つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

THE 39 STEPS感想

3日に観たEDGESとまとめて書こうと思ったんだけど一ケ月ぶりにメモ帳開いたら当社比5割増し取っ散らかったので別にすることにします。

一個人の感想であり個人団体思想宗教とは無関係だしあなたの見たものがあなたの真実なのでそこはよろしくね。いつもの通り注釈は注釈してないので一個一個開けないほうがいいやつです先に言っておくと。


「舞台なんてみんなくだらないさ!」って主人公がぽんっと言う舞台があの空気を持って話を終えるのすごい好きだなあと思いました。こまこました感想は色々あるけど私の一番はこれです。あの日、舞台に行ったことがハネイの人生を大きく変えたけど、それはMr.Memoryのショーの内容とか、それが彼にとってくだらないかどうかとは全く関係ないのがよいなあと思うんですよ。
 変な日本語になるんだけど、価値のあるものがくだらなくなきゃいけないわけじゃないじゃん? いえ、字義的にはくだらないと価値のないは≒なんですけど。THE39STEPS、たぶんキュッとすれば1幕に収められるだろうし寄り道やはみだしをしなければ1幕じゃあらすじが伝わらないもないだろうなって思うんだけど*1、でもあれそういう演目じゃないじゃん? ナンセンスなのと存在しなくていいのとは違うよねというか、必須じゃなくてもあることで救われるものってあるよねっていうか、あの演目ってそういう話だし舞台の観劇ってそういうものじゃない? 生き延びるじゃなく生きるをするためのセーフティーネットってさ。
うーんまとまんない。えらく長くなったので最後に回します。

 

そんな感じで好き(安心するがより適当かも)だし後味もさっぱりな演目なんだけど、史実モノじゃないけど現代の価値観とは違うとこにラインを置くなら公式HPや購入ページに事前の注意書き入れとくほうが無難だったんじゃないかなーとも思う。制作発表の記事が出たとき(よくないニュアンスで)ざわつく反響があったと聞くし、なおさら。
 SLAP STICKSでもおんなじ話をしたんだけど、誰にでも見えるところでの注意喚起を事前に置いとくのは客への親切ってだけではなく、「当時は普通とされていたけど現代のお茶の間基準からはズレてるラインだと制作側はわかっているんですよ」「当時を演出するための要素として選んで入れているし、キャストにも事前合意を得た上で出てもらってるんですよ」ってメッセージになるから……。や、あの時代と舞台設定であの演出自体はありだよなとは思うんですけども。*2重ね重ねながら白黒映画のパロ演出としてはよくある部類なんだろうと思う。現代日本だからオファー時点で全キャストにこのシーンの話はしたんだよね!?信じていいよね東宝ちゃん!?
取り乱しました。ともかく。
 書籍や映画ではそう珍しくない「当時の~~」の注意書きが、生身での体験により近い舞台って媒体ではあまりない文化なの興味深いなって思う。良くも悪くも客層の閉じたジャンルだったのがここ10年くらいで急に広がったとかなのかな。舞台の歴史も流れも何もしらんでテキトー言ってるので信じないでくださいね。
いやあの本当に、演出自体の良し悪しを言うつもりはないし削ってほしいわけじゃないんですけどね。*3


中身、中身だったらまずこれかなあ、映像の使い方すごいなって思った。想像に任せるとこと映像で見せちゃう部分の塩梅がすごいなーって。
 こないだ邦キチだったかで主人公が「足りない部分をイメージさせるのが舞台」 って言うのを見て腑に落ちた気持ちになったんですが。そういう意味合いで、視覚イメージの補足と想像の余地の残し具合が絶妙なんだろなーと思った。シルエットだったりモノクロかつ主線だけだったりするのが昔の映画の時代を連想させて、でも線や効果音がぱっきりしてるからかレトロな感じはあんましない。すごいななんか見たことないもの見てるなーってわくわくするんですよ。上演前に映画の映像?投影してたところからこれが見られるとはまさか思わなかったので、振り返るとあそこから仕込まれてたのかねー。幕間のちょこちょこ動くロゴくんが上演前から映ってたら、OP注意喚起や途中の演出もたぶんあそこまでは新鮮に感じなかったろうし。
人物の映像出すときも、横や後ろ向いてて客席から窺いにくい人物の表情とかを別撮りにしといてそれ出したり、後ろ映すときに全部映像にするんじゃなくて鏡を使ったりモノを用意したりもしてるのがすげえなーって。頭からお尻まで新鮮に楽しいアトラクションで、この塩梅考えた人いっぱいおちんぎんもらってほしい。
 そういう楽しい仕掛け諸々含めて、この演出は中~後列で見たとき一番見ばえがするんだろうなーって印象。クリエちゃんや日生ちゃんでやる演目、後ろのほうで観たときどう見えるかを意識して作ってるんだろなって作品が多くていいなーって思う。どこで観ても違う楽しみがあるの、いいよね。
これ映像で見ても絶対映えるので配信や放送してほしいなーって思うんだけど、観客が舞台上にモロ映り込む場面が複数あるので厳しいかなーどうかなー。このご時世だし全員確定でマスクしてるからワンチャンいけないかな。
 ところで一瞬脱線するんだけど舞台界隈、規模大きめの演目の過去公演映像を有料で見られるシステムをどうにか作ってほしいなって常々。「放送用じゃなく記録用です」ってあれば画質音質編集ぜんぶそりゃあねえでいけるって。あのキャストが復活!な再演ももちろんそれはそれで観たいんだけど、彼彼女があの歳あの時にその役をどうやったのかも見たいんですよオタクは(主語がでかい) あとナマモノなのは如何ともしがたいとはいえ消えモノにされると新規を誘うがしにくいんです、トトロいたもん!には限界があるんですよ。脱線終わり。

 

◆アナベラとハネイ
 Mr.Memoryのショーを見てるハネイ、舞台をそこそこ楽しんでるっぽいながらもアナベラに視線がっちりロックオンしてウインク飛ばしまくってるの見て笑ってしまった。何をしに舞台に行ったんだ君は。退屈を紛らわすためだったね。
ここで美女をナンパした下心でとんでもないことに巻き込まれていくハネイ、全然懲りずにいろんなレディへ下心を出し、そのたび話が大きく転がってく一貫したすけべシステム。たぶん天丼。
 アナベラ、めちゃくちゃ面白い女のにおいがしたんだけど面白い女かわかる前に死んでしまった。もう一晩くらい一緒にいてみてほしかったけど謎の女のまま退場するのまでコミで面白い女なんだよな……。ところでアナベラはウインナー好きなの? それともドイツと言えばソーセージなの?

◆マーガレットとハネイ
 このCP可愛いー! きゃっきゃしてしまった。ハネイと過ごした僅かな時間がマーガレットの退屈な繰り返しに小さな彩りを残したのも可愛いし、マーガレットが渡したよそ行きコートに入ってた讃美歌がハネイの命を救ったのも可愛い。
 私はマーガレットがハネイに持つ都会への憧憬と混じり融けたような恋のときめきがこの話の感情矢印のなかで一番好きなんだけど、まーつまりだからこの関係が一番救いがないというか実になれない花だと思ってるんだろうね。何を言っているんだおれは。
ハネイはマーガレットを恋しく思い出すことはなかったろうし、それどころか彼女を懐かしむこともあんまりなかっただろうけど(パメラと一緒になったら日々どたばたでそんな暇ないと思う)、マーガレットは何年たってもあの半日の出来事を鮮やかに覚えてて、同じ日々を繰り返す彼女の人生で宝物の思い出になるんだろうなって感じがしない?

◆パメラとハネイ
 パメラ、一発頭はたきたくなる女(好意の表現です)なんだけどパメラに対するハネイも一発頭はたきたくなる男(好意の表現です)だから似た者同士なんだろうな。パメラにはぱっとは信じられないような事実をいきなりチクりにいくより指名手配出されてから「ほらー!私がそんなことするわけないじゃない!」したほうが信じてもらえたんでないかと思うが、そこまで回らん短絡さがパメラなので……。彼女のキャラクターとしての魅力はそこなんだろうし。ハネイがすけべ心で巻き込まれてすけべ心で状況変わってくのとおんなじなんだと思う。二人とも短所が登場すぐどーん!と見えるので強烈インパクトだけど、憎めないっていううかわりとお人好しっていうか、人間ってそういう生き物だよねってあたりに落ち着くので最終的に微笑ましさがある。
 ところで私は恋愛感情のセンサーが生えてない*4のでよくわからんのだけど、この二人は吊り橋効果で恋に落ちちゃった的なサムシングでいいんです? いやあの違うの揶揄ってるんじゃなくてまじで感受性が無でわかんないんだよ*5、宿で別れたときパメラがああ~~って後悔してるのと家に戻ったハネイがなんか後悔してるのの動機が類似っぽいことはなんとなくわかるんですよ、このときパメラがキスをすかされるのが1幕でハネイが色事に持ち込むのを悉くすかされたのと対比なんだろうなとか。どこでどこに惚れたのかとかはよう知らんけど、両想いで子どもを設けるぐらいには仲良く続いたらしいので破れ鍋綴じ蓋だったんだろなという理解をした。人間ドラマを食べるヒューマンの解説が待たれる(私は人間に興味がないので……。)

◆ちょこちょこ
 ハネイの指名手配情報が「37歳くらいの」言ってて作り込みすごいな!?と思いました。平方さん数えで37じゃなかったでしたっけ。黒い髪に薄茶色の目って言ってたのでハネイ情報はキャストに合わせてるのかもしらん。*6いえ今回目の色覗いてないんでわかんないんですけど。原作に近い外見の人をキャストに持ってきてるのかも。裏表なのか別の紙なのか、新聞に載ってる指名手配情報もだんだん詳しくなってってました? 列車のときはふにゃっとした線での似顔絵だったのが小作人の屋敷では写真になってた気がする。
 1幕が終わるところの歌、男性二人に対してソニンさん一人で歌ってるのにあの荘厳な空気を出すのすげえな!?って思いました。それおっきめのミュージカルだったら女性のアンサンブル全員出てきて声揃えて歌って醸し出す空気じゃない!? 鎮魂歌とか聖歌とかみたいなナンバーの……。
 Mr.Memoryの長台詞、あべさんが止まるたびに3人がこしょこしょ!って続きの言葉を教えて、それを呼び水にしてまた話し始める方式でした。ある意味で最も手に汗握るシーン。振り向けば答えが書いてあるのに振り返らず頭から引っ張り出そうとするのプロだなあと思いました。たぶんそのほうがおもしろく見えもするんだと思う(そういう意味でもプロだなあと思った。)
最初はあべさんが詰まっても文字が入れ替わる直前まで全部表示されてたのが途中からMr.Memoryの喋れた量に合わせて止まるようになって、細かいなーどこで調整してるんだろうと思ったらバンドの一番下手側のお兄さんがカチカチ押して進めてた。お兄さんふしぎ打楽器(次から次へと出てくる)もご担当してなかったでしたっけ。すごいですね?


最後に回したやつです。あの演目のなかで、退屈した日常を送っているハネイが「舞台なんてみんなくだらないさ!」って言いつつ観に行ったショーから(ショーの内容と関係ない要素で)非日常に突入していくのがいいんだよーって話を延々とします。おれがあの演目を観て感じたことのキモがそこなので。
『シリアス #とは』みたいなあの話のあの空気で、舞台なんてくだらないって言ったハネイが観に行った舞台の内容と関係ないところで劇的な体験するのがいいんですよ。同じこと3回言ってるな?
 なんじゃろなー、舞台観に行きますっていうと沼の外の人には高尚な趣味ですみたいな感じになるじゃん。金かかるのは事実だけどだから高尚ってことはないのに(そう思って舞台行ってる人いたらごめんね。)史実が題材になってる演目も多いし対人の仕事してると引き出し増えてありがたいなーってこともあるし、勉強になるとか知識があるとより楽しめるとか、そういうのも舞台の確かな一面だと思うんですけど、舞台を見に行く動機ってそういう益になるからばっかりの理由じゃないし、それでも必要で救いになるものなんだと思うんですよ。と、いうのを観に行く側から(観ない人に)言ってもたいがい嫌味に聞こえるんだけど、もっこ内側の舞台の中からぽんっと蹴っ飛ばしてくれたのがなんかたぶん嬉しかったんだと思う。嬉しい?安心した?勉強とか教養とか、そういう高尚なおキモチで舞台を観に行かなくてもよいし、そういう高尚なものを受け取って帰って来なくてもいいんだよなって気がラクになったと言いますか。舞台の主題や制作側が頑張ったところを受け取ってこなくても大丈夫なのかもしんないな、という安堵のほうが近いかもしらん。いや知らんけど。そういう意図の作品ではなかろうなとは思う。
制作側から発される「感じてほしい」を負担に感じるタチなので*7(だから発信してほしくないというわけではない。発信はしたいだけいっぱいしてほしい、この演目が/キャストが/座組が好きなら受け取るよねみたいな要求をしないでくれれば)、ショーとは全然関係ないことしながらもあのショーが人生の転機になったハネイが舞台の主人公なことになんか安心するんだと思う。勝手にね。

*1:ぶっちゃけ1幕110分でやってくれと全く思わなかったといえば嘘になるけど

*2:普通に面白いとも思うよ、白黒映画の時代の白黒映画の世界観のコメディ演出のオマージュとして見たときすげえ面白いと思う。現代がテーマだったら全然笑えないしあの場面の価値観に同調しているわけではないので「あそこがおもしろかった」とはけしてでかい声で言えないけど。(注意書きないと不可抗力に便乗する痴漢シーンで笑う=その行為を「笑いとしての表現ならOK」と思ってるって表明するみたいでこう……肥大した自意識と言われようとも嫌っすね……。)(知らないほうが幸せなこともあるので申し上げにくいんだけど、ああいう痴漢ってフィクションにいるだけの存在じゃなくて現代日本のそこらにいるんですよ……。)

*3:キャストさんが心身の不調で中止になった舞台なので予防線を強めに引いている みんなが納得の上で話受けてるならほんとに嫌じゃないんですよ でもゾーニングはしておいてね

*4:エリザでもマタハリでも言ってるけどそのあたりの感受性が無

*5:キャストさんの体調不良で中止になってるので予防線をしっかり目に引いている

*6:日本人の虹彩は茶系が多い

*7:作る側が感じてほしかったように受け取って考えていない、言っちゃえば不正解な楽しみ方してるんだろうなとたびたび思うため。