つまるところ。

観劇や演奏会の感想を置いて行く場所。だって青い鳥には推しがいるから。もっと雑多なログもある。 https://utayomichu.hatenablog.com/

JtRたぶんお勧めしてるよ今度は たぶん

引きで見ながらあらすじ無視しておもしろシーンをげらげら笑うぞのつもりで行ったら普通にすげえ面白かったので今度はそれなりにお勧めできると思う。やっぱ深夜アニメ枠だよこれは。タグで「どうした〇〇」言われながら実況されるやつだよ。

個人の印象だし感想だし好き勝手なこと言ってるし好みがどうってだけなんだけど私は役者の後ろに亡霊が透けてる(比喩)*1のがかなりのNotForMeだったので心底から好意的な印象じゃないかもしれない……。いや先の注釈1より攻撃的なのはないので大丈夫だと思うんけど。韓国版の円盤はいつか探す(たぶんそっちは好き)

今度もネタバレあるから気を付けてね。なのでここだけ先に。
ミュージカルJtRの話を楽しみたいなら加藤さんアンダーソン回に行くといいです。この話ひっぱってるのアンダーソンなので、脚本の表現と中の人の年齢関係にギャップが少ない組合せのほうが躓き少なく観られると思う。
筋を気にしないで推しの可愛いを観るぶんにはどの組合せも全然アリ。おれは松下アンダーソンの淀んでいる感じも好き。

 

 

 

 


加藤和樹さん(アンダーソン役)
苦しんでる加藤和樹(敬称略)を観たいなら行って後悔はしない。苦悩するっていうか苦しんでる加藤和樹氏ですね……。
あとさっきも言ったけど、話を諦めずに楽しみたいなら加藤さんアンダーソンの回がお勧め。この話、主人公はあの人だけど引っ張って回してるのはアンダーソンだと思う。
霧の街ロンドンを形にしたような陰鬱な男が牽引するJtR、どこまで行っても光明が差さない。フランケン*2と違ってきちりと落ちる幕引きではないので、あの重さがあるとすかされなくてちょうどいいんじゃないかなと思いました。

加藤さんのアンダーソン、タイプライターの前やショウバーで独り座ってるときがぜんぜん楽しくなさそうな男で見ていて楽しいですよ。特にショウバー、刺激が無の状態がキツイから刺激を入れているだけで、酒も煙草もショーも女も賭けトランプだって本質的にはくそどうでもよく楽しんではいなさそうな沈鬱さがこう……ゆるやかな破滅って感じ……。心身の苦痛を紛らわせてその場はましになるけど脳や身体が休まってるわけじゃないから長期的には解決にもならない、緩慢な自殺してるのとそう変わらないやつ。
娯楽のはずの飲む打つ買う(女は買ってないけど)が快楽でなく苦痛を紛らわせるのにしか機能してないアンダーソンの薬物吸入が激しい苦痛から逃れるための作業でやったじゃんと思った(何もやったじゃんではない。)ヤク入れた直後のぐったり脱力した姿勢からヒューーーーーーーーーッって高く深くヤバい呼吸音がする(させてらっしゃる)んだけど、あの瞬間の他に苦痛を感じていない時間がなさそう。
煙草だかマリファナだかに火をつけようとライターをがちがち回して、うまく着火できないから報告書につけた火を煙草に移すのとてもかっこいいですよ。ライターを使う2つの動作の理由がつながってはっぴーだった。

モンローと一度目を見合わせた後ダニエルの話を聞き流しつつ、ふたりしてわんこみたいな欠伸してるのすげえ退屈そう。薬物入れた直後なのにダニエルの話をどうでもよさそうに聞き(流し)ながら首の後ろや腕をがりがり引っ搔いていたのが印象的でした。もう無意識なんだなーって。刺激が入らないかごく微弱だと脳が刺激の幻覚を作り出す、耳鳴りや幻肢痛もなんかそういう仕組みらしいですね。

ポリーとのシーンはすごい恋愛ものなのがわかった。苦悩する加藤和樹氏がみられる。松下さんは恋愛になると発光する(アンダーソンがではなく松下さんがすごい輝く)けど加藤さんは熱量で気温が上がる(アンダーソンは落ち着いた、というか押し殺したいぶし銀みたいな愛情の漏れ方をしている。)ポリーはアンダーソンを父親の背中みたいと言っててアンダーソンは妹を見るみたいな目をするね。ポリーの悲鳴が聞こえてからは一気に愛情に爆発する。


木村達成さん(ダニエル役)
脚が長い。
もちろんそれだけじゃないけどこれだけは先に言っとかなきゃいけないと思って……。某『彼』だったり夫人だったり作家だったりに「脚が長い!」と感激しているTLを楽しそうだなーと眺めながら皆さん脚は長いのでは?と思っていた脚の長さ不感症だったのでつい。
グロリアの手を取ったり顔を近づけたりするとき、木村さんずーっと膝を軽く曲げているんですよ。脚が長いから。脚が長いから顔が正面向いて自然な角度で腰を折ると顔の高さが同じにならず、同じ高さでまっすぐ手を取ることができない(上からになってしまう)んだなと気が付いたときに生まれて初めて役者の脚が長いことを意識しました。なるほどこれが脚が10mある現象……(あるんですよそういうテンションの上がり方が。集団幻覚とも言う。)
グロリアと同じ向きで彼女を包むように抱いて歌い上げてるときは膝を伸ばしているからクセなんじゃなくて相手に合わせるための行動、スパダリの脚の長い人なんだよなあ……。
木村さんダニエル、グロリアだけじゃなくて仲間の医者と話すときもほんの少し膝をゆるめて顔の高さを合わせていてダニエルとしても役者さんとしてもめちゃめちゃいい人で感激しました。そして脚が長い。
木村さん、'19エリザのルドルフで記憶が止まっていたので今回すごい歌がお上手でびっくりした。いえルドルフのときがそうでなかったわけではないんですが、届かないところを若さの勢いでカバーしてるところはありませんでしたかというかTキャストだった京本ルドルフ三浦ルドルフがおうたつよかったから相対的にそういう印象だったのかな……。お兄さんお歌すごいじょうずですね!? 張りがあるし朗々と響くしそれでいて場面により柔らかかったり甘かったり凄みがあったりしてなんかすごい……ダニエルの台詞としてでもお歌単品でも成立しててすごかった。お兄さんおうたじょうずですね……。
ダニエルの立体感があるところにこのお歌が乗る木村ダニエル、めちゃくちゃ強い。
そしてI’m Jackとchaosの目だよ。2回目の合図で戻ったダニエルの自我がジャックを受け入れて鏡の動きで同じ人格の鋭い目をしているのすげえ……と思いました。1度目のジャックより恐ろしいばけものなんだよな……。ジャックも凄味があるばけものだけど堂珍さんのジャックって加藤さんのジャックの圧倒的パワー!!!!というより細身で動きのないときは闇に溶け込んでて艶消しした黒塗りナイフみたいなジャックじゃないですか。2回目の入れ替わり後のダニエル、目つきが鋭くてまなこの光がギラギラしててすげえ……あの、もうこの完成してしまったばけものを誰も止められない……みたいな恐ろしさがありました。ジャックというナイフに動機ができてしまった……みたいな……。
憔悴しきっているのに自分を心配して声をかけるグロリアに振り向いて返事するときだけなんとか笑って見せてたあの優しい青年はどこに行ったんだよ……。
あっところで木村さんのナイフなんですが、各所で出して見せるときナイフの刃が照明を反射して輝く角度で持ってるの魅せ方が完璧ですごかったです。あのナイフ、じょうずに光を当てるとジャックの杖の握りと同じ色で輝くんだね。


堂珍嘉邦さん(ジャック役)
なんかすげえロックだった。ケミストリーも音楽も詳しくないからロックの人じゃなかったらどうしようと思って喋ってるんだけど、うん、ロックだったなあのジャック……。
モンローと同様に声色を変えてるんだけど、喉じゃなくて腹のほうで声が変わってる感じで凄味がありつつすごく聞きやすく、プロの歌手ってすげえな……と思いました。姿を見せたときは街の暗がりに溶け込んでるんだけど、彼が音を出した途端に存在の圧が増す感じ。ダニエルに入れ替わったとき動きだけじゃなくて声も弱々しいひゅーまんになって、あの腹から出るぐるぐる*3がないとこんなに声が違って聞こえるんだと思った。
すーっと現れてどーん!と存在感が出て命を刈った後はすうっと溶け込むように消えていく、どこか野良猫みたいなジャックだった。野良猫っていうか、昔読んだ怖い話に出てくる本当は巨大なヒトを喰うばけものなんだけど獲物をしとめるとき以外は一見どこにでもいる猫みたいな顔して町を歩いていますみたいな化生……。加藤さんのジャックは存在するだけでなんかすごい圧倒的なんだけど、堂珍さんのジャックは命を刈るときに絶対逃げられない凄みがどこからか湧いている。
(わたしが)その人間を見慣れないと感情とか気配を拾えないのでなんかあんまり明文化できる感想や印象がないんだけど、人の命を取りに行ってるときに色っぽさを出しているわけじゃないのに謎の色気があってますますそういう存在ぽかった。爆速でガゼルに追いついて首を砕く瞬間のチーターってなんか色気があるじゃん、ああいう……。
グロリアが自分を撃った後にすぅっと気配が消えていくのがすごかったです。ダニエルがジャックになるのはグロリアありきなんだなって知った(昨日はわかってなかったんですか?)(はい)(いちおうド目の前で起きてたんだけどね……)

*1:その人物を演じているというより「参考にしてるオリジナルがいてその動きをなぞっている」感じがずっと付き纏うのが好みに合わない。まねっこじゃなくて"あなたの"その人を見せてくれよ……初演なのになぜ亡霊がいるよ……。

*2:フランケンシュタインが好きな人は好きだよ」とめちゃくちゃ言われていますが、実際フランケン2幕闘技場パートの露悪趣味が延々続いてるような色してると思う。

*3:なんていえばいいのかわからないんだけどライオンが威圧するときの咆声って平常時の鳴き声に腹から上がってくるようなぐるぐるした響きが入るじゃないですか、あれ。おっきい猫科はそれ用の骨があるんだけどヒトがあれやるのはどこから出てるんだろう

JtRとりあえずおすすめを……ええとおすすめですたぶん……

JtR観てきました。観てきまして、登場人物を感想言うの今んとこ難しいので各キャストのここが見どころ(たぶん)!をまとめようと思いました。
私の普段のとちくるい方を檻の向こうから見ている人はなんかお察しいただけるかもしれんがおれの消化具合はそういう感じです!食道でつっかえてて胃袋が困ってる!!
あとリピチケ価格設定みた感じかなり困ってるっぽいので先にお勧め要素をと思った。

あくまで個人の印象であり感想であり推測であることをご了解ください。私は歴史と文学の知識が本当に虚無です。

勧めるためといいつつ最大級のネタバレがあります。でもこれスジを楽しむ作品じゃないと思うな……。そこにどんだけオマージュ盛ったんだよって手を叩いてげらげら笑う作品だと思う。推しのいつもと違うトコ観てみーたい!そーれイッキ!で観るのがいっちゃんストレスなく楽しめるよ。

 

加藤和樹さん(ジャック役・アンダーソン役)
アンダーソンは観てないからいずれ。
好きな役者さんがジャックをやるなら観に行け! 私は加藤和樹さんのファンがどんな加藤和樹(敬称略)を好きなのかは知らないんですがそれだけは確実に言える。し、TLで知らない加藤和樹氏ファンが迷ってるのを見つけてこの勢いで勧めてきた。
観に行ったほうがいい。絶対後悔しないから。

加藤和樹氏のファンの方が認識してる推せるポイントをどこか知らないんですけども。私は「怪人と探偵」の最後の30秒*1で名前を覚えたので俳優加藤和樹(敬称略)にはそういうもの(出てきた瞬間にどういう存在かをわからせる説得力)を期待してしまうんですが、今回それがいっぱい見られた。と思う。
JtRって全体的に登場人物の自我が曖昧*2なんですが(個人の感想です)、ジャックはそれがすごい良いように働いているなって思う。何のためにそれを求めて譲れない線はどこで何を最も大事にするのか、そんなもん見えてこないほうが2幕の最大の見せ場が輝く。

ジャックを観たいならセンター寄りの上手がお勧めです。前列ならセンブロがいいよ。上手の端っこだと1幕でジャックの顔が見えないシーン(話は分かる)がちらちら出ると思う。

恋愛色は皆無だけど初っ端から濃厚なキスシーンがあるのすげえおもしろいっすね。いや本当に純粋に面白い(称賛)と思う。あそこでキスがあろうとなかろうと筋には影響しない(本題は下で進行してる)しジャックの人間性を窺い知れもしない、あのシーンのでかカロリーが純粋なサービスシーンとしてのみ機能してるのすげえ贅沢な使い方だよ。

ジャックとダニエルがそっくり同じ動きでマントを跳ね上げる場面があるんですが、タイミングも角度も視線も雰囲気まで一体となってて迫力も見ごたえもがっつりでした。細かい調整をしてるとしたらジャックの側だろうと思う(彼のが奥にいる。)
2人がそっくり同じ動きで見得を切るところがもう1回あるんだけどそっちもタイミングや雰囲気が2人重なるようで、でも微妙に違ってて(ジャックはとうに成熟して完成している感じ、ダニエルのほうはどことなく生まれたてのばけもの感がある)テンションが上がるなと思いました。

ジャックとダニエルの関係性、わたしの勝手な印象ですがファウストフランケンシュタインとジキハイ入れたんだなって感じのそれです。2幕のどっかでジャックの立ち姿を見て、ああメフィストフェレスと思った。
あと演出の人日本版フランケン好きでしょこれって思った。1幕のステッキ隠喩、あそこ唐突にすげえ浮いてるんだけど、フランケン2幕のジャックにそっくり同じフリがある。

ジャックの衣装は悪魔のモチーフをふんだんに取り入れていて、ポジション悪魔なんだなって(知ってる人には)教えてくれてるの古典好きに親切な仕様だなと思いました。1幕ではステッキの握り(ヤギの頭だよね?→頭が長いヒト?サル?の髑髏だった。)だけだったのが、2幕ではまあ色合いからして相当どぎつい衣装*3なんで出てきたときはかなりびびるけど、なんかその次の登場では普通に似合ってかっこよく見える。あの衣装でもなんだかんだ街並みに溶けるの衣装や風景考えた人すごいと思ったし、と言ってもひとり明らかに世界観の違う衣装なのにばっちり自然に受け入れられるジャックをしてる加藤さんもすげえんだと思う。
紳士を装う黒い燕尾とコートが血の赤で染まったイメージなんかなとは思ったんですが、どっちかというと人間の肉と煉獄でできた赤い革に浴びた血の烙印が黒く染みついたみたいな印象だったな。ハットの両側にでっかい(まじででかい)羽がついているんですが、あれヤギの角のメタファも孕んでない?気のせい?位置が下側だからちょっと遠目で見ると耳あたりから何かが生えてるようにも見えるんだよね。
ジャックだけめっちゃ語るんですがいやあのジャックは観てて全然ストレスなくて……自我を思い測れもしないほうが自然なキャラクターなので……。


小野賢章さん(ダニエル役)
声の解像度がすげえ高い。声優さんってすげえなと思いました。
わたし人の声の聞き做しが下手で初回じゃだいたい聞き取れない台詞が出てくるんですが、ダニエルは一個もあまさず聞き取れた。輪郭がくっきりしてる。音響さんが不慣れなのか今マイク入ってる?や音量めもりミスった?みたいのが何回かあったんですが、そんなときでも言葉がすとーんと通るのすごいね。
小野さんを観に行くならセンター寄りやや上手だと思う。ジャックと同じだけどだってジャックと最大の見せ場が同じだから……。他のシーンも見せ場ではだいたい上手にいるので*4、サイド席を買うのでも見切れない程度の上手がいいんでないかなあ。
小野さん入れ替わりの場面がすごいんですよ、同じ人物の身体から出てる同じ高さの声なのに絶対に違う中身の人間が喋ってる声がする。ばしんと走ったSEで変貌した小野さんに、ジャックだ……って呑まれていることしかできない。殺人を好む残忍な人格ってだけでなくてさっきまでダニエルと会話していたあのジャックなんだっていうのがすごい。すごかった。
その後の場面でモンローにナイフを持たされてるときの声の、魂が修復不可能に減ってる感じがなんかこうすごい不穏でこわかったですね……好き……。(ある種)気が違っているのお約束が舞台で見かけるやつでなくアニメ表現でよく見るやつだったのは小野さん独特だなーと思いました。お約束が違っても声に問答無用の説得力があるので伝わるやつ。
あと個人的に登場シーンの存在感が好きです。アンダーソンやモンロー含めて殺人死体でざわざわしてる人々のなかに、差し込むように声が入ってくるの。


松下優也さん(アンダーソン役)
平常時でも眼球にうっすら張ってる光の膜がクスリとか熱とかに浮かされてる人間を連想してすげえ好きですね。表情が喜びや好奇心だと瑞々しさに見えるんだと思うんですがアンダーソン基本的に生気のある表情してないから、不随意調節されてるはずの機構が壊れかけてる病的な雰囲気になっててすごくよきものだなとおもいました。眼球に水気はあるのにモンローやダニエルと並ぶと白目がうすら血走ってるのもよきだよ。どこ見てるのかって話だけど私が舞台行く目的の3割が新鮮な眼球なのでゆるしてくれ。
聴取を聞いてるときの顔がめちゃくちゃ面白い。すごいよ、ダニエルの話が進むごとに目が死んでく。顔だけ向けてはいるけどイチっミリも関心がないんだなー!って感じ。
ポリーとのシーンは薔薇をぐしゃっと握り潰すときの顔が好きです。*5魅力的で薄情なひも男がすごい輝く人だとサンセットで思ってたけど荒れた精神の底にきれいな愛情をしまっていた青年も普通に魅力的だった。アンダーソンの設定って松下さんご本人とはもーちょい上*6なキャラなんではの印象だったんですが、外見や基本行動からするに本来もっときらきらしてるんだろうなって人がロンドンの霧に冒されて淀んでいる様は大変よきものだった。


田代万里生さん(モンロー役)
この演目なんと田代万里生(敬称略)がタイプライターを打ちます!!!
タイプライターはアンダーソンの部屋セットなのでアンダーソン役が触ることが多いんだけど、松下さんが重く疲れたような音でキーを叩くのに対して途中でちょっと交代したモンローの田代さんが澄んだ音で軽快に打ってく対比がめちゃくちゃ面白い。本当に音から違うのよ。
インタビュー(聴取だけどもうインタビューでしょあれ)はある意味本業のブン屋だもんなって感じの使い慣れた感じで打鍵してくのが面白くて楽しいですよ。
タイプライターを打つ田代万里生(敬称略)を観るために行くなら下手側を取るんだ。あと一応ラストにもいっこ動きが多い場面があって、そっちも下手のが見えると思う。上手だと歌詞が聞き取れないんだけど下手ならいけるかもしれない(ブリリアではそうだったので。)

いや……真面目な話、この方目当てで迷ってる人に他のどこをお勧めすればいいんだよ……。好きなところアンケートであの要素が一位になるファン勢だぞお勧めできないよ今回その2つ……ええとかなり変えてやってるもん。*7普段と違うものを食べたい人には別腹で楽しめる気はするんだけど、いつもの田代さんのあの要素、歌や声や演技の仕込みが好きで観に行きたい人の口に合うかは……*8後半のリプライズでおもしろそうなこと言ってる空気なのになんも聞き取れなくて困ったくらいに歌い方はちがうよ。俺のジャックがどうとか言ってる気がする。

PVの特ダネにホラーがいるとめちゃくちゃびびっていたんですが、「特ダネ」はアンサンブルが盛り上がるのをモンローが餌撒いて引っ張ってくシーンの曲で、自我強度の根源が見えない理由が分かり恐怖は解消されました。閉じた群れの倫理のなさをひとりに詰めたらそら怪奇だわな。

 

 

内容そのものへの印象は

今んとここんな感じなので……。いやあの本当に申し訳ないんですが内輪ネタで盛り上がられるの苦手……。前提として入れておいてほしい古典や他国版や役者イメージがあるならそれなりに余裕をもって提示してほしかったな、と。アフト聞いたら何か印象変わるのかな……。*9
韓国版の動画みたらすごく面白かったので韓国版を前提としたパロとして観るか、初見でも西洋の古典文学とそれを題材にしたミュージカルのオマージュを探しつつ観るとかするとお話も楽しめるのかもしれないなと今ちょっと思った。

 

設定と展開とキャラの人格がどんなに…ええと……でも問答無用に感動を引き出せるALW御大の音楽はやっぱド天才だよ……。ファントムとか考えるほどあの幼児性におまえミュオペラ座で何を学んだってなるのにあの音楽をもう一度と月のない夜きいたら屈服するしかないもん……

*1:さっきまで明智そのものの言動だったのに、仮面の奥の表情だけで中身が怪人二十面相なのをわからせられる感覚

*2:ネクロニカのPCみたい。ネクロニカというのは死体人形のPCがセッション中に思い出した「記憶のかけら」に合うようにPLがPCの人格を弄り回してくシステムのTRPG

*3:フランケン(の2幕)が好きな人は好きだよって盛んに言われるのめちゃくちゃわかる……。みたいな色合いと装飾してる。

*4:ダニエルの住居セットが上手に設置されているのもある。

*5:ポリーとのシーンはそこに至るまでの背景をくれ!!!現在の関係と現存する感情矢印の落差の理由を仄めかしてくれって叫んでしまった(無言)んだけど向い先はホンであって役者さんに要求することではない

*6:19世紀ロンドンを考えれば丁度なんだと思うんだけど日本社会の年齢と人物のイメージからするともうちょい上、それこそ加藤さんくらいの年齢じゃない?

*7:強火の演技を推している勢もTLでの観測率高いんですが、私のこのキャラへの現印象は行動動機がわからない、まじで金だけで動くには年齢が足りない、社会の仕組みが見えてすぎて狂人ゆえじゃ弱い、で上演中ずっと吉田鋼太郎で観たいが頭から離れなかったのであのすみません今はちょっと。

*8:後ろにFC枠があったらしく感想が聞こえてきたんだけど(ここのFCのひと田代さんだけ下の名前で呼び捨てで他の役者さんのことは名字+さんで呼ぶよね)、すげえ婉曲な表現でかなり渋いコメントしてた

*9:すげえ個人の我儘なんですが作外で補足しなきゃ成り立たない作品はどうなのと思っちゃったりはするんだけどもうそんなんどうでもいいから納得できる人物理解が欲しい、誰も彼もが物語をオチに運ぶため動いてるようにしか見えない

マタハリの感想をさあ

書こうと思いながら途中で事態宣言がでておれのメンタルがしんだため叶わなかった。
そもそも人物を見た回数がめっちゃ偏ってるのでバランスがだいぶアレになるのが見えてて人ごとする気あんまりなかったんですが、いっかい文章にしておかないとラドゥーさん執着の仕方が不気味なんだよみたいな話を延々し続ける気がして。

全てが受け手の勝手な印象だし個人団体宗教思想その他諸々と無関係です。宗教のたとえは使うけど。褪せてく記憶から出してるから台詞違ったらごめんね。

 

パンルヴェ首相(鍛治直人さん)
このひと言葉の使い方めちゃくちゃうまいよね……!言葉で絵を描くのが超絶うまいと思った。パンルヴェ首相、短歌やらない?
例えばさー、
「(敵との戦いで)我が軍は壊滅的だ」「(怯えた兵士が)逃げ出す有り様だ」の後に「自国の兵士を射殺させるんだ」入れるのすげえぞっとするじゃん……しません……? 味方の死体でいっぱいの戦場、そこから逃げだす兵士、の先にある火を噴く銃口、情景のパワーが物凄いし首相やっぱり短歌やらない?

パンルヴェ首相の言葉が描く画、わたしは「一万の命」の導入会話が一番好きなんすよ……正しい情報を手に入れればこの戦局を「空から勝ち取れる」、さもなければ「地上で負ける」のところ。
撃墜された飛行機が陸兵を巻き込んで潰れる地獄絵図が目に浮かぶようじゃないですか。それが8000だよ? 数を提示した後で1の重さをどんどん増していくのくっそえぐいじゃん。

「(このままではこの国を)救えるのは神のみだ」「だがどうだろう」「(二重スパイ逮捕の知らせは)士気を高めるのにもってこいじゃないか?」
この「だがどうだろう」、言い方もタイミングもすごかった、早口に畳みかけていた言葉の勢いがふと止まって、若干速度を落として差し出された一言がまるで暗闇に光の射すようだったじゃん。真っ暗にしたのも首相なんだけどさ。
危機感の煽り方もほんとうまくて、パンルヴェ首相ここでラドゥーくんを直接は責めないんですよ。ラドゥーがした隠蔽は口にしない、お前のせいとは言わないでお前がどうなるとの脅しもない、怒りもない。ただ事実を告げるように、このままだとこの国を救えるのは神のみだ、って絶望を突き付ける。
第二事務所の地獄の夜を首相は見てなかったとはいえさ、ここで救ってくれるとしたら神のみって持ってくるのあまりにあんまりじゃない? 消えていく同胞の命は「神さえ救えない」のを知ってるんだよラドゥー大佐。可哀想に迷子の子供みたいな顔して立ち竦んでるじゃん。*1
「君のキャリアもそれ次第だ」ってあれ、ラドゥーの欲や虚栄心をつついたというよりマタの逮捕を決定した上での脅しだと思ってるんですがどうなんでしょうね。ラドゥー大佐ができないなら他の誰かにさせるだけだって脅し。キャサリンの夫はほいほい替えるわけにはいかなくても「役立たずな機関のトップ」は簡単に替えられる。ラドゥーだってそうやって今の地位に据えられた。これパンルヴェさんが自力で叩き上げたからその実力のない追随者をさぱさぱ扱うのか自分もそうやって「キャリア」を築いてきたから私情を殺しきれない者を切り捨てる連鎖の構図なのか(史実の話ではなく)どっちなんでしょうね。どっちでもテンションは上がりますね。
史実パンルヴェ首相、ぐぐったら前職大学教授の数学者だそうで、なるほど言葉で世界を描く能力高いわけだよ(幻覚)……。数式ということばで世界を規定したりIFの世界を組み立てたりするのが数学だと思っています。

パンルヴェ首相、あの言語能力に人当たりというか人間へのフォローというかがカンストしてて人間相手の駆け引きで戦う人種だなってしみじみしますよね。パーティでお客を出迎えてバルコニーでラドゥーとわるい顔してその婿養子がしそこなったキャサリンのフォローを引き受けながら身振りと目くばせでそれを伝えてくのめっちゃスペック高くてさ。配信に映ってたウインクを愛知で見られてめちゃくちゃ笑いました かわいいですねあれ


○キャサリン(飯野めぐみさん)
キャサリンはいい女だよ!!!!!!!(くそでかぼいす)
わたしブリリアの音響ととかく相性悪くて*2パーティでのキャサリンとラドゥーの会話(歌詞も)を聞き取るのにけっこう回数かかったんですけど*3、めっちゃいい女じゃん……キャサリンはいい女だよ……。
んでもってこの「いい女」の意味が1幕と2幕で真逆になるのがキャサリンいい女だよほんとに……。

1幕のキャサリンは「(自分を支配する)男たちに都合のいい女」じゃないですか。首相の政治の道具でありジョルジュの忠義の表明であり。忠義って感じのもんじゃないな、私はあなたに逆らいませんって首相に対する意思表示。
その手段たるキャサリンのほうも、男たちの会話に耳をそばだて、その意思に添うように行動を選んでいる。彼女を所有する(皮肉ですむろん)男たちに従順で、意思はあっても意志はないような便利な存在。

この場面のキャサリン、父と夫にめちゃくちゃ気ぃ配って動いてるんですよね。
夫が父のブランデー*4を褒めたら瓶を取って飲む?って所作で勧めてやって、会場を離れる大佐を気遣い(つつ父に問われたら居場所を伝え)、彼らの悪だくみ(別に悪くはないんだけど)を邪魔しないよう話が一段落するまで待ってから顔を出す。
直後の大佐との会話からして盗み聞きはしてないんじゃないかなあと思う。重要な会話だとわかってて、だから大事なところは『聞かない』を選ぶ従順さ。「誰から目を離さないって?」って言ってたから許可をもらうまで『聞いていないことにする』をしてるのかもしれないけど、うーんでもそっちのほうが都合の良い従順は強いような……。弁えて聞かないんじゃなくて聞いてても弁えて蓋をするってことでしょ。聞いてないふりするってのはあそこで大佐が重ねて躱してたら責めるどころか触れることさえできないのと同じなのにさ。

田代さんでしたっけ、ジョルジュとキャサリンはビジネス婚だったのかもしれないみたいなことをどなたかがパンフで仰ってたけどこの二人、まあ恋愛婚ではなさそうだよなと思いました。だってキャサリンに接するラドゥー大佐、なんで君そこだけそんなぽんこつ(かわいい)なの!? って外しっぷりじゃない? エスコートやシャンパンを差し出す姿は様になってるけどそれだけに内実の空っぽさが際立つというかあの、彼女の気持ちや気遣いにもうちょっと意識を向けてだね??? それ以前にもっと己の妻に関心を持ってだね??? みたいなとこありませんか。キャサリンが受け取ったシャンパンを貴方から顔を背けて飲んだのちゃんと見てましたか見てませんでしたね???*5みたいな。それでも黙って妻として扱われてやってるの忍耐強くいいこ(都合の良い従順な道具)じゃないですか……あんだけ適当な扱いされてまだ悋気を起こすだけの情を夫に持ってるのどんだけできた人間だよ……。

男たちの意思を視覚化する道具のようだったキャサリンが2幕で自分の意志を前面に出して行動決定するの、いいよね……。ラドゥー大佐のことは哀れで可哀相なひとだと思っているけど、1幕の乾杯後に何がおきてるかを確認して以降、2幕で田代ラドゥーに思い切り酒ひっかけたキャサリンにいいぞー!!!やれー!!!!という感情がポップしたのは否めないですね……。1幕との対比っぽくも見えるとこも好き。*6加藤ラドゥー相手のときのもはや身体を許さない、代替手段に使われるのを拒んだキャサリンもかっこいいよね。
黙って支えるにせよ身体を差し出すにせよ、自分の感情より首相の意思を優先して関係維持の献身していたキャサリンが、自分の意志で夫を拒絶してひとりで出ていくの最高じゃない?
男女どっちも弁えて首相のお人形してるラドゥー夫婦のさ、ジョルジュくんのほうが自分の欲を優先したことにいらえるようにキャサリンのほうも自分の意志を行動で突きつけたの好きなんですよ……個と個って感じで……。ラドゥーくんが首相に食い下がろうとして拒まれた後という、突き放される大佐のダメージが一番大きいタイミングで事が起きたのはかわいそうだなとは思うんだけど。*7

キャサリンじゃなくて中の人バイトの話をするんですけど、2幕の女たちのなかにいる飯野さんの女性、あの女性の性格や人生が空想できて見ててすごく楽しいなって思います。愛する人の消息が知りたくて兵士に近寄ろうとして、同じく駆け寄る女性の勢いに怖気づいてびくりと退がり、縋るような目は離さないのとか、飛んだパイロットの交戦模様を聞いて表情を失って声もなく崩れ落ちる姿とか。飛んでいった彼らの中に、内気で繊細な彼女が心を預けられる数少ない人がいたんだな……みたいな感じしませんかぜんぶ空想なんですけど。立ち上がって自分と同じように嘆いている人を慰めようとして触れた手を振り払われてるのすごく可哀想だなって思いました 誰も悪くないのに誰もが痛みを増やしている


○ピエール(工藤広夢さん)
ピエールくん、縋るマタハリの手を振り払って「空に隠れ場所はない」「祈ってくれ」って悲痛に叫ぶ声が好きです、綺麗だよね。そしてここで1幕の「神さえ救えない」が効いてくるのほんっと 生きてるなんて思ってない(情報を受ける側ではない現地の彼らはまた違うのかもしれないけれども)
一度は死地から生還したピエールくんがその足で、死んでいった仲間に見られながら駆け上った先で名もなき歩兵になるのひどいな(好きです)と思いました。掴んだ命を自ら捨てて英雄になりにいかないでくれ 死にたくない、飛びたくないって言ってたじゃん……
ノートに何かを書き込んだり舞い落ちる雪に意識を向けたり、戦地に死んでいった命の1が"どこにでもいる一人の人間"なのを突き付けてくるの心を刺しにきていると思う(賛美の表現です)

初演ではパリに戻ってきたピエールくんは名もなき兵士ではなくラドゥー大佐の部下になっていたと聞いてその展開おにだな……!と思いました。アルマンと対比されてるじゃん。えきさいてぃどだよ。
「撃墜され舞い戻った兵士」の一方は国を守るために人を陥れ、一方は愛を守るために国を危険にさらすわけでしょ? 国を守りたい、でも、と怯えていた自分の背中を押してくれた上官の「成れの果て」をただ見ているか、国賊として銃を向けるかしかできないんでしょ? ”国のため”に。なにそのおいしそうなじごく……

ピエールくんやってる工藤さんが1幕でドイツ軍の制服っぽいの着てるのがじんわり好きなんですよね。主人公のマタがフランス側だから基本はフランス視点で話が進むけど、ドイツにも同じように生活している市民がいて国のために戦い死ぬ名もなき兵士がいるんだよなあ、と思う。正義の敵はまた別の正義か、さもなくば声を黙殺された弱者なの心躍っちゃうよね。


○ラドゥー大佐
観る前からこの人物をこじらせると言ってたしまあ見事に拗らせました。ジョルジュくん、感情押し殺して国のために正しい選択をしようとしてるの本当に可哀相だと思うよ。それなのにマタハリ関連のことになると信念も感情もぐちゃぐちゃにばぐってて、かなり後半になるまで自覚もできずばぐった自分の情動と優先順位に振り回されるままに見えるの精神負荷でかそう。
割り切りの下手っぴさや人殺しの慣れてなさ、大佐の地位に就く前に表向きどの部署にいたのかなかなか謎な人。でもアルマンとの喧嘩でまっすぐ喉笛を掴みにいく躊躇のなさ、まったく事務業務の人でもなさそうだよね。

マタハリに愛ではない恋だか何だかわからない執着かかえてるのに彼女をスパイとして使うことに全く躊躇いがなく後ろめたさもないのなかなかこう、君の精神構造よくわからないよみたいなところがあるなあと思う。特別諜報員が殺された敵地ど真ん中にサポートなしで行かせるの、ああも執着して手に入れたがってる女を死地に送り込むことに何の逡巡もないのなんつーかこわいよ。「君の安全のためにも」みたいなこと言うしラドゥー邸でも色々言ってるし、傷つくのを見たくない、守りたいみたいな感情はあるっぽいのに。
それはそれとしてラドゥー邸での彼の行動がマタハリの心の傷をドンピシャで抉ってるのテンション爆上がりしちゃった。大佐は”貴女を愛している”を言い忘れてる(立場上言えないんだろう)だけで持ってる欲望やマタに求めているものは他のお得意様とそう変わらないんだけど、それなりの地位にある妻帯者の軍人が酒に酔って雇ってる相手を強姦しようとする行為が彼女が捨てようとした過去の傷にぴったんこカンカンしてるんだよな……。


加藤ラドゥー
このひと本当にマタハリのことに"だけ"情緒や言動がばぐってるのすごいこわくない?
見目が良く冷静で立ち振る舞いも毅然としてて、焦れてるのか余裕が削れてるのか言動は荒れていくけどけっこう地に足ついたままでいて、
それなのにマタハリを想うときだけすっごいふわっふわするのこわくない!? 初恋のようで可愛いけどだからこそ、状況も関係も変わってるのにそこだけが変わらない異様さ。淡い恋心のようなしあわせそうな情動、それ君の心のどこから出てきてるの??
「一万の命(リプライズ)」より後、ラドゥー大佐がマタハリ(彼のイメージする"マタハリ")を想ってる姿を見るたびこっわ……と思って2幕を見てた(「二人の男」も背筋が冷えた。) マタへの想いを自覚したような後でも感情がフレッシュな憧憬こみの恋心のまま熟み傷んでいく変質をしてなさそうなのも怖いし行動のあちこちに焦りや余裕のなさが出てきてなおマタへの感情だけがあのベクトルを維持してるのも怖い(好きです)
TLであんまりそういう感想を見かけないので皆んなこわくないの……? そっか……という気持ちでおり、共感や同意をしたくて劇観に行くわけじゃないんでいいんですがもしかしてこれスクルージ(の元ネタ)の"改心"が善きもののように描かれてるのに慄くのと似た楽しみ方だったりする?
喋ってるうちに因果が逆、マタハリへの感情だけが変わらないんじゃなくて削れる精神のなかマタへの感情が最優先で保持されてるから他のところが変わってるようなのに恋心だけそのままなんじゃないかってふと思い、そんな理路整然と発狂してたみたいな精神性こわすぎるので思考をそっ閉じしました。そうだったらかわいいなとは思う。

ラドゥー大佐、マタハリへの感情さえ見なければすごくいい人なんだよな……。いい人っていうか優秀な司令官っていうか。キャパを上回る任務を与えられて余裕なくしてはいるけど、受け止める土壌や軍人まとめる胆力はあるから歳月と経験が解決しそうじゃないです? 優しくて繊細そうだけどちゃんと公私で感情の切り分けできるようになりそうだなって思う。思うというかパンルヴェ首相に選択迫られて公私の私のほうを切り捨てることにしたのかなみたいな……。再び顔を上げたときの目が硬質で凪いでてこわいんだよな……。
加藤ラドゥーとアルマンが最初に同じシーンに出る場面の、「中尉」って呼びかけ方にすごく優秀そうだなって思う。仲間とわいわいしてた彼らにちょうど届くぐらいの声量とけして荒くはない語勢であの反応が返ってくるの、上下関係叩き込んであるから成立するやつじゃん。着任して4か月で畏怖だか信頼だかを勝ち取ってるのすごくないですか。威厳の能力値が高く、使いどころをよく知っていそう。ハイイロオオカミみたいだなーって思う。
その加藤ラドゥーが「二人の男」でかみつくアルマンに理解ある上司みたいな態度とるの、すーごいこわいなこの上官……と思いました。得体の知れないじゃなくて力量差があまりに大きくてどうあっても敵わなさそうのほう。その場で論戦しても勝てないし政治の立ち回りも絶対負ける。裁判で同じ土俵まで引きずり下ろしたのアルマン本当がんばったよ。すごい。いうてファイルを叩きつけつつでも椅子の上に置いてるあたり*8冷静さは残ってるんだろうなと思うんだけど。後ろから組みつかれて拳銃頭に向けられてても銃を構える部下を手で制す余裕もある。

まあ言うて加藤ラドゥーのもすとおぶわからない(楽しい)、マタハリへの性衝動がキャサリンに向くところだと思っている。見るからにマタハリじゃなきゃだめっぽいのに、なぜあそこだけキャサリンでいいんだろうって。どういう割り切りがあったのか謎じゃない?
代償行動で発散できるなら、はじめっからキャサリンに向けとけば平和……かは置いといて無難じゃないですか。夫婦の関係があるところになら愛もないのに行為があっても許容されるわけだし。愛情がすり替わったら妻への裏切りだろうけど、求めてなくて生まれてない更地に偽物の情愛をのせても裏切りにはならんでしょ。ゼロには何をかけてもゼロだよ。
……だからキャサリンに向いたの? マタハリ以外にはまともに働く冷静な判断の結果なの? いやまさかそんな。おれは確かにどっちの大佐もきもちわるいとは言ったがマタへの執念に対してであって人格に対してでは。
この変わってなさそうなマタへの恋情のいろと妻に向く性衝動の両立が不気味でぶきみで(好きです)加藤ラドゥーの行動動機あんまさわらなかったんだけど、時間経過で印象的だった箇所が強く記憶に残った状態で考えることではなかった気がしてきました。あの大佐に感じたなんかよくわかんないを掘ってどっちも気味悪いもんが出てきたの、たぶん彼の人間性がうかがえそうな土壌のところを忘れてるからだと思うんだよな……。


田代ラドゥー
せーの、きみ司令官向いてないよ……
性格適性が元々そこまで高くなさそうなのに業務スキルも耐性スキルも十分つけてもらえないまま情報戦の最前線に突っ込まれて精神壊しかけてるように見える(個人の感想です) 情が篤く見えるのは上に立つための素養だけど、ラドゥー大佐(どっちも)フリだけじゃなく実際に情が深そうなんですよね……。なのに人員を数として割り切る思考訓練をさせないまま判断する立場に放り込まれたから思い詰めちゃってそうというか。本来時間を要する諜報でなかなか成果が上がらないのも塹壕を守る陸軍が襲撃を受けるのも彼の責任だけではないのに、そこまでしょい込んで自分のせいで人が死んでいくまで思い詰めたら早々に心を病むぞ……。
どちらも条件一緒なんですけど、喉元を触ってたり顎が上がりがちだったり、ときどき差し挟まる仕草が(そういう意図かは知らないけど)息苦しそうに見えて身体に反応でるくらい追い込まれるんだな……と思う。キャサリンを宛がわれるくらいに成果を上げてきた優秀な人なんだろうしな……。
そんな感じで見てたもんだからあのひと戦争終わったら自殺しそうだなと思っていたんですがだんだんラストシーンが首吊ってるように見えてきて*9わたしは怯えていたしねえラドゥーくん生きてる!?(史実ではなく)あのあと生き続けてるのもかわいそうだけど!! パンルヴェさん次の手として切り捨てるにしろちゃんと褒美をやるにしろ彼にマタハリの処刑を特等席(彼女も処刑人も群衆も見渡せる)で見せると思うんだけど大丈夫?卒倒しない?

TLの感想で田代ラドゥーが陽、加藤ラドゥーが陰って言ってる人が結構多く、なるほどそっちが陽なのかってなった。
なんというかこう……戦争で精神の割れてくところにマタハリがぴったりはまっちゃったんだなーって見てたのであんまり陽のイメージなかったんですよ。言われてみれば元々の性質は陽キャっぽいけど*10進行に伴いその陽キャ部分どんどん死んでってない?線維化*11してない?みたいな。マタハリで破滅してるんだけどマタハリがいなくても遠からず破滅か自死してそうというか。マタハリに出会わなければちゃんと適応できたのかな……えっできたのかな……首相はたぶん盲信されてくれなさそうだけど、外からの支柱なくつぶれずにいられるのこの人……?

マタハリが絡んでいるときの田代ラドゥー、礼節の皮をかぶった獣みたいだなと思ってる。動物とか男は以下略とかじゃなくて黙示録に出てくるような意味合いでの……なんというかな、獣を理性で従えるのが人間であるみたいな……。個人的にはこの”獣"と人間らしい感情はほぼイコールだと思っているんですが。
あれがしたいとかこれが欲しいとかの衝動に抗わず突き動かされているのは獣と変わらないじゃないか、理性でそれを抑えて初めて人間となるんだろみたいな思想がありませんでしたっけ中世。最終的に常に理性がはたらくことで情動そのものが穏やかになっている状態(獣を殺しただか飼いならしただか)を目指せみたいな話だったと思うんですがそういう意味での獣。一応の礼儀を弁えて接しているようで衝動的な欲情に行動も情動も思いっきり振り回されてる。礼節って私はあなたを尊重していますを伝えるある種の言語*12だと思うんだけどさ、あの晩のラドゥー大佐のほんっと表面だけの感じが建前だけ取り繕った獣みたいじゃないです? 瓶の酒をグラスに注いでマタハリに差し出すところ、加藤ラドゥーは彼女に渡すだけなのにこっちはしれっと乾杯してるの自分の欲望に正直で笑っちゃった。
ぎらついた目で口角が上がるあの捕食者じみた表情とかさ。その顔しといて「私まで苦しくなる」も何も。後ろ向いたりマタからは見えない角度だったりで笑うの、見せちゃいけない意識はあるのかもなって思うしそういうところも動物の狩りみたいなんだよなって思ってみてた。
遠くから見てるぶんには可愛いけどあの欲情を向けられるほうはたまったもんじゃないだろうなと思う。逃げ出したマタハリが太刀打ちできる相手じゃないみたいなこと言ってたけど色仕掛け普っ通に成功してるよ、むしろかかりすぎなくらいだよ。マタハリ視点からだと入れ込んだ大佐が自分を庇うために国が揺らぐレベルの情報握り潰したのわからないんだもんな。

ご本人気にしてらしたようなのでこんなこと言うのもあれなんですが、綺麗な顔で整った所作を運用する一見社交的な人物から理性のふっとんだ情動でてくるとだいたいの人間は薄気味悪さを出力するんじゃないかな……不気味の谷、とはちょっと違うけども、人間とよく似た外面から人間とかけ離れた内面が出てくるとなまじっかコンテキストが同じ存在と思い込んでたぶんだけ拒否反応が強く出そう。びじょやじゅの逆版。
ラドゥー大佐(登場人物のほう)は大佐で己のお顔の良さに自覚がありそうというか、マタハリやアルマンへの態度といいパーティでの動きといい己の見目良さを勘案して戦略立ててそうだなと思っているんですがどうなんでしょうね。田代ラドゥーがおそろしいの、普段の印象(社交的だったり高圧的だったり)態度から豹変したときだと思ってるんですが。普段があんな余裕なくきゃんきゃんしてるのに負けてはいけない場面では突然肝が据わって動揺ひとつ見せないの、対峙してる人間は軽く見てた相手の余裕すら崩せず打ちのめされることになるのできっついだろなあと思う。普段があんなかわいいいきものなのに、威嚇行動で吠えてたコヨーテが突然蛇みたいな狩りするタイプの敵に回しちゃいけなさ。
事務所の部下たちにはまた違う態度だったから(息遣いや表情で相互の意思伝達を図るの、アルマン相手じゃ終ぞ見せなかったじゃん……)、あの高圧さは敵に回るかもしれない相手にだけ見せる態度なのかな……。

その振舞いが適正でない相手だからだと思うんだけど、田代ラドゥーはパンルヴェ首相の前だと部下やマタの前でする大きく見せるような虚勢がなくて、そうすると真面目でふわふわした青年に見えるのがおもしろかった。首相と話してるときだと素直で従順そうな、大人受けの良さそうないきものに見えるんだよな……


〇アルマン
アルマン、マタハリへの愛は嘘じゃないんだろうと思うんだけどそれ以外の部分がどこまで本当でどこまでが嘘かわかんないんだよな……。アルマンとマタのやり取りや関係がこの話のある意味メインだろうと思ってはいるんだけど少女漫画の受容体を持ち合わせてなくてそのあたり全然拾えてないんよね。時間がたちすぎて記憶がだいぶ薄れておるのもある

「『もっとひどく殴られたことあるから』! あるわけねーだろ!!」
の衝撃がめちゃめちゃ強くて。ないの!? ポール(仮)が知らないだけ!?
マルガレータの過去と奇跡の合致を見せたのがアルマンの少年時代なのかマタに近づくため作ったキャラクターなのかでおれの中のアルマン像がだいぶ変わる。マタが心を開いたきっかけがその話なんだから、今の自分だけを見て想いだけを信じてくれは無理でしょとつい思ってしまい。アルマンが愛したのは今見えている『マタ・ハリ』のなかにいる傷を抱えた女じゃんね。

 

*1:田代ラドゥーの回数が多いのでそちらの印象が強い

*2:反響しないからかスピーカーの性能か男声の高音パートが音量がた落ちするのはもういいんだけど低音の増幅がぼわぼわで文字の芯がとれない

*3:音声聞こえてこない口の動きの会話はすんなり読み取れるので役者さんってすごいな???って思いました

*4:ブランデーグラスにストレートで入ってたからたぶんブランデーじゃないかな……。2幕のラドゥー邸はロックグラスだったけどウイスキーなのかな、でも氷の表現なかったしブランデーかな

*5:キャサリンとグラスを合わせた後ラドゥー大佐は目を閉じている

*6:びっくりして固まるラドゥーくんに可哀相だとは思う

*7:電話の受け答えしてる彼は功を焦っているというより情報を却下されることで喪われるだろう命に意識が行って焦っている感じなので尚更

*8:田代ラドゥーは跳ね返る勢いで床に叩きつける

*9:楽屋や裁判で腰を反らせて立ってた大佐が前弯の見えない背筋の伸ばし方するのと徐々に上を向いていく頭とその動きが止まったときにぱたりと落ちる腕がものすごく不穏(好きな場面です)

*10:パーティのシーンめちゃめちゃきらきらしてたねあのかわいいいきもの

*11:内臓の細胞が死んだところをコラーゲンなどが埋めること。人の代わりにマネキン補充したようなもので、体積は元通りになるが当然機能は戻らない

*12:言語なので、双方が同じことばを習得していないと正しく意味が伝わらない

検察側の証人感想

8/31観に行ってきました。おぼえがきおぼえがき。

毎度毎度ですがあらゆる個人団体宗教思想に関係ない個人の感想です。
末節からない幻覚を見る類のオタクが語る強火の妄想です。あなたが観て感じたものがあなたの真実だよ。まじで。


最近まで存在が災害の生まれながらの魔性がいる作品*1を摂取していたためにレナードくんに魔性の才能があるよ……と思ってしまい。
レナードくん魔性の才能があるよ、彼を愛したものが彼のために自発的に破滅していくオム・ファタール。俺のためにそうしろなんて言ってもいないのに。魔性いうても彼の根性が悪いとかそういう話ではなく、彼自身はむしろ世間一般的には善良な感性なるものを持ち合わせている存在なんじゃないかな、と思う。わかんないけど。
わかんないんだけど、道で困ってたおばちゃんを助けたのもローマインにひどいやり方した弁護人を責めたのも、レナードくんの半ば本心から出た衝動的な行動じゃないかと思ったんですよね。したいから人を助け計算抜きで人を愛する、それが彼のいいところでだから彼は天性の災害たりうる。レナードがそういう人だから、自分を投げ打って彼のために何かしてあげたくなる人が出てくるんだろうな、と。

まーあそういうだけの存在じゃないのも確かなんですけどね。自身で言ってたし。「おばちゃん」を喜ばせたくて話し相手になってたのは嘘じゃないけど「おばちゃん」と仲良くしとけば困窮したときに助けてくれるんじゃないかって下心もあった。しかも裁判の証言ではそういう"不利になる思惑"の一切を話さないで証言してのけてるんだよねレナードくん。事務所での会話や逮捕後のやり取りもありはしたんだろうけど、マイアーズに煽られてあんなに興奮しているようだったのに、検察側から提示された海外旅行の話でさえそれだけが事実のように説明した。レナードは素朴な善良さを持っているけど、それだけの人間ではないんだよなたぶん……。
「信じてもらうためじゃない!事実を話してるんだ!」だっけ。その通り、陪審員を味方につけるのはウィルフリッドの役割で、あのときレナードが信じてもらう必要があったのは実質メイヒューとウィルフリッドだけなんですよね。んで実際、彼らは自分らの体験を持ち出してごまかしにしか聞こえない「金持ちごっこ」が事実なんだろうと結論付けている。ブロンドガール誰だよとか彼女や旅行会社にも話を聞く必要があるかもとか考えてない。

レナードはそこまでぜんぶ計算で言ってたのかもしれないけど、個人的にはそこまで自覚的ではなかったんじゃないかなあと感じた。言っちゃまずいことではないだろうと思った、から興奮のままに言葉を吐き出した、ぐらいの思考処理が本人の意識しないところでなされたんではないかと。まるで子どものように。
話変わるけど子どもが素朴で善良な存在ってのは大人の幻想なんですよね……。そりゃそういう面がないとは言わないけど、内的規制として働く理性や倫理がまだインストールされてないから残虐なことを罪の意識や悪意なしにできちゃう存在でもあるからな子ども。カブトムシが大好きな気持ちと大事にしている意識と脚をもいでみたり角掴んでもがくのを楽しんで見てたりする行為が矛盾なく成り立つのが子どもだよ。話が戻ってくるけどレナードくんそういう生き物な気がするんだよな、なんか。小瀧さんのずっとフルボリュームみたいな声のでかさ*2も相まって、中学校によくいる君の音量メモリはどこだい?みたいな性根が悪いじゃないんだけど思いついたら即動き喋りしてめっちゃ手がかかる生徒を連想した。

ローマインにひどいやり方した弁護人への憤りとローマインより15も若いからって理由でガールと付き合ってる現状は、彼のなかではおそらく矛盾なく処理されている。うっかりすると自分が殺したってのに「おばちゃん」への厚意も噓偽りない本心として存在しているかもしれない。嫌いだから殺したわけじゃないし。
レナードくん、あそこで刺されなくてもそのうちガールに捨てられそう(自分がエミリーにしたように!)だなって思うんだけど、そうしたってたぶん知り合った別の女が彼のために自発的に破滅しそうなのであそこでああなるのが世界の安寧には一番あれだったかもしれないなと思いました。いえこの世の中に死んだ方がよい命などはないんですが、レナードくんはハリケーンというか渦潮というか生きることが他者を破滅させる災害のような存在のあり方にしかなれないんじゃないかなあと感じました。


裁判所の上手側、検察側の彼ら4人が「チーム」のように見えていたのが裁判中ずっと不思議だった。
マイアーズさん、レナードやローマインが話して状況が揺れるたびにすっとこちらを見るんですよ。他の証言者たちが話してるときのように視線を合わせて頷いて見せるのとは違う、観察するための冷静で心を見せない眼差し。
そもそもマイアーズさん、裁判が始まる前にこっち見てる目がすんごい怖いんだよな……。個人的にはあそこが一番こわいまであった。威圧とか侮蔑とか冷たい目だとかでは全然ないんだけど、それどころか感情や温度が全然見えないんだけど、なんだろう、隔絶? 調理される鯉ですみたいな気分になるというか。どうすれば事がうまく運ぶか持ってき方を試算してるんだろうな、というか。
そういう人が、検察側の証人たちが彼を向くたびちゃんと目を見て大丈夫って言ったり戻って悔しそうにしてるのを励ましたりしてるのが、彼らを利用するのでなく本当に気持ちを分かち合ってるように見えてたのがどこか不思議だったんですよ。無罪判決が出たときに悔しそうなのがプライドが傷ついたからではなさそうなのとか、その後はウィルフリッドではなくレナードにだけ怒りを向けているようなのとか、ずっと不思議だったんだけど、レナードくんがエミリーを殺した事実が暴露されたときになんとなく腑に落ちた。
この人たちは我々……我々と言うのが正しいかはわからないけど、我々陪審員を説得して罪への裁きを求める同志だったんだろうなと。マイアーズが集めたからではなく、彼らのそれぞれが決定的証拠にはならないけれど確かな違和感を持っていたから証言台に立った。自分の意志でそこにいたから、事実の全てを同じ重さで扱うのでなく陪審員が"真実"に誘導しやすいように話した。
事務所の3人が具体的には言えないけど(グレタ風に言うなら)「彼はいい人」だから冤罪を疑わなかったみたいに、彼らは決定的な証拠はないけどレナードが犯人だと確信があった……のかなあ。真実と欺瞞じゃなくて真実と真実だったんじゃないかなーたぶん。ベールの向こう側にある真実を確かにしなくては、って人としての使命感みたいな。可哀想なエミリーのためなのかレナードをこのまま社会に放してはならないなのか、彼らを奮い立たせた共通のなにかがあったんだろうね。


ウィルフリッドも陪審員の意見を傾ける目的は同じだし、ジャネットやローマインへの誘導の仕方、真実のみをと謳う法廷の場で事実を伏せるだけでなく嘘も厭わない尋問や証人をわざと挑発して被告人への悪感情を増幅させるやり口なんかマイアーズよりよっぽど悪辣だと思うんだけどね。これからも仕事の付き合いがあるだろう(そしてもしかしたら男性である)他の証人には事実の指摘と確認のみで留めてて、感情でなんか言うことはしてないっぽいところも含めて悪辣なんよ。そんでもレナードやメイヒューに向ける表情と陪審員に向けるデフォルトにマイアーズほど温度差がないからか、陪審員への対峙の仕方がなーんか人情というかベテランの懐の広さというかに見えてそういうやべえ行為を流しちゃうんだよな。

マイアーズの年齢で同じようにしても人情じゃなくて感情制御の未熟に見えるだろうから彼には使えない武器なんだけども、判事のカンに障るっぽいのはなんつーかあの極端な切り分けも一因なんじゃないかな……チームの仲間に見せてる感情を判事にもほんのちょっと共有するくらいの……私はあなたを(自分たちが正しいことをしていれば正当に汲んでくれる)頼りになる身内と思っているんですよ感というか……甘える関係つくるの下手そうだなこの人……いや法廷の場でそんな関係が覗き見えたらそれこそ腕がないんだけど……。
言いたいことまとまってないから話がめっちゃうろうろしてますね。マイアーズさん、陪審員に向ける情に左右されない厳格な法の番人みたいな姿と証言台に立ってくれる同志に見せる繊細な気遣いをする情に満ちたひとのような横顔と、まるで別のひとのようでこう。陪審員は彼らと同じ意見と持つことはできても共感や連帯意識をもつことはきっとできない。そういう気にならないというよりはそこに添うことはさせてもらえないというか。どの選択をしたところでラインを越えて味方になることはできない。彼の味方になる、彼のために何かをしてあげられる、それができるように錯覚できちゃうレナードやウィルフリッド側の質感がやべえのかなという気はした。いま。

1幕の最後でレナードが「信じてください!(だっけ?)」って言ったとき彼を見もせずすっと陪審員に目を向けたマイアーズさんが、裁判の終わりごろにローマインにふっと顔を向けたのを見て、もう勝ちの目はないんだなって感じた。闘っているときは、諦めていないときは陪審員を見ていた人だったので。

法廷の去り際に、何も言わずレナードと真正面から顔付き合わせてしばらくじっと睨むように見ているマイアーズが思い返すと好きなんですよね。顔を歪めることもなく静かに、けれど怒りに満ちているのが伝わってくるような数瞬。オチわかって思い返すと本当に彼だけに向いた怒りをもっていたんだろうなと思った。いっぱいに湛えられたその怒りはウィルフリッドにはちいとも向いてなさそうで、彼は純粋に罪に等価の罰を求めて動いてたんだろうなと。

*1:『烏に単は似合わない』可愛くて楽しいですよ。視覚イメージを共有できるのでまずは漫画からをお勧め。

*2:ローマインを脅すときは音圧も下がった低い声だったのでそういう芝居なんだと思う。

かもかてプレイ記録/リリアノ一心同体愛情Bエンド

この前にモゼーラ/リリアノ友情Aの回収をやっており、モゼーラ退出後の陛下の仕草がかわいくて胸がいっぱいになったので陛下をいっぱい愛そうと思いました。タナッセ友情と並行できたらよかったんだけど、そこまで詰めプレイする力がなかった!

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リリアノの後を仔犬のように追いかけながらときどき妙に達観した、陛下にそっくりな目をするうつくしいいきものなレハトちゃんがいた。台詞のスクショあります。

 

こだわりポイント
・陛下との踊りを舞踏会最後のダンスにするレハトちゃん
・一度は上がったのに一桁台まで落ちる信仰
・黄の月ラストで再び翻る王位への意志(王を望まないからのスタート)

 

 以下雑惑。
唯一の趣味で「心穏やかな愛」から「愛する者は心も近く」になり、この後の正当なる死で「親友以上を望み」になる陛下、心がぐらぐらしてすごく可愛くて好きです。
平日も休日も嬉しそうに自分について回って、未知の体験でもまず自分を頼るレハトちゃんが動揺ひとつなく「殺されると考えたことはある」お返事したのが衝撃的だったのかなあって思うとわくわくする。
そのやりとりをした後、これまで毎日のように玉座の間を訪れてたレハトが姿を見せなくなって、でも週末に血色良い顔で目ぇきらきらさせて覗いてる子どもを見つけた陛下がどんな気持ちだったのかなって考えるとわくわくしません?
友愛だか親愛だかを見せてくる相手をどこかで牽制するのも、無邪気に笑ってた相手から怯えた目を向けられるようになるのも慣れっこだと思うんですよね。かすかな諦念があったら私は嬉しいし、殺すなら絶好のシチュエーションになる誘いに迷わず一緒に行くって答えたレハトちゃんにクレッセとはまた違う愛情を抱いてほしい。このイベントで2人ともが「愛する人は心も近く」に揃ったのでガッツポーズしました。今回は愛情キャップ防止で愛情優先で印象振っていたので、二人の感情が揃ったのここが初めてなんですよ。

愛情が友情に追いついて感情が揃ったレハトは王としての彼女の在り方に共感できるようになっていると思うんだけど、やっぱり”そう”見てほしいから翌週に告白するレハトちゃん、若い 若いぞ

 

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じゃれつく仔犬をあしらうようにステイ!されるレハトちゃん。隠された思惑を疑って生きてきただろう陛下がレハトの告白には「ないな」って断言してくれるの信頼じゃんー好きー。

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偶然なんですけど、リリアノ陛下を(恋愛的な意味で)好きですって言ってるの3回目なんですよね。
あしらいつつも真面目にされた告白には真面目に答えてくれる陛下が好きです。レハトちゃんこういうところも好きなんだろうなあ。

告白などなかったように気安く試合見学誘ってくれる陛下に応えて親友としてふるまうレハトちゃんだったんですが、えっここって愛情増えるんだっけ!?居心地悪いって答えたら愛情が増えた!? 3も!?
そしてここでレハト側の印愛がMAXに。例によって好愛キャップのためなんですが、告白したからもうそういう目で見てくれないかなと諦めてたレハトちゃんが、陛下の眼差しを見て諦念を捨てたみたいで楽しい。

もうリリアノが一緒に踊ってくれることはないだろうから舞踏会は歓談で終え、月末の報告では王にはならないと答えました。王でいる限りリリアノは一緒にいてくれないから。

 

黒の月、威厳に励みからの特別なお昼で陛下の印象が鏡を見るような愛になったの、どっちも愛情友情35超えなのに僅かなすれ違いが切ないなあと思った。自分によく似た自分より純粋な王のこどもとして見ることにしたんだなって感じで レハトちゃんは鏡だからじゃなくてあなたが欲しいんだけどね。

自分の居場所はリリアノのいるところだと決めているから、大好きだった村の夢を見たけれど城に戻りたいと答え、己の行く先で城から出ていくつもりと答える。若い、若いぞ……。

 

愛情Bのさ……夫婦の愛には変わらない、おまえはきっと後悔する、それでも、ってこれでもかと前置きしてさ、レハトと一緒にいることを我の望みでもあるってぽろっとこぼすリリアノ様が……好き……。陛下の個がどれほど淡いものかを(他ルートで)さんざん見てきているから、これがどれほど価値のあるものなのかがわかるやつ……。

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この一言がもらえるだけでこのレハトちゃんは他になんにもいらないよきっと……。

 

それにしてもレハトちゃん、陛下からこれ勝ち取るのめっちゃ頑張ったなって思う。今回、王の仕事の後ろ暗いぶぶんほっとんど知らないままなんですよ。正当なる死で言われたくらい。必要なら殺されるかもしれない、それでもあなたを愛しているってなかなか肝っ玉据わってるよね……。

ラスト2週連続でイルアノ絡みの噂を聞いたので、成人後のレハトはリリアノがいつか海に攫われると思っているかもしれないね。諦念の色濃い透き通った視線をダブルで向けられるローニカ、かわいそうだと思う。

森フォレ感想

感想なのか? わからないけど。
わからないけど東京楽を観てきまして、ぐるぐる喋り出したところでまだ地方公演あったなって思いだしたのでツイッターからこっちに来ました。
すべては個人の主観による一方的な感想です。

感想です、と言っても、私はあれが何だったのかさっぱりわからなかったんだけど。いい作品なのはわかったけど、あの物語と同調できる価値観を私は持ってなかった。同感する箇所はいくつもあったけど共感した場面はなかったのは、そういうことなんだと思う。

ただ、あの物語が刺さる人とあの物語にすくわれる人はきっと別なんじゃないかなあ、とは思った。物語の彼らを愛おしいと思う人とも。
強い反発をおぼえながらどうしようもなくすくわれる人がいるだろうなって作品。

 

以下脈略はゼロです。

人物相関図とにらめっこするって聞いてたけど、時間軸が行き来することだけ知ってればそんなややこしくなくてすんなり追えました。どの人物も初登場からすぐ名乗ったり名前呼ばれたりしてくれるし。

セリフが戯曲みたいだなって印象。いやそのそりゃ戯曲なんだけどなんというか、西尾維新みたいっていうかシェイクスピアみたいっていうか。会話というよりうたいみたいというか。辿っている歴史のなかだからなのかな。でもルーの台詞もうたいっぽいから脚本家の文体なのかな。あの台詞を肉声で聴く行為を自然にできるかどうかで物語への没入度が変わってきそうではある。

2幕の後半だったかなあ、少し暗くなった場面の誰も発声しないところでどど、どど、って低い音が響くの体内にいるようでした。音が低くて大きいから椅子や内臓に響いて揺れるんですよね。心臓の鼓動だ、って思った。違うものかもしれない。

母親は娘の未来を願って手を放し父親は息子に自分のもつ価値あるものを引き継がせようとする、それが延々と繰り返されるのすげえグロテスクだな、と思ってみてた。と、いうか、観ている最中は「グロテスクだな」とぬる熱い温度と質感だけを感じていて、言語化しようとするとこれが出てくるようなかんじ。
あれは彼らなりの(少なくとも主観では)愛情で、しかしその行為は子供らの心に大きく深い穴を穿ち、埋まらない欠落が次世代に同じ心の欠落を残す、それがなんか、生きたまま開腹したなかに手を入れさせられてるようだったな……と。

あとあれ。繰り返される「約束する」、約束は履行されているのに感情と精神がどろどろと変質して崩れ傷んでていくような。行為のもとにあったはずの目的がうみ変わっていくからなのかな。

童女のように無防備な、大人のなかにいるちいさなおんなのこがだいすきなので訪問したサラと話す麻美さんのリュスに好き……と思っていた。あと「触りゃあしないよ」のところ。立ち去るサラに「まだ名前を聞いてない!」って叫んだのはなんとなく真実に気づいていたからなのかね?(ダグラスくんがリュスの顔を見ればルーとエマがある、ルーの顔にもエマとリュスの、みたいなこと言ってたし……)

全体的にグロテスクなものが多いもんだから、1幕で提示されたダグラスくんがルーに構う目的が厚意じゃなくちゃんと自分のためで安心しましたよね……。よかったよちゃんと自分のための動機、枷を取り去るための行動で。ルーへの愛のためとか言われたらちょっとグロテスクすぎた。成河さんのダグラスくんの「手伝ってくれと言われた」の言い方が可哀そうだなって。
ところでダグラスくん何者なんでしょうね。古生物学者って名乗ってたけどアドレスはgmail.comだし最後は自分で考古学者って言ってたし。

初めルーのルーツにしか関心がなかったダグラスが大丈夫、ってルー本人を気遣うようになったからルーもダグラスにありがとうって言葉を向けるようになったのかなーっていう。見てないわけじゃないんだよねたぶん、「じゃあなぜ黒い服を着ているんですか!」「喪服だから」みたいなこと言ってたし。エマだか弟だかの喪に服していたルーの謎が解けたときに、黒じゃない、血の色のコートを「ちょっとしたプレゼント」として贈るの示唆的だなーと思うなどしました。自分のルーツを知ることで血を受け入れる、なのかね。

最後の暗転が開けたときに成河さんが瀧本さんの背から手を離して前へどうぞみたいな動きをしてたように見えたから、ダグラスとルーが並んだ後、ダグラスがルーの背(というか腰元)に手を回したのかなと思ってるんだけどラストシーンどうなってたんです?

マタハリ東京終わりましたね

初めは人物ごとに語ろうと思っていたんですが早々に諦めました。場面ごとにすると感想というかログの出力になりがちなんですがそれでいっかなって……最初に読んだのがそういうのだったから観劇感想を褪せてく記憶に対抗するログと思ってる節がある。
こないだも言ったけど書かれてないじごくを行間から掘り出して喜ぶ趣味があるのでだいたいラドゥー大佐を追ってます。

一個人の主観であってすべての個人団体宗教思想そのほか諸々とは無関係です。
役者さんへの印象と彼らが演じる登場人物への認識を切り離して好みの幻覚を見ています、ご了解ください。それもあって役名を後ろにつけてるときは敬称略です。
毎回言うけどあなたの観て感じたものがあなただけの真実なのでそこだけはよろしくな。

永久に終わらない気がしたので随時足してくことにしました。

 

 


○1幕

「生きろ~寺院の踊り1」

あそこ、ピエール役の工藤さん含めた軍人が"ドイツの"軍服を着てるのが好きなんですよ。ラドゥーもアルマンもフランス軍の人だからフランス視点で話が進んでくけど、国のために戦う同朋が次々に死んでいるのはフランスもドイツも同じなんですよね。パッシェンデールで八千の命が散ったとき、英雄を背負ったパイロットがなす術なく撃墜されたとき、これで無事に家に帰れると喜んだ命があるはずなんだよ。わくわくしちゃうよね
歌詞で「パリ」って出てきたから民衆はフランスなのかなと思うんだけどどうなんだろう。女性の鞄を奪った男から分け前をもらっているドイツ兵、戦地での略奪なのか自国民からの強奪なのか、どちらにしろ戦争は人を荒ませるね。
ロザリオがそこそこちゃんとしててテンションが上がりました。銀色の十字架、カーネリアンや赤めのうを模したような色の玉でできていて、いくつかごとに銀色?少し違う玉が挟まってるように見えた。アヴェ・マリアに使えるんじゃないかなあれ。どうかな。
「妻が見当たらない」「黄色い服の人?」「ちがう!!」 のやり取りが好き。戦禍の地獄絵図、役に立たない厚意にも感謝を返せるのはその余裕のあるときだけなんだよな。
その一方で「この子だけは」って赤んぼを差し出した女性が肩を抱かれてあなたも一緒に逃げるの!ってされていて、この地獄みたいな場所もまだ捨てたもんじゃなくて、こう……好き……。曲の終わりでこの妻を探していた男性と赤いおくるみを抱いた女性が寄り添っていて、同じ人じゃないかもと思いつつ(相貌認識が弱い)感極まってしまったよね……。

マタ・ハリの踊り、柚希マタの美しさは鋭さ、愛希マタの美しさはしなやかさって印象。この場合の美しさはイコールで武器でもある、と思う。
鍛え方なのかな動作なのかな、柚希マタの動きって肌の下にある筋肉を思わせる感じしません? 躍動感というのかな、相手をとらえるような眼差しも相まって野生の豹みたいな。戦うための身体を魅せるために使っているような、手を伸ばすのを躊躇う気迫を伴った強い美しさ。
愛希マタ、黒くてまん丸い瞳が獲物を見つけた仔猫のように笑みに変わるのが愛らしい肉食獣みたい。関節なのかな筋肉なのかな、動きがしなやかで、無理矢理捕らえようとすると腕から抜けて行っちゃいそう。
お二人とも2階からみると身体を反らしたときに胸骨のラインが浮き上がって、ちゃんと健康的な肉付きをしている動物から見えるあばら骨、いいな……って思いました。馬場のサラブレッドに惚れ惚れする感覚と似てる。どこ見てるんだって話ですが。
配信で初めて聞こえたんですが、マタが身を翻す動きに合わせてキンキンした金属ぽい楽器が鳴ってるんですね……? 音階あったっぽいしマタの衣装じゃなくてオケの楽器だよね……?
あのところで、Wキャストの演目観に行くときこの人物だからの共通イメージとこのキャストさんだからのイメージをどう切り分けてるんです皆さん。


「わたしは戻らない」+ラドゥー大佐の楽屋伺い

楽屋に戻ってきた愛希マタの、少女のような獰猛さを残した笑顔や動きがすごい可愛い。狩りを終えて満足そうな猫ってこういう顔してない?猫飼ってたことないけど。飾りが髪に引っかかってアンナに助けを求めるところが完璧なマタハリではなくひとりの娘って感じで好き。
名刺を確かめた途端にラドゥーに向ける目や表情が冷たくなるの、生命力と誇りが高くていいよね。「わたしは戻らない」でうろっと弱気を見せた目に強い怒りのような勢いのある輝きが燃えていくのが好きだなって思いました。

柚希さん歌が上手い……いやそりゃそうだし皆さんそうなんだけど歌がうまいですね……あのハコであんなに動きながらで上から下まで掠れも削れもしないでマタハリの意志が飛んでくるのすごい。最初の寺院の踊りもなんだけど観ていてマタハリに呑まれる感覚がとにかく強くて、すごかった……って感情しか言語化できてなくて……。
私ならできるっていうよりはラドゥーが絡んできたことでの立場の危うさや事の大きさはちゃんとわかっていて、でも負けられないから不安に背中を向けて自分に暗示をかけているみたいな印象だった。「それとも、ブラジャーの宝石かしら」の距離の詰め方と目の合わせ方が自分のどう見られているかをよくわかっているいきものだ……と思いました。
なんとなくの印象なんだけど、愛希マタは逃げられるぎりぎりを見定めて懐に入り込むけど、柚希マタは色めかして誘ってみせる仕草が同時に一線を越えさせない牽制になってるような感じしない?

ラドゥー大佐、あの、 ガワの話していいすか。舞台モノで二枚目ポジションの登場人物(役者さんではなく)が好みの人物造形なことあんまなくて、登場人物にかっこいいなーって感想もつの初めてに近いんですよね……。
加藤さんのラドゥー、バーナムの愉快で楽しいエンターテイナーの印象で行ったら整えられた動作のそこかしこに威厳のあって背筋が伸びた。いえ伸ばせないんですが。加藤和樹さんという役者さんを認識したのが「怪人と探偵」のラスト30秒だったので、*1(全然違う人物像なんですけど)あのとき見たやばいものは幻覚じゃなかった……みたいな気持ちが。
田代さんのラドゥー、いやもう語彙力がなくて大変申し訳ないんですが、あっ すごーい みたいな感想が第一印象ですね……。スリルミ"私"やトーマスアルヴィン、リースくんの印象が強くて*2すっかり少年の面影があるひとみたいな認知でいたので脳みそがびっくりした。脚を使って入室合図の音を立てる動作まで洗練されているのすごかったですね。
ガワの話満足しました。

加藤ラドゥー、柚希マタとの回しか観てないんですけど、マタハリの色めかした仕草にもはっきりした拒絶にも余裕の崩れず応じてた印象がある。涼やかで、内心どうあれ動じていないように見せられるのは強いよね……。貴方はペテン師だ、ってさらりと投げつけるのがさ、こうなるところまで全部わかってて揺さぶりに来たんじゃないかって感じさえしてくる。それだけに「……魅惑的だ!」の言葉を探して視線がさまよう姿に社交辞令じゃなくてガチのやつじゃん……と思いました。あそこだけ前のめりに話すよね、彼。
入室前に薔薇の花へ口づけてるあたりそこそこ濃い人だと思う。違和感もなく様になっていて格好良いけど、マタやアンナに見せてのイメージ操作じゃなくしたいからしてるんだよ?あのキザ仕草を?

田代ラドゥー、礼儀正しく無害そうににこにこしてたのがくるんとひっくり返って国家主義者みたいなこと言い出す……。「なりたいはずだ」の圧が強いんだよこの人。「お受けする気にはなれません」って言われたときに一瞬、びっくりしたみたいに停まるのとか、じわっと表情が変わるのとか。席を外すアンナに柔和に頭を下げたり色ごとを仄めかされて困ったように笑ってたりした無難ないきものはどこにいったんだよ……。
入室前に薔薇の香りを嗅いでる田代ラドゥー、ほらアンナもビッシング将軍の花束の香りを嗅いでいたからたぶんそこまで変なことではないんだよたぶんおそらく。*3人に渡すものにするのかいとは思うけど。香りで気持ちの切り替えするタイプの人だとしたらどんなに気を張っててもマタハリから「あの香り」がするたびに掻き乱されるんだから可哀想だよなとは思いました。


「この街の乾杯」

パーティ会場でのラドゥーくんの話をするし記憶ログの出力をしたんですが(だってたぶん残らないので……)あまりに長かったので別の投稿にした。ラドゥー大佐、キャサリンの扱いがぞんざい。
「求めるから生まれるのさ」を聞くたびにそう思うなら求めろよ!!!!!って思う体になっちゃったよね。求めるから生まれるんだろ? 神話も本物の愛も英雄も? 出会いが恋じゃないのは仕方ないとして、求めれば生まれるものがあるというならジョルジュとキャサリンの間に絆が生まれてないってつまりそういうことだろ……この場面見た限りだけどキャサリンからは歩み寄りの努力してるぞ……。あのシーンの大佐、所作はスマートでかっこいいんだけど至らなさに悪気がまるでないぶん余計に残酷だよ。
後に出てくる「女が意志を持つと危険だ!」を聞くたび、この場面のキャサリンを思い出す。感情は見せても意志はないように従順な、男の意思をあらわす存在としてある飾り物。
最後にマタハリのいないパーティー会場に振り向く加藤ラドゥー、ほころびかけた蕾のような、恋におちた自覚のない人の目をしていて愛らしいなと思いました。田代ラドゥーは焦れていて、表で口実を作りたかったのかもう一目見たかったのかはちょっとよくわからない。


「人生と闘え」

東アルマン、出てきたときから煙草吸ってるし酔っ払いに絡まれてるマタを見てふっと悪い顔で笑ってるの見た!?!? マタを見てるっていうか、ちゃんと意識あるのにタチの悪い酔っ払いのフリしてる仲間を見てあいつら楽しんでんじゃねえかって笑ってる感じ。2回くらい笑ってたなあと思ってたら配信では綺麗にどっちも抜かれてて呻きましたありがとうございますそういう男なんだな? タバコを地面に押し付けて消してから街灯裏のポケットに入れてるのきっちりしてるなあと思って見てた。動作の起点があそこ(屈んで火を消して→立ち上がって→近寄っていく)なので、煙草を消すことでお仕事スイッチ入れたように見えて楽しかった。
三浦アルマン、最初に見たときヤンキー座りがすごい衝撃的で見るたび衝撃を受けるんだけどわかります……?路地裏にうつくしいいきものが落ちてる……みたいな衝撃がある。顔の造作の話ではなく(いえお顔もうつくしいんだと思うんですが)、なんか三浦アルマンって少年が物語の中から飛び出してきたみたいな独特の非現実感があるじゃん。地に足ついてない子供っぽさを残したままというか。髪に隠れがちな表情と拳握って意志を語るときぱっと輝く瞳、吐息を含んだような声がその印象なのかな。あの息を含んだような余韻のある声、ラドゥー大佐や軍の部下たちに話すときは全然してなくて諜報員としての色仕掛け用なの!? って後になってびっくりする。

パーティー会場のお客に囲まれてるときのオーラのあるけどファンに優しそうな愛らしさが酔っ払いに声かけられて仕舞い込まれるのは二人ともそうなんだけど、柚希マタはその後もちゃんと笑顔は浮かべて対応してるのこういう戦い方で生きてきたんだろうなって思いました。美しいけどおいそれとは触れがたい壁のある笑顔。愛希マタの隠しもせず冷ややかな顔してるのも正直で可愛い。腕を掴まれたときに愛希マタのが痛がってるように見えるし、愛希マタのが突き放すラインが早いのかなと思った。二人ともお客として扱うか迷惑と切り捨てるか、執着されたときに厄介でないところを見定めて切ってるんだろうなと。

恋愛のフレームなくてまるで理解できてないんだけど、"マタ・ハリだから助けてもらった"んじゃなくて"困っている人なら誰でも助ける"アルマンの信念(嘘)に惹かれたってことで合ってる? 出会いが「ラドゥー大佐の命令で」「マタ・ハリに」接近したからだったのがあんなド地雷踏んだみたいな怒り方になるのそういうこと? だとしたら「国際的な有名人」だから接近して彼女の踊りに魅惑されたラドゥー大佐がばりばりマタの守備範囲外で楽しいですね。

ところで配信で聞こえてテンション爆上がりしちゃったんだけど「オリーブちゃん」 センス最高じゃない??????


「一万の命」

じりりりり!ってベルの音が机から鳴ってて凝ってるなあと思った。ただでさえでっかい鋭い音がぐるんと動き回ると危機感煽られて心拍数が上がる。
「ベルリンの秘密諜報員が殺害されました」「代わりの人員の補充を急いでいます」って言ってるのすごいあの、2回目からひやっとした(ベルリンがドイツの首都なのついさっき気づきまして……。)危険度が高くてなかなか人を送り込めなくて戦争に勝つためには外せない場所。マタハリに託した任務、まじで戦況を左右する要の情報じゃん……。そんなものを軍への忠誠なんかまるでないマタに託さなきゃいけないほど戦況逼迫してるんですか……。
「くそ!!」って叫んだときに部下の人が受話器をちょっと離して振り向くんだけど、ラドゥーくん部下にはあまりそういうとこ見せないのかな。あんなに余裕なさそうなのにね。着任から4か月しか経ってないのにえらいね。そんであなた本当に心中を吐き出せる相手がいないね……もう十分いっぱいいっぱいだから首相あんまりプレッシャーかけないであげて……。情報が手に入れば「空から勝ち取れる」、さもなくば「地上で負ける」、言葉で画を描くのがうまいよね首相、空をとぶ飛行機が地面に墜ちて陸兵共々死ぬのが見える。ひっどい(好きです)
自分の至らなさで同胞が死んでいく、神さえ彼らを救ってはくれない、なんでもするからこの戦争を早く終わらせてくれ、で彼の精神が追いつめられてく線を綺麗に引いてくるのえっぐいなあと思いました。

加藤ラドゥー、照明が映りこんでるのか虹彩の色素が強い光で浮いてるのかわからないけど(たぶん両方)大きく見開いた黒目が暗い赤色をしていて、血に塗れた戦場を映しているようでその、すみません見ててすごくテンションが上がりましたね……こびりついた乾きかけの血の色……。眼の色って髪と違ってほいほい変えられるものでもないから普段はあんま言及しないことにはしてるんですが、褐色がかった暗赤色に輝く眼、この人は勇敢な同胞が消えるたび戦場の地獄を見てるんだなあって。
悪化していく戦況に余裕をなくしているなかでも部下に目を合わせて手でぱっと動かしてから目を移してるのが頼りになる上官で無理して"大佐"として自分を動かしているようで、なんかいつか過労でぶっ倒れそうだなって思いました。同胞の死におぼえる痛みを押し殺してやるべきことをやってるみたいな。

田代ラドゥー見るからに荷が勝ちすぎてて、まだ一万の命を背負えるタマじゃなさそうなんだよこの人……心はとっくに限界なのに責任感だけで立ってるような感じ。「勝利」を口にするときに痛そうな顔をしていて早晩潰れるぞって思った。敗退を忘れないのは大切だけどそのせいで得た勝利を喜べもしないんじゃ戦の指揮は続けられない。
配信で「神さえ」のときにぱっと手を組み合わせたのが映ってた気がしてうわしんど……と思いました。好きです。祈りはかなわなかったから「神さえ救えない」なのかな、それでも祈らずにいられないほど他にできることがないのすごい可哀相。このひと「行動しろ」のところで強く胸をたたくんですよ。2階からでもどん、と鈍い音が聞こえるぐらいに強く。同胞の犠牲の責任をひとりでしょい込んでる感じがするの、気のせいかな。


「C'est La Vie ~人生なんてそんなもの」

彼らの日常だろう第2事務所の地獄の夜を見せられてからこの平和な朝を見せてくるの、鬼か?(好きなところです) アルマンにもマタにも何の責もないんだけど、この構成のおかげで2回目の楽屋訪問にはもう大佐への同情心でいっぱいだよおれは。
異性恋愛の物語を読むフレームが乏しくて*4このシーンはマタとアルマンが可愛いということ以外あんまりわからないんですが、それだけわかってれば楽しいよね……。ふわふわきらきらしてて可愛いよね二人とも。
彩雲に手を伸ばした柚希マタの顔が曇ったのを見てその手を包む三浦アルマン、楽しそうに笑ってるマタの手を包んで引き寄せる東アルマン(振り向いたマタがそこでアルマンのいるのを思い出したような顔をする)とがいるのでマタが愛を見つけたタイミングが違うのかなあと思ってるんだけどどうなんでしょうね。
愛希マタはお袖で顔が隠れるのでよく見てない、たぶん下手で観ればいける。「年を重ねるとね」の声と表情で愛希マタに年上なんだなあってしみじみ思う。年齢的にはつり合いとれるのアルマンよりラドゥー大佐なんです? でもマタのほしそうなもの("私"自身を愛してほしい)を彼の地位や年齢に達した人はもってなさそう。ラドゥーの年齢知らないけど。
個人的な印象なんですけど三浦アルマンより東アルマンのが大人の男の人っぽく見えるので役者さんの年齢知ってびっくりした。なんかこう、年経て削れる世界への尻込みしなさが残ってるよな感じしません?
「ただ空を飛ぶんだ」の指をくるくるして遠くに飛ばすしぐさが曲芸飛行みたいで、アルマンほんとに飛ぶの好きそうでかわいいよね。三浦アルマンのマタに顔近づけて目を覗き込みながらやるあれに、少年みたいな青年だなって思うしいやもうめっちゃ心の距離詰めに行ってる……とも思う。同じものを見ていると疑わない子供みたいな愉しそうな顔。東アルマンもうちょっと物理的な距離があった気がするんだけどどうだったっけ……ちょっと高いところからマタに笑いかけるのが可愛かった記憶がある。笑い方に見てる景色のイメージを共有しようとする人って印象受けたことだけ覚えています。


「あなたが思っている以上のこと」+楽屋伺い2回目

ラドゥー大佐が相当余裕をなくしていてすごい可哀相だなって……表情もなんだけど動作にも余裕がなくなってるのすげえ可哀相。入室の合図もなく、アンナが席を外すのを確認してるのも繕わない(1回目は会釈の体を取ってた)。露骨に牽制してるのにこっそり戻って階段の裏に隠れるアンナを見逃してるのも意識を張り巡らす余力ないのかなーって思うけど、バルコニーで首相が話しかけるまで気づいてなかったみたいだし元々得意じゃないのかなあ。戦場だからというのもあろうけど、アルマンはぼろぼろの状態でも背後の気配が変わるの気づいてたし……。
地獄の夜と穏やかな朝を見てからのここなので大佐への同情路線で見ちゃうんですが、と言いつつ19日の私がラドゥー大佐どっちもきもちわるい執心の仕方だなって書き殴ってて笑った。そうね。
ラドゥー大佐、スパイ活動させるためには過去の情報を仄めかして内面揺さぶったりアルマンを入り込ませたりするのに、個人の感情として見せるご執心はマタハリの女体にしか向いてなさそうなのが、それなのに(彼女の「大ファン」達のように)女優マタハリではなく、生身のマタハリを欲しがってるのが訳わかんなくてきもちわるいんだよな……。なんで使命でなく情動で欲しいものへのほうが見てる層が浅くなるん……?逆じゃなくて……?(アルマンは逆なんだよね、華やかなマタハリという虚飾の内にいる傷を抱えてなお前を向く女性を愛する)
加藤ラドゥーは恋心(おそらく)と紳士的で二重のオブラートに包まってるんだけど田代ラドゥー恋心はどうにも見えなくて*5紳士的は穴が空いててダイレクトにご執心が見えてるので……いえこれはラドゥー邸の感想なんですが……。

突然ですが推しの話をします。聖書のフレーム使ってるから気をつけてね。
田代ラドゥー なぜ 嗅ぐ。マタの香りを嗅ぐのは加藤ラドゥーもやってるんだけどなぜ見せつける。手に移った残り香を嗅ぐのは退室後にやってるから(田代ラドゥーはあそこでも吸気音を入れるから客に示す意味でも)香りを楽しむだけならあの場でやる必要はなくて、戻されかけた手をわざわざ繋ぎとめてまあ綺麗な姿勢でするあたり衝動的でもなさそうで、社交と演説に長けたラドゥー大佐があの行為がマタからどう見えるかを理解してないことはないだろうし、感情制御が崩れてきてるの抜きにしてもあそこだけ共感使って社会やってる人間の言動から逸脱してて、姿勢や表情が涼やかで整えてあるぶん機序と意図がとれなくて薄気味が悪い。見た目が綺麗だから余計に忌避感が強く出るんだよ……失礼な例えだけど幽霊って元の造形が美しかったり可愛かったりするから生者なら持ってるはずの要素の欠損が際立って怖ろしいじゃん、あの現象と似てる。
三周ぐらいしてラドゥー邸の大佐を獣(天使と獣のほう。mammalではなく。)っぽいなと思うようになってあれ釘を刺してるんかなって思った。アルマンのジャケットを嗅ぐのも情報欲しくてやってるわけじゃないじゃん、決定的な証拠は既に手にしてるんだから。あの行為を牽制や威嚇に使ってみせてるんだったらラドゥー大佐、自分のお顔の良さをわかってて面白いな……人間社会の美醜基準で美しい男がやるから不気味の谷みたいなきもちわるさが出るんであって、例えばびじょやじゅの獣王子がやっても見た目のイメージと一致するから強調や恐怖は煽っても納得感に向かうわけで……。推しの話終わりました。

ラドゥー大佐を迎え入れる愛希マタの表情の冷たさ見た!? 包み隠さない拒絶、好き。わたし今回加藤ラドゥーとの組合せ見られてないんだけどどっちの大佐にもこうなの?
しなだれかかってから突き放すところ、しなやかで艶めいた誘いに見えるのが好きでですね、彼女にとってそういう仕草や振る舞いは戦いなんだなって思う。それも鎧ではなく矛なんだなって。

マタハリのソロナンバーでこの曲が一番好き。厳密にはソロじゃなくてだからコンサートではまず聴けないだろうな*6って今から覚悟が決まりCDを出してくれ……。「善悪の彼岸などこの世にはない」「逃げなさい! 〜 あたしに早くさよならと」のところがすごくすごくよきだよ みんな円盤出たら聴いてね
ところでさ、『彼岸』のところは自分が聞きなし間違えてるんだろうな正しい歌詞なんだろうと考え続けていたんですが(「善悪の悲願」はちょっと意味が取れなくて)、もしかしてアンナ仏教やヒンドゥー教の人なんかな……ヒンドゥーにはあるっぽいんですよね死後の世界のイメージを喚起する河……。いやまあ宗派によりけりだろうけどキリスト教に彼岸の概念はないと思うんですよね…天の国、向こう岸というか届かない上のものって感じしない?
アンナが「マルガレータ」が「マタ・ハリ」になった後の知り合いなら、キリスト教のひとでない設定だったりするのかなって思いました。階段の陰で話を聞くアンナが配信で2回とも抜かれてて、2回ともスパイの命についてはびくっとするけど「マルガレータ」にはさほど反応してなかった気がするのよね。
ところで何度か言ってるけど「火炙りにされるのは」って聞くたびにジャンヌダルクが頭をよぎるの私だけですか。国のためにはたらいて魔女として処刑された聖女。

 

*1:Q.そこ以外は? A.怪人と部下の動きがキレる人を追っててあんまり……お歌のすごいお兄さんだなくらいしか……

*2:MAでかっこいい役の人やってらっしゃるんだけどMA貴族組のお衣装って全体的にかっこいいより綺麗寄りじゃないですか時代的に

*3:アンナ、初日の頃も花の香吸い込んでたっけ?とは思った。

*4:普段は恋慕を伴わないまま拗らせた唯一無二への感情か自分のすべてをベットして見返りを求めない献身ばかり食べているので……

*5:上限まで前向きに見てもあるのは肉欲だと思う。

*6:マタの歌うメロディーがワンフレーズしかないため。マタを演じた方のコンサートに春風さんがゲストで呼ばれるのでもなければまず無理だろうなって……。