新納彼
超人然を引きはがされて只人へと引き落とされたもの。あるいは"私"の手の上でだけの超人。
「契約書」での「そう、」があまりにも超然としていて好きです。ひと言の音で場の空気が染め上がるあの感じ。
新納彼は自分の一語一挙動に全力で反応して怖がったり肩を落としたりする"私"にそこそこ愛おしそうに目をやるので“私”可愛がられてるなあと思う。スリルミーの“彼”は“私”の記憶なので、田代私が新納彼のこういう顔が好きだったのかもしれない。
新納彼、田代私がおじけづいたりためらったりしても基本的に優しいんですよね。辛抱づよく、“私”が自発的に手を伸ばすのを待っている。「契約書」で怯えて手を引っ込める“私”に催促する「痛くはしない」のなだめるような響きや表情が新鮮だった。優しい。自分で切るときにわざわざ“私”と目を合わせてから見せつけるようにナイフをぴっと動かすのが可愛いと思う。“私”より「大人っぽ」いのを見せつけてるようで。
個人の印象なんですが、新納彼は“私”が自分と同じところまでくるよう導こうとしてるのかなあと思う。導こうというか、教え導いているつもりというか。


〇田代私
超人に“なってしまった”かつて人だったもの。
頭が良くて家柄も良くて全身全霊で新納彼を愛している、確かに凡人ではないけどでも、人に向き合って心を通わせ合おうとする人間の男の子だったのに、“彼”が超人になれと言ったから超人になってしまった。なれてしまった。彼を置いて。「誠実さ」……「壊れる」……なるほど……みたいなうめきを上げましたよね……。

19歳田代私、中盤まで幼い印象が際立ってると思う。「やさしい炎」で彼が言う「幼い」にそうだね!って全力で首肯しちゃう。
そう見えるのはたぶん、田代私が“彼”のことでいっぱいいっぱいで余裕がないのと、“彼”に何かしらを訴える声に甘えるような響きが入っているからなんですよね。新納彼の存在があるときだけ、田代私は幼く見える。
"彼"に可愛がられている意識があるっぽいの可愛い。むりだよこわいよって言いながら最後には言うとおりにして


「スポーツカー」で見せる姿が“彼”の、電話で“彼”の弟と話す姿が“私”の「他のやつら」に見せている顔だと思っているんですけど。
田代私は年下の子に言い含めるような抑揚や発音がわかりやすい言い方で、見たときは一人っ子がおにいちゃんしてるみたいで可愛いなと思ったんだけど。あれ前半で見てた“私”の印象に引っ張られてそう感じるのであって、ピンで取り出すと歳下の相手に配慮しながらも尊重して接する、人格のできた誠実な人物像なんよね。

正面をじぃと睨めつけていた54歳私が彼のことに触れられると見開いた目にみるみる涙の膜が張り、ぼろぼろ溢れるままに語り始めるのが傷跡……って感じでとても好きです。終盤、「99年」の後の顛末に話が至ったときに目を潤ませて話を拒むのも。惰性の祈りに似た形で手を固められた(捕まっているので)“私”の情感を唯一動かすものが"彼"の記憶なの最高じゃん……。
固く組んだ指がほどけた後、神隠しから戻ってきたような顔でしばらく客席に向いていた目が「一枚の写真」に吸い込まれるように離れていくのほんとそういうところ(好き) "彼"が世界みたいなところ、それとも変質してそうなったのかな……

追記.4/10で見て思ったのは「望み合って庇護する"彼"と庇護される"私"」「"彼"のスリルを分け与えられる」「己が教え込んだスリルに食われる"彼"」「自分の心を引き換えに"彼"を人間に引き戻した"私”」あたりですね。

*1:いやこれはわたしの問題なんですけど……社会をやっている人間の解像度があんまり高くない……

*2:すりるみ前半パートは彼のターンが契約書、私のターンがスリルミーだと思っている

お前が王の懐刀だエンド/かもかてプレイ記録トッズ愛情A

トッズとちゅーしたことで一念発起、王を目指す主人公です。王もトッズも手に入れる主人公の貪欲さ。
フリーゲーム冠を持つ神の手」のプレイ記録です。

 

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おれたちのマブを死なせはしないエンド/かもかてプレイ記録

冠を持つ神の手、通称『かもかて』というフリーゲームのプレイ記録です。
ローニカの「ただひとつの過ち」を回収するために動いていたのですが、この展開になったら熱いなと思って。*1

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【こだわりポイント】
・リリアノとローニカの両者からネセレの話を聞く
・リリアノとは互いにマブ(親友)
・レハトとローニカが相互に"告白するほどでもない"愛情を抱えている

 

ローニカ友情C、レハトが複数人の未来を揺さぶるところがけっこう好きです。なのですが、このエンドは主人公がある意味で利用された、友情ゆえに彼の恋心を優先させてやったような形にもなっていて。陛下を攻略していると、特に友情エンドなんか見た後だとプレイヤーの心情はよくやったローニカ!なんだけど、レハト自身も納得づくであれを選んでほしいなと思ってこの運びになりました。

 このレハトとローニカは、最後の日の朝に打合せしてると思います。知らぬふりするローニカにヴァイルと鍛えた交渉と陛下直伝の威厳で話を引き出しに行ってほしい。三方よしだと思わないか?ってヴァイルみたいに悪戯っぽく笑ってほしいですね。
二人してレハトにネセレを重ねてしまっているのかもしれないって吐露するので、ネセレはしなかっただろう子供らしくて小生意気な、相手が許してくれるだろうと信じている顔を見せてやりたい。

ローニカの面倒くさいところは印愛が35超えてると友情エンドに持っていけないところですね。男女の友情が成り立つと思ってない……というより、自分が"そう"だから信じられないのでしょうね。長年リリアノの懐刀をやっていながら、「忠義と愛情」であんな動揺するんだもん。

 ヴァイルとの感情が若干ずれてるのがちょっとだけ申し訳ないですね……! 芽生えかけた恋心を知らないふりして「マブダチだもんな!」って言ってる。ヴァイルちゃんのがばっと自己開示しても相手が引かなかったとき一気に心的距離が縮まるところ、愛情の安全地帯を得られなかった子どもの造形がえらい生々しいと思う。お互い男分化だし、成人した後は歳の近い男友達として同じ感情ベクトルで仲良くできるんじゃないかな。また一緒に剣の訓練しようね。

 

ローニカ友情Cそのものはそこまで難しくないはずなのですが、体感としては結構わたわた回してました。イルアノフラグ(こっちが本題)を回収しながらだったからかな。
海の果てを見に行こう様の「イルアノ関係者②」を参考に…といいますか、条件が揃うまでほぼ追いかけています。私のプレイは能力値やイベント消化が間に合わなくてだいぶギリギリですが……! 

 

*1:ただひとつの過ちそのものは別のSaveデータで取りました。

MA1/31感想その2

 

見て取った構図の語りとこの人物のこのショットを見てくれを同時に書こうとするから行き先迷子になるのだと気づいた冬。気づきが遅すぎる……喉元過ぎれば振り返らないのが悪い……。

 

小野田さんオルレアン公。
歌が良い。いや本当に歌がいい。安定した艶のある低音から駆け上がるハイトーンの光沢、ぜひ「私は神だ」も歌ってほしい。
私この方を知ったのがNHKラジオ*1の生歌でそれ聞いた瞬間に出てる円盤すべて集めることをしたんですが*2、声量と音色の響きと艶が両立してるのすっごいよね。各音楽会社は一刻も早くこの人をつかまえてCDアルバムを出させてほしい。
オルレアン公、市民の味方と言いながら彼らを道具としてしか見てないから言動不一致のぬるつきが各所でみられる。煽動のために3色の布をばらまきながら市民はぼろを着たままなのとかさ……。3色で抗議行動するならその色の服で十分事足りるのに、服飾工場押さえられなくても生地だけ渡して服を作れと言えばいいだけなのに、なんですよ。端から手段・道具としてしか見てなくて、彼らを救うとか生活の改善とか発想そのものがないんだよな……。
女たちの煽動で硬貨を放ったのを見た瞬間にマルグリットが愕然とした顔になって、沸き立つ女たちを先導しながらも最後までその感情を隠さないままはけてったのが個人的にすごく好き。徹頭徹尾信用も信頼もしてない。
2幕頭だったかな、市民たちが沸き立つ中「暴力こそ」「自由だ」(正義だ、だったかも)の間に一瞬だけすうっと口角を上げるんですよね。彼だけ。今ここの怒りと熱狂で動いているだけの集団でひとり、彼だけがゴールの図を描いている。民衆が考えてるのは”現状”を”壊す”ことだけで、”どうなる”の明確な形をイメージしてはいない。オルレアンだけが己が実権を握る国家ってゴールを定めているから、怒りの空気に呑まれて動く暴動のなか期待通り進んでいる満足をおぼえるんだよね。
小野田さん、ダンスやってらしたからなのか指先まで意識が通っていてテンション上がる。あともしよかったら目元いやこれは好みの問題だな。目の動きや光のわずかな変化に感情がにじむ演技がヘキに入るというだけだしな……。でもせっかく綺麗な白眼なのでパンフだけでなく板の上でも見せてくれたらオタクはもっとうれしい。
ところで小野田さんも高貴な貴族枠なので艶のある長髪をリボンで括っている組で、妖艶なプラチナブロンドに黒いリボンが大変眼の幸福度を上げてくれるのでみんなぜひ一回は後姿をグラスで抜いてみてね。普段の黒いビロード?ベルベット?も似合うけど服屋来訪の着込んだ白に似合う黒も素晴らしいよ。

 

昆さんマルグリット
歌声の音色と台詞の音色が地続きなのすごくタイプ。ミュージカルのナンバーは歌だけど台詞なのでそういう調整をしてくれる人をみるとすぐ好きになっちゃう*3
マルグリットを道具でも英雄でもなくひとりの人間として見てくれるのが作中でフェルセンただ一人なの、ちょっと残酷すぎる(好き)世界は彼女を消費するばかりで誰も彼女を守ってくれない。連行されそうなマルグリットをフェルセンが庇ったの、彼女が母を亡くしてから見返りを求めない行為を受けた初めてで唯一だったんじゃないかな……。
スラムの人々は食料を得てくれる英雄として見ているしオルレアンや自称詩人は使える道具としか見てないし*4、マリーも敵としてはある意味対等な個人としてみてたり一瞬気持ちを分かち合ったりしたけど、可能性の絆さえ手紙を運ぶ道具にしたし。マルグリットがフェルセンに抱くたぶん恋心とされている感情、事由はもっともっと根源的なところにある気がしてならないんですよね……恋心としての発露が、なんというか一番”まとも”というか彼女自身が”容認しやすい”形だっただけで……。彼女をひとりの少女として気遣った扱いをしてくれた唯一の人間に特別な感情を抱く、人間が人間であるため心のやり取りを求める心身の悲鳴に近いものでは……?
処刑前の一瞬、マルグリットがマリーを(王妃ではなく)一人の人間として手を伸べたから、マリーも彼女に一人の人間として行為の感謝を返したのそういう意味でも胸熱だった。
昆さんマルグリット、ランバル夫人の私刑の場面で自分はなぜこんなことをしているんだろうって顔のまま、泣き崩れる母に不安がる子供2人をベッドに誘導して窓の外が見えないよう抱き寄せている姿が最高だから……。場面の終わりまでずっとその表情してるのに、子供たちから離れないしまもる腕をけして外さないの最高だから……。マリーの机をあさって咎められても平然と、言質を取られないためだけに言い訳してるあの冷たいからっぽの声と眼差しから自分の儘ならなさに振り回されているこの変化ですよ……

 

原田さんルイ16世
私はフランス革命ものにおいて、出てくるならもう例外なくルイ16世にハマる性癖をしているので割とこう最高だった。ミュージカル作品におけるルイ16世、だいたいは王適性のなさを自覚しているさとく優しく優柔不断なおろかものなので出てくるたびにテンションが上がるんですよね……。お飾りの道化であることしかできないとわかっているおうさま、かわいそうでかわいくないですか。私は「自分で履いたんだ」って笑って見せる彼の誰の面子も傷つけまいとする道化が大変好きだよ……。国王が一人でお召替えするわけないのに、もし本当だとしてもマリーのところに来るまで誰一人耳打ちしてあげなかったことは変わりないんだよなあ……。
MAにおけるマリーとルイ、どちらも「子ども」の夫婦なのだよな、と思う。どちらも子どもで現実が見えていなくて、それでも自分の役割としてぶつかってきたものにはほんのちょっと敏感だからお互いが子どものようにあぶなっかしく思える、そんな感じがする。ルイは国と民のあやうさがマリーよりよく見えていて、マリーは身内とされる人間の害意と作為がルイよりよく見えている。ルイ、マリー流にいえば「人の善意を信じすぎ」る人だから……。彼のそれは己がふがいなさへの負い目半分、国王としての国と民への愛情半分だったのではと思ってしまう。靴もだし革命の帽子もだけど、誰かが血を見るくらいなら自分が道化にされることぐらい躊躇わないルイ16世、国王の矜持と覚悟を十分に持っていると思うんだけどね……政治の能力は、まあ……だけど……*5 侮辱の意しかこもってない革命帽をひったくって被り正面から睨みつけるルイ、
MAのルイ16世、マリーに言う「理解している」もフェルセンを手を握って感謝を述べて続く言葉を塞ぐところも、なんというか愚昧ではあっても暗愚ではなさそうだなって思う。フェルセンとの仲もマリーの取り巻きが甘い蜜を吸っていることも理解はしていて、自分が干渉したところで(国にとって)良いほうへは変わらないから黙認しているような、根の深い学習的無能感が行動動機…行動しない選択の動機になってるような感じがしません?
投獄後、膝に抱き上げたシャルルぼうやの動かす馬車が胸を横切ってもするがままにさせて優しく歌い続ける姿が個人的ハイライト。その歌詞が「鍛冶屋だったら」なのが切ないよね。

*1:今日は一日!ミュージカル三昧

*2:ニコニコミュージカルのおまけCDもある。

*3:考えてみたら推し、みんなそのタイプだった。濱めぐさんとか田代さんとか唯月さんとか

*4:「女だが使える」「男七人分の価値がある」、女性に対して以前に人間に対して侮辱的に過ぎる

*5:というかミュージカル絶対王政において大衆に尽くす頂点はどうもダメっぽいよね、エリザのフランツも「甘すぎる」言われてたもんな

MAみてきました(1/31回)

田代さんにハマったとき*1に円盤買って見てるから内容知ってるはずなんですが、オチを忘却の彼方にしてたので新鮮な驚きがあった。
1/31回です。

花總さんマリー
登場時の気品ある国母の美しさに息を飲まれていたら、それが彼女の身を守る仮面でしかなかった話をですね。気を許せる人の前でほど幼くなっていく王妃が頬が緩むほど愛らしくて息を飲むほど痛々しい。
バルコニーでフェルセンの名を呼ぶ笑顔も服屋で妹とささめき笑う鈴の音も女学生のように愛らしいんですが、庭園のシーン、差し出したお茶をフェルセンに固辞されて、ちょっと肩を落とした後すぐにこにことケーキを分け始めるマリーが童女のようで愛らしくそのえぐさにオタクは泣いた(賛美)
マリーにとって大人らしい振舞いは勤めと身を守るための道具で、彼女の心は幼い少女のまま育てなかったんだよ。もう大人であることと自分でいることが完全に乖離してるじゃん……幼い少女に寄ってたかって大人を強いて、段階を踏んで育つ過程と時間を奪った結果がこれだよ……。
このマリーにフェルセンが繰り返す「大人になるんだ!」、茎から切られた蕾に大きく花開けって言ってるようなものじゃん……。彼女の心が再び育つにはありのままを受け入れてくれる無条件の愛と庇護が必要なのに、フランス王妃にそんな自我は許されないんですよね。もっと時代が下ったフランツでもあれ(ミュージカルエリザ)だぞ。皇族として生きることは心を殺すことなんだぞ。
終盤の少女ではないマリーアントワネットは確かにいますが、あれは少女の心が成長したんじゃなくて少女ごと心が殺された結果だと思うんですよ私は。マリーの心を引きずり出して殺したからフランス王妃と母の在り様が残った、それだけなんじゃないかなあれ……。
裁判で何を言われてもどう侮辱されても凪いだ微笑のまま表情ひとつ動かさなかったマリーは確かに王妃の気品と威厳を保った立派な振舞いだったけどさ、彼女によく耐えた、頑張ったねって励ましをくれる人はもういないんだよ……。マルグリットにシャンパンを掛けられたのを赦したときに「善かった」とほめてくれたフェルセンはもう側にいない。
危害から身を呈して庇おうとしてくれてよきことをしたら誉めてくれて、フェルセンはそういう意味でもマリーにとっての「現実」だったんだよな……。
花總マリー、大慈大悲の淑やかな国母とフェルセンと2人だけのときに見せる少女のいとけなさのギャップがすごく胸にくると思います。あたたかくも穏やかに凪いだ淑女と世界の輝きを目に映した童女、どちらもが完全に切り離されているからそれぞれが心を動かすほど美しいんだけど、それらが混じり合わず両立していることこそ彼女のひずみなんですよね……。あのえぐいほど美しい少女のいとけなさ、自らの眩しさを自覚していない幼子特有の輝き、大好き……


田代さんフェルセン
「無邪気な」に音符が乗っていてオタクは歓喜した。いやあのたぶんいつもコンサートで歌われるときも乗ってるんだと思うんだけどあの感情のこもり方とメロディラインの残り具合が最高だったという話です。
フェルセン…作中のフェルセンという男が卒なく目立った粗もない男で全体的に所作と品性のよさを観賞する感じだった。*2あの時代の貴族階級として破格にいい男だと思いますフェルセン。マルグリットにもひとりの人間として接しているあたり破格なのでは。スラムで人々に囲まれて「……すまない!馬鹿な質問をした」って言うときの目と落ち着いてのジェスチャーが割と好き。紳士的な対応の範疇だけど身の危険を感じてるな? って空気がある。
しかしアクセル、マリーの恋人なんだけど役割というかポジションというかがパパなんだよな……お兄ちゃんでもいいんだけど。よいことをしたら誉めてくれて危うい振舞いを窘めてくれて、危険から庇い悪意を牽制し何度でも救おうと手を伸ばしてくれて。フェルセンに守られ導かれながらなら、マリーの奥にいる少女は大人になれたんじゃないかな……どうかな……。大人になれなかった少女の心が再び育つには、身を守る鎧としての大人の振舞いを外して、本心で考え決めることをしていく過程が必要だったんじゃないかなって思うんだよ……。
マリーに「大人になるんだ」「現実を見て」って言いながら「現実はあなたよ」って言われて顔を緩ませてしまうあたりフェルセンはマリーを愛している恋人なんだよなーって思う。たぶん*3
花總さんと田代さんのペアでこの流れ、エリザのシシィとフランツを思い起こさせるけどこのシーンだけ絞って見ても2人の雰囲気も人物像も全然違って見えるから役者さんってすげえなーって思う。恋や愛に優劣をつける気はさらさらないんだけど、フェルセンはなんというか自我の形があるから……。フランツがないわけじゃないんだけどフランツ、自我のいれものの中に皇族としての自分がめっちゃ多いから……人物としてはしっかりしてるけどプライベートの個人とすると途端にふわふわするいきものじゃん……そこがかわいいんだけど……。
フェルセンはたぶん自分の感情とできることの折り合いのつけ方が上手なんだな。破滅へと踏み出せない男。だから遠くでひとり涙することになる。*4マリー斬首の通知を読んで、目をきつく瞑って天を仰ぎ数度肩を震わせるフェルセン、かわいそうでよいよね。ライトが外れてるのも相まって、彼はこの絶望や悲しみを誰にも見せられないで生きたのかなって幻覚がたくましくなる。
そのフェルセンにまっすぐ客席を射抜いて復讐の連鎖を続けるかを問われるのなかなか胸を圧される演出だった(好きです)。でも一概に悪と言ってるわけじゃないと思うんだよな、だって復讐の連鎖がなければマルグリットの告発もなく、マリーの汚名も濯がれなかった。
言い募ろうと重心が前に出た瞬間ルイに手を握られて口を閉ざすしかなかったフェルセンの、一家と別れて顔を上げてからの動揺押し殺して最善をなそうとする姿がとてもよきなので見てほしい。私やっぱりこの方のやる、破滅の足音を聞いて焦燥に駆られる姿がめちゃくちゃ好きなんだなって……。本当にしたいこと、しなければならないこととできることが乖離していて、しかもそのことに自覚がある。気が付かないほど愚かだったら、すべてを投げ出せるほど無謀だったらこんなに苦しくならないだろうに。
登場時にオルレアン公と言葉を交わした後、目の端で牽制している表情も最高に好きでしたが。はい。地位や立場とその意味をわかっていてどう振舞うかコントロールしている感じがこう、テンション上がる。

ところでフェルセンもオルレアンもなんだけど西洋お貴族のゆるくウェーブした艶やかなウィッグに落ち着いたデザインの質の良さそうなリボンがついているの最高に良いですね。表情が見て取れない後ろ姿にも楽しみがあるの最の高だよ。実用寄りだから色合いも落ち着いていてそれがまたよきです。
東宝ちゃん今からでも間に合うビジュアルブック作ろう。LNDを見習っていこうあれは最高の試みだったよ。

 

 

*1:'19LND

*2:嫌いじゃないんですどっちかというと楽しかったですひずまなければ生き延びられなかったいきもののあわれさを偏愛するオタクなのでそうでない生き物の愛で方がわからないだけで。

*3:わかんない自分のぜんぶをかけて愛してしまういきものばかり愛でてきたから……メタマクd1夫人とかノーマとか……。

*4:歌いだしから目が濡れてて最高にテンションが上がった。