つまるところ。

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ロミオ&ジュリエット2019感想。

ひょんなご縁でチケットを手に入れたので行ってきました。だいじょうぶ今回は情緒は狂ってない。*1

具体的なネタバレはないと思うけど、前情報が全くない状態で観に行きたい方は自衛してくださいませ。観劇日は2/26ソワレ、生田さんジュリエット初日です。

今からチケット取るのは難しいけど公式DVDが出るので良かったら観てみてほしい。*2

  

Wキャストの若さをシングルキャストが輝かせる構造

Wキャストの皆さん、若い。いや良い意味で。あの陰のない輝きと勢いはあの時代にしか出せないものだと思う。そしてその勢いは時に客の側を置いていきがちなんだけど、シングルキャストのベテラン組が誘導するからちゃんとついていける。特に岸祐二さんの神父様とシルビア・グラブさん乳母がすごかった。歌声や演技のひとつひとつが、呼び水みたいにこちらの感動を引き出してくる。ジュリエットへの愛の花を渡すところ、最後のシーン、ロミオの健気さに泣いてるのにこちらの感動を引きずり出したのは乳母の演技だった。

あとですね、若者の肌を魅せるぞって演出の方の強い意志を感じました。(気のせいかもしれない。)あの素肌にみなぎるハリと未来への力を感じさせる輝きは若さですよ……。メインキャストが皆さんお若いのはそこか、(目の周りはしっかりしてる割に)お肌のメイクが薄いのはこのシーンがあるからか……と納得させられる説得力だった。若さの輝き、双眼鏡で抜いてもびくともしない。

 

 

なんてことをしてくれたんだシェイクスピア

Twitterでも語ったんですが、 このエンドはキリスト教の宗教観を根っこにある人が見たら相当心を揺さぶられるんじゃないかと思いました。あれが公開されたのがキリスト教圏の、それこそ国教とされていた時代のイギリスだってのを考えると、あの作品が観衆に与えた衝撃は相当なものだったんじゃないかこれ……。

キリスト教の世界観で見ると、この二人が選んだのは絶対に救われない道なんです。
ご存じの方も多いと思うんですが、キリスト教の価値観では自ら命を絶つことって重罪の1つなんですよ。命は神に与えられたもの、神の持ち物だから人間が奪ってはならない。まあこれは信者の命を奪うことも同じなんですが、他殺は懺悔ができる、つまり悔い改めの機会を得ることができる。でも自殺は悔い改めができない。だから自殺をした人間は永遠に、神の救いを得る資格を持てない。神の手が差し伸べられず、終わらない苦しみとともに永遠に彷徨い続ける地獄。それでも二人は選んだんですよ。神の愛を捨てて、互いへの愛を。

神様はだって、彼らの一番大事な人を救ってくれなかった。

そもそもロミオ、信じられるものがどんどん失われていくんですよね。大人達はいがみ合い、仲間たちは2人の恋を引き裂いた。親友が殺されたのに大人たちは面子と相手への侮辱に夢中になっていて、誰も悼もうとしていない。ロミオが信じられるのは神父様と、ベンヴォーリオとジュリエットだけ。そのベンヴォーリオがジュリエットの自死を告げた。神は彼女を救わないと告げに来たんです。彼に唯一残された希望、神が彼女を救ってくれるという祈りすら裏切られて、だから彼は毒を飲んだ。冷たくなった彼女の奥に救いがあることを知らなかった彼は毒を飲みジュリエットのもとに行ったんです。たったひとつの恋を、誓った愛を奪った神に背を向けて。

このときロミオに救いを告げるはずだった神父様の言葉は、人々の欲に阻まれてロミオに届かない。あれはすごい演出だった。ぜひ本編で観てほしい。*3

神に裏切られた(と信じた)ロミオを追ってジュリエットもまた地獄に行った。彼女には神の救いがありながら、ひとりだけ救われても仕方がないと振り切ったんです。彼への恋と愛のために。
神の楽園が唯一の救いと誰も彼もが信じてる時代にこれぶちかましたんですよ、シェイクスピア。なんてことをしてくれたんだ。

 

個人的な見所(ここからはネタバレあり)

罪を告白して泣き崩れる古川さんロミオと彼を守る三浦さんベンヴォーリオ

大公に告白して膝をつくロミオの憔悴した表情と自分も泣きながら親友を慰めるベンヴォーリオ、あのシーンでなぜ彼がロミオなのか理解した気持ちになりました。憔悴した表情でぼろぼろ涙を流しながら、震える手で自分を抱きとめるベンヴォーリオの手に縋るの。古川さん、大人しそうな表情も恋に動かされる表情も綺麗だったんですが、あそこの喪失感と自分の中にあった衝動を受け止めきれずにいる呆然とした姿、いやあのロミオの若さを感じさせる瑞々しい絶望。いやすごかった……。
そして彼を抱きとめる三浦さんベンヴォーリオもすごかった。この大人しくて人のいい争い嫌いな友人が今どれだけ苦しいか、誰よりもわかってる親友だった。優しくて繊細な親友の痛みに誰よりも強く共感し、守るように抱き留める。自分も涙を流しながら、大人たちの心無い言葉に挑むように噛みつく。離れるときにロミオを勇気づけるように腕をさすっていく彼、ロミオにとって唯一無二の得難い理解者だったと思う。

 

生田さんジュリエットの「少女」っぷり

初恋を知ったときの輝きがすごかった。町の外れでロミオと歌い交わすときの、溢れんばかりのきらきらした若さと瑞々しさ。完璧に16歳の女の子だった。果実よりも若いあの瑞々しい甘さ、少女にしかないやつですよ。あと2幕の「ねえロミオ、ロミオ起きて」のところ。少女性が爆発してたと思う。あの少女特有の、悪意の存在を考え付きもしないまったくの無防備さ、いいよね。初恋を知った少女の輝き、アイドルさんだったの納得でしたね。

 

死に翻弄されるロミオ

大貫さんのあの舞、大変好きです。劇中の要所要所で出てきて、ただ見ている。何度か表情を抜いてみたんですけど本当に何の感情も乗っていなくて(狂気すらない)、存在としての「死」なんだなあと思った。途中ロミオと踊るところが何か所かあるのですが、ここでぐっと目を見開く瞬間があるのでみんな見てくれな。1回口角が上がった気がするんだけどどこだか忘れた。そして死と踊るロミオ、主導権がどう見ても「死」にあって、ああ……という諦念がわきました。ルドルフ皇太子といいロミオといい、迫り寄る死に対してあまりに抵抗ができない。ところで大貫さんお歌上手いって聞いてるんですけど、一言もしゃべらないこの役に配置するのとんでもない贅沢では!?と思っている。

 

何回でも言うんだけど今回はDVDが出るので興味があったらぜひとも手を出してほしい。これがいっぱい売れたら演目を映像で残してくれるとこが増えるんじゃないかって皮算用はある。

romeo-juliette.com

*1:でもまとめ作るぐらいには喋った。

*2:個人的にはイドイドの物語が好きな人にぜひともお勧めしたい。

*3:DVDも出る。