つまるところ。

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'21レミゼ感想

6/13マチネです。まとまってない記憶の断片をわーっと書くつもりがこうなったのでわーっとするのはツイッターでやろうと思いました。文字数制限がないと連想と空想で無限に話がずれていく。

 

知念里奈さんファンテーヌ
知念ファンテを見たら2幕ラストシーンの解像度がめちゃくちゃ上がってすごく動揺しています。あまりに上がりすぎて強火の幻覚(そういう演出ではないところ”わかって”しまった怪電波)じゃないかって気がしてきた。
死者が生者を迎えに来た場面だと思ってたけど違うじゃん、いやそうなんだけどあそこにいるファンテは、たぶんエポも死後の世界から迎えに来てるのではなく神の国から使わされてるんじゃん……という幻覚を見ました。見ています。
知念ファンテが出てきて声をかけた瞬間に静謐さが聖堂のそれになったじゃん……ならなかった……?(オタクは幻覚を見ています) フランダースの犬(アニメ)のラストでネロとパトラッシュを天使が引っ張って連れていくじゃん、バルジャンを迎えにきたファンテと寄り添ったエポはあの天使たちと同じなんだなって思う。わからない、幻覚かな。

正直に言うとわたし前回のレミゼのあのシーンにちょっとホラーに似た無常さを覚えていたので(害意もなく世の定めとはいえ、この世ならざる者が命の灯火を消したように見えて仕方なかった)、あの静けさに神聖を感じ取ることになるとは思ってもみなかった。カトリックの聖人思想、わたし一片も共感していなかったんだけど*1こういう気持ちなのかって思っちゃったよ。
死は喪失じゃなくて救いの日まで離れているだけ、再会するまでの遠い旅のようなもので。先に逝った者が迎えに来たのはこの世から連れ去るためではなく道に迷わないよう手を引くためだった。バルジャンがマリウスに託した嘘(遠くに旅に出る)がまことになったの好き。

 

小野田龍之介さんアンジョルラス
前回に見た記憶よりリーダー適性高そうなアンジョルラスでこのアンジョになら心臓預けられる。勝てそうかどうかじゃなくて、この人の理想になら命を懸けてもいいと思える。
あのカリスマに仲間へ気を配る情の篤さと細やかさが乗ったらリーダーとして最強じゃん……。あの学生軍アンジョルラスだからついて行ってるしアンジョルラスだからあそこまで士気を高められてるよ。
一気に妄想強度を高くするんですけど、あの学生軍アンジョルラスの語る正義に共感して集ってるのもアンジョルラスに鼓舞されてるのも事実だけど同時に俺たちがこいつを支えてやんなきゃとも思ってそうじゃないですか?
初めての恋にすっかり浮かれているマリウスにちょっとむっとしてるのを仲間がひょいと宥めて最終的には革命の話に持ってけるようにするのとかさ。

小野田アンジョルラス、狂気がないのが彼の魅力だし哀れだよ。*2まったく正気で作戦を立て仲間を想い同志の死を目にして、それでもリーダーでい続ける気持ちの強さといつか対面するだろう正気では受け止められない酷い現実に心が折れてしまうのではないかって危うさ。
あのカフェで同志の死を聞いた衝撃を打ち払うように戦意を燃やして仲間を鼓舞しようとするアンジョルラスにいつか折れるぞ折れるぞと思ったりした。ガブローシュの死に崩れるように座り込んだアンジョが眉間をぎゅっと押さえて動かないから折れちゃったかな……と思ったら悲しみも悲愴さも戦意の燃料に焚べて最後の火をつけたのすごかったね。それまでは櫓の上、高いところにいながらもバリケードで身を護って戦っていたアンジョがバリケードの隙間で全身をさらして赤い大旗を振っていたの、勝てない戦でリーダーができる一番のことをしているんだなあと思った。
砦のなかで一番目立って一番危険で一番無防備な場所を自分の身体で塞いで、赤い旗と赤い自分で士気を高めて死の恐怖を吹き飛ばして。最後の瞬間まで後ろを向かず、誇り高い戦士として落ちていったね。ちびいぬガブローシュと同じように握ったこぶしを振り上げてさ。
最後までひとり残り、嘆くマリウスを心配するように見ているアンジョルラスにマリウスの兄貴分だった(というかマリウスがみんなの弟分だったんだろう)仲間想いの男をみた。

 

上原理央さんジャベール
家柄の良さそうな刑事。当たり前のように恵まれて、当たり前のように神のために職務を果たす、神にとても誠実な人。彼、バルジャンを捕まえる決意を新たにしたときに十字を切るんですよ。自分の職務を神のための奉仕(地上を神の国に近づけるための行いが"天命"、まあ神から与えられた仕事みたいなものです)と疑わない。このジャベールはなるほどな、娼婦や小悪党を理解することはできないだろうな、と思った。
彼はおそらく自分の意志で刑事となり、自分で選んでスパイとして潜入した(失敗したけど。)刑事としての職務のためなら他人にどう見られようが構わない、己が命さえ惜しむこともない。
自分が生き延びるために、あるいは自分を犠牲にしても子や家族を守るために仕事をする彼らが『他に選べない』『選ぶ余地などなかった』のは弱さにしか見えなかっただろうなあ、と思うのよ。『死なないためには仕方がない』は、『誇りある死を選ばない』とも言えてしまうので。
ジャベールのその信念にひびを入れたのは冷たくなったガブローシュなんじゃないかなあ。神の国に近づけるために職務を果たしている自分たちが殺した、神の国に一番近いはずの存在。
「死にかけてる!」ってマリウスを見せられたときすごい形相になって、そのぎらぎら光る目のまま道を譲った彼の信念はあのとき折れてしまったのかなあと思った。
届かない何かを見上げ伸ばした手が、こと切れてぶらんと垂れ下がりトンネルに吸い込まれた光景が目に残っている。


ここからは幻覚を見てないでどんどんいきたいです はい

佐藤隆紀さんバルジャン
穏やかで優しそうなバルジャンだなあって思った。ふわふわした。声の印象なのかな。コゼットを小さなお姫様のように扱う手がやさしいんだよ。
マリウスにコゼットを託して去るとき、背を丸めて首を落として歩みさっていくから一気に年老いたように見えた。このときのバルジャンはエポニーヌが言ってるように「じいさん」なので、今まではコゼットのために背を伸ばして気を張り詰めていたんだよね。きっと。
若いふたりを迎え入れる穏やかで慈愛に満ちた微笑みがね、いいよね……。

橋本じゅんさんテナルディエ&森公美子さんテナルディエ夫人
やったー!!って思う、具体的にどうこうというのはわからんけど、小悪党ぶりが見ていて気持ちいいよね。流れるようにお客の持ち物をパクっていくテナルディエと息ぴったりで品物を受け取って台所に紛れこませたり服に胸に押し込んだりする夫人の破れ鍋に綴蓋さ加減とか「ラッシャーセー!(雑)」とか好きだよ。
催したお客のを受け止めたボールの中身を酒瓶に入れて夫に差し出す夫人、ひぇ……。テナルディエが飲み始めてからうげぇって顔になる(それでも飲み続ける)のどういう顔して見ればいいかわからない(好き)瓶を口から離したところにすかさずボール差し出すのが2人の歳月の長さって感じ。
コゼットにばいばーい!したあと、大金でテンションが上がっていそいそ服を脱いで(仕草)ハグするのめっちゃ面白かったですね。バルジャンやジャベールと反対の、目の前の利益や自分の欲望に従う人の象徴なんだなーと思った。

*1:キリスト教の信ずるかどうかは主と私の一対一の契約なのになぜ他人をバフに使おうとするの?って思ってた、おそらく彼らにとってはそういうものじゃないのはなんとなく判ってるよ。

*2:前回のレミゼ、普段は友達想いの青年なのに革命を謳うときは目が狂気に輝く相葉アンジョルラスがいたよね……今回もそうなのかは観てないから知らないけども……