つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

6月みたものまとめ(バイオーム、ガイズ&ドールズ、CROSSROAD)

6月観たものをね、書かないとなって思って。
もう7月も半ばを過ぎていますがいいですね日付のことは忘れるんだ。

スペクタクルリーディング「バイオーム」

6/9 マチネ回です。存在が地雷ブリリアホールだったので見送り気味だったんですが、ソワレも取りにいくべきだったな……。

身体表現だけで人外を表す古川雄大があんなに美しいってどうして誰も教えてくれなかったんですか???????
二本足の獣に対して嫌悪寄りの無関心で冷ややかに見下ろしている薔薇、最高じゃん……。ヒトの容にヒトでないものの魂があるのが私のヘキのひとつなんですが、あの薔薇には一種の理想形を見出してしまいましたよね。薔薇、別に冷酷でも薄情でもないんですよ。クロマツの新芽には柔らかく親しげな雰囲気を見せる。冷たいんじゃなくてどうでもいいんですよね、我々人間が街路樹に対して特に何も思わないからってその人間が酷薄ではないように。どうでもいいけど強いて言うならときどき嫌なことされるから好きではない、ぐらいの冷やかさ、人間には決して出せない魅力だと思います。いや冷たさ自体は人間でもあるだろうけど、人間が人間にそれを持ってるのはれっきとした人でなしなのよ。
古川さんはルドルフやロミオの大事なものを踏みにじられてぼろっぼろになってるときの輝きが半端ないので2019年エリザでは(もちろんあの無邪気な人外トートも大変可愛いが)フランツも見たかったなって思っていたんですが、イケコの審美眼は人外を演じる古川雄大の神がかった美しさを見抜いていたのか……と3年越しの感動をしました。

野口くんはね、健全で爽やかな好青年って感じで見てて和むけどヘキにはかからないなーと癒し枠で見てたら嵐の夜で度肝を抜かれました。怜子ちゃんからのキスひとつで人間の理性を剥ぎ取られ、荒い呼吸で震えながら獣の衝動に堪えるしかなくなるのすっごいよきだった。身に慣れた立ち振舞いが吹き飛ぶほど余裕がなくなってる人類、いつ見てもよさがありますね……。

野口くん、あんなに怜子という女の肉体に欲しているように見えたのに、最後の独白で「あなたが手に入れたかったのは本当に怜子というひとりの女でしたか?」を見てしまってオタクは情緒が限界になりました。楽しい。

これです。あなたが手に入れたかったのは、本当に怜子でしたか? 実母の愛を受ける子どもを己の愛で救うことで、代替の慰めを得たかったのではありませんか?

野口くんのことをこんなに可愛い可愛いしてるのにあの作品における私の推しは怜子ちゃんなんですよね……何故なら私は『世界に愛されなかった者』がだーいすきだから……。怜子ちゃん、言動のすべてが全くフォローできないんだけど彼女に他の選択肢はなかったし、彼女がそんな風にされた責は彼女にないのにそれを責められてるのがサイコーに私のモンペ心をくすぐる。愛情も自尊心もそれを入れる器ごと粉々にされていて、それなのに誰も彼もが『今から変わればやり直せる』『何故しようとしないんだ』って彼女を責めるのが最高にグロテスクだと思います。あの作品で喩えるなら根を張るための土が取り除かれているっていうか。健康な植物が生きられるわけがない、新しい種を蒔いても水をやっても育つわけがないんですよ。ご覧、おまえらが無関心と自己満足で愛を与えずころしたもののなれ果てだよ。

私があの子を好きなところ、怜子という人間の心を想ってくれている人間が一人もいないところです。金持ちの道楽と切って捨てられている怜子ちゃんの煩悶は、余裕があるからではなく他者との繋がりがないからだと思う。
己が生きるのも子を育てるのも、自分という存在を未来へつなぐための行いなんですよ。誰ともつながれていない、誰も自分を見てくれない怜子ちゃんは、何をしてても何年生きても、世界に影響することができない。思い出してくれる人がいないという意味でもだし、たぶん、思い出してほしい人も思い浮かばないんじゃないかな。返報性の原理だっけ、何かをしてもらったから同じものを返したいと思うのだみたいなやつ。この世界にいる誰ひとり彼女の心を慮ってくれる人がいなかったから、彼女はこの世界の誰ひとりにも愛を持てない。大事にしたくて自分なりに頑張ってみても、返してもらえないからあっという間に涸れてしまう。
これは個人の意見ですが、生きることに意味や価値があるというのは単なる思い込みに過ぎないんですよ。寝る前の自分と起きた後の自分を同一だと思うのと同じような、疑ってしまったら安心して生きられない、生き物には不可欠な思い込み。
怜子ちゃんはその思い込みを失ってしまったんだなあと思う。かわいいよね。かわいそう。

ところで話とは関係ないんだけど、花總さんが言い放つ「ルイを処刑するのね」は全MA通過者にクリーンヒットを与えたと思う。


ガイズ&ドールズ

6/10 ソワレ回です。 

毒のないコメディミュージカルって実在したんだな……!という気持ち。賛美です。ただただ楽しかった。皮肉はあれど棘のないストーリーにパワフルキャストとパワフルセットを盛り付けて、純粋な楽しいだけで観客をがんがんに揺さぶってくる。ディ○ニーランドのショーパレードか? 
コメディと相性が悪いヤな客の自覚があるんですが*1ふつーに楽しかったです。観た後に体調を崩さないコメディミュージカル初めてかもしれん。*2
この演目、メインキャストもパワフルだけどアンサンブルもパワフルですごい楽しかったです。私ね、日本で有名どころなミュージカルだとエリザベートが一等好きで。話がというより*3どのシーンでも場にいる全ての人物が自分の人生をやってるのがすっごい好きなんですよ。お見合いのシーンとかカフェでのシーンとかさ、物語上の役割はそらもちろん持ってるんだけど、それぞれこういう背景があって今こういう気持ちで動いてるんだなーって想像がつくだけの材料を場にいる全ての人物が持ってるのがほんとすごいと思う。レミゼもそこすごいのは知ってるけどレミゼはついつい(メインキャストがしてるバイトの)ウォーリーを探せしてしまうので……私の気持ちの問題です。
ガイズ&ドールズの、壁に寄りかかって寝てる兄ちゃんとかアデレイトの働く店でうぇいうぇいしてるマンとか彼女だか妻だかに何見せてんの!?な男女二人組とか、どういう暮らしでどうしてここにいてどんな日常を過ごすのかまで想像すればなーんとなく見える感じ、私ああいうのがすごい好きで、ねえすっごくよくなかったですか?
バーには君はボーイかいお客かいって兄ちゃん(たぶん……)もまあいなくはなかったけど顔も化粧も立ち姿もあそこまで極上だったら存在してるだけで目の保養だからあれはあれで大正解だと思う。アンサンブルさん満喫しすぎて舞台の奥側でネイサンたち三人組が登場してたのにだいぶ気づかなかったのは私です。あの三人は三人で、わちゃわちゃの内容はほとんど聞こえないのに三人の距離感もそれぞれが酒女煙草空気のどれにどんだけ楽しみがあるかもなんとなく窺えるのすっげえなと思って見てた。

普段は見ないからこそテンションが上がる類のものなので他の舞台でもやってほしいというわけでもないんですが、役者さんが本当に飲食をしてる場面が多かった*4のも個人的には楽しかったです。あとパナマ?だっけ?のバーで出てくる飲み物がちゃんと液体入ってる*5のとか。本物ではないのをどう本物に見せるかって工夫も見ててすっごい楽しいけど、消えモノに本物を用意する力技を見るのも好きなんですよ。
あとめちゃくちゃ面白かったけどなんでセロリ?(齧ってるご本人がブログでネタにしてるのでオープンに擦ってもいいネタだろうと認識している。) いやほんとに画として面白かったんですがなんでセロリ?と「セロリ 語源」でググったらイタリアでは薬用植物として栽培が始まった(効能は鎮静と整腸)って出てきて爆笑したよね。(セロリ齧ってるナイスリーはピンで出てくるたび何かを食っている。)そういう演出意図かは知らない。
チーズケーキ(モノは豆腐か牛乳ゼリーっぽい)を食べるネイサン浦井さんを見て、甘いキャラメルを歯にくっつかないように舐めるdisc3ランダムスターの姿を思い出して私の情緒が突然KOされたりしましたがそれは全く別の話。チーズケーキ食べてるだけなのにめちゃくちゃ面白いの反則的だと思う。可愛かった。

男女観が古いっちゃまあ古いのかもしれないけど舞台背景からすれば全然妥当だと思う。ことスカイとサラに限って言うなら互いに歩み寄ったからあの未来が成ったと思うのでそういう意味でも気にならんかったですね。そもそもが悪ガキどもの話だし。大人になるが定職に就くではないとは思いますが、刹那に生きてた彼らが未来に目を向けるのはライフステージを上がった表れだと思いますよ。


CROSSROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ

6/13S回です。

中川晃教、音楽の悪魔(敬称略)
キャスティング大勝利だよ……歌声の説得力がすごかった。いちばん最初の声だけ出てくるところ、あそこだけで勝利を確信できるの本当に強い。
私は1幕の契約のところだったかな?演奏の評判が上がりゆくときかもしれない、ニコロと悪魔のデュエットがめちゃくちゃ好きです。歌詞が割り当てられてるのはニコロのほうなのに、場の支配者は悪魔のほうなのを悪魔の歌声だけで理解させられるの最高に音楽の悪魔って感じだった。
1幕では雪の結晶を手に取って愛でてるみたいな享楽ぶってたのに2幕で農家みたいなこと言い出して笑ってしまった。可愛かった。今ここにある快楽に浸ってれば欲しいものが手に入ったのに、うっかり欲をかいてより美味しくなるよう余計なことしたせいで機を逃すのまるで人間みたいでかわいいね。

悪魔ちゃんはおビジュも凝ってて、真っ直ぐ伸びた黒髪にバイオリンの絃と同じ数だけ白く染まった房があるの、おまえが音楽だって感じでちょうよかったですね。ニコロが悪魔と契約したときに髪を束ねていたリボンを解いて、それ以降は悪魔と同じ髪型になるのも楽しかった。教会で異端審問されるときは結き直してるんだけど、「弾いてやるよ」でぱっと髪を解くからあれは「悪魔に演奏を捧げている」の象徴なのかしら。
私はそれくらいしか拾えなかったけど、お衣装や美術、あとたぶん音楽にもいろいろ符牒が仕込んであるんだろうなって感じ。作品そのものがおいしいのは大前提で、知ってる人は楽しい仕込みが無数にしてある(でも嫌味がなく、気が付かなくてもちゃんと楽しい)作品はよきだよね。らぶだよ。

ママの「この暮らしから抜け出してほしい」や「(あなたの演奏は)まるで天使様みたい」だったり、アーシャの「音楽は自由をくれる」だったり、音楽に憧れるだけで才能や技術のない(ニコロママは酒場で歌って食ってるけど)彼女らが「才能がある」側のニコロや先生と真逆のことを言うのがすごい楽しいなと思いました。天才には届かないと気付けるほどの才能さえない者たち。*6わたしは赤夏作品を浴びてしまったので『執着こそが才能だ*7』の概念を愛しているんですが、執着や努力で登り詰めた才能の先に覆せない生来の環境や身体要素が壁としてあるのもとてもとても好き。LNDの世界観が好きでこれが嫌いなわけないじゃないですか、あれは高く飛べない鳥と飛ぶ翼のない鳥を愛でる*8作品ですよ(ちがう。)


一部、登場人物が自分のしたことを第三者視点で歌ってる歌詞があって、う……うん? と思ったんですが、朗読劇をミュージカルに仕立て直したと聞いて納得しました。朗読劇ならこの流れで彼がこれを語るのすごく自然だもんな。
まあ言うてもリアルタイムで「……な、なに?」と思ったのはその1箇所くらいだったし*9台詞を思い出せない程度には些細な違和感だったし、それ以外の箇所は今振り返ってもどこも楽しかったので、日本産ミュージカルなのを考えると(考えなくても)これはめっちゃくちゃすごいやつなのでは!?という気持ちです。私は国産ミュージカル独特のアレさ*10がだいぶ苦手で、面白い日本産ミュージカルのためには井上ひさし御大に生き返ってもらうしか……と割と本気の絶望を持っていたんですが、いま現在生きてる日本人だけでこんなミュージカルが作れるんだ……!という希望がだいぶあった。この製作陣で、次は初めからミュージカルにするつもりで作られた演目ができるのを楽しみにしています。日本にもこんな話やこんな曲を作れる人たちがいたんだなあ……。

クロケスタとサンホラからしか私は古典音楽に触れてないので「あっこれ知ってる!」と思ったフレーズが全部リストだったり「境界で鏡面 *11!!」ってなったりはしたんですがそれはそれとして。

再演が楽しみです。CD化も期待してるね。音楽の悪魔のあの空気はきっと劇場でこその魔法だろうけど、それでも日本のミュージカルでこんなすごいのがあるんだよ!っていうのを聞かせて回りたいんだ私は。

*1:瞬間の笑いだけが目当ての突飛なキャラ崩壊と中の人を擦るネタが嫌いなため

*2:加藤さん朝夏さんが夫婦役やってたBARNUMも気楽に観られたんですが、あれはショー寄りだからっていうのもだいぶあったので……。

*3:話だったらレミゼのが好みっちゃ好み

*4:日生の四月は君の嘘でもリアル🍰パーティやってたし、キャストに飲食させるの東宝ちゃんのマイブームなのかな。

*5:巻いた紙やセロハンを入れたりグラス塗ってるんだなって感じだったりが平常だと思っている。あれはあれで見てて楽しい。

*6:アーシャはまだわからないけど、悪魔が契約を持ちかけたということはたぶん「届かない」側なんだろうと思う。

*7:『きょうもみんな、おえかきがすきです』(著.赤夏)キンリミ無料で読めるから全人類読んでほしい

*8:噂に聞くメルボルンラウルのアレっぷりだと心変わり(純愛の喪失)があったのかもしれませんが私が見た版は似た傷のあるから気を許せる程度でイロはなかったので心穏やかに和めました。あそこでメグに気が移ったら情状の余地が一片もないシンプルくず野郎だから……

*9:ファムファタルの定義が(私と)解釈違いだったのは推し概念と解釈違いです!と思ったけど単純に私と派閥が違うというだけなので。きのこかたけのこかアルフォートかみたいな話だよ。

*10:全体的に自我のひらぺったい人物たちと基本はお涙頂戴仕立てなのにそのお涙要素を「日本とはこういうもの」の概念に頼りっきりなところ

*11:パガニーニによる超絶技巧練習曲のアレンジをバイオリンで伴奏して、生まれ持ったもののせいで宝物でい続けられなかった男の子のテーマ曲にするのひどすぎません????