書こうと思いながら途中で事態宣言がでておれのメンタルがしんだため叶わなかった。
そもそも人物を見た回数がめっちゃ偏ってるのでバランスがだいぶアレになるのが見えてて人ごとする気あんまりなかったんですが、いっかい文章にしておかないとラドゥーさん執着の仕方が不気味なんだよみたいな話を延々し続ける気がして。
全てが受け手の勝手な印象だし個人団体宗教思想その他諸々と無関係です。宗教のたとえは使うけど。褪せてく記憶から出してるから台詞違ったらごめんね。
○パンルヴェ首相(鍛治直人さん)
このひと言葉の使い方めちゃくちゃうまいよね……!言葉で絵を描くのが超絶うまいと思った。パンルヴェ首相、短歌やらない?
例えばさー、
「(敵との戦いで)我が軍は壊滅的だ」「(怯えた兵士が)逃げ出す有り様だ」の後に「自国の兵士を射殺させるんだ」入れるのすげえぞっとするじゃん……しません……? 味方の死体でいっぱいの戦場、そこから逃げだす兵士、の先にある火を噴く銃口、情景のパワーが物凄いし首相やっぱり短歌やらない?
パンルヴェ首相の言葉が描く画、わたしは「一万の命」の導入会話が一番好きなんすよ……正しい情報を手に入れればこの戦局を「空から勝ち取れる」、さもなければ「地上で負ける」のところ。
撃墜された飛行機が陸兵を巻き込んで潰れる地獄絵図が目に浮かぶようじゃないですか。それが8000だよ? 数を提示した後で1の重さをどんどん増していくのくっそえぐいじゃん。
「(このままではこの国を)救えるのは神のみだ」「だがどうだろう」「(二重スパイ逮捕の知らせは)士気を高めるのにもってこいじゃないか?」
この「だがどうだろう」、言い方もタイミングもすごかった、早口に畳みかけていた言葉の勢いがふと止まって、若干速度を落として差し出された一言がまるで暗闇に光の射すようだったじゃん。真っ暗にしたのも首相なんだけどさ。
危機感の煽り方もほんとうまくて、パンルヴェ首相ここでラドゥーくんを直接は責めないんですよ。ラドゥーがした隠蔽は口にしない、お前のせいとは言わないでお前がどうなるとの脅しもない、怒りもない。ただ事実を告げるように、このままだとこの国を救えるのは神のみだ、って絶望を突き付ける。
第二事務所の地獄の夜を首相は見てなかったとはいえさ、ここで救ってくれるとしたら神のみって持ってくるのあまりにあんまりじゃない? 消えていく同胞の命は「神さえ救えない」のを知ってるんだよラドゥー大佐。可哀想に迷子の子供みたいな顔して立ち竦んでるじゃん。*1
「君のキャリアもそれ次第だ」ってあれ、ラドゥーの欲や虚栄心をつついたというよりマタの逮捕を決定した上での脅しだと思ってるんですがどうなんでしょうね。ラドゥー大佐ができないなら他の誰かにさせるだけだって脅し。キャサリンの夫はほいほい替えるわけにはいかなくても「役立たずな機関のトップ」は簡単に替えられる。ラドゥーだってそうやって今の地位に据えられた。これパンルヴェさんが自力で叩き上げたからその実力のない追随者をさぱさぱ扱うのか自分もそうやって「キャリア」を築いてきたから私情を殺しきれない者を切り捨てる連鎖の構図なのか(史実の話ではなく)どっちなんでしょうね。どっちでもテンションは上がりますね。
史実パンルヴェ首相、ぐぐったら前職大学教授の数学者だそうで、なるほど言葉で世界を描く能力高いわけだよ(幻覚)……。数式ということばで世界を規定したりIFの世界を組み立てたりするのが数学だと思っています。
パンルヴェ首相、あの言語能力に人当たりというか人間へのフォローというかがカンストしてて人間相手の駆け引きで戦う人種だなってしみじみしますよね。パーティでお客を出迎えてバルコニーでラドゥーとわるい顔してその婿養子がしそこなったキャサリンのフォローを引き受けながら身振りと目くばせでそれを伝えてくのめっちゃスペック高くてさ。配信に映ってたウインクを愛知で見られてめちゃくちゃ笑いました かわいいですねあれ
○キャサリン(飯野めぐみさん)
キャサリンはいい女だよ!!!!!!!(くそでかぼいす)
わたしブリリアの音響ととかく相性悪くて*2パーティでのキャサリンとラドゥーの会話(歌詞も)を聞き取るのにけっこう回数かかったんですけど*3、めっちゃいい女じゃん……キャサリンはいい女だよ……。
んでもってこの「いい女」の意味が1幕と2幕で真逆になるのがキャサリンいい女だよほんとに……。
1幕のキャサリンは「(自分を支配する)男たちに都合のいい女」じゃないですか。首相の政治の道具でありジョルジュの忠義の表明であり。忠義って感じのもんじゃないな、私はあなたに逆らいませんって首相に対する意思表示。
その手段たるキャサリンのほうも、男たちの会話に耳をそばだて、その意思に添うように行動を選んでいる。彼女を所有する(皮肉ですむろん)男たちに従順で、意思はあっても意志はないような便利な存在。
この場面のキャサリン、父と夫にめちゃくちゃ気ぃ配って動いてるんですよね。
夫が父のブランデー*4を褒めたら瓶を取って飲む?って所作で勧めてやって、会場を離れる大佐を気遣い(つつ父に問われたら居場所を伝え)、彼らの悪だくみ(別に悪くはないんだけど)を邪魔しないよう話が一段落するまで待ってから顔を出す。
直後の大佐との会話からして盗み聞きはしてないんじゃないかなあと思う。重要な会話だとわかってて、だから大事なところは『聞かない』を選ぶ従順さ。「誰から目を離さないって?」って言ってたから許可をもらうまで『聞いていないことにする』をしてるのかもしれないけど、うーんでもそっちのほうが都合の良い従順は強いような……。弁えて聞かないんじゃなくて聞いてても弁えて蓋をするってことでしょ。聞いてないふりするってのはあそこで大佐が重ねて躱してたら責めるどころか触れることさえできないのと同じなのにさ。
田代さんでしたっけ、ジョルジュとキャサリンはビジネス婚だったのかもしれないみたいなことをどなたかがパンフで仰ってたけどこの二人、まあ恋愛婚ではなさそうだよなと思いました。だってキャサリンに接するラドゥー大佐、なんで君そこだけそんなぽんこつ(かわいい)なの!? って外しっぷりじゃない? エスコートやシャンパンを差し出す姿は様になってるけどそれだけに内実の空っぽさが際立つというかあの、彼女の気持ちや気遣いにもうちょっと意識を向けてだね??? それ以前にもっと己の妻に関心を持ってだね??? みたいなとこありませんか。キャサリンが受け取ったシャンパンを貴方から顔を背けて飲んだのちゃんと見てましたか見てませんでしたね???*5みたいな。それでも黙って妻として扱われてやってるの忍耐強くいいこ(都合の良い従順な道具)じゃないですか……あんだけ適当な扱いされてまだ悋気を起こすだけの情を夫に持ってるのどんだけできた人間だよ……。
男たちの意思を視覚化する道具のようだったキャサリンが2幕で自分の意志を前面に出して行動決定するの、いいよね……。ラドゥー大佐のことは哀れで可哀相なひとだと思っているけど、1幕の乾杯後に何がおきてるかを確認して以降、2幕で田代ラドゥーに思い切り酒ひっかけたキャサリンにいいぞー!!!やれー!!!!という感情がポップしたのは否めないですね……。1幕との対比っぽくも見えるとこも好き。*6加藤ラドゥー相手のときのもはや身体を許さない、代替手段に使われるのを拒んだキャサリンもかっこいいよね。
黙って支えるにせよ身体を差し出すにせよ、自分の感情より首相の意思を優先して関係維持の献身していたキャサリンが、自分の意志で夫を拒絶してひとりで出ていくの最高じゃない?
男女どっちも弁えて首相のお人形してるラドゥー夫婦のさ、ジョルジュくんのほうが自分の欲を優先したことにいらえるようにキャサリンのほうも自分の意志を行動で突きつけたの好きなんですよ……個と個って感じで……。ラドゥーくんが首相に食い下がろうとして拒まれた後という、突き放される大佐のダメージが一番大きいタイミングで事が起きたのはかわいそうだなとは思うんだけど。*7
キャサリンじゃなくて中の人バイトの話をするんですけど、2幕の女たちのなかにいる飯野さんの女性、あの女性の性格や人生が空想できて見ててすごく楽しいなって思います。愛する人の消息が知りたくて兵士に近寄ろうとして、同じく駆け寄る女性の勢いに怖気づいてびくりと退がり、縋るような目は離さないのとか、飛んだパイロットの交戦模様を聞いて表情を失って声もなく崩れ落ちる姿とか。飛んでいった彼らの中に、内気で繊細な彼女が心を預けられる数少ない人がいたんだな……みたいな感じしませんかぜんぶ空想なんですけど。立ち上がって自分と同じように嘆いている人を慰めようとして触れた手を振り払われてるのすごく可哀想だなって思いました 誰も悪くないのに誰もが痛みを増やしている
○ピエール(工藤広夢さん)
ピエールくん、縋るマタハリの手を振り払って「空に隠れ場所はない」「祈ってくれ」って悲痛に叫ぶ声が好きです、綺麗だよね。そしてここで1幕の「神さえ救えない」が効いてくるのほんっと 生きてるなんて思ってない(情報を受ける側ではない現地の彼らはまた違うのかもしれないけれども)
一度は死地から生還したピエールくんがその足で、死んでいった仲間に見られながら駆け上った先で名もなき歩兵になるのひどいな(好きです)と思いました。掴んだ命を自ら捨てて英雄になりにいかないでくれ 死にたくない、飛びたくないって言ってたじゃん……
ノートに何かを書き込んだり舞い落ちる雪に意識を向けたり、戦地に死んでいった命の1が"どこにでもいる一人の人間"なのを突き付けてくるの心を刺しにきていると思う(賛美の表現です)
初演ではパリに戻ってきたピエールくんは名もなき兵士ではなくラドゥー大佐の部下になっていたと聞いてその展開おにだな……!と思いました。アルマンと対比されてるじゃん。えきさいてぃどだよ。
「撃墜され舞い戻った兵士」の一方は国を守るために人を陥れ、一方は愛を守るために国を危険にさらすわけでしょ? 国を守りたい、でも、と怯えていた自分の背中を押してくれた上官の「成れの果て」をただ見ているか、国賊として銃を向けるかしかできないんでしょ? ”国のため”に。なにそのおいしそうなじごく……
ピエールくんやってる工藤さんが1幕でドイツ軍の制服っぽいの着てるのがじんわり好きなんですよね。主人公のマタがフランス側だから基本はフランス視点で話が進むけど、ドイツにも同じように生活している市民がいて国のために戦い死ぬ名もなき兵士がいるんだよなあ、と思う。正義の敵はまた別の正義か、さもなくば声を黙殺された弱者なの心躍っちゃうよね。
○ラドゥー大佐
観る前からこの人物をこじらせると言ってたしまあ見事に拗らせました。ジョルジュくん、感情押し殺して国のために正しい選択をしようとしてるの本当に可哀相だと思うよ。それなのにマタハリ関連のことになると信念も感情もぐちゃぐちゃにばぐってて、かなり後半になるまで自覚もできずばぐった自分の情動と優先順位に振り回されるままに見えるの精神負荷でかそう。
割り切りの下手っぴさや人殺しの慣れてなさ、大佐の地位に就く前に表向きどの部署にいたのかなかなか謎な人。でもアルマンとの喧嘩でまっすぐ喉笛を掴みにいく躊躇のなさ、まったく事務業務の人でもなさそうだよね。
マタハリに愛ではない恋だか何だかわからない執着かかえてるのに彼女をスパイとして使うことに全く躊躇いがなく後ろめたさもないのなかなかこう、君の精神構造よくわからないよみたいなところがあるなあと思う。特別諜報員が殺された敵地ど真ん中にサポートなしで行かせるの、ああも執着して手に入れたがってる女を死地に送り込むことに何の逡巡もないのなんつーかこわいよ。「君の安全のためにも」みたいなこと言うしラドゥー邸でも色々言ってるし、傷つくのを見たくない、守りたいみたいな感情はあるっぽいのに。
それはそれとしてラドゥー邸での彼の行動がマタハリの心の傷をドンピシャで抉ってるのテンション爆上がりしちゃった。大佐は”貴女を愛している”を言い忘れてる(立場上言えないんだろう)だけで持ってる欲望やマタに求めているものは他のお得意様とそう変わらないんだけど、それなりの地位にある妻帯者の軍人が酒に酔って雇ってる相手を強姦しようとする行為が彼女が捨てようとした過去の傷にぴったんこカンカンしてるんだよな……。
加藤ラドゥー
このひと本当にマタハリのことに"だけ"情緒や言動がばぐってるのすごいこわくない?
見目が良く冷静で立ち振る舞いも毅然としてて、焦れてるのか余裕が削れてるのか言動は荒れていくけどけっこう地に足ついたままでいて、
それなのにマタハリを想うときだけすっごいふわっふわするのこわくない!? 初恋のようで可愛いけどだからこそ、状況も関係も変わってるのにそこだけが変わらない異様さ。淡い恋心のようなしあわせそうな情動、それ君の心のどこから出てきてるの??
「一万の命(リプライズ)」より後、ラドゥー大佐がマタハリ(彼のイメージする"マタハリ")を想ってる姿を見るたびこっわ……と思って2幕を見てた(「二人の男」も背筋が冷えた。) マタへの想いを自覚したような後でも感情がフレッシュな憧憬こみの恋心のまま熟み傷んでいく変質をしてなさそうなのも怖いし行動のあちこちに焦りや余裕のなさが出てきてなおマタへの感情だけがあのベクトルを維持してるのも怖い(好きです)
TLであんまりそういう感想を見かけないので皆んなこわくないの……? そっか……という気持ちでおり、共感や同意をしたくて劇観に行くわけじゃないんでいいんですがもしかしてこれスクルージ(の元ネタ)の"改心"が善きもののように描かれてるのに慄くのと似た楽しみ方だったりする?
喋ってるうちに因果が逆、マタハリへの感情だけが変わらないんじゃなくて削れる精神のなかマタへの感情が最優先で保持されてるから他のところが変わってるようなのに恋心だけそのままなんじゃないかってふと思い、そんな理路整然と発狂してたみたいな精神性こわすぎるので思考をそっ閉じしました。そうだったらかわいいなとは思う。
ラドゥー大佐、マタハリへの感情さえ見なければすごくいい人なんだよな……。いい人っていうか優秀な司令官っていうか。キャパを上回る任務を与えられて余裕なくしてはいるけど、受け止める土壌や軍人まとめる胆力はあるから歳月と経験が解決しそうじゃないです? 優しくて繊細そうだけどちゃんと公私で感情の切り分けできるようになりそうだなって思う。思うというかパンルヴェ首相に選択迫られて公私の私のほうを切り捨てることにしたのかなみたいな……。再び顔を上げたときの目が硬質で凪いでてこわいんだよな……。
加藤ラドゥーとアルマンが最初に同じシーンに出る場面の、「中尉」って呼びかけ方にすごく優秀そうだなって思う。仲間とわいわいしてた彼らにちょうど届くぐらいの声量とけして荒くはない語勢であの反応が返ってくるの、上下関係叩き込んであるから成立するやつじゃん。着任して4か月で畏怖だか信頼だかを勝ち取ってるのすごくないですか。威厳の能力値が高く、使いどころをよく知っていそう。ハイイロオオカミみたいだなーって思う。
その加藤ラドゥーが「二人の男」でかみつくアルマンに理解ある上司みたいな態度とるの、すーごいこわいなこの上官……と思いました。得体の知れないじゃなくて力量差があまりに大きくてどうあっても敵わなさそうのほう。その場で論戦しても勝てないし政治の立ち回りも絶対負ける。裁判で同じ土俵まで引きずり下ろしたのアルマン本当がんばったよ。すごい。いうてファイルを叩きつけつつでも椅子の上に置いてるあたり*8冷静さは残ってるんだろうなと思うんだけど。後ろから組みつかれて拳銃頭に向けられてても銃を構える部下を手で制す余裕もある。
まあ言うて加藤ラドゥーのもすとおぶわからない(楽しい)、マタハリへの性衝動がキャサリンに向くところだと思っている。見るからにマタハリじゃなきゃだめっぽいのに、なぜあそこだけキャサリンでいいんだろうって。どういう割り切りがあったのか謎じゃない?
代償行動で発散できるなら、はじめっからキャサリンに向けとけば平和……かは置いといて無難じゃないですか。夫婦の関係があるところになら愛もないのに行為があっても許容されるわけだし。愛情がすり替わったら妻への裏切りだろうけど、求めてなくて生まれてない更地に偽物の情愛をのせても裏切りにはならんでしょ。ゼロには何をかけてもゼロだよ。
……だからキャサリンに向いたの? マタハリ以外にはまともに働く冷静な判断の結果なの? いやまさかそんな。おれは確かにどっちの大佐もきもちわるいとは言ったがマタへの執念に対してであって人格に対してでは。
この変わってなさそうなマタへの恋情のいろと妻に向く性衝動の両立が不気味でぶきみで(好きです)加藤ラドゥーの行動動機あんまさわらなかったんだけど、時間経過で印象的だった箇所が強く記憶に残った状態で考えることではなかった気がしてきました。あの大佐に感じたなんかよくわかんないを掘ってどっちも気味悪いもんが出てきたの、たぶん彼の人間性がうかがえそうな土壌のところを忘れてるからだと思うんだよな……。
田代ラドゥー
せーの、きみ司令官向いてないよ……
性格適性が元々そこまで高くなさそうなのに業務スキルも耐性スキルも十分つけてもらえないまま情報戦の最前線に突っ込まれて精神壊しかけてるように見える(個人の感想です) 情が篤く見えるのは上に立つための素養だけど、ラドゥー大佐(どっちも)フリだけじゃなく実際に情が深そうなんですよね……。なのに人員を数として割り切る思考訓練をさせないまま判断する立場に放り込まれたから思い詰めちゃってそうというか。本来時間を要する諜報でなかなか成果が上がらないのも塹壕を守る陸軍が襲撃を受けるのも彼の責任だけではないのに、そこまでしょい込んで自分のせいで人が死んでいくまで思い詰めたら早々に心を病むぞ……。
どちらも条件一緒なんですけど、喉元を触ってたり顎が上がりがちだったり、ときどき差し挟まる仕草が(そういう意図かは知らないけど)息苦しそうに見えて身体に反応でるくらい追い込まれるんだな……と思う。キャサリンを宛がわれるくらいに成果を上げてきた優秀な人なんだろうしな……。
そんな感じで見てたもんだからあのひと戦争終わったら自殺しそうだなと思っていたんですがだんだんラストシーンが首吊ってるように見えてきて*9わたしは怯えていたしねえラドゥーくん生きてる!?(史実ではなく)あのあと生き続けてるのもかわいそうだけど!! パンルヴェさん次の手として切り捨てるにしろちゃんと褒美をやるにしろ彼にマタハリの処刑を特等席(彼女も処刑人も群衆も見渡せる)で見せると思うんだけど大丈夫?卒倒しない?
TLの感想で田代ラドゥーが陽、加藤ラドゥーが陰って言ってる人が結構多く、なるほどそっちが陽なのかってなった。
なんというかこう……戦争で精神の割れてくところにマタハリがぴったりはまっちゃったんだなーって見てたのであんまり陽のイメージなかったんですよ。言われてみれば元々の性質は陽キャっぽいけど*10進行に伴いその陽キャ部分どんどん死んでってない?線維化*11してない?みたいな。マタハリで破滅してるんだけどマタハリがいなくても遠からず破滅か自死してそうというか。マタハリに出会わなければちゃんと適応できたのかな……えっできたのかな……首相はたぶん盲信されてくれなさそうだけど、外からの支柱なくつぶれずにいられるのこの人……?
マタハリが絡んでいるときの田代ラドゥー、礼節の皮をかぶった獣みたいだなと思ってる。動物とか男は以下略とかじゃなくて黙示録に出てくるような意味合いでの……なんというかな、獣を理性で従えるのが人間であるみたいな……。個人的にはこの”獣"と人間らしい感情はほぼイコールだと思っているんですが。
あれがしたいとかこれが欲しいとかの衝動に抗わず突き動かされているのは獣と変わらないじゃないか、理性でそれを抑えて初めて人間となるんだろみたいな思想がありませんでしたっけ中世。最終的に常に理性がはたらくことで情動そのものが穏やかになっている状態(獣を殺しただか飼いならしただか)を目指せみたいな話だったと思うんですがそういう意味での獣。一応の礼儀を弁えて接しているようで衝動的な欲情に行動も情動も思いっきり振り回されてる。礼節って私はあなたを尊重していますを伝えるある種の言語*12だと思うんだけどさ、あの晩のラドゥー大佐のほんっと表面だけの感じが建前だけ取り繕った獣みたいじゃないです? 瓶の酒をグラスに注いでマタハリに差し出すところ、加藤ラドゥーは彼女に渡すだけなのにこっちはしれっと乾杯してるの自分の欲望に正直で笑っちゃった。
ぎらついた目で口角が上がるあの捕食者じみた表情とかさ。その顔しといて「私まで苦しくなる」も何も。後ろ向いたりマタからは見えない角度だったりで笑うの、見せちゃいけない意識はあるのかもなって思うしそういうところも動物の狩りみたいなんだよなって思ってみてた。
遠くから見てるぶんには可愛いけどあの欲情を向けられるほうはたまったもんじゃないだろうなと思う。逃げ出したマタハリが太刀打ちできる相手じゃないみたいなこと言ってたけど色仕掛け普っ通に成功してるよ、むしろかかりすぎなくらいだよ。マタハリ視点からだと入れ込んだ大佐が自分を庇うために国が揺らぐレベルの情報握り潰したのわからないんだもんな。
ご本人気にしてらしたようなのでこんなこと言うのもあれなんですが、綺麗な顔で整った所作を運用する一見社交的な人物から理性のふっとんだ情動でてくるとだいたいの人間は薄気味悪さを出力するんじゃないかな……不気味の谷、とはちょっと違うけども、人間とよく似た外面から人間とかけ離れた内面が出てくるとなまじっかコンテキストが同じ存在と思い込んでたぶんだけ拒否反応が強く出そう。びじょやじゅの逆版。
ラドゥー大佐(登場人物のほう)は大佐で己のお顔の良さに自覚がありそうというか、マタハリやアルマンへの態度といいパーティでの動きといい己の見目良さを勘案して戦略立ててそうだなと思っているんですがどうなんでしょうね。田代ラドゥーがおそろしいの、普段の印象(社交的だったり高圧的だったり)態度から豹変したときだと思ってるんですが。普段があんな余裕なくきゃんきゃんしてるのに負けてはいけない場面では突然肝が据わって動揺ひとつ見せないの、対峙してる人間は軽く見てた相手の余裕すら崩せず打ちのめされることになるのできっついだろなあと思う。普段があんなかわいいいきものなのに、威嚇行動で吠えてたコヨーテが突然蛇みたいな狩りするタイプの敵に回しちゃいけなさ。
事務所の部下たちにはまた違う態度だったから(息遣いや表情で相互の意思伝達を図るの、アルマン相手じゃ終ぞ見せなかったじゃん……)、あの高圧さは敵に回るかもしれない相手にだけ見せる態度なのかな……。
その振舞いが適正でない相手だからだと思うんだけど、田代ラドゥーはパンルヴェ首相の前だと部下やマタの前でする大きく見せるような虚勢がなくて、そうすると真面目でふわふわした青年に見えるのがおもしろかった。首相と話してるときだと素直で従順そうな、大人受けの良さそうないきものに見えるんだよな……
〇アルマン
アルマン、マタハリへの愛は嘘じゃないんだろうと思うんだけどそれ以外の部分がどこまで本当でどこまでが嘘かわかんないんだよな……。アルマンとマタのやり取りや関係がこの話のある意味メインだろうと思ってはいるんだけど少女漫画の受容体を持ち合わせてなくてそのあたり全然拾えてないんよね。時間がたちすぎて記憶がだいぶ薄れておるのもある
「『もっとひどく殴られたことあるから』! あるわけねーだろ!!」
の衝撃がめちゃめちゃ強くて。ないの!? ポール(仮)が知らないだけ!?
マルガレータの過去と奇跡の合致を見せたのがアルマンの少年時代なのかマタに近づくため作ったキャラクターなのかでおれの中のアルマン像がだいぶ変わる。マタが心を開いたきっかけがその話なんだから、今の自分だけを見て想いだけを信じてくれは無理でしょとつい思ってしまい。アルマンが愛したのは今見えている『マタ・ハリ』のなかにいる傷を抱えた女じゃんね。