つまるところ。

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スルース〜探偵〜 観てきました

1/10マチネ回。
個人の感想だし思いっきりネタバレを含みます。ご了解ください。

 
ネタバレしかないけど大丈夫? 初見は事前情報なしで観るのが絶対楽しい演目だから観る予定あるなら戻ってね?
感想の断片を投げ込んでいくスタイルです。

 

 

2幕最後の光景そのまま悪夢に出そう(ほめてる)
 大音量で鳴り響く時代がかった歌声、がんがんと間断的に叩かれるドアの音、上半身をがじゃがじゃ振り乱す人形のひび割れた笑い声、ホラー映画もかくやの不気味さだった。比喩ではなく。
その中で吉田さんアンドリューが悔しさでも怒りでもなくずーんと真顔……つか無表情なのが人間らしいけど人間味がなくて不気味さ山のごとしだった。賛美です。

 柿澤さんすごいな!? えっあの声自前ですよね? マスク剥がした後もあの声で挑発するセリフ有りましたもんね? すごいな?
 二度目の“ゲームセット”でげたげた笑い続ける柿澤さんマイロの後ろ、暖炉に投げ入れられたストッキングが素晴らしいタイミングでくたっと落ちてオタクはテンションを爆上げしました。
 毛皮のコートを羽織って椅子に沈み込む柿澤さんがめちゃめちゃ煌めいていて、冬(語彙の喪失) 妖艶というより神々しさというか、いやどっちかというと生け贄側の気配なんだけど、死ぬことも覚悟して、意志と矜持をもってそうしている命のきらめきというか。命や誇りをベットしたときの輝きが半端ないよねこの方ね……

極限状態で本性が出るって言うならマイロは善良で純朴な青年だよなあと思うなど。ピエロさせられてるときのリアクションとかアンドリューの言葉ひとつひとつへの反応の素直さとか、悪事に免疫がなく、信頼したら一連托生する意思もあるいい子そうだったよ。
マイロは屈辱を恐怖が上回っての1幕でアンドリューは保身を屈辱が上回っての2幕だったなって思ったんだけどどうなんでしょうね。かかってるものが違うから単純に比べるのもあれかもだけど。マイロはアンドリューに脅されたままに動こうとするし「どうして(僕を殺すの)」って聞くけど、アンドリューは譲歩というか屈伏というか、自分の意思や判断を捨てることをどこまでもしなかったなあ。「ヒントをくれ(寄越せ、かも)」だもんな。

 心情的にはマイロを応援してて最後は大盛り上がり(無音)なんだけどアンドリューがなんとなくわかってしまうそれがすごく嫌だ(賛美) 自分にリスクのないとき人は無邪気に残忍にどこまでも人間の心を失うから……。自分の優位性が崩れたとき目の前にある価値ありそうなものを吟味もせず掴むところとか、そうやってしがみついた仮の“欲しいもの”が思い通りにならないと破壊衝動に反転するところとかもわりとわかって嫌だ……。
 マイロの「ゲーム」は自分もリスクを負っていて、「同じやり方」にしたってアンドリューとは根っこのところが異なるんだよなあと思った。自分の命さえシナリオに組み込みながら他者の協力なしには成功しえない「ゲーム」なんて、アンドリューは仕掛けられないよ。自分のYシャツ1枚のコストも払いたがらない男、何個でも買えるだろうロックグラス1つも八つ当たりに使わない男に。

 アンドリューは金と名声があるからああいう人間になったんじゃなくてなまじっか才能があったばかりに多くの人の通過儀礼、社会で自己万能感を折られ真似と試行錯誤で穏便さと成功体験が結びつく過程を通れなかったし、通る必要もそこから得るメリット(人間関係から相互に利を与えること)も持てなかった人間って印象(強火の幻覚です)
アンドリューのコミュニケーション、2幕通してモノ・カネ・時間を費やして感情を搾取するだけだもんな……。平凡な人間はそんなことやると生きていけなくて死ぬんだけど(社会的にではなく経済的に)、アンドリューの仕事は極論、自分以外の存在すべてを食い物にしてもできるやつだったから……厳密には出版社や税理士や色々つながりはあるけど、まあなんつーか彼らにとってはある程度の我慢に見合う利をもたらす金づるだからな……。
 マイロのいう「人の心が通う世界に連れて行きます」まじでそうで、アンドリューはもう多分そこに、互いの心を通わせることに味を感じなさそうなんだよな……。食う感情が濃い味なんだよなアンドリュー。精神のいたわり合いで安らぎを得るより奪うか奪われるかの駆け引きに(正しくは奪い取った高揚に)喜びを得るのを優先しちゃう。それそのものは別にそこまで異常なことでもないんだけど、「パートナー」からそれを得ようとするのはまあ関係の崩壊しか招かないよな…。奪われることも笑って享受できるならまだしも、やり込める快楽しか許さないからな彼……。

 

吉田鋼太郎さんを初めて観ました。アンドリューが徹頭徹尾鼻持ちならなくて一片も同情しなかった(おかげでエンターテインメントとして大満喫した)ので役者さんすごいな……と思った。マイロにしがみついたときでさえ、アンドリューへの憐憫より見下ろすマイロが浮かべる静かな嫌悪への同情が先に立ったから……。